うつ病の人にやってはいけないこととは?適切な接し方や声かけのポイント

うつ病は、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れによって引き起こされる「病気」であり、決して「意志が弱い」であったり「怠けている」からではありません。
うつ病を発症すると、日常生活への強い影響が出てきます。思考・判断力の低下、孤立感の増大など、当事者が抱える苦しみは多岐にわたり、周囲が何気なくかけた言葉や態度で状態を悪化させてしまうこともあるため、正しい理解と接し方が求められます。

そこで本記事では、うつ病の人へ関わる際に避けた方が良い言葉がけや、サポートのポイント、さらには恋人や友人、職場関係者による適切な連絡の取り方、サポーターとなる自身が対応に悩んだときの相談先などの情報をお伝えします。うつ病の方の回復を見守り、共に支え合うために、適切な接し方を知るきっかけになれば幸いです。

執筆者

藤原美保さん

公認心理師、介護福祉士、保育士、健康運動指導士の資格保有、療育支援に携わること20年以上。

放課後等デイサービスを運営する中で発達障害児童、そのご家族の悩みも含め相談やカウンセリング対応を10年以上行う。自己肯定感が低い、親から虐待を受けた過去に悩む方からの相談なども多数対応。

これまでに、『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること 』(PHP研究所)と2冊の本を執筆。現在も出版に向け本の執筆をつづけている中、子育てのポータルサイトにて発達障害の子の子育てコラムを連載中。

目次

うつ病の人の特徴や心理状態

うつ病は、脳内で分泌される神経伝達物質のバランスが崩れることにより、気分の落ち込みや興味・喜びの喪失を主な特徴とする精神疾患です。うつ病で一番必要な理解は、うつ病は病気であり、本人が好きでその状態を選んでいるわけではないということです。

うつ病の主な症状

精神症状

意欲低下、外見や衛生面を気にしなくなる、悲観的に物事をとらえがちになる、集中力の低下、不安、焦り、イライラ感や気分の落ち込み

身体症状

不眠、頭痛、食欲減少(過食)、頭痛、耳鳴り、消化器系の不調、ホルモンバランスの乱れ

上記が主な症状ですが、重くなると希死念慮の症状が現れることがあります。

双極性障害、気分変調症、適応障害、不安障害、統合失調症などの精神疾患や脳血管障害や認知症、甲状腺機能障害、全身性エリテマトーデス、消化器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、糖尿病などの身体疾患でもうつ状態が引き起こされる場合もあり、早めに診察を受ける必要があります。治療法として医師の指導のもと「休養」「環境調整」「薬物治療」「精神療法」を組み合わせながらおこなわれています。

うつ病になると、思考や判断力が低下し、自分では今置かれている状況や、自分に対する評価を客観的に捉えることが難しくなり、日常生活のなかでちょっとした失敗や批判を極端に大きく受け止めてしまったり、将来に対して過度な不安や絶望感を持ってしまうこともあります。周囲からの言葉や態度に対しても敏感になりやすく、何気ない言動で深く傷つけてしまう可能性もあります。


周囲の人間関係は回復への大きな支えとなることが多い一方で立ち直りを急かしたり、頑張れと叱咤したりなどはうつ病の人にやってはいけないことで、逆に症状を重くするケースがあります。また、サポートする家族、恋人、友人、あるいは職場の同僚や上司が正しいうつ病の接し方を知らないと、不用意な声かけによって相手を追い詰めてしまうかもしれません。

放っておくのはよくない?うつ病の人にやってはいけないこととその理由

うつ病の人に対して、何をしたらよいのかわからず放置してしまうのはあまり好ましくありません。特に、明らかに気分が沈んだり、生活に支障が出ている場合、周囲が声をかけずに放っておくと、本人は理解されていないと感じ、自責感や孤独感が一層強まる場合があります。また、回復のきっかけは、身近な人の気づきや援助が役立つことも少なくなく、完全に孤立させてしまうことは症状の長期化・悪化につながる可能性も否定できません。

さらに、うつ病の人に励ましの声かけをするのも避けたい行為です。本人がすでに抱えている「うまくやれない自分への罪悪感」を増幅することになり、症状を深める原因となります。同様に、自分や他の人と比較してしまうことも禁物です。本人の苦しみを軽視する態度と受け取られてしまう場合があります。

つまり、うつ病の人は寄り添い、共感、適度なサポートを必要としており、やってはいけないことは「放置」「過剰な叱咤激励」「軽視・比較」といった、相手の心理状態や苦しみを無視した言動です。適切な接し方のためには、あくまで相手の存在を尊重し、背景となる苦しみに理解を示すことが大切なのです。

うつ病の人への接し方で心がけたいこと

うつ病の人を支えるうえで大切なのは、相手の存在そのものを認め、否定的な感情を安易に打ち消さないことです。まずは、こちらが「理解しようとしている」という姿勢を明示的に示すことが大切になります。冷静な対応で相手が心を開きやすい雰囲気を作ることから始めましょう。

また、相手が何かを打ち明けようとしている際は、最後までじっくりと話を聞く姿勢が求められます。その際、途中で意見を挟んだり、自分が経験した似た話をかぶせてしまうと、相手は「自分の苦しみは理解されていない」と感じることがあります。まずは相手の言葉をそのまま受け止め、共感を示し、安心感を提供することが理想的です。

うつ病の人は、一人で問題を抱え込みがちな傾向があります。そのため、定期的なコンタクトや確認を行い、相手が相談できる環境を整えることが重要です。しかし、過度な干渉はよくありません。相手が疲れていると感じたら連絡頻度を控え、相手のペースに合わせて距離感を調整する必要があるため判断が難しく、専門家による介入を検討しましょう。
しかし、本人が求めない限り無理に医療機関へ連れていくのは逆効果になりかねません。くれぐれもうつ状態は本人のせいではない事を伝え治療をする事で状態が変わる可能性があることを提案し、本人の意志を尊重しましょう。

うつ病の人にしてはいけない声かけは?

うつ病の人への言葉選びは非常に繊細です。何気ない一言が、想像以上に相手を追い込んでしまう場合があります。ここでは、避けるべき代表的な表現と、その理由を明確にしておきましょう。

まず、相手に対して「~すべき」「~しなければならない」といった義務や正解を押し付ける言葉は避けましょう。たとえば「もっと努力しないと」といった指摘は、相手に「自分は十分でない」という思いを強め、自己評価をさらに下げてしまいます。また、相手を励ますつもりで投げかけた「前向きに考えなよ」「気にしすぎじゃない?」といった言葉も要注意です。これらは苦しみを軽視された印象を与え、「自分の状態が理解されていない」と感じさせる原因となります。

他にも「大丈夫だよ」などと根拠のない励ましや「他の人も同じように苦しんでいる」などこのような発言は、相手が抱えている独自の苦しみを矮小化してしまいます。うつ病の人はすでに自己肯定感が低下しているため、その苦痛を「たいしたことない」と捉えられると、孤立感や不信感が増幅してしまいます。

さらに、「気を取り直して」「しっかりしろ」など、感情に蓋をしようとする言動も避けましょう。こうした言葉は、相手が心を閉ざすきっかけになる可能性があります。うつ病の人は、指示や評価を求めてはいないことを理解しましょう。

うつ病の人への適切な声かけとは?

うつ病の人と接する際には、先にも書いたように「まずは受けとめる」という姿勢を言葉で表現してみましょう。相手の言った言葉を「〇〇なのね」「〇〇と思っている(感じている)のね」と繰り返す事がおすすめです。
相手の言った言葉を繰り返す事で、話を聞いているよというメッセージとして伝わり、アドバイスや分析よりも先に、相手の存在や感情そのものを肯定する意味があります。

また、声かけには焦りや期待をにじませない工夫が必要です。
相手が気持ちを表せるように促す声かけも有効です。「ゆっくりでいい」、「自分のぺースでいい」と伝えるなど、無理させず相手の状態を尊重する言葉がけです。
さらに、相手が一人で抱え込まないようさりげなく手を差し伸べる声かけも適切です。「もし手伝えることがあれば言って」「話したくなったら声をかけて」と伝えることで、選択肢や支えが身近にあると感じてもらえます。このとき大切なのは、押しつけず、あくまで提案にとどめることです。
プレッシャーを感じさせないように寄り添う姿勢を示しましょう。

うつ病の人への声かけで重要なのは、一方的なアドバイスや励ましではなく、相手の状態を受け入れ、話すタイミングを尊重した声掛けです。相手が少しでも安心して自分を表現できるよう、言葉選びを心がけていきましょう。
しかし、知識がない場合対応が難しいケースもあるため、身近にいる人も専門家のアドバイスを受けるなど一人で抱え込まない事が重要です。

うつ病の人への適切な連絡の取り方

家族ほどの密な関係でなくても、うつ病の人に適切な形で連絡をとることは可能です。たとえば恋人や友人の場合、直接会う約束が難しい時は、気軽なメッセージや短い電話など、軽めの接点を時折用意してみると良いでしょう。ここで重要なのは「負担にならない距離」を保つことです。相手が返事しやすいツール(メール、チャットアプリ、SNSのDMなど)を選び、回答を強要せず、返信をしなくても気にしないといったニュアンスを感じられる文面を心がけます。

恋人の場合は、相手の様子を踏まえた上で、気遣いや好意を伝えるシンプルなメッセージが役立ちます。一方で、友人は共通の話題を軽く振り、その先のやり取りは相手の反応を待ちましょう。

職場の同僚や上司が相手なら、業務的な連絡には最低限の用件にとどめましょう。要するに、公私を混同せず、相手に「負担なく選択肢がある」と感じてもらえる距離感を保つことがカギです。

連絡手段や距離の取り方は立場によって異なりますが、共通するのは「相手が自分のペースで関われるような余地」を残すことです。過度な呼びかけや返答の催促は避け、静かにコミュニケーションの糸口を整えておくことが、うつ病の人にとって心地よいサポートへとつながります。

うつ病の人への接し方やサポートで悩んだときの相談先

以下は、周囲のサポーター自身が「どう関わっていいか分からない」「対応に疲れた」と感じたときに、相談や情報収集ができる先の例です。うつ病の人のサポートは配慮が必要な為、身近にいる人も自身が消耗してしまう前に、専門家や団体の助けを借りることで、よりよい関わり方を見つけるきっかけにつながります。

精神科医・心療内科医

接し方に悩む場合、専門医から客観的なアドバイスが得られます。直接、医療機関で相談するほか、場合によってはうつ病の人に伝えて治療の橋渡しをすることも可能です。

臨床心理士・公認心理師

カウンセラーや心理師へ相談すれば、適切なコミュニケーション方法や、相手を追いつめないサポートの仕方について具体的なアドバイスが得られます。

オンライン相談(電話相談、チャット相談)

オンラインの相談窓口を利用することで、匿名で第三者に悩みを打ち明けることができます。個別の状況に応じて柔軟な助言を得られる点が魅力です。

当サイト「悩ミカタ」ではミドル世代(40代50代)の悩みや不安・ストレスについて各分野の専門家/カウンセラーに相談できるオンラインカウンセリングサービス「悩ミカタ相談室」を展開しています。不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?

40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」

地域の保健センター・精神保健福祉センター

公的機関では、無料または低額で心の健康に関する相談を受け付けている場合があります。周囲としてどう関われば良いか、行政の支援制度と合わせて教えてもらえることも。

うつ病サポートグループ・当事者会

同様の経験を持つ人たちが集まり、互いの事例を共有している場もあります。ここで得られる実践的なヒントは、専門家の視点とは異なる有益な情報源になりえます。

以上のような相談先を活用すれば、悩んだ際も適切な方向性を見出すサポートを受けやすくなります。

まとめ

うつ病は決して本人の怠惰ではなく、病気であることを理解することがスタートラインです。適切な接し方としては、放置や叱咤を避け、相手の苦しみを受け止める姿勢を示し、無理な励ましや比較を行わないことが重要です。相手のペースを尊重し、ゆっくりと話を聞くことで、安心感や信頼関係が築かれ、回復への一歩を後押しできます。また、状況や関係性に応じて距離感や連絡手段を調整することで、相手の負担を軽減することができます。

もしどのように関われば良いかわからない場合は、専門家や相談機関、サポートグループなどの外部リソースを活用することが有効です。適切な理解とサポートは、うつ病の人を取り巻く環境をより安心できるものにするために重要です。

40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」

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