すぐ泣いてしまうのをやめたい…涙が出る原因や今すぐできる対処法について解説

「ちょっと叱責されると勝手に涙がこぼれる」「泣きたくないのに泣いてしまう」など、すぐ泣いてしまうことに困っていませんか?

そこで今回はすぐ泣いてしまうのをやめたい人に知ってほしい、
・泣くことの意味やメリット
・すぐ泣いてしまう原因
・すぐ泣いてしまうことへの対処法
についてご紹介します。

執筆者

臨床心理士・公認心理師

佐藤セイさん

公認心理師・臨床心理士。現在、スクールカウンセラー(中学・高校)・非常勤講師(大学)として勤務しつつ、webライターやブックライターとしても活動中。カウンセラー・講師・ライターのどの立場であっても、受け取る人にとって、消化しやすい言葉や表現を選ぶことを心掛けています。

目次

泣くことにはどんな意味があるの?そのメリットとは

「叱られた」「感動した」「悲しい」など、心が動いて泣くとき、私たちの心や身体には様々なメリットがもたらされます。具体的には以下のようなものが挙げられます。

①ネガティブな気持ちを楽にする

泣くことには、ネガティブな気持ちを楽にしてくれる効果があります。
特に注目したいのが、「情動性の涙」というもの。これは悲しいときや感動したときに流れる涙のことです。例えば、感動する映画を見て出てくる涙などが「情動性の涙」です。ちなみに、玉ねぎを切ると涙が出ますが、これは「情動性の涙」ではありません。

この情動性の涙を流すと、ストレスが和らぎ、リラックスできることがわかっています。(※1、2)

さらに自分を受け入れてくれる人の前で泣く場合、
・ネガティブな現実を受け入れやすくなる
・意欲的な気持ちを抱ける

といった研究結果(※3)もあります。泣いている自分を受け入れてくれる人がいれば、泣くことはネガティブな気持ちをポジティブな気持ちへと切り替える助けにもなるのです。

②涙が身体の負担を和らげる

泣くことには、身体の痛みを和らげる効果もあります。

例えば、情動性の涙を流すと疲労感が軽減することを示す研究や、情動性の涙に含まれるオキシトシンが苦痛を鎮静化する効果を示す研究などが発表されています。また、涙が頬を伝うことでマッサージ効果が生まれ、苦痛を和らげるエンドルフィンを生み出す可能性を示す研究もあります。(※2)

③泣くことで人からの助けが得られる

泣くことで人からの助けが得られるのも、大きなメリットです。


私たちは困っていることをうまく言葉にできないことがあります。そんなときに「泣く」という行為ひとつで「困っている」「助けが必要」というメッセージを送ることができ、周囲の人から「どうしたの?」と声をかけてもらえます。
助けを得るためのコミュニケーションとしても、「泣く」という反応は機能しているのです。(※2)

すぐ泣いてしまう人の特徴、心理や原因とは?

ここでは、すぐ泣いてしまう人に当てはまりやすい3つの特徴や原因をご紹介します。

①ネガティブな考え方をしやすい

クッキーが3つお皿にあるとき、あなたはどう思うでしょうか?                        「3つもある!ラッキー」と思う方もいるかもしれませんが、「3つしかない」とガッカリする人もいるかもしれません。同じ出来事に遭遇しても、ポジティブに考える人もいれば、ネガティブな考え方がクセになっている人もいます。


このように、ネガティブな考え方をしやすい傾向にある人は「泣きやすい」という研究結果が出ています。(※4)

②人よりも心が揺れ動きやすい

人よりも心が揺れ動きやすい場合、ちょっとしたことですぐ泣いてしまう可能性があります。


例えば、
・他者の声色が暗いと感じ、怖くて泣く
・テレビで見かけた事故のニュースに傷ついて泣く
・窓から見た夕陽の美しさに感動して泣く

というように、多くの人は気に留めない出来事に感情が高ぶり、涙が出てきてしまいます。


このようにすぐ泣いてしまう背景には、「HSP(Highly Sensitive Person)」と呼ばれる方々が持つ生まれつきの感受性の高さが影響している場合もあります。また、ストレスや疲労が蓄積したことで、いつもなら気にしない出来事でも過敏になっている可能性もあります。

③自律神経が乱れている

すぐ泣いてしまう場合、自律神経が乱れているかもしれません。
自律神経とは、私たちの生命活動を調整する神経のこと。自律神経は、次の2つの神経から構成されています。

・交感神経:心身の興奮や緊張を強め、活動性を高める
・副交感神経:心身をリラックスさせる

日中活動すべきときは交感神経が、夜の休むべきときは副交感神経が活発になります。ところが、ストレスがかかると、交感神経が働きすぎて過度な緊張や不安、イライラを招きます。また、休みたくても交感神経が働いて休めず、心身の調子を崩してしまいます。

実は、泣くことには、自律神経を調節する働きがあります。涙を流すと、活発になりすぎた交感神経を鎮め、副交感神経が優位の状態になります。その結果、心身をリラックスした状態に導き、バランスを取り戻すのです。(※5)
「勝手に涙が出てくる」という人は、自律神経の乱れを調整するために、脳が涙を流すよう司令を出しているのかもしれません。

以下に「自律神経の乱れチェックリスト」をご用意しました。あなたの自律神経が乱れていないかチェックしてみましょう。

  • いつも耳鳴りがしますか?
  • 胸や心臓に苦しさがありますか?
  • 心臓が狂ったように早く打つことがありますか?
  • よく息苦しくなったり、息切れしたりしますか?
  • 夏でも手足が冷えますか?
  • 冬でもひどく汗をかきますか?
  • 食欲がなかったり、吐き気があったりしますか?
  • いつも胃の具合が悪いですか?
  • 下痢や便秘に悩むことが多いですか?
  • 肩や首すじがこりますか?
  • よく皮膚に蕁麻疹(じんましん)ができますか?
  • よくひどい頭痛がしますか?
  • たびたび、ひどい「めまい」がしますか?
  • 疲れてぐったりすることがよくありますか?
  • 乗り物に酔いますか?

※北村ら(1985)の論文(※6)より一部改変

当てはまるものが多い人は、自律神経が乱れている傾向があります。すぐ泣いてしまうのは、自律神経の影響かもしれません。

涙もろくなる症状が出る病気はある?

いつもより涙もろくなる場合、病気の可能性もあります。ここでは、すぐ泣いてしまう病気3つをご紹介します。

①うつ病・適応障害

うつ病も適応障害も、ストレスによって気分・思考・行動・身体などに様々な症状が出現する精神疾患です。うつ病は慢性的なストレスの蓄積によって発症することが多く、何が原因かはっきりしない傾向があります。一方、適応障害はストレスの原因がはっきりしており、原因から離れると良くなります。


どちらも、いつもより頻繁に泣いたり、わけもなく涙が出たり、いつまでも泣き止まなかったりと、涙もろくなる症状が見られます。

ほかにも、
・ゆううつや不安が強い
・注意が散漫になっている
・意欲がわかない
・食欲がない、もしくは食べ過ぎる
・眠れない、もしくは寝すぎる

などの症状があれば、うつ病や適応障害の可能性を考慮した方が良いでしょう。

②分泌性流涙・導涙性流涙

涙もろくなる症状が出るのは、精神的な疾患だけではありません。目そのものにトラブルが起きているケースもあります。それが「分泌性流涙」と「導涙性流涙」です。


分泌性流涙とは、ドライアイや逆まつげなど何らかの理由で目の表面が過敏になっており、そこに刺激が加わると、過剰に涙が分泌されてしまう症状を指します。


一方、導涙性流涙は、涙を鼻へ流す通り道である「涙管」や「涙点」のどこかにトラブルが発生し、涙がうまく鼻に抜けずにあふれてしまう状態です。


これらの症状は感染症やポリープなどの疾患が奥に潜んでいることも。「以前よりもやけに涙が出る」と気になっている方は、早めに眼科を受診しましょう。(※7)

③脳卒中・血管性認知症

脳卒中(脳血管障害)とは、脳の血管が破れたり、詰まったりした結果、脳・身体の働きが悪化する状態全般を指す言葉です。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血が脳卒中に含まれます。
また、血管性認知症は、脳卒中によって脳がダメージを受けた結果、引き起こされる認知症のひとつです。

脳卒中や血管性認知症のように、脳にダメージを受けると「感情失禁」が起きることがあります。これは感情をコントロールする脳の部位が損傷を受けた結果、些細な出来事に対しても、感情の波が大きく動いてしまう症状をいいます。
この感情失禁により、ちょっとしたことで悲しみや感動があふれ出し、頻繁に号泣してしまうことがあるのです。(※8)

すぐ泣くのをやめるために試せる方法

「すぐ泣いてしまうのをやめたい!」という方のために、泣かない心と身体をつくる3つの方法をご紹介します。

①規則正しい生活

私たちは心身の調子を崩しているときに、ポジティブな考え方はできません。
例えば、「頭が痛い」という不調を抱えているときに前向きな気持ちを抱くのはきわめて難しいことです。「もしかして病気なのでは」と思い悩んだり、いつもなら気にしないことに「こっちは頭が痛いのに!」とイライラしたりするのではないでしょうか。
不調は刺激に対して、私たちの心身をいつもよりも過敏にさせるのです。

自分の心身の健康を高め、刺激への敏感さを和らげるために、規則正しい生活を心がけましょう。

規則正しい生活で大事なのは、睡眠・食事・運動の3つです。
・睡眠:同じ時間に起床と就寝
・食事:三食をほぼ同じ時間に食べる
・運動:ウォーキングやヨガなど軽い運動をする

まず、睡眠と食事で心と身体の基本的なリズムをつくり、自律神経を整えます。また、軽い運動は、身体の疲労回復に役立つことがわかっています。(※9)

②ストレスを吐き出してリセット

脳がストレス状態になったときに、涙以外の方法でリセットするのも良いでしょう。

まず、代表的な方法が「人に話す」こと。
自分の気持ちや悩みを聴いてもらうと、ポジティブな気持ちがわいてきたり、気持ちに折り合いをつけやすくなったりして、ストレスが低減します。(※10)

「人に話すのは苦手」という人には、「ジャーナリング」をおすすめします。
ジャーナリングは、寝る前に自分の感情を約20分間、とにかく書き出す方法。字の誤りや乱れなどは気にせず、ひたすら書き連ねるのです。ある研究(※11)では、ジャーナリングを続けると、ストレスが大幅に減少することがわかっています。

このように「吐き出す」ことでストレスに対処できれば、泣いてスッキリする必要がありません。

③注意訓練法に挑戦!

多くの人は気にしないような出来事や言葉にとらわれてしまい、ネガティブな気持ちになったり、思わず涙が出てきたりする方には、注意訓練法をおすすめします。

注意訓練法とは、注意をコントロールするための訓練法のこと。
あなたは「集中しなきゃ」と思っているのに、ふと注意が逸れてしまった経験はありませんか?例えば、授業中に指名されて答えられず恥ずかしい思いをした後、「授業に集中しなきゃ」と考えても、何度も恥ずかしい思いをした場面に心が戻ってしまったことはありませんか?

私たちは、自分の意思で「別のところに注意を向けたい」と思っても、気がつけばネガティブな出来事に心がとらわれてしまうことがあります。
特にすぐ泣いてしまう人は、ネガティブな刺激に対して注意が向きやすい上、強く反応してしまうといえるでしょう。

望んでいないネガティブな刺激にとらわれず、自分の向けたいところに注意を向けられるようにトレーニングするのが「注意訓練法」です。

注意訓練法では「音」を使った3つのトレーニングを行います。トレーニングの前に「音」をたくさん準備してください。

例えば、エアコンの風音、時計の秒針の音、蛇口から垂れる水音、テレビやラジオの音、車の走行音、鳥の声などです。注意訓練法に使える音源などもウェブ上にあるため、必要に応じて使ってみてください。

注意訓練法の手順

①注意の持続:生活のなかにある複数の音のなかから1つを1分間集中して聞く。

②注意の転換:複数の音のなかから1つを30秒ほど集中して聞き、次に別の音に集中を切り替えて30秒ほど聞く。終わったら次の音に集中を切り替える…を繰り返す。

③注意の分割:すべての音を2~3分ほど集中して聞く

このトレーニングを続けることで、余計な思考にとらわれず、自分が見たい・聞きたいものに集中できるようになります。

急に涙が出てしまったときの対応方法とは?

すぐ泣かないための心と身体をコツコツつくっていても、涙が出てきてしまうことはあるものです。そんな緊急時にできる対応方法を3つご紹介します。

①その場から離れて落ち着く

泣いてしまう原因となっているモノやヒトがわかっているなら、できるだけ速やかに離れましょう。泣いてしまう原因と接する限り、強いストレスがかかります。そのストレスを和らげ、心をリラックスさせるために、涙がどんどん出てきて止まらなくなってしまいます。

まずは、いったん原因から離れて気持ちを立て直しましょう。トイレ・更衣室など1人になれる場所がおすすめです。
1人になったら「呼吸法」で気持ちをリラックスさせましょう。

呼吸法の手順

1. 4秒かけてゆっくり息を吸う
2. 7秒間息を止める
3. 8秒かけてゆっくり息を吐く

1〜3を繰り返すうちに、心と身体がリラックスしていきます。

②思い切り泣く

泣いてしまったのなら、いっそ思い切り泣くのもひとつの手。
先ほどご紹介した通り、泣くことにはリラックスを司る副交感神経を優位にする効果があります。思い切り泣くと、気持ちがスッキリかつリラックスして、切り替えられます。

ただし、思い切り泣いた後ケアをしないと、目のまわりが赤く腫れてしまうことも。冷水や保冷剤などで腫れる前に目をしっかり冷やしましょう。

③気持ちを切り替える

気持ちを切り替えるときに両頬をパンパン!と叩くシーンを漫画やドラマで見たことはありませんか?実は、身体に「痛み」や「冷たさ」を加えると、気持ちを切り替える効果があります。両頬を叩くのは理にかなっているのです。

そのほかにも、
・手首に輪ゴムを巻いてはじく
・冷水で顔を洗う
・冷たい炭酸飲料を飲む
・氷や保冷剤をぎゅっと握る

など、身体を傷つけない程度の痛みや冷たさを上手に活用してみましょう。

まとめ

すぐに泣いてしまうのは心や身体を守るための大切な反応。必ずしも悪いものではありません。泣いてしまう心理やメカニズムを理解すれば、メリットを最大限に活かしつつ、デメリットを最小限に抑えていけるはずです。
ただし、すぐに泣いてしまう背景には、病気が隠れている可能性もあります。突然泣いてしまうことが繰り返される場合には、受診も視野に入れておきましょう。

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【引用文献】※1 高路奈保・中野友佳理・満居愛実・上利尚子・有安絵理名・吉村耕一(2015)情動性の涙のストレス緩和作用に関する研究 ストレス科学研究 30 pp138-144.

※2 石井悠紀子(2020)アダルトクライングの機能―心理的側面,生理的側面から―東京大学大学院教育学研究科紀要 第 59 巻 pp401-407.

※3 澤田忠幸・松尾浩一郎・橋本巌(2012)成人期における"泣くこと"による心理的変化 82 (6)pp.514-522.

※4 Rottenberg, J., Bylsma, L. M., Wolvin, V., & Vingerhoets, A. J. J. M. (2008). Tears of sorrow, tears of joy: An individual differences approach to crying in Dutch females. Personality and Individual Differences, 45(5) pp367–372.

※5 有田秀穂(2007)涙とストレス緩和 日薬理誌 129 pp99〜103.

※6 北村智・吉備登・稲田陽治・森川和宥・和田清吉(1985)自律神経失調性愁訴(V)と良導絡チャート-調査表と興・抑の関係 全日本鍼灸学会雑誌 35巻 1号 pp32~37.

※7 マイティア.style「実は目の病気かも。涙が止まらない症状と原因を知ろう」

※8 EPARK「【医師が解説】訳もなく涙が出る、涙が止まらないのは病気が原因?リラックスのために使える市販薬も紹介」

※9 にしかわたく・近藤一博(2019)疲労ちゃんとストレスさん 河出書房新社

※10 髙橋幸子(2013)対人ストレスを身近な他者に相談する過程の検討 カウンセリング研究 46(1) pp1-10.

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