レスを解消したい…子どもはほしいけどしたくない…セックスレスに関する悩み、どうすればいい?【専門家が回答】

「セックスレス大国」とも言われる日本。デリケートな話題のため、身近な人にもなかなか相談できずに悩んでいる人も多いのではないでしょうか?夫婦の問題として挙がることの多いセックスレス。そもそも「セックスレス」の何が問題なのか?解消はするにはどうすればいいのか?家庭問題のスペシャリスト、新井寛規先生が紹介します。

記事を執筆したのは…

新井寛規さん

小規模フリースクール「ろぐはうす」センター長。小学校教員、児童養護施設児童指導員、学童保育士、市家庭相談員を経て、2018年大阪府に学習生活支援センターろぐはうすを設立。現在、大学教育学部非常勤教員、保育士・教員養成専門学校の教員、保育士国家試験予備校非常勤講師、市府県放課後支援員研修講師、市府県子育て支援員研修講師、保育教育児童福祉コンサルティング、啓発活動を行っているほか、「境界に生きるー。」(UTSUWA出版)などの著書も手掛けている。

目次

日本の夫婦の6割はセックスレス

日本性科学会が定めた「セックスレスの定義」によると、「セックスレス」とは「特別な事情がないにもかかわらず、カップルの合意した性交あるいはセクシュアル・コンタクトが1ヶ月以上ないこと」とあります。

セクシュアル・コンタクトとは、挿入を伴うセックス、キスやペッティング、ベッドでの裸のスキンシップなどが挙げられます。

日本におけるセックスレス夫婦の割合は、20年前に4組に1組であったものが、今は50%を超えています。2021年、国立社会保障人口問題研究所という国の機関が、国として初めてセックスレス調査をした結果、18歳から49歳までの既婚女性の内、58.5%がセックスレスであることが判明しました。

このデータから、日本の夫婦のうち、約6割もの夫婦はセックスレスであるという事実が分かります。

セックスレスはなんとなく悪いこととされますが、セックスレス自体は悪いことではありません。もし「セックスレス=悪い」という式が成り立つのであれば、「日本の夫婦の6割=悪い夫婦」となってしまいます。

現実にはセックスレスであったとしても、仲が良い夫婦はたくさん存在していますよね。

セックスレスでうまくいっていない原因は?

セックスレスでも仲が良い夫婦がいる一方で、うまくいっていない夫婦もいます。では、うまくいっていない夫婦は何が問題なのでしょうか?

セックスレスでうまくいっていない夫婦は、「親密性」を満たしていないと考えられます。一般社団法人平和政策研究所によると、親密性とは「関係の中で自分を犠牲にしたり裏切ったりせず、相手を変えたり説得しようという要求を抱かず、相手のその人らしさを承認し合えること」と定義されます。

親密性には大きく分類して「心理的親密性」「精神的親密性」「身体的親密性」の3種類があります。心理的親密性は、自分の気持を素直に表現しあえるかどうか、精神的親密性は、人生観や道徳観などが共有できているかどうか、身体的親密性はスキンシップがとれているかどうかを示します。

さらに身体的親密性には性行為などの「性的スキンシップ」と手を繋ぐなどの「非性的スキンシップ」があります。

ここで言う性的スキンシップと非性的スキンシップの一例は次の通りです。

性的スキンシップ

  • プライベートゾーンを見て触れる
  • プライベートゾーンを愛撫する
  • 性行為をする など

非性的スキンシップ

  • 目を見てたくさん微笑む
  • 表情を豊かにし、優しくあたたかな態度を保つ
  • マッサージをする
  • 相手の手や肩などに軽く触れる
  • 手をつなぐ など

つまりセックスレスとは、3つある「親密性」のうちのひとつである「身体的親密性」のなかの、性的スキンシップがないというだけの状態です。

セックスレスでうまくいっていない夫婦は表面上、セックスをしていないことが問題に見えるのですが、実は心理的・精神的な親密性、そして非性的スキンシップが足りていないことが問題になっているのです。

セックスレスでもうまくいく夫婦の特徴

これまでの説明を踏まえると、セックスレスであってもうまくいく夫婦を一言でまとめると「親密性のバランスが良い夫婦」ということになります。

筆者の経験上、具体的に次の3つの特徴のある夫婦が多いです。

①精神的な距離が近い

3つの親密性ののうち、性的スキンシップがない状態であっても、非性的スキンシップ(性器やプライベートゾーン以外のスキンシップ)や、精神的な距離が近く、コミュニケーションがとれている夫婦は、セックスレスであっても仲が良い夫婦が多い印象です。

②信頼し合えている

親密性のバランスがとれていると、相手への信頼と信用が高まります。信頼とは「相手を信じたい」という感情であり、信用とは「今まで約束などを守ってきた実績」を指します。この信頼・信用は愛情とも密接に関わっているため、レスであるということはそもそも「行為がなくても夫婦として成り立っている」といえるのかもしれません。

③性の価値観のすり合わせができている

最近はどちらかが、性への興味や欲求があまりないというカップルも増えてきています。お互いの欲求のギャップが、レスの課題のひとつでもありますよね。「性に関する話は恥ずかしいこと」ととらえずに、真摯に相手の気持ちを受け止めたり、理解しようとする夫婦は、レスであってもお互いの愛情を確認できる機会があります

セックスレスを解消するには?

「親密性」のバランスがとれていればセックスレスは問題ではないとお伝えしましたが、子どもを望んでいたり、夫婦のどちらかが性的スキンシップをとりたいと思っている場合はどうしてもレスそのものが問題になってきます。

では、どうすればレスを解消できるのでしょうか?純粋に営みを再開したいケースと、どちらかが営みをしたくないケースに分けて紹介します。

営みを再開したい場合

セックスレスの状態からまた営みを再開したい場合は、まずお互いの合意が必要不可欠です。また、最初からすぐに最後までせずに、数日かけてゆっくりと進展させることも1つの方法でしょう。焦りは禁物です。お互いの身体が慣れていけば、自然とできるタイミングがあります。急に最後までしなくとも、非性的スキンシップから始めることもできます。

相手の目を見て微笑む、肩や腕などの比較的振れやすい部分から触れてみる、物理的な距離感をほんの少し近くしてみるなど、できることからで構いません。

期間が空いているからこそ、お互いの細やかな配慮が大切です。爪の手入れや口臭や体臭などにも気を配ると良いでしょう。

どちらかが営みをしたくない場合

パートナーのことが嫌なわけではないし、なにか理由があるわけでもない。それでも「子どもはほしいけどしたくない」「レスは解消したいけどしたくない」という気持ちになることは、悪いことではありません。例えば心配事があったり、気分が落ち込んでいる時にそう考えるのは自然なことです。相手に対して「申し訳ない」と思う必要もありません。

一方、パートナーの理解を得るのが難しいケースも見られます。自分がしたくなくても、パートナーがしたい場合は、「あなたのことが嫌いだからではない」ということをしっかりと伝えてあげる必要があります。その上で、「したい・してもいい」と思えるまで様子を見ましょう。

もし、「レスを解消したいけど営みをしたくない」という気持ちを、一時的ではなくずっと持ち続けている場合は、先ほど説明した「親密性」を獲得できていない可能性があります。「親密性」は人間が成功して人と関わるなかで獲得するスキルであると考えられていますが、親密な関係を築くにはいくつかの恐怖(※)を克服する必要があるとされています。

そのため、レスを解消したいと考えている場合は、「したくない気持ち」の原因や解決法を考えるために、一度「夫婦カウンセリング」を受けてみるのもいいかもしれません。

カウンセリングを受ける際は「気持ちに寄り添ってくれるか」「現状をしっかりと把握しようとしてくれているか」の2点をポイントにカウンセラーの方を選ぶといいと思います。私自身も夫婦カウンセリングをした経験が多くありますが、この2つの把握を間違えると、適切なカウンセリングはできないと感じています。

※「親密性」を獲得するために克服が必要とされる恐怖は以下の6つと考えられています。ただし、このような恐怖はすべてのケースに当てはまるわけではありません。

  • 依存への恐怖 (パートナーに依存することができない)
  • 感情に対する恐怖 (感情を表現することを恐れる)
  • 怒りに対する恐怖 (怒りを表現することを恐れ、自己主張ができない)
  • コントロールを失う恐怖 (親密になることで自分自身の自由が失われる不安)
  • 自分をさらけ出すことへの恐怖 (自分のことを相手に深く知られることを恐れる)
  • 見捨てられる恐怖 (いつか自分を見捨てたり拒絶するのではないかという不安)

レスを話し合える夫婦に

もしみなさんがレスから脱却したいと思うのであれば、まずは「レスを話し合える夫婦」になりましょう。私は1日10分でも良いので、夫婦でゆっくり話す時間を持つことをお勧めしています。

レスの問題に関わらず、夫婦関係をよくするために、できる限り毎日お互いのことを話す時間を持つべきです。子どもが寝た後の少しの時間であったり、早朝などでも良いでしょう。

そして、その時間は「本音で話す」というルールをつけても良いかもしれませんね。

人間は「共感」を大事にする生き物ですから、空気を読んで「建前」で話してしまうこともあります。しかし、真の共感とは本音を言い合える関係の中にあると私は考えます。

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