ストレスがたまって気持ちが大きく落ち込んだとき、「これはただの気持ちの落ち込み?それともうつ病?」と、自分でも分からず不安になる。また、身近な人がひどく落ち込んでいて、言葉や表情が普段と違うと「もしかしてうつ病なのでは?」と心配になる。そんな経験はありませんか?
本記事では、自分や身近な人が精神的に「おかしいのでは?」と気になったとき、うつ病なのか確認するポイントと、その後の対応についてまとめていきます。
まりこさん
教育×産業の2つの領域で経験を積んだハイブリッドなカウンセラー。
教育領域では保育園・幼稚園・小学校・中学校などあらゆる現場を経験。
現在は私立小学校の教育相談スーパーバイザーを務める。
産業領域では、セルフケア・ラインケア・ハラスメントなど、メンタルヘルス系の研修講師を務める。
カウンセリングオフィスkahunaを運営。
うつ病とは何か?
うつ病とは、精神的安定を保つ脳内の神経伝達物質「セロトニン」「ノルアドレナリン」が減ることによって、気持ちの落ち込みや無気力が強くなる病気です。精神的な病気なので、体に症状が現れる疾患と比較すると判断が難しい面があります。場合によってはやる気の問題だと周囲の人から誤解され、それが更に本人を追い詰めてしまうことも。うつ病は怠けや気力の問題とは明確に分けて考える必要があります。
うつ病は早期発見できれば病状の悪化を防ぎやすく、回復も早いことが分かっています。できるだけ早くうつ病の予兆に気づき適切にケアするために、うつ病のサインとなる言動を知っておくことはとても有効です。
うつ病の人が取る行動の特徴
うつ病かどうか正確に判断するには、病院で医師による診察や心理検査を受ける必要があります。診断基準と照らし合わせた上で医師が慎重に診断を下します。素人判断で勝手に「うつ病だ」と決めつけるのは危険であることは忘れないでください。
ただ、うつ病とはっきり診断を受ける状態よりもう少し前の段階で、誰かが早めに異変に気づいて対応できればその分回復が早いのも事実です。自分や周囲の人のメンタル面の変化に気がつけるよう、うつ病の人が取る行動やサインについて理解し、早期発見に役立てていきましょう。
日常生活への影響
うつ病の症状の1つである抑うつ気分が強まってくると、日常生活に支障が出始めます。具体的にどのような影響が生活面に現れるのか、5つのポイントを知っておくとよいでしょう。
1.趣味や好きなことへの興味が消失する
「今まで大好きで続けていた趣味の活動に対しやる気が完全に喪失してしまう」「大好きだった推しに対し全く興味がわかなくなった」といった様子が見られたら要注意です。うつ病の症状である意欲の低下、無気力無感動のサインです。
2.仕事や学業への意欲が極端に低下する
単純に月曜日が辛い、出社や通学がしんどいといったレベルを超えて、実際に遅刻が発生したり、欠勤が続いてしまう状態が見られる場合は要注意です。主婦の方であれば、家事が全く手につかず何もできなくなるような状態もこれにあてはまります。
3.身だしなみに無頓着になる
髪型や服装など、今まではきれいに整えていたのに、全く手入れをしなくなってしまい、お風呂にも入れないような状態です。同時に家の中も散らかり、片づけられなくなるケースもあります。元々無頓着な人であれば話は別ですが、人が変わったように身だしなみが乱れる人がいれば、うつ病のサインかもしれません。
4.睡眠に乱れが出る
「寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」「早朝に目が覚める」の3つの睡眠パターンが出たらうつ病の初期症状ではないか慎重に見極めましょう。また、うつ病では睡眠の質が悪化してよく眠れない不眠だけでなく、寝過ぎてしまう過眠にも要注意です。通常の睡眠時間では心身の回復が間に合わず、寝ても寝ても寝足りない状態に陥るようです。
睡眠の乱れがたまに起こる程度であれば、誰にでも時々起こることとして心配はいりません。ですが、睡眠の乱れが週の半分以上あり、1か月ほど続いている状況であれば、医療機関で診てもらうサインだと思ってください。
5.食欲に乱れが出る
食事を「全く食べられない」もしくは「常に食べ過ぎてしまう」という状態です。睡眠と同じく時々起こる程度であれば気にする必要はありませんが、常に食べられない、毎日過食してしまうといった状態が1か月ほど続いていたら、やはり早めに医療機関を受診した方がよいでしょう。
対人関係への影響
うつ病のサインは対人関係にも現れます。
まず、友人や家族との交流が極端に減少します。たまに会話の場に現れたとしても、口数が少なく、会話に参加したいという意欲が低下した状態が見受けられるでしょう。周囲の目にはあえて孤立するよう行動しているかのように見える程です。うわの空で、話を聞いているのかどうか分からないような様子もあり、周囲を心配にさせるでしょう。
また、周囲の人に対し些細なことでイライラしやすくなるサインも見られます。よかれと思い助言をしようとする人に対しても、激しく批判する言動が増加します。その一方で、後からイライラを周囲の人にぶつけたことを後悔し、自分を極端に責めるような言動が見られることも。身近な人は気持ちの乱高下や不安定さに戸惑うかもしれません。
うつ病の人が使う言葉の特徴
気持ちが落ち込み始めると、自己否定や自信喪失を示す言葉を使うことが増えます。実際どのような単語を使うことが多いのか、具体的なセルフを例に挙げながら特徴を見てみましょう。
否定的な言葉
例1.「疲れた」「何もしたくない」「何をしても無駄だ」
疲労や無力感を示す言葉。心も体も疲弊しきって何もできない、動けない、何をしようと無駄だという否定的な言葉が増える。
例2.「どうせ私なんて」「価値がない」
自分を極端に否定する言葉。自己否定や自己批判が増え、自分の存在価値のなさを強い言葉で訴える。
例3.「生きている意味がない」「消えたい」「死にたい」
自殺をほのめかすような言葉。自殺念慮をほのめかすなど、「死」というワードを頻繁に使うようになる。この言葉が出たら要注意。できるだけ早めに専門の相談窓口や医療機関につなげることが大事。
自信喪失を表す言葉
例1.「できない」「無理だ」「失敗する」
強い無力感に襲われていることを示す言葉。家族や友人が心配して一生懸命励ましても、自分にはできないと強く否定、反発する。
例2.「迷惑をかけている」「役に立たない」
みんなに迷惑をかけているに違いないと謝罪や懺悔のような言葉。気持ちが落ち込んで何も活動できない自分はみんなのお荷物だという感覚が強く、周囲が否定しても信じられない。このセリフも自殺念慮につながりやすいので要注意。
うつ病による表情・外見の変化
うつ病の人には表情や外見にも多少の変化が現れます。初期の段階は些細な変化ですが、症状が悪化していくにつれて外見の変化が顕著に見られるケースも。具体的にどのような変化があるのかチェックしておきましょう。
表情の変化
うつ病の初期では「笑顔の減少」「無表情」といった表情の変化があります。不安定でイライラが強いときは「眉間にしわを寄せる」「口角が下がる」などの表情も増えます。うつ病が悪化して無気力が強まると、「視点が定まらない」「うつろな目」など、目に力や光が無くなっていくことも。要注意のサインです。
外見の変化
外見の変化は「顔」「髪型」「服装」「体型」に現れやすいです。まず「顔」でいえば、生気のない顔色や目の下のクマが目立ちます。「髪型」は、無造作に乱れてぼさぼさでも構う様子がありません。お風呂に入るのがおっくうでしばらく髪を洗っていないという人もいます。「服装」に関しても無頓着で、よれよれの服を着ていても気に留める様子がありません。
うつ病の症状として食欲に問題がある場合、症状が悪化するにつれて「体型」に変化が出てきます。食欲がないケースでは極端に体重が減って瘦せてしまう、逆に過食が続くケースでは急激に体重が増加してしまいます。太ることが嫌で、更に気持ちが激しく落ち込むという悪循環ケースに陥ってしまう可能性も。
「おかしい、うつ病かも?」と感じたら
もし見た目の変化や日常生活への影響から「うつ病かもしれない」と不安になった場合、どう対応したらよいのでしょうか。大原則として、無理な励ましは禁物です。自己判断せず正しい知識に基づいた対応を心がけ、症状を改善していきましょう。
専門家への相談
真っ先に行うべき対応は、精神科医や心療内科医を受診することです。うつ病といっても程度には差がありますし、症状にも個人差があります。医師による診察を受けた上で、本当に必要なケアを検討しましょう。各種相談窓口を利用したり、心理療法士によるカウンセリングを受けたりするのも、主治医に相談しながら行うと安心です。
相談窓口の例としては、自治体の相談センターや民間のカウンセリングセンターなどが挙げられます。どこに相談してよいか分からない、カウンセリングは不安だという方は、最初の窓口として地域の自治体の相談センターを頼ってみるのもありです。そこから、症状に合わせて必要なケアを受けられる機関を紹介してもらうこともできるでしょう。
近年は、オンラインで受けられるカウンセリングサービスも増えています。うつ病の症状が強く出ていてとても外出ができない、という方は、オンライン相談を検討してみるのも手です。
40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」
周囲ができるサポート
もし家族など身近な人がうつ病である場合は、まず温かく見守ることが最優先。否定的な言葉を避け、話をじっくり聞いてあげましょう。辛さに寄り添い、共感して分かってくれる人が傍にいることが、うつ病の人を安心させます。安易に励ましたり、気分転換だといって無理やり外に連れ出したりは、本人の気持ちを無視した行為になってしまう可能性があるため注意してください。。
心配な気持ちはあると思いますが、焦って押し付けにならない程度に、必要な情報を提供したり、専門家への相談を促したりしてサポートしてあげられるとよいでしょう。
セルフケア
自分自身が「うつ病かもしれない」と心配なときは、まず規則正しいリズムを心がけてみましょう。生活習慣で何が変わるのか、と半信半疑な方もいるかもしれません。ですが、適度な運動・バランスのとれた食事・リズムの良い睡眠、この3つは体の健康だけでなく心の健康にも非常に深く関与しています。
特に睡眠の質を高めることは抑うつ気分の改善につながりやすいです。日中は趣味やリラックスできる活動を楽しんで、夜は疲れてぐっすり眠れるような生活習慣を心がけてみましょう。
睡眠リズムを整えることを最優先に考えれば、睡眠薬をうまく活用していくことも助けになります。中には薬はできるだけ飲みたくない、薬は怖いという気持ちを持っている方もいるかもしれません。ですが、医師の処方を受けて正しく服用すれば、睡眠の質を高めて抑うつ気分の改善をサポートしてくれる効果が期待できます。
副作用など不安なことがあれば主治医にしっかり相談して、お薬も上手に活用していきましょう。
まとめ
厚生労働省によると、うつ病は日本人の約15人に1人が一生のうちにかかるというデータもあり、誰がなってもおかしくないメンタル疾患です。自分や身近な人が患う可能性もあることを忘れず、うつ病のサインを知識として持っておくとよいでしょう。本記事で紹介したように、行動面や発言面でのおかしさや、外見的な変化がポイントです。
そして、もし少しでも「おかしいな?」と感じるサインが見られたら、早めに専門家に相談しましょう。早期発見・早期対応は回復にむけた大事な一歩です。自分や周囲の人がうつ病かもしれないと感じたら、否認したりごまかしたりせず早めに適切なケアを受けられるよう動いていきましょう。
【参考サイト】
うつ病|こころの病気について知る|ストレスとこころ|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~|厚生労働省 (mhlw.go.jp)