旦那が怖い! これってモラハラ? 私が悪いだけ? パワーバランスが崩れた夫婦に解決策はあるのか

夫に対して、「怖い」と感じる妻がいます。「機嫌が悪くなると面倒だな」というケースもあれば、中には動悸がするほど恐怖心を抱く深刻な場合も…。家庭内の空気が乱れ、子どもにも良い影響を与えるとは思えない夫婦の偏ったパワーバランス。改善策、あるいは逃げ道はあるのでしょうか。夫婦問題に詳しい、臨床心理士の表広大さんに教えてもらいます。

お話を伺ったのは…

臨床心理士
表 広大さん

臨床心理士。家族関係の改善をサポートするプロのカウンセラー。二児の父。10年間の上場企業勤務の後に臨床心理学専門大学院を修了。金沢心理カウンセリングルームJONを主宰し、親子や夫婦関係に悩みを抱える人が充足感や幸福感を感じられるカウセリングや講座を提供する。あたたかな家族関係を持ち、自然体で自由に自分を表現できる環境づくりを実践している。

目次

こんな夫は嫌だ!“怖い夫”の特徴とは?

ソクたま読者の皆さんの中にも、夫に対して“怖い”と感じたことのある人はいるのではないでしょうか。けれど、その多くは一時的なもので継続的なものではないでしょう。また、自分の言動により夫を怒らせてしまったり、夫婦喧嘩がヒートアップしたり、その原因も明確なはず。

しかし、今回の記事で取り上げるのは常に夫が怖いというケース。原因が見当たらない、あるいはささいなことが原因であるにも関わらず、いつも夫が怖いのです。

怖い夫には、

  • 沸点が低く、些細なことでキレる
  • 怒りポイントの予測ができない
  • 子どもへの叱り方が激しすぎる
  • 自分勝手で自己中心的

といった特徴があります。

“ご飯がまずい”、”お風呂がぬるい”といったちょっとしたことで怒る、「こんなことで!?」といったことが原因となるため怒らせる予測ができません。また、一人が現す怒りの感情があまりにも激しすぎると家庭全体の雰囲気に影響します。結果、自分に向けられた怒りでなかったとしても恐怖を抱いてしまうのです。

“怖い”という感情は正常な反応

そもそも“怖い”という感情は、危険を察知し自分の身を守るために必要なものだといわれています。つまり夫への恐怖は、夫の言動に身の危険を感じているということです。さらにこれが継続的で、しかも怒りの理由が分からないと夫婦関係の大きな問題になっていきます。

夫の怖さの背景にあるのは相手の怒りが理解できない状況が継続的であるという点にあるのです。

このように妻が夫に恐怖を感じている場合、夫の言動がモラハラであることも多いでしょう。読者の皆さんも夫の発言に対して「それって、モラハラじゃない!?」と思ったことのある人はいるのではないでしょうか。しかし、本当にモラハラを受けている妻は自分が置かれている状況が理解できていない、モラハラを受けていると気が付いていないことも少なくありません。

次章では、どういった言動がモラハラになるのかを詳しく見ていきましょう。

怖い夫はモラハラ!?夫のモラハラ度をチェックしよう

モラハラとは「モラルハラスメント」の略。モラルに反したいじめや嫌がらせ、精神的な暴力や虐待のことをいいます。

モラハラを受けていることに気が付かないと対処ができず、恐怖から脱することもできません。まずはモラハラのパターンを理解し、自分の状況を客観的に知ることが大切です。

モラハラは、言葉や態度による嫌がらせで人の心を傷つける精神的な暴力。それゆえ、外から見えにくいという性質もあります。行為として分かりやすい肉体的暴力に対し、精神的暴力は客観的に人に証拠を示すことがなかなか難しいのです。

モラハラ行為の代表的なものとしては、

  • 怒ったり怒鳴ったりする
  • 暴言を吐く
  • 自分のルールを押し付ける
  • 自分のペースを優先する
  • 自分が一番正しいと思っている
  • 長時間にわたり、説教する
  • スマホを見たり監視カメラを取り付けたりして行動をチェックする
  • 無理矢理、謝らせる
  • 相手が大切にしているものを壊したり、勝手に捨てたりする
  • 無視をする
  • 体調が悪くても病院に行かせない、看病をしない
  • 人格の否定や非難をする
  • 妻の家族や友人をけなす
  • 仕事に就かせない
  • セックスの強要や相手が嫌がる性的な行為を強要する
  • 生活費を入れてくれない

このような例が当てはまりますが、挙げればきりがないほど本当にたくさんあります。そのため、「夫の態度はモラハラなのか?」「一つでも該当するものがあれば、モラハラ夫なのか」とモラハラか否かの判断が難しいことも少なくありません。

“自分が精神的な痛みを感じているかどうか”。これがとても大切です。

なぜ妻が苦痛に感じる発言をする!?モラハラ夫の心理とは

モラハラをする人は、基本的に“0か100か”という考え方が強い傾向にあります。“グレー”がないんですね。曖昧なことを好まずすぐにジャッジする、決めつけるというのが傾向として見られます。

モラハラ夫は、あらゆる状況において自分が良しと考えるもの以外は認めません。例えばお風呂のふたの閉め忘れ、電気の消し忘れなど、妻のちょっとした“ミス”も自分のルールに反するため許せません。

モラハラ夫の「死ね」「誰のおかげで生活できているんだ」といった類いの発言は、共感力の乏しさに原因があるように感じます。中には、共感力が優れているがゆえに「〇〇と言ったら傷つくだろうな」「相手をコントロールするために〇〇と言ってやろう」と狙って発言する人もいます。

また、モラハラ夫には

  • 普段は優しいが、怒ると激しく変わるタイプ
  • 常に怖いタイプ
  • 離婚や別居を切り出されると、優しくなるタイプ

など、さまざまなタイプが存在します。

では、なぜ夫はモラハラ気質になってしまったのでしょうか。こういった悩みをもつ妻の中には、自分の言動が原因だと考える人は少なくありません。次章では、夫の性格の原因について解説しましょう。

怖い夫を作り出したのは、妻?それとも育ってきた環境?

妻の言動がきっかけで、夫を怒らせてしまうことはあるでしょう。しかし、だからといってそれが人格に影響するほどのものかというとそうではありません。

怒りの感情は出たり消えたりする、瞬間的なもの。妻が大人である夫のパーソナリティーや人格に影響するということはあまりないように思います。ですから「私のせいで…」とか「私が悪いのかも」といった考えは一切、抱く必要はありません。

“怖い夫”は生来のもの、あるいは環境が作り出したものかもしれません。原因は一つではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合って生まれたものでしょう。

原因としてよくいわれるのは、育ってきた環境です。例えば両親が過干渉だったり、反対にネグレクトや虐待を受けて育ってきた場合。特に、虐待の環境にあった人はこういった傾向を持ちやすい部分はあります。

また、発達障害の可能性が指摘されることもあります。発達障害の中でも、特に「自閉症スペクトラム障害」はコミュニケーションと社会性の欠如が特性として見られます。相手の感情を読み取れないことで、モラハラとも取れる発言をするかもしれません。

その他にも、自分を過大評価し他人を過小評価する「自己愛性パーソナリティー障害」、他人を傷つけることに罪悪感を持たない「反社会性パーソナリティー障害」などパーソナリティー障害の傾向を持っている人もいます。

確かにモラハラの背景に発達障害があることもあります。しかし、だからといってモラハラ=発達障害とはいえません。

このようにラベリングすることに、私は賛成できません。また、モラハラの原因が分かったからといって妻の苦しみや悩みが改善されるわけではありませんよね。

“なぜ夫は怖いのか”という原因をはっきりさせる意味はあまりないと思うのです。原因について「100%こうだ」と断言するのは難しいし、原因と問題解決は別物と考えた方がいい場合も多いからです。

では、モラハラを治すことは果たして可能なのか…。もちろん、夫本人が治したいと思うのであれば治りますが、妻や他人が治せるものではありません。また、モラハラ夫の多くは自分がモラハラであることに気が付いていません。これが、妻の精神的ダメージが増幅させてしまう原因にもなっているわけです。

夫婦関係だけではなく、会社の人間関係や友人関係においても相手を変えるというのは難しいことではないでしょうか。怖い夫を妻が変えるというのは、なかなかの試練。けれど、だからといって今の状態から抜け出せないというわけではありません。自分(妻)が置かれている状況にフォーカスし、そこから対応策を導き出すことはできるのです。

怖い夫の対応策と妻自身への処方箋

夫のモラハラが妻に与えるダメージが「あ~、またご機嫌斜めだな。しばらく放っておこう」と、流せるレベルのものであるのなら問題の根は深くないのかもしれません。心身に支障を来す前に、自分の安全を確保する時間や活動をスタートさせましょう。

緊張が和らぐ心休まる時間を作ろう

恐怖を感じると、体の緊張につながります。「闘争・逃走反応」といって戦うか逃げるかという非常に過敏な状態で、体が自然とストレスに反応します。その自分の状態を、客観的にみることが大切です。極端な言い方をすると、怒鳴られても死ぬことはありません。「自分の生命に危険はない」と頭で理解し、心身の安定を進めていくように意識しましょう

おすすめは、呼吸で体の状態を落ち着かせるテクニック。ストレスが多い状況では呼吸が速く、そして浅くなります。呼吸は自律神経とも大きく関わり、呼吸をコントロールすることで、心身の状態を安定させていきます。自分の呼吸を意識してみると、呼吸が浅かったり吸い過ぎていることに気が付くはずです。心身をリラックスさせるためには副交感神経を優位にさせる必要がありますが、これは呼吸に連動します。まずは息をゆっくりと深く吐くことを意識してみてくださいね。

また、足の裏をしっかり地面に付け重心を安定させる「グラウンディング」という方法を同時に取り入れても良いでしょう。足が地面に付いているという感覚を持つことで体も心も安定します。

もちろん、お気に入りの音楽を聴いたりジョギングをしたり、好きなことに没頭し心が休まる感覚があるのであれば何でもOK。自分自身が落ち着いていられる技術を習得し、練習していきましょう。

怖い夫には対応せず、振り回されないことを意識して

もし“話し合いたい”という気持ちや“話し合える”状況であるなら、夫が冷静なときに話してみるという方法はあります。夫の機嫌が良いときに“機嫌が悪くなったらどうするか”を話し合っておいても良いでしょう。

もちろん、夫と対峙している最中にもできることはあります。怒っている夫と、わざと呼吸のタイミングを外すのです。怒りの渦中にいる夫は呼吸が浅くなっているので、自分は深くゆっくり呼吸することを意識します。そうすると、不思議と心理的な距離が取れるのです。

夫の怒りに振り回されてはいけません。夫の“問題”を、自分が解決しようとしないでください。これは、結局「私が我慢すれば大丈夫」という考えに結び付いてしまいます。夫の怒りが静まるまで放っておきましょう。

しかし、もし心身に支障を来すほどのダメージがあるのであれば一人で何とかできるというレベルではないかもしれません。

動悸がするほど夫が怖い…悩みが深刻なら迷わず相談を

例えば、次のような症状に当てはまるものはありませんか?

  • 不眠
  • イライラ
  • 動悸がする
  • 恐怖心や警戒心が強くなり、常に不安な気持ちがある
  • 意欲や関心の喪失といったうつ状態
  • 今まで楽しめていたことが楽しめなくなる
  • 記憶力・思考力・判断力の低下
  • 自己評価・自尊心の低下による対人関係への自信喪失

こういった症状を頻繁に自覚しているようであれば、すぐに相談することをおすすめします。

誰かに相談するというのは、悩みの程度が重ければ重いほどハードルが上がるものです。ママ友に気軽に話せる話題ではないし、自分の親など家族に話せば心配させることも気になるでしょう。だからこそ、地域の相談支援センターをはじめ専門の相談機関をもっと気軽に活用してほしいと思います。

第三者に相談するのは、決して恥ずかしいことではありません。話しづらいという気持ちはよく分かりますが、客観的に判断してもらうことで今置かれている自分の状況をしっかり認識することができますよ。

夫婦間のモラハラに対する相談機関としては、次の二つの機関があります。

  • DV相談ナビ
    全国共通の電話番号(#8008)から相談機関を案内するDV相談ナビサービス。発信地等の情報から最寄りの相談機関の窓口に電話が自動転送され直接、相談できる。
  • DV相談プラス
    電話・メールは24時間、チャットでは12時~22時まで相談が可能。直接支援や安全な居場所の提供も行う。

夫のモラハラを理由に離婚を考えるなら…

どこにも出口が見当たらない、これ以上一緒にいるのが無理だと感じている場合、離婚を考えることもあるでしょう。

先述したように夫のモラハラといった精神的暴力は、DVなどの肉体的な暴力や不貞行為のように外からはなかなか見えにくいという特徴があります。したがって、もし離婚を考えているのなら調停や裁判で認められる証拠を集めておくといいでしょう。

  • 可能なら、夫の暴言や発言を録音する
  • メールやSNSといったテキストで送られてきたものは保存しておく
  • 自分で記録する(例:〇年〇月〇日 夫に「死ね」と言われた)

モラハラ夫が子どもに与える影響も心配…

ソクたま読者のように子育て中の夫婦であった場合、子どもへの影響も妻の気掛かりでしょう。

「夫のようになってほしくない」という気持ちから、「お父さんみたいになっちゃいけないよ」と言いたくなることもあるかもしれません。しかし、父親のことを下げる発言は、子どもへの悪影響が否定できません。

親ができることというのは、子どもが安心できる環境を作るということに尽きます。それを100%できている家庭というのはなかなかないと思いますが、どう守っていくかという観点で、子どもと接していきましょう。

いま悩んでいる渦中にいるのであれば、それは本当に辛い状況でしょう。

だからこそ意識的に心を休ませ、一人で悩まず相談してください。自分の置かれている状況を知り、コントロールできるようになると今よりずっと生きやすくなるはずですから。

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