「時間を逆算するのが苦手で、いつも遅刻してしまう」「遅刻するたびに『もう次こそは!』と思うのに、また繰り返してしまう」「時間に間に合わないせいで、仕事や人間関係に悪影響が出ている」「遅刻が多いのはADHDのせい?対策はある?」このような悩みを抱えていませんか?
ADHDは発達障害の一つで、時間管理が苦手で遅刻しやすいという特徴がみられます。遅刻をする=ADHDというわけではありませんが、ADHDの遅刻対策は、ADHDではない人にも有効です。
この記事では、ADHDの特徴や遅刻癖との関係性を整理しながら、よくある遅刻のパターンや、その対策について具体的にご紹介します。ぜひ最後まで読んで、生活に役立ててみてください。
関連記事はこちら➡大人のADHDとは?特徴や困りごとの具体例、仕事や日常生活での対処方法

臨床心理士・公認心理師
あらいひさきさん
大学院修了後、「心穏やかに過ごせるように」という信念のもと企業にて研究員としてメンタルヘルスサービスの開発に携わる。認知行動療法を専門とし、精神科での心理相談にも従事する。うつや不安、職場でのメンタルヘルスや発達障害、不登校など幅広いケースのカウンセリングを担当。
ADHDの種類と特徴とは?

ADHD(注意欠如・多動症)は、発達障害の一つです。発達障害とは、生まれつき脳の機能に偏りがあり、それが原因で日常生活に困難を感じている状態を指します。なおADHDの主な特徴は以下の3つです。
不注意:気が散りやすく、集中力が続かない
多動性:じっとしていられず、落ち着きがない
衝動性:我慢することが苦手で、衝動的に行動してしまう
これらの特徴のあらわれ方には個人差があり、以下のように分類されることもあります。
①不注意優勢型
特に不注意の傾向が強く、ミスが多かったり、物忘れが頻繁だったりするタイプです。
②多動性・衝動性優勢型
落ち着きがなく、思いついたことをすぐに行動に移してしまうなど、多動性や衝動性が目立つタイプです。
③混合型
不注意、多動性・衝動性が混在しているタイプです。
遅刻してしまうのはADHDの特性なのか

ADHDが遅刻の原因である場合もあれば、他の要因が関係している場合もあります。
例えば、慢性的に疲れていたりストレスがかかっている人はケアレスミスが増えたり、発達障害に似た特徴があらわれることがあります。
また、ADHDの診断がつくほどではなくても、その特性を一部持っている人は多くいます。特性の強さは0か100ではなく、幅の広いグラデーションになっていて、「うっかりミスをしたことが一度もない」という人がいないのと同じように、ADHDでみられる特性も誰もが少しは持っています。ただ、その傾向が特に強く、日常生活に支障をきたす場合にADHDと診断されるのです。
ADHDである場合もそうでない場合も、まずは自分の遅刻のパターンを把握して対策を取ることが大切です。
ADHDの人によくある遅刻のパターンとは?
ADHDの傾向がある人には、いくつかの共通する遅刻のパターンがあります。
① 想定よりも準備に時間がかかってしまう

時間管理が苦手なため、「10分で終わる」と思っていた準備が、実際には30分かかってしまうことがあります。
② 目の前のやりたいことに熱中してしまう
「あと少しだけ…」と仕事や趣味などの目の前のことに熱中してしまい、予定の時間を過ぎてしまうことがあります。また、衝動性が高いため、目に入ったものに興味を引かれて予定外のことを始めてしまうことも少なくありません。
③ 電車の乗り換えや待ち合わせ場所を間違えてしまう

不注意からケアレスミスが多く、乗り換えを間違えたり、待ち合わせ場所を勘違いしたりすることがあります。また、電車の中でスマホや本に夢中になり、降りる駅を通り過ぎてしまうというのもよくみられるパターンです。
④ 約束の時間を勘違いしてしまう

スケジュールの管理が苦手だったり確認が漏れていて、約束の時間や日にちを勘違いしていたりすることがあります。
⑤ 寝坊してしまう

好きなことに夢中になって時間を忘れたり、入浴や片付けなどを後回しにしたりと、過集中や先延ばしの影響で気づけば深夜に。結果として朝起きるのがつらくなり、寝坊につながることがあります。
ADHDの人が遅刻しないためにできる対策や工夫とは?
ADHDの特性を持つ人は、時間の見積もりが苦手だったり、気が散りやすかったりして、予定どおりに動くのが難しいことがあります。しかし、ちょっとした工夫で遅刻のリスクを減らすことができます。ここでは、具体的な対策を紹介します。
①準備にかかる時間を正しく把握する
「準備は10分でできると思っていたのに、気づけば30分…」こうした時間のズレが遅刻の原因になることは少なくありません。遅刻を防ぐには、準備にどれくらい時間がかかるのかを正しく把握することが大切です。
実際の所要時間を計測してみる

ADHDの特性を持つ人は、タスクの所要時間を正確に見積もるのが苦手なことが多いです。そのため、まずは準備にかかる時間を記録し、可視化することから始めてみましょう。
・朝の準備リストを作る(起きてから出かけるまでのタスクを書き出す)
・それぞれのタスクに「想定時間」を書き入れる
・ストップウォッチで計測をしながら実際に準備をしてみて「実際にかかった時間」を記録
・全体の準備時間を計算し、10〜15分の予備時間を確保する
具体例:朝の準備リスト
タスク | 想定時間 | 実際にかかった時間 |
ベッドから起きる | 3分 | 5分 |
洗顔・歯磨き | 5分 | 7分 |
着替え | 5分 | 10分 |
朝食 | 15分 | 25分 |
SNSのチェック | 10分 | 20分 |
荷物の確認 | 5分 | 8分 |
予備時間(ご褒美タイム) | - | 15分 |
こうして記録を取ることで、「思ったより準備に時間がかかる」と気づくことができ、時間管理のスキルが高まります。
また、あらかじめスケジュールには10~15分程度の予備時間を設けるのがおすすめです。予備時間は「ご褒美タイム」として自分の好きなことをする時間と考えましょう。
「余裕を持った準備ができると楽しい時間が増える」と思えると、遅刻対策も前向きに取り組みやすくなるはずです。
②準備のルーティン化&タイマーの活用

準備にかかる時間が把握できたら、次は準備の順番を決めて毎日同じ流れで行うことを意識しましょう。ルーティンを作ることで、「次に何をするか考える時間」が減り、スムーズに準備できるようになります。
「ついスマホを触ってしまい、気づけば時間が…」というような時は、タイマーを使って各タスクの時間を管理するのがおすすめです。
例えば、先ほど作成したリストの「実際にかかった時間」を参考にして次のようにタイマーをセットしてみましょう。
- 洗顔・歯磨き → 7分
- 着替え → 10分
- 朝食 → 25分
- SNS → 20分
- 荷物確認 → 8分
こうすることで、それぞれの工程でのんびりし過ぎたり、別のことに気が散ってしまうことを防げます。
スマホアプリには、タスクごとにタイマー時間を設定できるものもあるので、自分に合ったものを探してみましょう。「決められた時間で終わらせる」という意識がつくと、準備が一気にスムーズになりますよ。
③前日に翌日のスケジュールを確認する

前日のうちに翌日のスケジュールを確認しておくことで、余裕をもって行動しやすくなります。確認するときに抑えておきたい内容は次の4つです。
確認チェックリスト
- 待ち合わせの時間と場所(何時にどこに行けばいいのか?)
- 移動にかかる時間(乗り換えはある? 電車の本数は?)
- 家を出る時間(間に合うためには何時に出発すべき?)
- 起きる時間(準備時間を考えて、何時に起きるべき?)
前日のうちにスマホのメモやカレンダーに予定を入れたり、家を出る時間を目に見える場所に書いておくと、より効果的です。
④モーニングコールやリマインドを周りの人に頼む

「アラームをたくさんかけても寝坊してしまう」「努力して気をつけているのに遅刻してしまう…」という場合は、次のように周りの人に協力をお願いするのも一つの方法です。
- 家族や友人にモーニングコールを頼む
- リマインドを送ってもらう(「あと30分で出発だよ!」とメッセージや電話で声をかけてもらう)
ADHDの特性を持つ人は、「自分だけで何とかしなきゃ」と頑張りすぎてしまうことがあります。しかし、周囲の力を借りるのは悪いことではありません。「困ったときは頼ってもいい」と考え、無理せず助けを求める習慣をつけましょう。
発達障害をもつ人が仕事や生活について相談できる場所とは?
ADHDや発達障害による困りごとは、一人で抱え込まずに以下のような専門機関に相談することも大切です。
① 発達障害者支援センター

発達障害に関する総合的な支援を提供する公的機関です。全国の都道府県や指定都市に設置されており、以下のようなサポートを受けることができます。
・発達障害に関する相談対応(生活・仕事・学校の悩みなど)
・情報提供やアドバイス(適切な支援制度の紹介など)
・必要に応じた医療・福祉機関との連携サポート
② 障害者就業・生活支援センター
発達障害のある人が、働くことや日常生活で直面する課題をサポートする公的機関です。仕事を探している人だけでなく、すでに働いている人の職場定着支援も行っています。主な支援内容は以下のとおりです。
・就職活動の支援(求人探し、履歴書作成、面接対策など)
・職場での困りごとへの対応(仕事の進め方やミスの対策、職場との調整など)
・生活リズムや働き方のアドバイス(時間管理のコツ、生活習慣の改善など)
③ 医療機関やカウンセリング機関

「日常生活に大きな支障が出ていてつらい…」「自己流の対策ではなかなか改善しない…」このような場合は、心療内科や精神科といった医療機関やカウンセリング機関を利用するのも一つの方法です。
医療機関で受けられるケア
・必要に応じた薬物療法
・認知行動療法などの心理療法による行動改善サポート
カウンセリング機関で受けられるケア
・カウンセリングで自己理解を深め、対処法を学ぶ
・認知行動療法などの心理療法による行動改善のサポート
「専門機関に行くのはハードルが高い…」と感じられる場合には、オンラインカウンセリングもおすすめです。
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まとめ

この記事では、いつも遅刻してしまうADHD傾向のある人が遅刻を防ぐための対策について解説しました。
ADHDとは、発達障害の一つで、不注意、多動性、衝動性が特徴として挙げられます。その特徴のあらわれ方には個人差があり、以下の3つの種類に分類することができます。
①不注意優勢型
②多動性・衝動性優勢型
③混合型
ADHDの人によくある遅刻のパターンは以下の5つです。
①想定よりも準備に時間がかかってしまう
②目の前のやりたいことに熱中してしまう
③電車の乗り換えや待ち合わせ場所を間違えてしまう
④約束の時間を勘違いしてしまう
⑤寝坊してしまう
ADHDの人が遅刻しないためにできる対策として、以下の4つを紹介しました。
①準備にかかる時間を正しく把握する
②準備のルーティン化&タイマーの活用
③前日に翌日のスケジュールを確認する
④モーニングコールやリマインドを周りの人に頼む
発達障害をもつ人が仕事や生活について相談できる場所には以下の3つがあります。
①発達障害者支援センター
②障害者就業・生活支援センター
③医療機関やカウンセリング機関
ADHDの特性は一人ひとり異なるため、自分に合った方法を見つけることが大切です。すぐにすべてを改善するのは難しいかもしれませんが、「少しでも遅刻が減るように工夫する」ことを意識するだけでも、時間管理のスキルが向上します。また困ったときは一人で悩まず、積極的に周りのサポートを得るようにしてみてください。