年収106万円以上だと、自分で社会保険料を支払う義務が出てくる「106万円の壁」。2022年10月、範囲が拡大され、特にパートの主婦に影響があるといわれています。ほかにも、さまざまな壁がある主婦が「損しない働き方をするにはどうしたらいいの?」という悩みを「悩ミカタ」の姉妹サイト「ソクたま相談室」相談員でFPの前佛朋子さんに聞きました。
- 若林翔子さん(43歳)
- 家族構成:夫、小5・小3の兄弟
- 現在の就労状況:スーパーでパートをしている
- 現在の収入:月10万円程度(時給980円)
- 夫の年収:約600万円
- 今回の相談
家計や教育費の足し、自分へのおこづかいと思ってパートをしてきました。給与明細も振込額ぐらいしか見ていませんでしたが、児童手当に所得制限ができたり、106万の壁という言葉を聞いたりするようになり、税金や社会保険料が気になるようになってきました。損をしたくないので共働きで知っておくべきことを教えてください。
106万円の壁で社会保険料が自己負担に
130万の壁、150万の壁など、主婦が働き方(収入)にはさまざまな壁がありますが、今回の相談者である若林さんは、「あまり深く考えずに、子育てをしながら可能な範囲で働いてきた」そう。
そこで、ファイナンシャルプランナーの前佛朋子さんは、まずは若林さんが気になっている「106万の壁」について教えてくれました。
106万の壁とは
「2016年にできた『106万の壁』とは、年収が106万円以上になり、下記の要点に当てはまると配偶者の扶養からは外れて社会保険を自分で負担するという内容です」(前佛さん)
- 従業員数が501人以上の企業に勤務
- 月額賃金が8.8万円以上(年収106万円以上)
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 1年以上の雇用期間が見込まれること
- 学生は対象外
上記の内容の「106万の壁」ですが、2022年10月からは、下記のように適用範囲が拡大されます。
- 従業員数:501人→101人
- 雇用期間見込み:1年以上→2ヵ月以上
つまり、「106万の壁」に当てはまるのは、これまでは大企業や長期雇用の場合に限られましたが、今後は中小企業や3ヵ月や半年単位の短期バイトも対象になります。
今回の相談者である若林さんの場合、務めているスーパーの正確な従業員数は分からないものの、地域に系列店が3店舗あるそうで「『106万の壁』の対象になる気がする」とのこと。
「もし、今回の改正に当てはまらなかったとしても、『106万の壁』は2024年10月に、条件の従業員数が101人から51人になることが予定されています。今回は対象にならなくても、そのときは当てはまると思います」(前佛さん)
103万の壁、130万の壁、150万の壁とは
また、これまでざっくりとした知識がなかったという若林さんは「106万の壁」以外の壁について聞きました。
「『103万の壁』『150万の壁』は税金に関する壁です。配偶者の扶養に入っている場合、年収103万円以下は自分の所得税がかからず、配偶者は38万円の配偶者控除を受けることができます。
ですが、配偶者控除は年収103万以上になった時点でまったくなくなるわけではありません。年収150万までは、配偶者特別控除を受けることができます。配偶者特別控除額の控除額は、満額の38万円から年収が上がるほど段階的に減っていきます」(前佛さん)
若林さんの場合、自身の年収が120万程度で夫の収入が900万円以下になりますが、その場合、控除額は11万円になります。
一方、「130万円の壁」は社会保険料に関わるものです。
「先ほど説明した106万の壁の条件に当てはまらない人で、年収が130万円以上ある場合、配偶者の社会保険の扶養から外れ、勤務先の社会保険もしくは、国民年金を第1号被保険者に切り替えて国民健康保険に加入しければならないというのが130万円の壁になります」(前佛さん)
若林さんの場合は、年収130万円以下で、現時点では106万の壁の対象外なので、扶養されていると社会保険料の負担はなくなります。
共働きの扶養と控除、税金を整理整頓
ここまでのさまざまな壁についてまとめると次のようになります。
<年収102万円以下で働く場合>
- 所得税はかからない
- 社会保険料を払わなくていい
- 夫は配偶者控除を受けられる
<年収103万円以上105万円以下で働く場合>
- 所得税・住民税を負担しなければならない
- 社会保険料を払わなくていい
- 夫は配偶者特別控除を受けられる
<年収130万円以上150万以下で働く場合>
- 所得税・住民税を負担しなければならない
- 社会保険料を払わなくていい
- 夫は配偶者特別控除を受けられる
<年収150万円以上働く場合>
- 社会保険料は自己負担
- 所得税・住民税が発生する
- 夫は配偶者特別控除が段階的に減っていく
扶養から外れるかどうか参考にしてみてください。
社会保険料の目安は年収の15%程度
また、もし106万の壁の条件に該当する場合、若林さんは自分で社会保険料を支払うことになります。そこで気になるのが、月々の社会保険料です。
「社会保険は、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料、雇用保険料のことを指します。実際に月々の社会保険料がいくらになるのかということを算出するには、もう少し若林さんの詳しい情報が必要になりますが、目安として年収の15%程度と考えてみてください」(前佛さん)
社会保険料分を補てんするためには
「106万の壁」の条件に当てはまった場合、少なくとも月々の収入が数万減る若林さん。
「残念ながら社会保険料を支払わないわけにはいきません。なので、方法としては、社会保険料分をさらに働くか、年収を105万円以下に抑えるかということになります」(前佛さん)
手取り額を減らさないために、若林さんの次々の社会保険料が1万5000円だとすると、時給(980円)なので今より16時間以上長く働かなければいけないことになります。ただ、主婦の場合、働く時間を増やせる人ばかりではありません。
「できることといえば、同じ仕事内容でもパートと派遣、正社員などの雇用形態によって収入が変わることがあるので正社員になったり、転職したりですよね。年収を105万円以下に減らす方法もありますが、職場の事情もあるでしょうし、そもそも何のために働いているか分からなくなってしまいそうですよね」(前佛さん)
社会保険料は支払い損ではない
社旗保険料を支払うことになった場合。現状の働き方のままで手取り額をキープするのは難しそうですが、「実は、社会保険料は長い目でみれば支払っておいたほうがいいんです」と前佛さんは話します。
「社会保険料を負担するということは、厚生年金に入るということになります。老齢年金は、基礎年金と厚生年金の2階建ての仕組みになっていますが、一度も厚生年金を払っていない場合は基礎年金だけで厚生年金はもらえません。でも、社会保険料を自分で負担をしていると、その分だけ将来的に老齢厚生年金が積み上げられるので、老後にもらえる額が増えます」(前佛さん)
ですが、20代ならまだしも、和林さんのように40代の今から、額が低くても意味はあるのでしょうか?
「たとえ、10年間だけだったとしても120カ月分増えるわけです。扶養の範囲内で働いていればそれがゼロになりますよね。
『(公財)生命保険文化センター』が行なった意識調査によると、夫婦2人が老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は、(月額)平均22.1万円、ゆとりある老後生活費は平均36.1万円となっています。奥さんが基礎年金だけなのか、それとも厚生年金ももらえるのかで老後の生活に影響があると思います」(前佛さん)
資産運用・個人年金はあくまで補助
ここまで話を聞き、税金や社会保険料などについて理解を深めた若林さん。気になっていた資産運用や個人年金について聞きます。
非課税で少額から一定の投資信託が購入可能な「つみたてNISA」、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」などの金融商品は手を出したほうがいいか聞いたところ…。
「どの金融商品でも、生活できるほどの収入にするのは相当の元手が必要です。元手を少しでも増やすという補助的なものならいいですが、やはり、働いて収入を得ることには勝てません。税金や社会保険料など、減っていくお金を見ると働くことがばかばかしく感じてしまうかもしれませんが、物価が上がっていき、大企業以外は給料も上がりにくくなっている今、働き手を増やす以外に家計を補てんする方法はありません。
また、主婦が働くためには、家族の協力が必要です。今回紹介した扶養家族と税金・社会保険料の関係、老齢年金について夫(妻)に話して、家族としてどうしていくべきかを話し合ってみてくださいね」