大人のASD(自閉スペクトラム症)の特徴とは?仕事や生活を円滑にする工夫

最近、「自分はどこか周りの人と違う気がする」と思い悩んでいませんか?同僚や友人、家族とうまくコミュニケーションが取れなかったり、輪に入れなかったり、急な仕事が入ると思うように処理できずミスをしてしまったりする。ネットで調べて自閉スペクトラム症の症状がよく当てはまるように感じるが、どこに相談に行ったら良いか分からない。

本記事は、そんな人に向けて大人向けに自閉スペクトラム症について解説しています。自閉スペクトラム症とは何なのか、その特徴や対処法、相談機関へのつながり方についてまとめていますので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

執筆者

あーちゃんさん

公認心理師、臨床心理士。指定大学院を卒業後、街のクリニックで非常勤心理士としてカウンセリングや心理検査の業務に従事する。その後、小学校や高校のスクールカウンセラー、公的機関の電話相談員、Webライターとしても活動中。

目次

自閉スペクトラム症(ASD)とは

アメリカ精神医学会が発行している『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM-5)』において、2013年よりアスペルガー症候群は自閉スペクトラム症(ASD)に含まれています。

自閉スペクトラム症とは、場の空気を読むことが苦手、言葉や身振り手振り、相手の表情から気持ちや考えを汲み取ることが苦手、特定の物事に強い関心がある、こだわりなどの特徴を持つ発達障害の1種です。

自閉スペクトラム症は大人になって発症するものではなく、生まれつきの特性です。しかし、中には子どもの頃には特性が目立たず、大人になってから判明する人もいます。

100人に1人の割合で、男性は女性の4倍ほど自閉スペクトラム症の人がいるといわれています。

※参照元:厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について」

大人になってからASDと判明する理由とは?

典型的な自閉スペクトラム症の人は幼少期から学童期、青年期にかけて特性が判明する人が多いです。しかし、知的に問題なく学校生活といった秩序だった環境では特性が目立たず、社会人になってから徐々に困り感が増してくるケースもあります。

下記のような場合は、大人になってから自閉スペクトラム症が判明することもあります。

知的な発達の遅れがない人もいる

自閉スペクトラム症の下位分類として、知的な発達の遅れを伴うものは「自閉症」、知的な発達の遅れはないが言葉の発達の遅れを伴うものを「高機能自閉症」、知的・言葉の発達の遅れはみられないがコミュニケーションに困難さを示すものを「アスペルガー症候群」と呼んでいます。

知的な発達の遅れがない場合、学校では平均~平均以上に勉強ができるため、自閉スペクトラム症と判明するまで時間がかかることがあります。

管理職となり感情を汲む力が求められる

40~50代は管理職に昇進し、部下やチームを取りまとめる立場となる人が少なくない時期です。それまではシングルタスクで自分の仕事のみ集中して成果を出していれば良かったものが、そうはいかなくなります。

部下の気持ちを読み取り、個性を把握した上で指導をするといった能力が求められるため、管理職となり部下の育成につまずくことで自身の特性に気づく人は少なくないでしょう。

女性はASDと気づかれにくい

女性の自閉スペクトラム症は、男性と比較して気づかれにくいといわれています。その理由として、従来の診断基準が男性の自閉スペクトラム症をモデルとしていることが上げられます。

女性の自閉スペクトラム症は、男性と比べて過剰適応を示しやすくコミュニケーションの困難さが目立ちません。しかし、過剰適応の反動で社交不安症やパニック障害などの2次障害を示しやすい特徴を持ちます。

大人のASDの特徴

大人の自閉スペクトラム症の特徴は下記の通りです。ポイントは、大人になってから特徴が現われる訳ではなく、幼少期から特徴的なエピソードがあるという点です。

同じ自閉スペクトラム症の人でも、人それぞれ個性がありその特徴はさまざまです。それでも、一般に特定の分野に強い関心を持ち追求ができたり、相手の気持ちや意図を想像するのが苦手であったり、女性らしい振る舞いに違和感を覚えたりするなどの特徴がみられることが多いです。

特定の分野に強い関心を持ち追求できる

自閉スペクトラム症の人は、幼少期から特定の物事や規則、ルールに強いこだわりを示す人が多いです。自分の興味関心を追求することは長けている一方で、興味のない物事には無関心な特徴を持ちます。また、自分なりのやり方やルールを維持したい気持ちも強く持っています。

例えば、子どもの頃は電車や昆虫、恐竜、地図、記号などの特定の物事に強い関心を持ち、「◯◯博士」などと呼ばれた経験を持つ人は多いでしょう。

相手の気持ちや意図を想像するのが苦手

自閉スペクトラム症の人は人に対する興味関心が薄く、他人と関わる際のコミュニケーションスタイルが独特な特徴を持ちます。例えば、事実や理屈を理解して行動することは得意ですが、相手の気持ちや意図を理解して振る舞うことは苦手です。

事務的な会話のみであればトラブルには発展しにくいですが、空気が読めず一方的に話をしてしまったり、逆に受け身になってしまったりして「空気が読めない人」と思われやすいです。

女性らしい振る舞いに違和感を覚える

性別違和とは、出生時に割り当てられた性別(体の性別)と、自認する性別(ジェンダーアイデンティティ)が一致していない状態をいいます。性別違和は、自閉スペクトラム症との併存が多いことが知られています。

例えば、ASDの女性であれば、幼少期から女の子の輪に混ざるよりも、男の子と一緒に遊ぶ方が好きだったという人は多いです。髪を長く整えスカートを履くよりも、ショートヘアでまとめ着心地の良い服装でいることを好みます。

※参照元:性別違和(一般社団法人 小児心身医学会)

大人のASDの困りごとの例

大人のASDの困りごととしては、興味のない物事をこなすことが苦痛、孤立やストレスを感じやすい、女性のグループの輪に入るのが苦手などが上げられます。

大人になる程、円滑なコミュニケーション力が求められる機会が増えるため、コミュニケーションの苦手さやこだわりからくる困りごとが多くみられます。

興味のない物事をこなすことが苦痛

自分の興味のあることには我を忘れて熱中する一方で、興味のない物事に対してはとことん手をつけられないことがあります。人に対する関心が薄くなりやすいため、接客業や営業職のような人と向き合う仕事は苦手です。

また、マルチタスクや機転を効かせなければいけない仕事も苦手としています。苦手=関心を持ちにくいため、総務職や一般事務とは距離を置く可能性が高いでしょう。

孤立やストレスを感じやすい

職場や家庭、地域のコミュニティなど、生活をすればどんな場面においても人間関係がつきまといます。自閉スペクトラム症の人は、そもそも人と親密な関係を築くことを苦手とします。暗黙の了解が分からず、疎外感を覚えることもあるでしょう。

そのため、何か困ったことがあった際にも周囲の人を頼ることができず、孤立感やストレスを抱えやすい傾向がみられます。

女性のグループの輪に入るのが苦手

コミュニケーションが苦手でも知的発達に遅れのない自閉スペクトラム症の女性は、自分の特性をカモフラージュして一見、場の空気に適応することが得意である特徴を持ちます。しかし、問題がないように見えても周囲に合わせようと無理をしているケースが少なくありません。

特に、思春期以降は女性の対人関係は複雑化するため、これまで通りに適応することが難しくなってきて、うつ病や社交不安症などの2次障害を発症する人は多いです。

※参照元:「思春期女子の学校生活」(国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター)

ASDの人が過ごしやすくなるための工夫とは?

自閉スペクトラム症の人が過ごしやすくなるための工夫は以下の通りです。

病院で知能検査を受け自分の凹凸を知る

医療機関では、WAIS-4という知能検査をはじめとするさまざまな心理検査を受けることができます。この検査を行うからといって診断ができるようになるわけではないです。

しかし、自分の得意・不得意の凸凹を把握する良い機会になります。得手不得手が分かれば、自分の得意なものが活かせる環境を選ぶことができ、苦手なものを得意なものでカバーすることも可能になるためです。

本からコミュニケーションスキルを学ぶ

昨今は、自閉スペクトラム症の人がコミュニケーションスキルを身につけるためのライフハック本が多数出版されています。精神科医や就労移行支援に携わる専門職が執筆しているものもあり、実践的に学ぶことが可能です。

例えば「適切な距離感が分からない」という悩みがあるなら、パーソナルスペースの概念を学びます。上記のような本では「会社で空席に座るなら、なるべく周りに人がいない席へ座ること」などかなり具体的に行動を提示してくれます。

※参照元:『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』(對馬 陽一郎 著・林 寧哲 監修・安尾 真美 著・翔泳社)

安心して過ごせる居場所を確保する

会社やプライベートでは大人数の中に溶け込もうとせず、少人数で趣味や価値観の合う人たちと一緒にいる方が気持ちが楽だと感じる人が多いです。自分らしく安心して過ごせる居場所を確保しましょう。

対面のコミュニケーションが苦手であれば、SNSを利用して趣味のコミュニティに参加するのも良い方法です。マニアックなオタク気質の人とは大抵、気が合います。オフ会などは積極的に活用しましょう。

※参照元: 『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(借金玉 著・KADOKAWA)

ASDの診断基準と治療

なお、自閉スペクトラム症の診断基準は以下の通りです。

診断基準

以下のA~Dが当てはまる場合は、自閉スペクトラム症の診断基準を満たしているといえます。

A:①〜③の社会的コミュニケーション及び相互関係における持続的障害がある                 ①社会的・情緒的な相互関係の障害。
②他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害。
③年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。

B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)               ①常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。
②同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、
 言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
③集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。
④感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。

C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。

D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。

※参照元:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引

治療方法

自閉スペクトラム症の主な治療方法は個人の特性の理解や環境調整です。しかし、睡眠障害や気分の落ち込み、イライラ、パニックなど、2次的な問題行動が出現しており社会生活に支障をきたしている場合は薬物療法が検討されます。
薬物療法は特定の症状を和らげるためのもので、根治するものではないという点に注意が必要です。また、副作用も少なからずあるため、主治医の判断に従って服用する必要があります。

ASDの併存症と2次障害について

自閉スペクトラム症の人のうち70%は1つ、40%の人が2つ以上の精神疾患を持っているといわれています。

精神疾患の中でもADHD(注意欠陥多動症)、学習障害(LD)、発達運動協調症(DCD)、うつ病、不安症が併発しやすいです。その他、身体疾患ではてんかんや睡眠障害も2次障害として罹患しやすい疾患です。

ASDかもと思ったときの相談先

自閉スペクトラム症かもしれないと思った際の相談先は下記の通りです。

もし、自分で調べてみたがどの相談先に行けば良いか分からないという場合は、地域の精神保健福祉センターや発達障害者支援センターを最初の窓口とすることをおすすめします。その他、発達障害ナビポータルで最寄りの相談先を検索をしてみても良いでしょう。

精神科や心療内科を受診する

自閉スペクトラム症の中心的な症状であるこだわりやコミュニケーションの苦手さは、生まれつきの特性のためお薬で治すことは難しいものです。しかし、対人関係のつまずきにより不眠や気分の落ち込みがひどい場合は、服薬治療が有効な場合もあります。

お薬と併用してカウンセリングやソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けることで、自分の気持ちを表現できるようにしたり、コミュニケーションスキルを高めたりすることも可能です。

発達障害者支援センターを利用する

発達障害者支援センターは、自閉スペクトラム症を含む発達障害の当事者とその家族が、安心した暮らしを送れるように総合的な支援を行う地域の拠点です。

「発達障害かもしれない」と思うがどこに相談に行ったら良いか分からない場合は、まず発達障害者支援センターに相談してみることをおすすめします。医療機関を含む地域の相談できる機関を紹介してもらうことも可能です。

発達障害ナビポータルを活用する

発達障害ナビポータルは、厚労省と文科省の協力のもと、国立障害者リハビリセンターと国立特別支援教育総合研究所が共同で運営する発達障害に関する情報に特化したポータルサイトです。

女性の発達障害に関する気づきと対応や、医療機関の受診の仕方、診断・服薬治療についての情報が分かりやすくまとめられています。医療機関を受診する際に準備した方が良いものも具体的にまとめられていますので、ぜひ参考にしてみてください。

※参照元:発達障害ナビポータル(厚生労働省 文部科学省)

オンラインカウンセリングで相談する

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まとめ

いかがでしたでしょうか。自閉スペクトラム症とは、場の空気を読むことが苦手、言葉や身振り手振り、相手の表情から気持ちや考えを汲み取ることが苦手、特定の物事に強い関心がある、こだわりなどの特徴を持つ発達障害の1種です。

主に対人面において相手の気持ちや意図を想像することが苦手であったり、得意なものと苦手なものがはっきりしており、苦手なものや興味のないこととは距離を置きやすいなどの特徴を持ちます。

もし、上記のような特徴が自分にもあるように感じて思い悩んでいる場合は、発達障害者支援センターや精神科・心療内科など、地域の相談拠点を頼ってみてくださいね。

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