「毎日の仕事にやりがいを感じられない…」そのような思いを抱えている方は少なくありません。特に40代、50代というキャリアの転換期を迎える年齢では「このままでいいのだろうか」という不安や焦りを感じることも多いでしょう。長年働いてきた経験があるからこそ、今の仕事に意味を見出せないことへの苦悩は深いものかもしれません。
この記事では、そんな仕事のやりがいについて考察し、現状を改善するためのヒントをお伝えします。
梅田ミズキさん
認定心理士、サービス介助士。大学で臨床心理学・産業組織心理学・発達心理学などを学び、卒業後は公的施設にて精神疾患の方のケアや介助業務、ご家族の相談対応などに従事しながら、ホームページ掲載用のコラムやミニ新聞を執筆。現在はフリーライターとして独立し、くらしにまつわるエッセイの執筆、臨床心理・発達支援・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集に携わりながら、心理カウンセラーも務めている。趣味は読書、映画鑑賞、気まぐれで向かうプチ旅行。
仕事のやりがいとは何か
仕事のやりがいについて考える前に、そもそも「やりがい」とは何なのでしょうか。多くの方が漠然と求めているやりがいですが、その本質を明確にすると、自分に合った働き方が見えてくるかもしれません。
やりがいの定義は主に「達成感や張り合い」
やりがいとは、主に「仕事を通じて得られる充実感や達成感、張り合い」を指します。具体的には、自分の行動が誰かの役に立っている実感や自己成長を感じられる機会、正当な評価を得られることなどです。
ある製造業の管理職の方は「若手社員が成長していく姿を見られることが、いまの私にとって最大のやりがい」と語っています。このように、やりがいの感じ方は人それぞれで、一様ではありません。
とはいえ、仕事に意義や充実感を見出すことができれば、自然と仕事への意欲も高まって主体的に業務へ取り組めるようになります。その結果、より大きな成果を残すのも可能です。
このことからも、仕事におけるやりがいの存在は、働く人々にとって欠かせない要素だと考えられます。
やりがいを感じやすい場面って?
2023年に野村総合研究所(NRI)が25〜79歳3,617名を対象に実施した「日本人の生活に関するアンケート調査」によると「仕事の満足度が高いほど、ふだんの生活の幸福度が高い傾向」「“働きがい”を重視する人はいまの仕事の満足度が高い一方で、“働きやすさ”を重視する人はいまの仕事の満足度が高くない傾向」との結果が出ています。
つまり、多少エネルギーが必要でも、具体的な成果が見えたり周囲から認められたりするとやりがいを感じ、仕事への満足度が高くなるということです。他にも、以下のようなシーンが、仕事でのやりがいを感じやすい典型的な場面といえます。
・新しいプロジェクトの立ち上げに成功した
・困難な課題を解決できたとき
・顧客から感謝の言葉をもらった など
やりがいと報酬の関係性
「仕事のやりがいって、結局は得られる給与の額でしょ…?」そう考える方もいらっしゃるかもしれませんが、金銭的な報酬とやりがいは、実は必ずしも比例関係にあるわけではありません。高い給与を得ていても充実感を感じられない場合もあれば、給与は平均的でも強いやりがいを感じる方もいます。
あるNPO職員の方は「以前の会社員時代より給与は下がったが、社会貢献できる実感があり、いまの方が充実している」と話します。つまり、仕事のやりがいを見つけるうえで重要なのは“自分にとっての価値基準”を明確にすることです。
年代によるやりがいの変化
20代・30代と比べて、40代・50代では、求める仕事のやりがいの質が変化する場合があります。若い頃は成長や挑戦に重きを置いていた方も、年齢を重ねるにつれて、安定性や社会貢献により価値を見出すようになるケースは珍しくありません。
「30代では新商品の開発チームで挑戦的な目標に向かって夜遅くまで働くことに喜びを感じていた製造業の方が、45歳を過ぎてからは、確立された製品の品質管理部門で安定的な製品供給を通じて消費者の安全を守ることにやりがいを見出すようになった」という例があります。
また「投資銀行で新しい金融商品の開発に携わっていた方が、40代後半からは地域金融機関で個人の資産形成支援に従事し、顧客一人ひとりの人生に寄り添える仕事により大きな満足を感じるようになった」とのケースもあるのです。
仕事のやりがいは業界や職種によっても異なる
例えば、医療や福祉の現場では、直接的な人との関わりから生まれるやりがいが大きいでしょう。一方、製造業では、製品の品質向上や生産性の改善など、数値で見える成果がやりがいにつながる場合が多いかもしれません。
また、IT業界では、新しい技術やサービスの開発を通じて社会に変革をもたらすことにやりがいを見出す方が多いようです。このように、仕事のやりがいの形は、業界や職種によっても大きく異なります。
そもそも仕事にやりがいは必要か
「仕事では、必ずやりがいを持っていなければならない…」そんな思い込みに囚われている方もいらっしゃるはずですよね。実は、仕事にやりがいを求めすぎることで、かえってストレスを抱える場合もあります。ここでは、仕事のやりがいの必要性について、より現実的な視点から考えてみましょう。
「仕事のやりがい」を重視しすぎるとリスクが生じる
仕事のやりがいを追求するあまり、現実的な判断を見失う場合も少なくありません。例えば、低待遇や不安定な雇用条件を「やりがいがある」という理由で受け入れてしまうケースです。
ある40代の方は「やりがいを求めて転職したベンチャー企業が経営難に陥り、生活していけなくなった」という苦い経験を持っています。生活の基盤の確保も、重要な要素として考える必要があるのです。
「仕事のやりがい」だけではなく「私生活とのバランス」も考える
仕事は、あくまでもプライベートな時間や家族との関係性なども含めたうえで成り立つものといえます。そのため「やりがいを見つけなくては」と仕事にばかり目を向けるのではなく、人生全体でのバランスを考えることが大切です。
プライベートな場面で充実感を見出せると、仕事へのプレッシャーがかえって軽減される場合もあります。趣味や副業、ボランティア活動などを通じて、新しい価値観や人間関係を築いていくのもいいでしょう。
「割り切って働く」という選択肢も視野に
全ての仕事にやりがいを求める必要はありません。「与えられた役割をプロとして着実にこなし、その対価として報酬を得る」。そのような割り切った考え方も、健全な働き方の一つといえるでしょう。
「仕事は仕事として割り切り、その分、自分や家族との時間を大切にして人生の充実感を増したい」というのは、決して悪い考えではありません。
多様な価値観を認識する
前述したとおり、仕事のやりがいにこだわるあまり、自分の本当の望みや幸せを見失わないようにするのが大切です。価値観や人生の優先順位は、人それぞれ異なります。
「安定した収入」「ワークライフバランス」「家族との時間」など、人生において大切にしたい要素は人によってさまざまです。“自分が優先的に大切にしたいものは何か”を把握しておきましょう。
「仕事にやりがいがない」と感じる理由は?
仕事へのやりがいを失う原因は、個人の内面から生じる要因と、職場環境など外部からの影響の両方があります。「やりがいを見つけたい」改善の第一歩として、なぜ自分がやりがいを失っているのか、原因を明確にしていきましょう。
「仕事にやりがいがない」と感じる内的な要因
内的な要因1. 自己の期待と現実のギャップ
理想と現実の乖離は、やりがいを失う大きな要因となります。特に40代・50代では、若い頃に描いていたキャリアプランと現在の状況が異なることへの失望感を抱えている方も多いでしょう。「課長になれると思っていたのに、いまだに平社員のまま」「独立して自分の会社を持ちたかったのに、リスクが取れずにいる」との声もよく聞かれます。
内的な要因2. モチベーションの低下と燃え尽き
長年同じ業務を続けるうちに、かつては感じていた新鮮さやチャレンジ精神が薄れていくケースもあります。特に、過去に大きな成功や達成感を味わった経験がある場合、その後の日常的な業務にやりがいを見出しにくくなる場合も珍しくありません。例えば、営業職では「入社後10年で達成した大型案件以来、同じような充実感が得られない」と感じる方もいらっしゃるようです。
内的な要因3. 自己成長の実感の欠如
40代・50代になり「若い頃のような急激な成長や学びの機会が減少した」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。新しいスキルの習得や、キャリアアップの機会が限られていると感じる方も多いでしょう。例えば、技術の進歩が速いIT業界では、若手との知識やスキルの差を目の当たりにする場面も少なくありません。
内的な要因4. 価値観の変化への戸惑い
年齢を重ねるにつれて、仕事に求めるものが変化するのは自然なことです。しかし、その変化に上手く適応できないと、やりがいを見失う場合があります。例えば、若い頃は競争や成果を重視していた方が、年齢とともに安定や調和を求めるようになり、そのギャップに苦しむケースなどです。
「仕事にやりがいがない」と感じる外的な要因
外的な要因1. 職場環境や人間関係の問題
上司や同僚との関係性、組織の文化や価値観との不一致は、やりがいを大きく損なう要因といえるでしょう。特に、年齢を重ねるにつれ、若手社員との価値観の違いやコミュニケーションの難しさを感じるシーンも増えてきます。「若手の意見を尊重しすぎる風潮に戸惑う」「経験が評価されにくい」と感じる方も多いようです。
外的な要因2. 評価や報酬への不満
経験や能力に見合った評価や処遇を受けていないと感じる場合、やりがいは著しく低下します。特に、同世代の他社の社員と比較して、自社での待遇に不満を感じる場合も珍しくありません。年功序列の崩壊や成果主義の導入で、年齢に応じた処遇が保証されなくなっているのも「仕事のやりがいを見つけられない…」との不満を助長する要因になっています
外的な要因3. 会社の将来性への不安
所属する企業の業績や成長性に不安を感じる場合、それは個人のやりがいにも大きく影響します。デジタル化やグローバル化などの環境変化に対する会社の対応に不安を感じ「将来への展望が描きにくいな…」と感じた経験のある方もいらっしゃるでしょう。「このままこの会社にいて大丈夫だろうか」と漠然とした不安を抱える方も少なくありません。
外的な要因4. 業務内容の陳腐化
長年同じ業務を担当していると、その業務自体が時代の変化とともに重要性を失っていく場合があります。例えば、デジタル化により従来の手作業が自動化されたり、組織改編により担当していた業務の価値が低下したりするケースです。このような変化に適応できないと、自身の存在価値に疑問を感じ、モチベーションの低下につながってしまいます。
仕事にやりがいがない状態を抜け出すための対処法や考え方
やりがいを感じられない状況は、誰もが一度は経験するものです。しかし、視点を変えたり新しい役割を見出したりすることで仕事への消極性を脱却できます。ここでは、具体的な対処法と、考え方の転換のヒントをご紹介します。
現状を客観的に見つめ直す
まずは「なぜ仕事にやりがいを感じられないのか」を冷静に分析してみましょう。例えば、1週間の業務日誌をつけて、自身の心の動きを観察してみるのがおすすめです。具体的には、以下の内容を書き出してみると、仕事のやりがいを見つけやすくなります。
・どの仕事で充実感を得られたか
・どの仕事で負担を感じたか
・自分の価値観や目標は何か
・現在の仕事のどの部分に違和感があるのか など
小さな変化から始める
大きな変化を求めすぎず、まずは日々の業務のなかで自分にできそうな小さな改善から始めてみましょう。毎日のルーティン化した業務を自動化して、より創造的な業務に時間を使った企業の例もあります。
以下のように、自分でコントロールできる範囲から変化を作っていくのがおすすめです。
・業務の進め方を工夫する
・新しいスキルを学ぶ時間を作る
・後輩の指導に力を入れる など
新しい視点や役割を見出す
これまでの経験や知識を活かしながら、新しい形で組織に貢献できる方法を探してみるのも一つです。ベテラン社員だからこそできる「組織の潤滑油」としての役割は、若手社員には真似できない重要な存在価値になり得ます。
例えば、以下のような内容は、自分ならではの付加価値を見出すことができるかもしれません。
・若手の育成役として活躍する
・部署間の調整役を買って出る
・専門知識を活かした提案を行う など
キャリアの棚卸しと再設計
これまでのキャリアで培った経験やスキル、人脈を改めて見直してみましょう。その過程で、自分が思っている以上の強みや可能性に気付く場合があります。
また、今後のキャリアプランを考える際には、組織の中での従来の昇進ルートにこだわりすぎない姿勢が大切です。専門性を活かした新しいキャリアパスも視野に入れると、新しい道が広がりやすくなります。
やりがいが感じられない仕事は続けるべき?転職や退職を判断するポイントとは?
「何をしても、どうしても仕事にやりがいを感じられない…」という場合、転職を選択肢として検討するかもしれません。もちろん、転職は新しい自分を見つけるための有効な手段です。
ここでは、転職を考える際の判断材料と決断までのステップを解説します。
転職を検討する前に自己分析をする
前提として、安易な転職は避けたほうがよいでしょう。「環境を変えれば現在の不満が本当に解決するのか」を、慎重に見極める必要があります。自分の強みと弱み、市場価値、希望する働き方などを、できるだけ具体的に整理しましょう。
例えば、転職経験のある方の体験談を聞いたり、転職エージェントに相談したりすると、より現実的な判断材料を得られます。転職エージェントには「面談で自分の経験が意外な業界でも通用することを知り、新たな可能性が見えてきた」との声も多く寄せられるようです。
転職のメリット・デメリットを比較する
年齢的なハンデや、転職市場の現状も踏まえた現実的な判断も、必要不可欠といえるでしょう。転職で得られる可能性のあるメリットと失う可能性のあるものを、家族の意見なども交えながら十分に検討するのがおすすめです。例えば、以下のような点について具体的に考えてみてはいかがでしょうか。
【転職で得られる可能性のあるもの】
・新しい環境での再挑戦の機会
・より高い報酬の可能性
・スキルアップのチャンス
・働き方の改善 など
【転職で失う可能性のあるもの】
・雇用の安定性の低下
・退職金や年金への影響
・新しい環境への適応負担
・家族の生活への影響など
段階的なアプローチの重要性を理解する
いきなり転職を決断するのではなく、まずは社内での異動や役割変更の可能性を探してみるのも一つです。「転職を考えていた時期にたまたま社内公募があり、異動して新しい部署で活躍できるようになった」というケースも珍しくありません。また、副業やスキルアップなど、現在の仕事を続けながら新しい可能性を模索することも一つの選択肢になり得ます。
転職市場の現実を知る
40代・50代の転職では、若い世代とは異なる困難があるのも認識しておくべき点です。しかし、経験やスキルを活かせる専門職や、ベテランならではの強みを発揮できるポジションも存在します。
長年培ってきた専門性を必要とされたり、豊富な経験が武器になるような立場も多いのです。実際に、管理職経験を活かしてコンサルタントとして独立した方や、長年の技術力を評価されて優遇条件で転職を果たした方など、さまざまな成功例があります。
新しいキャリアへの準備
転職を視野に入れる場合は、必要なスキルの習得や資格の取得など、具体的な準備を進めていきましょう。例えば、デジタルスキルの強化、英語力の向上、業界に特化した資格の取得などです。
また、転職市場で求められる実践的なスキルを把握するために、業界セミナーや交流会への参加も有効といえます。実際に、異業種交流会で得た情報をきっかけに、新しい分野でのキャリアをスタートさせた方も少なくありません。
さらに、実務経験の補完として、オンライン講座やワークショップへの参加も検討しましょう。デジタルマーケティングやデータ分析など、近年需要の高いスキルは、比較的短期間で基礎を習得できます。
仕事のやりがいは「自分らしい働き方」を探すところから
40代・50代という年齢はキャリアの転換期ともいえるため、不安や焦りを感じやすい時期です。しかし、この年代だからこそできることもたくさんあります。長年培ってきた経験や知識、人脈は、かけがえのない財産です。
一つひとつの選択に「自分らしさ」があることを忘れないでください。そして何より「やりがい」は必ずしも仕事だけで見つける必要はありません。
仕事、家族、趣味、社会貢献など、人生にはさまざまな側面があります。それぞれの場面で自分なりの充実感を見出していくことで、より豊かな人生を築いていけるでしょう。あなたの新しい一歩を踏み出すきっかけに、この記事がお役に立てば幸いです。
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