職場での人間関係のトラブルのなかでも、特につらい経験の一つが「無視をされる」という状況です。同僚や上司からの無視は、個人の精神衛生を損なうだけでなく、組織全体のパフォーマンスも低下させる要因となります。
職場で無視される状況に直面した際、まず重要なのは、なぜそのような行動が起こるのかを理解することです。その人の行動の背景を理解すれば、より効果的な対応方法が見えてきます。
そこで本記事では、職場で無視される理由や対処法、心理的なメカニズムについて詳しく解説します。「職場の同僚や上司から無視されていてつらい」とお悩みの方は、ぜひご覧ください。
関連記事はこちら➡職場のモラハラの特徴とは?判断基準や具体例、当てはまるときの対処方法を解説

梅田ミズキさん
認定心理士、サービス介助士。大学で臨床心理学・産業組織心理学・発達心理学などを学び、卒業後は公的施設にて精神疾患の方のケアや介助業務、ご家族の相談対応などに従事しながら、ホームページ掲載用のコラムやミニ新聞を執筆。現在はフリーライターとして独立し、くらしにまつわるエッセイの執筆、臨床心理・発達支援・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集に携わりながら、心理カウンセラーも務めている。趣味は読書、映画鑑賞、気まぐれで向かうプチ旅行。
職場で気に入らないと無視する人の心理や特徴とは?

「無視されると、自分の存在が否定されたようで悲しい」と感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。職場で他者を無視する人の背景には、さまざまな心理や特徴があります。具体的には、主に以下のような例です。
「怒り」の出し方が良いのかわからない
自分の期待や要求が満たされない状況、あるいは相手の行動や態度に対する不快感から「怒り」の感情を持っても、それを適切に表現する方法がわからない人は、対立を避けるために相手を無視する場合があります。
本来なら、言葉で自分の気持ちを伝えたり、冷静に話し合ったりするのが理想ですよね。しかしそれが難しいと感じるため、相手を遠ざけることで不満を示そうとするのです。
無視は、相手に心理的なダメージを与えつつ自分の感情を直接ぶつけずに済む、一種の「消極的な攻撃」で使われる場合があるといえます。
コミュニケーションが苦手

コミュニケーションが苦手な人は、不満や違和感をうまく言葉にできず、対処法に無視を選ぶケースも珍しくありません。自分の意見を伝える自信が持てず、誤解や対立を恐れるあまり、関わらないことで状況をコントロールしようとする傾向があります。
また、感情の整理が苦手でどう接すればよいのか分からず、距離を置いてしまう場合もあるでしょう。一見、無視は相手を拒絶しているように見えますが、実は本人の不安や不器用さが表れているケースも多いのです。
権力関係に敏感で支配欲が強い

「相手より自分が優位に立ちたい」との思いが過度に強い人も、無視を利用する場合があります。例えば、自分の意見に従わなかった同僚をあえて無視することで「自分に逆らうと不利になる」と暗に示すなどです。
また、新しく入った社員に距離を取ってわざと孤立させ、主導権を握ろうとするケースもあります。こうした無視は感情的なものではなく、相手をコントロールしようとする手段の一つとして使われやすいのが多いのです。
なお、この場合は「強行的な手段を取らないと自分についてきてもらえる自信がない」という“劣等感”や、「自分よりも仕事ができるのは許せない」という“嫉妬心”が隠れているパターンも少なくありません。
別のストレスや個人的な問題で八つ当たりをしてしまう
職場で無視をする人の中には、実は相手に対して強い不満があるわけではなく、別のストレスや個人的な問題を抱えている場合があります。例えば、家庭の悩みや仕事のプレッシャーで余裕がなくなり、無意識のうちに特定の同僚に冷たく接してしまうなどです。
本来なら関係のない相手にまで影響を及ぼしてしまうのですが、感情をうまく処理できず、結果的に八つ当たりのような形で無視という行動に出てしまうのです。この場合、本人も自覚していない場合が多くあります。
職場で無視される人に多い特徴

「職場で無視をする人の心理や特徴は理解できたけど、それでも無視されると仕事しにくいし、つらい…」そんな方に向けて「無視されやすい人に多い特徴」も合わせて解説します。
なお、以下で挙げる内容は「無視される側に問題がある」という趣旨ではありません。ご自身と照らし合わせながら、現在の状況を改善するきっかけを見つけてみてください。
周囲の社員と比べて成果を上げている

周囲と比べて圧倒的に成果を上げると、上司が「自分の立場が危うい」と感じたり、同僚が劣等感を抱いたりする場合も少なくありません。一人だけが目立ちすぎてしまった結果、嫉妬の対象になり、無視をされてしまうという状況につながってしまうケースもあります。
「自分なりに必死に頑張ってきただけなのに、距離を置かれてしまった…」そのような方もいらっしゃるのではないでしょうか。とはいえ、いわゆる「仕事ができる人がいる」というのは、本来は組織にとって非常に喜ばしい状況です。
自分の意見をはっきりと伝えられない

無視する側だけではなく、無視されやすい理由にも挙げられるのが「コミュニケーションが苦手」という特徴です。例えば、会話のテンポが合わなかったり表情やリアクションが乏しかったりすると、周囲は「話しづらい」「何を考えているのかわからない」と感じ、距離を置くようになる場合があります。
また、報告や相談がうまくできないと周囲との信頼関係が築きにくくなり、結果的に孤立しやすくなるのです。本当は悪気がなくても、無愛想や消極的と誤解され、職場での人間関係がぎくしゃくしてしまうケースがあります。
人の意見やアドバイスを聞かない
職場で無視される人のなかには、人の意見やアドバイスを聞かずにいて孤立してしまう人もいます。例えば、業務の進め方について上司や同僚が助言しても、自分のやり方に固執して受け入れようとしないと「協調性がない」と思われてしまいがちです。
また、間違いを指摘されても素直に認めず反論ばかりしていると、周囲は次第に関わるのを避けるようになります。このような態度が続くと、結果的に周囲との関係が悪化し、無視される状況を招いてしまいやすいのです。
仕事上でのコミュニケーションがうまく築けない
仕事をするうえでは、雑談や身の上話とは別に、最低限度のコミュニケーションが必要不可欠です。仕事上でのコミュニケーションがうまく築けない場合、無視をされてしまう状況につながる可能性があります。
例えば、仕事の質や効率性に問題がある具体例としては、締め切りを守れない、報告や連絡が不十分、エラーが多いなどです。このようなすれ違いが続くと「仕事を任せられない」と徐々に職場での存在感が薄れてしまいやすくなります。
職場での無視はハラスメントにあたるのか

「ハラスメント」と聞くと、暴力や暴言など“外部から見えやすいもの”が浮かぶ方がほとんどではないでしょうか。しかし、職場での無視もまた、違法なハラスメントに該当する場合があります。
職場での無視は「会話拒否ハラスメント」とも呼ばれる

「会話拒否ハラスメント」とは、職場で特定の人を意図的に無視し、業務上必要な会話すら避ける行為です。直接的な暴力や暴言がなくても相手に精神的な苦痛を与え、職場環境を悪化させるハラスメントの一種とされています。
例えば、挨拶をしても返事をしない、業務連絡を意図的に伝えないといった行為です。このような無視が続くと被害者は職場での居場所を失い、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすため、企業は防止策を講じることが重要です。
「人間関係からの切り離し」に該当する場合も
厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)の代表的な言動の類型について、以下の6つに分類しています。
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係からの切り離し
・過大な欲求
・過小な欲求
・個の侵害
※参照元:ハラスメントの類型と種類|厚生労働省
上記のうち、職場での無視は「3.人間関係からの切り離し」に該当する可能性が高いパワハラ行為です。無視されると職場で円滑なコミュニケーションが取れなくなり、社内の人間関係から孤立してしまうためといえます。
職場で無視されるときの対処法

職場で無視されて孤立してしまっている状況を抜け出すためには、計画的かつ冷静な働きかけが必要です。以下に、職場で無視をされた際の具体的な対処法をご紹介します。
無視されている背景を探す
職場で無視される場合、まずはその背景を探ってみるのが大切です。単なる勘違いなのか、特定の出来事が原因なのかを冷静に分析しましょう。
例えば、自分の発言や行動が相手を不快にさせていないか振り返る姿勢も重要です。また、職場全体の人間関係や雰囲気を観察し、特定のグループの中での力関係や文化が影響していないか考えるのも一つでしょう。
原因が分かれば適切な対応が検討できるため、関係改善の糸口を見つけやすくなります。
コミュニケーションの改善を試みる

コミュニケーションの取り方を見直してみるのも、職場で無視されていると感じた場合の対処法です。例えば、挨拶を欠かさず相手の反応を確認しながら会話を進めると、関係が少しずつ和らぐ場合があります。
また、相手との関係性を修復するために、小さなコミュニケーションを積み重ねていくのも有効な方法の一つです。毎日の挨拶や業務に関する簡単な質問などを継続すると、初めは返答がなくても、少しずつ反応が返ってくるようになります。
メンターや上司に相談する

無視が長引く場合や、業務に支障をきたすほど深刻な場合は、メンターや上司に相談するのも有効な対策です。信頼できる先輩や上司と30分程度の個別面談の機会を設け、状況を説明して客観的なアドバイスをもらうことで、適切な対応策が見えてくる場合があります。
メンターとの相談では、単なる愚痴や不満の訴えではなく、建設的な対話が求められます。例えば「現在、チームでどのように貢献できるか悩んでいます。キャリア形成の観点からアドバイスをいただけますでしょうか」「最近、チームミーティングで私の意見が取り上げられていないように感じています。建設的な対話を通じて、チームへの貢献方法について一緒に考えたいです」などの前向きなアプローチが効果的です。
また、第三者が間に入ることで、無視している側も自分の行動を振り返るきっかけになるかもしれません。問題が職場全体の風土に関わる場合は、人事部や労働相談窓口に相談するのも一つの選択肢です。
心の健康を維持する

職場で無視される状況は、とてもつらいものですよね。長く続いた場合、精神的なストレスが蓄積して仕事への意欲が低下する可能性があります。そのため、自分の心の健康を守る姿勢も大切にしてください。
例えば、趣味や運動などで気分転換を図り、ストレスを適切に発散するのが有効です。また、残業を最小限に抑えて仕事終了後はメールやチャットから意図的に距離を置いたり、職場の人間関係だけにとらわれずにプライベートで気の合う人と交流したりなど、明確な境界線を設けるのも、心理的なリフレッシュを図れます。一人で無理に状況を変えようと頑張りすぎず、自分を大切にして認めてあげましょう。
職場で無視されるときにやってはいけないこと

職場で無視されると、悔しさや悲しさが募り、つい感情的に反応してしまいたくなるものです。しかし、感情をあらわにすると状況が悪化し、さらに関係がこじれる可能性があります。
自分を守るため、そして適切に状況を改善するために、以下の行動は避けるようにしましょう。
感情的に反撃をする

職場で無視された場合、あくまで冷静に対応する姿勢が重要です。無視されたからといって感情的に怒ったり無視し返したりしないようにしましょう。
特に、大声で抗議したりSNSで同僚や上司の悪口を書いたりなどは、職場の人間関係をさらに悪化させてしまう可能性があります。プロフェッショナルな態度を保ち、冷静さを失わずに堂々としていましょう。
自分を否定する

職場で無視されるうちに「自分に原因があるのでは」と考え、自信を失ってしまっている方もいらっしゃるはずです。
しかし、無視の理由が必ずしも自分にあるとは限りません。相手の性格や職場の人間関係、別の要因が影響している可能性もあります。
自分を過度に責めてしまうと、精神的に追い詰められ、仕事への意欲も低下しかねません。自尊心を著しく低下させてさらなる孤立を招くのを防ぐためにも、必要以上に自分を否定せず「無視する側の問題な場合もある」と冷静に捉えましょう。
コミュニケーションを放棄する
職場で無視される状態が続くと「もう誰とも関わらないほうがいい」と考え、コミュニケーションを避けたくなることもあるでしょう。しかし、それではさらに孤立し、業務に支障が出たり無視がさらにエスカレートしたりなど、状況が悪化してしまいやすくなります。
そのため、必要な業務連絡はしっかり行い、挨拶や基本的なやり取りは続けていきましょう。また、無視する人にこだわらず、他の同僚との関係を大切にすると、職場での居場所を確保しやすくなります。
職場で無視されるのがどうしてもつらいときはどうする?
「いろいろ対策をしてみたけれど状況が改善されない…」と精神的な負担が非常に大きい場合は、一人で抱え込まず、以下のような選択肢を検討してみてください。
キャリアプランを再度考える
現在の職場環境が改善の見込みがない場合、転職や部署異動など、キャリアプランの見直しを真剣に考えるのも一つの選択肢です。キャリアプラン再考の具体的なステップとして、以下のような方法が考えられます。
・現在の職場環境の客観的な分析
・転職市場の調査
・自身のスキルと経験の棚卸し
・新たなキャリアパスの探索
実際の事例では、継続的な無視に悩む社員が半年かけて自身のスキルを磨き、新たな業界への転職に成功したケースがあります。大切なのは、無力感に陥らず、主体的に行動することです。
弁護士や労働組合へ相談する

職場での無視が精神的に大きな負担となり、業務に支障をきたす場合は、弁護士や労働組合への相談も一つの手段です。前述したとおり、無視が意図的で継続的に行われ、業務妨害や精神的な圧迫につながる場合、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
弁護士に相談すれば、法的な観点から適切な対応策をアドバイスしてもらえますし、労働組合を通じて会社に改善の要求も可能です。一人で抱え込まずに専門機関を活用すると、状況を改善できる可能性が高まります。
専門家へ相談する

職場で無視されてストレスや不安が増している場合は、心理カウンセラーや産業カウンセラーなどの専門家に相談するのも有効な手段です。気持ちを整理しながら専門家に話すと、客観的な視点からアドバイスをもらえます。ストレス対処法やメンタルの保ち方を学び、職場での状況に冷静に向き合えるようになるのも利点です。
「対面でのカウンセリングは緊張する」「カウンセリングに行く時間がなかなか取れない」という方は、オンラインカウンセリングの活用もおすすめといえます。オンラインカウンセリングは、場所の制約なく相談可能なほか、テキストやビデオ、電話など希望や環境に合わせて柔軟に相談できるのもメリットです。
▼ 当サイト「悩ミカタ」ではミドル世代(40代50代)の悩みや不安・ストレスについて各分野の専門家/カウンセラーに相談できるオンラインカウンセリングサービス「悩ミカタ相談室」を展開しています。不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」
職場で無視される悩みは一人で抱えず相談を

「何もしない」といういわゆる「消極的な無視」は、暴力や暴言とは異なり、目に見えにくいものです。しかし実際には、パワーハラスメントに該当するケースがあります。
職場で無視されて孤独や不安を感じるのは、とても自然な反応です。しかし、あなたの価値は他人の行動で決められるものではありません。
自分を責めず、環境を見直したり信頼できる人に相談したりなど、小さな行動から状況を変えていきましょう。誰にも話せずつらい場合は、専門家に頼ってみてくださいね。