「親の介護が必要になってきた」「一人暮らしが心配」という理由から、親との同居を考え始める方も多いでしょう。しかし同時に「これから一緒に暮らして大丈夫だろうか」「ストレスがたまってしまわないか」と不安に感じる方も多いものです。
この記事では、高齢の親との同居によくある悩みやストレスを軽減するための対策、実際の体験談などをご紹介します。同居生活を円滑に進めるための手がかりを見つけてみてください。
高齢の親と同居するメリットとデメリットって?
親との同居を考える際、感情だけで決めると後悔する場合があります。双方にとってのよい点と課題点を整理しておきましょう。
高齢の親と同居するメリット

メリット①:親の健康状態の変化にすぐ気づける
親の体調の変化や異変にいち早く気づきやすいのは、同居の大きなメリットです。とくに高齢になると、急な体調不良や転倒などのリスクが高まります。離れて暮らしていると「数日前から調子が悪かったのに気づかなかった」ということも起こりがちですが、同居ならその日の表情や行動から変化に気づきやすいでしょう。
また、服薬管理や食事の状況なども日常的に確認できるため、健康管理の面でも安心感があります。「最近あまり食べていないようだ」「薬を飲み忘れている」といった小さな変化も見逃さずに済むため、親にとっても安心感は大きいでしょう。
メリット②:経済的な負担の軽減
光熱費や家賃などの生活費を親と折半できる場合は、節約がしやすくなります。「外食の機会が減って食費の節約につながっている」と話す方も少なくありません。
また、親の家や自宅を活用することで新たに住居費がかからないケースも多くみられます。リフォームなどの初期費用はかかる場合はありますが、長期的に見れば経済的なメリットは大きいでしょう。親子双方の資産や収入を合わせ、より安定した生活を送りやすいのもメリットの一つです。
メリット③:家族の絆を深められる
高齢になると、どうしても孤独感を抱きやすくなります。しかし、家族と一緒に暮らすと自然と会話や交流の機会が増えるため、生きがいを感じられる方も少なくありません。
また、親と同居すると、家事や育児を分担し合えます。お互いの負担を軽減しながら親子で一緒に食事をしたりテレビを見たりする何気ない日常が、お互いの心の支えになる場合もあるのです。
高齢の親と同居するデメリット

高齢の親との同居ではメリットが多い一方で、さまざまな課題が生じるケースもあります。デメリットも事前に認識して、対策を考えておきましょう。
デメリット①:生活習慣やプライバシーの違いによる摩擦
長年別々に暮らしてきた親子が同居を始めると、生活習慣の違いが表面化します。起床・就寝時間や食事の好み、掃除や整理整頓の基準、テレビの音量など、日常の小さな違いはどうしても避けて通れません。
また、それぞれのプライバシーが保ちにくくなる点も課題です。友人を家に招きづらくなったり、自分の時間が取りにくくなったりするケースも少なくないでしょう。特に夫婦と親が同居する場合は、夫婦の時間や空間が制限されることで、新たな家族関係の調整が必要になる場合もあります。
デメリット②:介護負担の増加とストレス
親の健康状態の日常的なサポートを始め、身体介護や認知症のケアなど、専門的な対応が必要になる場合もあるでしょう。特に働きながら介護をするケースでは、身体的・精神的な負担が大きくなります。
また「同居しているから全て面倒を見るべき」という周囲からのプレッシャーや責任感から、無理をしてしまうケースもあります。
デメリット③:家族関係の複雑化
親と配偶者と折り合いが悪かったり子どもの教育方針について意見が分かれたりする場合、家庭内が常に緊張した状態となりがちです。また、兄弟姉妹間で「同居している方が親の面倒を見るべき」という認識の違いから、関係が悪化するケースもあります。
さらに、親の依存度が高まると、子どもの自立や自由が制限される場合もあるでしょう。「親のために」と考えて我慢を重ね、徐々に不満が蓄積していくことも少なくありません。
高齢の親との同居でよくある悩みやストレスになる原因

親との同居生活で悩みやストレスが生じやすいのは、そもそも何が原因なのでしょうか。同居生活を快適にするための手段を見つけるために、主な項目を把握しておきましょう。
原因①:世代間の価値観の違い
世代が異なる親子の間で、価値観やコミュニケーションの形に違いがあるのは自然なことです。例えば、親世代は「我慢や忍耐が美徳」と考える傾向がある一方、子世代は「自己主張や話し合いによる解決」を重視する場合が多いでしょう。
また「昔はこうだった」という親の発言に対して、反発や苛立ちを感じるシーンも少なくありません。こうしたコミュニケーションギャップは、積み重なるうちにストレスの原因となります。
原因②:役割と責任の不明確さ
「親は家にいるから家事をするべき」と子世代が考える一方、親は「もう引退したから休みたい」と思うなど、お互いの期待にズレが生じる場合があります。また、子世代に兄弟姉妹がいる場合でも「同居している子どもが全ての世話をするべき」という周囲の期待や自分自身の責任感から、負担が一人に集中しがちです。
協力体制が整っていない状態では、不公平感が募って、家族関係の悪化につながることもあるでしょう。明確なルールや役割分担がないまま同居を始めると、将来的なストレスの種になります。
原因③:お互いに理解や尊敬の気持ちを出せない
親は子どもを「まだ子ども扱い」し、過干渉になる場合があります。一方、子どもは親の老いを受け入れられず、親の自己決定権を尊重しないケースもあるでしょう。
また、判断力の低下や性格の変化など、親の加齢による変化を理解せず、以前と同じ対応を求めることもストレスにつながります。認知機能の低下や身体機能の衰えは、自然な加齢現象です。しかし「わざとやっている」「怠けている」と誤解してしまう場合があります。
上記のように、お互いの状況や気持ちを理解し合う努力が不足していると、同居生活は双方にとって苦痛になりがちです。
同居後、いい関係で暮らすために知っておきたいポイント
「親との同居にストレスを感じやすい理由は理解できたけれど、やっぱりできるだけ穏やかな状態で一緒に暮らしたい…」
このように考えている場合、高齢の親との同居を始める前に円滑な関係を築くための心構えや準備について考えておくことが大切です。お互いが快適に過ごすためのポイントを以下にご紹介します。
ポイント1. 「心理的な距離感」を大切にする

「一つ屋根の下」だからといって、常に一緒にいる必要はありません。例えば、家の中でも「ここは親の空間」「ここは子世代の空間」と明確に分け、お互いの領域を侵さないようにしましょう。
また、食事や団らんの時間は一緒に過ごし、その他の時間は各自の生活を尊重するといった工夫も効果的です。同居していても「適度な距離感」を意識すると、関係性を良好に保ちやすくなります。
ポイント2. 事前の話し合いと定期的な見直し
家事分担や経済的負担、介護が必要になったときの対応など、具体的な事項について同居を始める前に話し合いをしておきましょう。また、同居を始めてからも定期的にお互いの不満や要望を率直に話し合う場を設けるのが大切です。
親子でも、言葉にしないと分からないことは多くあります。「言わなくても分かるはず」との思い込みは避け、丁寧なコミュニケーションを心がけましょう。
ポイント3. 親の自立と尊厳を尊重する

高齢になった親が「一人の大人」として尊厳を持って生活できるための配慮は大切です。できることは自分でしてもらい、必要な場合のみサポートするという姿勢を持てるとよいでしょう。過度な干渉や世話は、かえって親の自立心を損なう場合があります。
また、たとえ親の認知機能が低下していても、できる範囲で選択する機会を提供してみましょう。「親のため」と思って全てを決めてしまうのではなく、親自身の意向を大切にする姿勢が良好な関係を構築する基盤になります。
同居でストレスをためないためにできる対策や接し方
高齢の親との同居生活でストレスを軽減するためには、日常的な工夫や心のもち方が重要です。ここからは、同居の悩みを軽減するための具体的な対策をご紹介します。
自分自身の時間とケアを大切にする

親との同居生活では、つい親のニーズを優先してしまいがちですが、自分自身の心身の健康も同じくらい重要といえます。定期的に自分だけの時間を持ち、趣味や友人との交流など、リフレッシュする機会を意識的に作るのがおすすめです。
例えば以下のようなことが挙げられます。
- 週に一度は自分の好きなことをする日を設ける
- 短時間でも毎日の「自分時間」を確保する
- 無理のない範囲で家を離れる機会を作る など
自分を大切にすることは「わがまま」ではありません。「親をサポートするために必要なセルフケア」と認識しましょう。
第三者のサポートを積極的に活用する

親との同居の負担は、家族だけで抱え込む必要はありません。ストレス軽減のためにも、必要に応じて支援を活用するようにしましょう。
例えば以下のようなことが挙げられます。
- 介護保険サービス
- レスパイトケア
- 地域の見守りサービス
- 自分の兄弟姉妹や親族、親の友人などの協力を得る など
同居の負担を家族だけで抱え込まない姿勢は、親の社会的なつながりの維持にもなります。「すべて自分でやらなければ」という思い込みを手放し、上手に周囲の力を借りていきましょう。
自分と親の変化を受け入れる柔軟さを持つ
「以前できていたことができなくなった」「性格が変わった」。親のそのような姿は、すぐに受け入れられるものではないかもしれません。
しかし、これは自然な加齢現象の一部です。少しずつ「仕方ない」と思える余裕を持てると、ストレスを避けられます。
同じように、自分自身が感じるイライラや疲れ、親に対するネガティブな感情も、無理に抑え込まず「自然な感情」として認める姿勢が大切です。完璧を求めず「いまできる最善」を心がけると、精神的な余裕が生まれやすくなります。
高齢の親との同居の事例

親との同居は、家族それぞれの状況によって異なる課題があります。しかし、前述したとおり、工夫次第で良好な関係を築きやすいものです。ここでは、実際に高齢の親との同居を経験した方々の事例から、ストレスを乗り越えるヒントをみていきましょう。
事例1. 過干渉の母親との同居(Aさんの事例)
60代の母親と同居を始めた40代のAさんは、子育てや家事への頻繁な口出しに悩んでいました。
試してみたこと | 得られた結果 |
Aさんは母親と率直に話し合い「アドバイスは感謝するが、最終決定は夫婦に任せてほしい」と伝えた。また、家の中でお互いの領域を明確に分け、母親には週1回の友人との「お出かけデー」を設けた。 | お互いに適切な距離感が生まれ、関係が改善した |
事例2. 身体機能が低下した父親との同居(Bさんの事例)
70代の父親と同居する50代のBさんは「やってあげた方が早い」と父親の日常動作を手伝いすぎ、依存関係に悩んでいました。
試してみたこと | 得られた結果 |
介護専門家のアドバイスを受け、父親の「できること」と「支援が必要なこと」をリスト化。できることは見守るだけにし、デイサービスも利用しながら、父親の自立心と社会的つながりを促進した。 | Bさん自身も時間的余裕が生まれ、お互いの関係が良好になった |
2つの事例の成功の共通点
AさんとBさん、どちらの事例も「お互いの尊厳と自立を尊重する」「適切な距離感を保つ」「社会とのつながりを維持する」という対応が成功のカギとなっています。同居の課題は、誰にでも起こりうるものです。しかし、コミュニケーションと工夫によって乗り越えやすくなります。
高齢の親との同居ストレスがつらいときにできること
「対策をしてもストレスを感じてしまったらどうすればいい?」「すでに親と同居していてストレスが辛い」
そのように感じながら記事を読んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここからは「工夫したものの同居生活でどうしてもストレスを感じる…」という場合に役立つ対処法をご紹介します。
同じ立場の人との交流やサポートグループを活用する

地域の介護者サポートグループやオンラインのコミュニティなど、同じような状況にある人々との交流の場を見つけてみましょう。高齢の親と同居している人同士で悩みを共有したりアドバイスを交換したりすることは、大きな心の支えになります。
「自分だけが苦しんでいる」と思うと、どうしても孤独感が強まりますよね。しかし、同じ悩みを持つ人と出会うと「これは自然な感情なんだ」と安心できます。
また、介護を経験した方から具体的な対処法を学べるかもしれません。専門家による家族介護者向けのセミナーや講座も、知識やスキルを身につけるよい機会になります。
行き来しやすい場所に暮らす
同居のストレスが限界に近づいている場合、完全な同居から「近居」へ移行することも一つの選択肢です。「日中は自分の生活を送り、夕食は一緒に食べる」「定期的に顔を見に行く」ということがしやすい距離に住めば、緊急時にもすぐに駆けつけられます。
「一緒に住んでいないから」という心理的な負担感も軽減できるため、関係性の改善につながることも少なくありません。親子がそれぞれの生活リズムを尊重しながら、良好な関係を築ける環境といえるでしょう。
見守りサービスを活用する

高齢者の見守りサービスも充実してきています。センサーや通信機器を使った見守りシステム、緊急通報サービス、GPSを搭載した見守り端末などを活用すれば、同居をしていなくても親の安全を確認可能です。
また、配食サービスや訪問サービスなど、自治体や民間企業が提供する見守りサービスを利用すれば、第三者の目で親の状況を確認してもらえます。子どもの心理的負担が軽減されるだけではなく、親にとっても多様な人間関係を維持できる方法です。
親と良好な関係を築くには「溜め込まないこと」

同居生活で最も大切なのは「完璧を求めない」ということです。親子関係に理想的な形はありません。それぞれの家族に合った関わり方があります。
まずは親とじっくり話をして、生活のきまりごとを決めてみましょう。お互いの考え方や習慣の違いを受け入れて、相手の領域に踏み込みすぎない姿勢が大切です。
もしも心が疲れてきたら、信頼できる人に気持ちを打ち明けたり、市役所や民間会社が提供している手助けを利用したりする方法もあります。自分だけで抱え込まずに、支援を頼ってみてください。
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