カウンセリングとは? その意味と効果を公認心理師が解説します

欧米と比べ、カウンセリングを受けることへの壁がある日本。そこには“心の病気にかかった人が受けるもの”というイメージや、効果に対する疑念も関係しているとのかもしれません。「カウンセリングは、弱い人やダメな人が受けるものではない」と話す公認心理師の佐藤めぐみさんが、カウンセリングの手法や効果を解説します。

目次

カウンセリングってどういう意味を持つもの?

カウンセリングとは

「個人のもつ悩みや問題を解決するため、助言を与えること。精神医学・臨床心理学等の立場から行うときは、心理カウンセリングと呼ぶことがある。身上相談」『広辞苑 第7版』より

カウンセリングは、相談者の抱える問題や悩みに対して専門的な知識や技術を用いて行う相談・援助のことをいいます。相談者の“主訴”(患者がもっとも強く訴える症状)を良い方向に導いていくのが、一番の目的になると思っています。

私が行うカウンセリングは子育て中のお母さんたちが相談者になりますが、スクールカウンセラー、心理カウンセラー、産業カウンセラーなど、カウンセラーにもさまざまな分野があります。従って、手法や導くべき方向にはそれぞれ異なる部分があります。

今回は公認心理師として私が行っている手法を元に、カウンセリングについて解説しましょう。

カウンセリングの基本手法①:来談者中心療法

現代のカウンセリングの基礎を築いたといわれる、臨床心理学者のカール・ロジャーズ創始の手法に「来談者中心療法」というものがあります。

ロジャーズは「人間は本来、成長する潜在力を持っている」と考え、カウンセラーの役割は相談者の自然な成長の力を発揮させる状況を作ってあげることだとしています。

したがって、相談者に対してカウンセラーが「ああしなさい」「こうしなさい」と指示することはありません。

来談者中心療法で重要になるのがカウンセラーの人間性、相談者との信頼関係。心理学の専門的なスキルよりも相手の身になって考える姿勢に重きを置き、相談者が「相談して良かった」と感じる内容を提供することが大切になります。

つまり「相談して良かった」と感じられるのであれば、プロではない家族や友人でもカウンセラーの役目を果たすこともあり得るでしょう。“カウンセラーだからできる”、“普通の人だからできない”というよりはその人自身の人間性に委ねられる部分が大いにあるのです。

カール・ロジャーズは、カウンセラーには三つの資質や態度が必要だといっています。

【カウンセラーの資質・態度に必要な能力】

  • 無条件の肯定的配慮
    相談者が訴えている内容を、カウンセラーの価値観を交えずに無条件に受容すること。
  • 共感的理解
    相手の立場に立って、物事をみられること。相談者の主訴を自分のことのように感じ理解、共感を示してあげられる力。
  • 自己一致
    カウンセラー自身が感じていることと、相談者への言葉や態度が一致しているかということ。例えば「そうですよね」と共感を示しているのに、心の中ではそんな風に思っていなかったとしたら、自己一致とは言えません。

この三つの能力は、理解するだけであればすぐにできるものでしょう。しかし、彼が本当に言いたいのは「心の底から共感や受容ができているか」ということ。相談者の多くは人間関係に疲れていたり疑いを持っていたりという人が多くいます。もし上辺だけの共感で「この人、本当は全然共感してくれていないな」と感じさせてしまったら、さらに人間への不信感を募らせてしまいます。これでは、“効果がない”どころかもともとの悩みを悪化させてしまうことさえあり得るのです。その点で、このロジャーズの問うカウンセラーの内面性というのは非常に大事なポイントになります。

カウンセリングの基本手法②:認知行動療法

私が用いているカウンセリングの手法として、もう一つ「認知行動療法」というものがあります。

日本ではまだそれほど多く用いられていませんが、世界的にみると現代のカウンセリングの主流であり効果・実績も豊富にあり、広く使われています。

認知行動療法を説明する例えとして、“釣りざおの話”がよく挙げられます。

食べ物がなく困っている人に「魚をください」と言われた釣り人が、魚をあげる代わりに釣りざおと釣りの仕方、場所を教えてあげたという話です。魚をあげることもできますが、その日の飢えしか凌げません。次の日も、またその次の日も食べ物に困ってしまいますよね。でも、釣りざおと釣る知識さえ持っていれば、自分の力で生き延びることができます。

つまり、認知行動療法では解決までの道のりを的確に導き、相談者の自助力(自分で自分を助ける力)の育成へとつなげるのです。

自分に合ったカウンセリングの選び方

カウンセリングを受けたいと思った時、今の時代だとネットで調べることが多いのではないでしょうか。けれど、数あるカウンセリングの中からどれを選んだら良いか悩む人も少なくないでしょう。また、カウンセリングの効果に疑問を抱いたり、中には「意味がない」と感じたりする人もいるようです。

さらに、カウンセリングの中にはごくわずかではありますが詐欺や刑事事件に発展するような事例もあります。

選ぶ上でもっとも大事なのはカウンセラーの内面性だと思いますが、インターネットのサイトから得る情報だけでは、カウンセラーの内面性まではなかなか見えてこないものです。

では、何を見て判断すればいいのか。私はカウンセラーの資格や経歴を確認することはある程度、安心材料になると思っています。

では、なぜ資格が大事なのかについて解説しましょう。

カウンセラーの資格を確認してみよう

私が持つ公認心理師という資格は、2017年に施行された「公認心理師法」に基づいてできた心理職初の国家資格です。しかし、カウンセラーとして活動するのは公認心理師だけではありません。

例えば、臨床心理士。資格を取得するには大学の4年間に加え大学院の2年間、トータル6年間にわたり心理学を勉強します。その後、試験を受けて合格した人のみがもらえる資格です。

一方で、一日完結型の講座を受けるだけで認定資格を得られる類のカウンセラーもあります。

これで分かるように、ひと口にカウンセラーといってもその資格の種類はさまざまで、国家資格、民間資格、あるいは試験を必要としない資格さえあるのです。言ってしまえば「私はカウンセラーです」と言えば、そうなれてしまうのが今の日本の現状なのですね。

6年かけて心理学を学んだカウンセラーと、一日でカウンセラーになった人とではその知識量に差があるのは明確です。

カウンセラーによって考え方はさまざまあるかと思いますが、私自身が考えるカウンセラーに必要な要素としては、

  • 内面性
  • 知識量
  • 経験値

この三つが大切になると思っています。また、その人の自助力を引き出し、提供することも必要だと感じています。

蓄積された知識が多ければ多いほど、相談者それぞれに合った導きをすることが可能になります。私自身、長年カウンセリングを経験していてもいかに難しく責任のある仕事かというのは常に感じることです。短期間で得た知識や付け焼き刃の技術では、カウンセラーが相談者に合わせるのではなく、カウンセラーのやり方をどの相談者にも当てはめてしまうことが起こり得るのです。

資格の有無だけでカウンセラーの資質を判断できるわけではありませんが、公認心理師や臨床心理士の資格があれば少なくとも知識量はあると考えられます。カウンセラー選びのポイントとして参考にしてみてください。

カウンセリングはどのように行うの?

カウンセリングにおける最初の面接は、「インテーク面接」といって相談者の情報を得る回になります。主訴だけはなく、家族のことや困り事を解決する上で聞いておきたいこと、仕事をしているお母さんなら会社のことを、夫とのトラブルで悩んでいるのであれば夫の話を聞くこともあるでしょう。

また、第三者であり初対面であるからこそ信頼関係の構築も大切にしています。「私の話したことが漏れるのではないだろうか」と心配される人がいますが、公認心理師の場合は法律で定められていることもありますし、カウンセラーの守秘義務は絶対ですのでこの点は安心して大丈夫ですよ。

2回目以降のカウンセリングはカウンセラーによって手法や進行方法は異なりますが、私が行う子育てカウンセリングを例に紹介しましょう。

育児というのはお母さんが子どもに影響を与え、子どももお母さんに影響を与えるので、連鎖しているのが特徴的です。

親子関係は距離が近い分、まるで子どもと一体化しているような悩みも多くあります。子どもの困り事が、自分の困り事にもなるわけです。自分のことならコントロールできますが、子どもはコントロールできないことがいっぱいあります。

「子どもがいうことを聞かない」という悩みの場合

たとえば、母親の主訴としてよく挙げられるのが「イライラして感情を爆発させてしまい、自己嫌悪に陥る」というもの。しかし、そのきっかけには共通するものがあります。

それは、“子どもがいうことを聞かない”ということ。“子どもは親のいうことを聞くものだ”と無意識に思っていることが必要以上のいら立ちを起こさせてしまうことも多いのですが、“いうことを聞かない”状況は次の2つのパターンに当てはまることが多いです。

  • 家庭内にルールを守る仕組みがないため、子どもがいうことを聞くということ自体を学ばずに育ってきてしまっている。
  • もともとの気質により、同じことを言っても1回で聞く子と、何度言っても聞かない子がいる。後者の場合、まずは親に抵抗することで親の真意を確認しようとする。

1の場合は、“いうことを聞く”という仕組みを家庭の中に構築する方向で話していきます。

2の場合も仕組みを構築することは必要ですが、お母さん自身が子育てに疲れ切っている場合が多いんです。従って、2の場合は先にお母さんの心のケアに取り組みます。

育児全般にいえることですが、悪い方に回りだすと負のスパイラルに陥ってしまうことが多いものです。それを、どこから踏み込んでいったら良いかをカウンセラーとして考えます。

お母さんの心のケアでは、認知行動療法の手法を活用します。育児でのイライラや不安、自己嫌悪などの負の感情は、物事の捉え方が“極端”になっていることでエスカレートしやすいので、それを現実的に検討するところからスタートします。もっとも、初回のインテーク面接で育児情報を提供されるだけで改善されるケースも多いんですよ。

カウンセリングで得られる効果

カウンセリングを受けた方たちの感想で多くあるのが、「自分を冷静に見つめられるようになった」「こんなに状況が変えられるなんてびっくり」「気持ちがとてもラクになった」という実感。私自身が感じるのは、カウンセリング前後で声のトーンが大きく変化するということです。

カウンセリングの具体的な効果には、「心の浄化作用」「自分自身の気付き」「自助力」を挙げることができます。

  • 心の浄化作用
    カタルシスという心理学用語がありますが、話すことで心が浄化される感覚を得られることをいいます。
  • 自分自身の気付き
    心理学では「セルフ・アウェアネス」と呼ばれるものですが、人は誰しも、自分で思うほど自分のことを分かっていません。外側から自分を見つめる機会を得ることで、自分をより深く知ることができるのです。
  • 自助力の回復・向上
    カウンセリング中に癒しを得るのは大事ですが、自分で自分を癒せる力こそ、その人を助けてくれます。認知行動療法に代表されるように、質の高いカウンセリングでは、自分で解決できる力を身に着けることができます。

カウンセリングの効果は、自分に合ったカウンセラーに出会えるかが大きく影響します。相性の良いカウンセラーから正しいカウンセリングを受けることができれば、効果を感じることができると思っています。

カウンセリングは情報を引き出すための場所

日本では、カウンセリングを受けることに対する壁がやや高いように感じています。例に挙げた悩みを持つ子育て中のお母さんたちを見ていても“自分の悩みを相談すること=ダメな母親”だと思われるのではないかと感じている人が多くいます。

親子で参加するような教室やお母さん向けの講座には参加する人が多いのですが、“相談”となるとちゅうちょしてしまいがち。内容的には大きく変わらないかもしれないのに、相談するとダメな人間というレッテルを貼られる感覚になるのかもしれません。

会社で任される仕事は基本的には毎日変わるものではありませんが、子育ては毎日、変化だらけの仕事です。子どもは親の情報処理を待たずにどんどん成長していくので、昨日まで良かったものが今日はうまくいかないというのも日常茶飯事。分からないことや悩みが出てくるのは当然です。知らなくて当たり前のことなんです。

子育ては、人間一人を育てること。人生で一番の大仕事です。その大仕事を少しでも円滑に行うための情報を引き出すのがカウンセリングの場と考えたら、少し壁を低く感じることができるかもしれません。早めに相談した方が解消も早くなるので、我慢し過ぎになる前に相談してほしいなと思います。

公認心理師・佐藤めぐみさんの講座「ポジ育クラブ」がスタート

2020年11月から、メールマガジン形式の心理学講座「ポジ育クラブ」を始めました。

コロナ禍で育児ストレスが悪化している状況を踏まえ、お母さん自身の心のケアをオンラインで学べる内容になっています。“いつでもどこでも”受けられるようにメルマガ形式の手軽な講座にしましたが毎回、自助力習得を目指すエクササイズを盛り込んだ本格的な心理学コンテンツです。

誰かに悩みを相談することに抵抗がある、カウンセリングに行く時間がない、カウンセリングにかかる費用が気になる…などさまざまな理由からカウンセリングを受ける機会がない人は多いのではないでしょうか。そういう方でも自己啓発的なもの、学びの場であれば取り組みやすいと思います。

子育ての世界は学ぶことで解消できる悩みが、実はたくさんあるんです。ポジ育クラブではお母さん自身の心のケアを中心に、さまざまな子育て心理学のトピックを取り扱っていきますので、自己啓発的にに“自分と向き合う”時間を一緒に作ってみたいという方、お待ちしております!

ママの心のケア「ポジ育クラブ」の詳しい内容はこちらから

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