「少人数での会話は楽しいのに、大人数になるとどうしても苦手」「大人数の場に行くだけで疲れる」と悩む方は少なくありません。この記事では、大人数での会話や大人数で過ごすことが苦手な人の特徴や心理に触れるとともに、その背景にある可能性があるHSP(Highly Sensitive Person)や発達障害についても解説します。また、大人数の場になじめないときの4つの対処法もご紹介します。
臨床心理士・公認心理師
佐藤セイさん
公認心理師・臨床心理士。現在、スクールカウンセラー(中学・高校)・非常勤講師(大学)として勤務しつつ、webライターやブックライターとしても活動中。カウンセラー・講師・ライターのどの立場であっても、受け取る人にとって、消化しやすい言葉や表現を選ぶことを心掛けています。
大人数での会話が苦手な人の特徴や心理とは?
ここでは、大人数での会話が苦手な人の一般的な特徴や心理的な理由について説明します。
①全員に気を遣って疲れてしまう
大人数の会話では、場の雰囲気や他人の気持ちを気にするあまり、自分が何を話すべきか、どのタイミングで発言すべきかなどを常に考える人がいます。このように気を遣いすぎてしまう人は、自分が話す内容だけでなく、話していない人が孤立しないように気を配る傾向もあります。
その結果、周囲の雰囲気や他人の反応に意識が集中し、大人数での会話を楽しむ余裕がありません。ただ疲れる時間となってしまいます。
②自分らしくいられない
大人数での会話は、協調性が重視される場でもあります。例え自分がその話題に興味がなくても、その場を乱さないように合わせることが求められるため、自分らしさを発揮しにくく感じる人もいます。
特に、自分の感情を抑えつつ相手に合わせて笑顔を作ることが多いと、自分を偽っているように感じ、窮屈に思うことが増えるでしょう。
③無意味だと感じてしまう
大人数での会話が苦手な人の中には、会話の内容を「無意味」と感じることが理由となるケースもあります。
大勢での会話では多くが雑談であり、このような会話に対して、価値を見出せず、時間の無駄と感じてしまうことがあります。
④人からの評価が気になる
大人数から見られている場が苦手な人もいます。「上手く話せなかったらどうしよう」「誰かを不快にさせたらどうしよう」と常に他者からの評価を意識した結果、過剰に緊張してしまうからです。
「子どもの頃にみんなの前で叱られた」「プレゼンで大失敗した」など、過去に大人数の前で失敗したトラウマが影響している場合もあります。
大人数での会話が苦手な人が、HSPの可能性がある理由とは?
大人数での会話が苦手な人は、HSPの可能性があります。ここではHSPとは何かを解説するとともに、大人数の会話が苦手な人がHSPかもしれない理由について説明します。
①HSPとは?
HSPは、Highly Sensitive Personの略称。日本語訳すると「とても感受性の高い人」という意味になります。
感受性とは、環境からの影響の受けやすさ・反応しやすさのこと。つまり、HSPとは、周囲からの影響を受けやすく、反応しやすい人たちを指します。
HSPの提唱者エレイン・アーロンは、HSPの人たちには「DOES」と呼ばれる特徴があると述べました。これは次の4つの特徴の頭文字をまとめたものです。
【D】感覚刺激に対する深い処理(greater Depth ofprocessing)
受け取った情報をじっくりと考えたり、これまで得た情報と照らし合わせたりする
(例)あらゆる可能性を想定する / 他者の言葉の意味をじっくり考える
【O】感覚刺激に対する圧倒されやすさ(ease of Overstimulation)
ほかの人よりも刺激を受け取りやすく、圧倒されやすい
(例)美しい音楽に深く感動する / 大きな音にひどく驚く
【E】情動的反応や共感の高まり(increased Emotional eractivity and Empathy)
刺激を受けたときに感情的・共感的な反応をしやすい
(例)他者の気分に左右されやすい / 他者の視線が気になる
【S】わずかな感覚刺激に対する気づき(greater awareness of environmental Subtleties) ささいな刺激にも気づきやすかったり、反応しやすかったりする
(例)繊細な香りに気づける / 照明をまぶしく感じることが多い
上記の4つの特徴すべてを備えている人が「HSP」だとされています。
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②HSPの割合
「HSPは5人に1人」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれません。
しかし、実は「どれくらい感受性が高ければHSPといえるのか」という明確な基準が定まっていないため、HSPの割合ははっきりわからないのが現状です。
HSPの提唱者であるエレイン・アーロンは、感受性の高さが上位25%の人をHSPとしてみなせるとしています。この基準を採用するなら4人に1人がHSPといえます。一方、最近の研究では、感受性の高い人たちの上位30%程度の人たちをHSPと定義していることも珍しくありません。この基準ではおおむね3人に1人がHSPといえそうです。
色々な基準があり、ややこしいのですが、総合的に見るとHSPの割合は、3〜4人に1人程度(25〜30%)と考えられます。
③HSPの人が抱えやすい問題
先ほども述べた通り、HSPは「周囲からの影響を受けやすく、反応しやすい人たち」です。そのため、大人数での会話は、HSPの人にとって、
・飛び交う言葉の意味を考えなければならない
・他人の気分や視線が気になる
・雑然とした光景に圧倒されて疲れる
・大きな声や音に耳を塞ぎたくなる
・誰かの香水や料理においなどが混ざり気分が悪くなる
など、環境からの刺激が多いため、負担を感じる場面に遭遇しやすくなります。
結果として、大人数での会話を苦手に感じることがあります。
大人数の場になじめないときの対処法
ここからは大人数の場になじめないときの対処法を一緒に見ていきましょう。
①疲れたときは安全な場所へ移動する
大人数の場にいて、疲れてしまったときは、いったんその場から離れましょう。トイレや喫煙所など、1人でいられる場所で少し休憩してみてください。
どうしても1人になれない場合は、自分にとって安心できる人や自分らしくいられる人のそばに移動するのもおすすめ。
「安心できる人もいない」という場合は、自分のお気に入りのハンカチや好きなアイドルの画像など、少しでも「自分の味方」と思えるモノを持ってきて、しんどくなったら触れたり見たりしてみてください。
自分にとっての回復できる場所を見つけておきましょう。
②リラックス方法を実践してみる
大人数での会話は緊張する…そんな人は次のリラックス方法2つに取り組んでみましょう。どちらも、いつでも・どこでも・簡単に取り組めます。
4・7・8呼吸法
「緊張して言葉がうまく出てこない」「頭が真っ白になる」などにお困りなら、4・7・8呼吸法をぜひお試しください。
4秒間息を吸い、7秒間息を止め、8秒かけて息を吐きます。これを繰り返すと、少しずつ身体の緊張が抜け、リラックスしてきます。
注意シフトトレーニング
「なんだかドキドキして落ち着かない」「お腹が痛くなってきた」など、緊張すると自分の心身にばかり目が向いていませんか?しんどい時に自分の心身に注意を向けすぎると、さらにしんどくなることがあります。
例えば、お腹が痛い時にお腹に注意を向けると、より一層痛くなりますよね。しんどい時こそ、注意を適度によそに向けることも大事なのです。
そんな人におすすめなのが注意シフトトレーニングです。
自分の内部(感情・感覚)ではなく、外部に注意を向けます。例えば、目に見えるヒトやモノを観察し、「窓がある、デスクがある、汚れがある、〇〇さんがいる、スーツを着ている、赤いネクタイをしている…」という風に言葉にするのです。
このように外部に注目を向けると、心身の緊張への注意が逸れ、少しずつリラックスできるようになります。ただし、いきなり大人数の場面でチャレンジしてはいけません。まずは、1人のときに練習をしておきましょう。
③雑談の意味を改めて確認する
「雑談なんて無意味」と考え、大人数での会話に白けてしまう人は、雑談の意味を見失っているかもしれません。
実は、雑談は「仲良くしましょう」という意思を確認し合う意味があります。雑談で大事なのは「話す」「聞く」という行為によって、相手への好意を示すことであり、話す内容は相手を不快にさせなければ何でも構いません。
そのため、雑談のテーマには「今日の天気」や「最近見たドラマ」など話しても話さなくてもいいような話題が選ばれます。退屈で無意味だけど、誰も傷つけないテーマが雑談としてはちょうどいいのです。
このように、退屈な雑談にも意味があります。あなたも「仲良くしましょう」という気持ちを込めて、ちょっぴり退屈な雑談を楽しんでみましょう。
④ポジティブに考えてみる
「上手く話せなかったらどうしよう」「誰かを不快にさせたらどうしよう」などネガティブに考えてしまい、大人数での会話の苦手意識を高めている人は、別の考え方ができないかチャレンジしてみましょう。
例えば、「上手く話せなかったらどうしよう」と不安な場合は、
「誰も自分のことは気にしていない」
「飲み会の話なんて噛んでもいい」
「全員と仲良くならなくてもいい」
「聞く側に回ればいい」
など別視点からの考え方を見つけてみましょう。たくさん見つけられると、不安な気持ちが和らぎます。自分1人では見つけられない人は、家族や友達、好きな俳優やアイドルであればどう考えるかをイメージしてみるのがおすすめです。
大人数での会話が苦手な人は、発達障害の可能性もある?
大人数での会話が苦手な場合、「自閉スペクトラム症(ASD)」や「注意欠陥多動症(ADHD)」などの発達障害が関係している可能性があります。
※本記事の記述に該当しても必ずしも発達障害であると診断はできません。気になる方は一度、医療機関を受診することをおすすめします。
①自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)は、次のような障害特性を持つ発達障害です。
・社会性の障害:他者と関わる上でふさわしい行動がとれない(視線が合わない、暗黙のルールがわからないなど)
・コミュニケーションの障害:相手の表情や態度などの非言語的な情報を読み取るのが苦手であり、言葉を字義通りに捉えてしまう
・想像力の障害:自分にとって心地いいルーティーンを崩されるとパニックになる。予想外の出来事が苦手
・感覚過敏 / 過鈍:五感が人よりも過敏だったり、鈍かったりする(光をまぶしく感じる、音をうるさく感じる、ケガをしても痛みに気づかないなど)
自閉スペクトラム症の人は、
・大人数での会話における適切なテーマや順番のルールが読み取れず、自分の好きな話題を一方的に話してしまったり、自分ばかり話してしまったりしてひんしゅくを買う
・雑談の意味がわからず、楽しめない
・大人数だからこそあちこちでトラブルが起き、そのたびにパニックを起こす
・大人数で話している音に耐えられない
などの理由から、大人数での会話を苦手としている場合があります。
②注意欠陥多動症(ADHD)
注意欠陥多動症(ADHD)は、次のような障害特性を持つ発達障害です。
・不注意:日常生活に支障をきたすほど忘れっぽかったり、注意が逸れやすかったりする
・多動性/衝動性:じっとしていられず、落ち着きなく動き回ったり、思いついたらすぐ行動してしまったりする
ADHDの人は、
・ほかのグループの会話や人がたてる物音へ注意が逸れ、会話に集中できない
・ほかの人が話しているときに、自分が思いついた話題をいきなり投げかけてしまい、周囲を困惑させてしまう。しかし我慢できない
などの理由から、大人数での会話場面を苦手としている場合があります。
まとめ
「大人数での会話が苦手」と感じる背景には、「気を遣う」「自分らしくいられない」「無意味だと感じる」「人の評価が気になる」など様々な要因が隠れています。人によってはHSPや発達障害が影響している場合もあります。
今回ご紹介した、
・疲れたときは安全な場所へ移動する
・リラックス方法を実践する
・雑談の意味を確認する
・ポジティブに考えてみる
という4つの方法に取り組めば、大人数で会話する場面でもうまく乗り切れるようになるはずです。自分にできそうなものから少しずつ取り入れてみてくださいね。
▼当サイト「悩ミカタ」では、ミドル世代(40代50代)の悩みや不安・ストレスについて各分野の専門家/カウンセラーに相談できるオンラインカウンセリングサービス「悩ミカタ相談室」を展開し、公認心理師など国家資格を保有する専門家が多く登録しています。つらくて不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
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参考文献
・飯村周平(2022)HSPの心理学 科学的根拠から理解する「繊細さ」と「生きづらさ」金子書房
・飯村周平(2023)HSPブームの功罪を問う 岩波書店