「十分に眠っているはずなのにすっきりしない」「朝起きても疲れが残っている」「ぐっすり眠れた感じがしない」そんな悩みを抱えていませんか?もしかすると、気がつかないうちに眠りが浅くなっているのかもしれません。そこで今回は眠りが浅い原因や改善方法について解説します。
臨床心理士・公認心理師
佐藤セイさん
公認心理師・臨床心理士。現在、スクールカウンセラー(中学・高校)・非常勤講師(大学)として勤務しつつ、webライターやブックライターとしても活動中。カウンセラー・講師・ライターのどの立場であっても、受け取る人にとって、消化しやすい言葉や表現を選ぶことを心掛けています。
現代社会で睡眠に悩みを抱える人の割合とは?
厚生労働省による2022年の調査※1では、20歳以上の男女に対して「ここ1ヶ月間、あなたは睡眠で休養が十分とれていますか」と質問したところ、「休養が十分にとれていない」と回答した人が20.6%にのぼることが示されました。
5人に1人は、「よく眠れない」「寝ても休めていない」と感じているのです。このような睡眠問題の背景には、現代社会における2つの課題が潜んでいます。
夜遅くまで活動
1941年には90%以上の日本人が午後11時には就寝していました。ところが、2000年になると就寝時間は午前1時まで遅くなっています。※2
現代の日本人は夜遅くまで仕事をしたり、夜間でも娯楽を楽しんだりしています。その結果、本来眠るべき夜になっても覚醒してしまい、眠りにくくなったり、眠りが浅くなったりします。
また、休日に「平日の睡眠不足を補うために」と昼過ぎまで寝てしまい、結果として睡眠のリズムが乱れ、睡眠の質が低下することもあります。
スマートフォンの普及
今や私たちの暮らしに欠かせないスマートフォン。寝る直前にもつい触ってしまう人もいるのではないでしょうか。
しかし、スマートフォンが発するブルーライトは眠りの質を低下させてしまいます。
また、SNSやメールでのやり取りをしていると感情が高ぶってしまい、目が冴えてしまって眠れなくなってしまいます。
睡眠の役割や仕組み
「寝ている時間がもったいない」と言われることもあるほど、活動よりも低く見積もられてしまいがちな睡眠の価値。しかし、睡眠は私たちの生命維持にも大きな役割を果たしているのです。ここでは、そんな睡眠の役割や仕組みについて解説します。
①睡眠の役割
睡眠の役割について明確な答えは出ていませんが、少なくとも私たちの健康に大きな影響を与えることはわかっています。もし、睡眠をとらないと心も身体も衰弱し、最悪の場合、死に至ってしまうからです。
また、それ以外にもいくつかの役割が発見されています。その一例を挙げておきましょう。
脳のクールダウンの役割
脳は昼間活発に働く中で熱を発します。しかし、脳神経は熱に弱く、生じた熱を定期的に冷まさないとダメージを受けてしまいます。そこで、夜には睡眠によって脳の働きを低下させ、クールダウンします。
記憶を定着させる役割
日中ほどではないにせよ、実は睡眠中も脳は働いています。このとき、脳は日中に覚えたことを整理し、睡眠中に「記憶」として定着させる役割を担います。
身体の成長や修復の役割
睡眠時には成長ホルモンが分泌されます。成長ホルモンは子どもの成長だけでなく、大人にとっても細胞を修復したり、筋肉や内臓をつくるタンパク質の合成を行ったりと、身体を支える大事な役割を担っています。
脳の老廃物を排出する役割
眠っている間に脳の老廃物が排出されることもわかっています。
例えば、アルツハイマー型認知症の発症に関わる物質アミロイドβは、睡眠中に脳の外へと排出され、肝臓まで運ばれて無毒化されています。
②睡眠の仕組み
睡眠は、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という2種類の睡眠を周期的(約90分の周期で4〜6回)に繰り返しながら行われます。
レム睡眠
うとうととまどろむような浅い睡眠の状態です。全身の筋肉が弛緩して体は休んでいますが、脳は活発に働いています。夢を見ることもあります。脳の役割としてご紹介した、情報の整理や記憶の定着はレム睡眠中に行われます。
ノンレム睡眠
深い眠りの状態です。夢を見ることもありません。ノンレム睡眠の周期に脳も休まりますし、体も回復していきます。
ノンレム睡眠は眠りの深さによってN1・N2・N3という3つの段階に分かれており、数字が大きいほど深い眠りの状態になります。そのため、N3の段階を「深睡眠」と呼ぶこともあります。
私たちが眠るとき、まずはレム睡眠が始まります。それからノンレム睡眠のN1、N2を経て、熟睡状態であるN3に達します。次にノンレム睡眠のN3からN2、N1、レム睡眠へ、そして再びノンレム睡眠へ……と2つの睡眠を交互に繰り返します。
何度も繰り返すうち、ノンレム睡眠の周期ではN3まで達することなくN1やN2という浅い睡眠の時点で、レム睡眠へ切り替わることも増えてきます。そのように眠りが少しずつ浅くなり、朝になると起床できるのです。
③浅い眠りは深睡眠に至れないことが原因
「眠りが浅い」と感じる人は、何らかの原因により、熟睡状態である「深睡眠(N3)」に達することができなかったり、深睡眠の時間が極端に短かったりする傾向があります。
そのため、睡眠時間をたっぷり確保したつもりでも、大半の時間が浅い眠りであるレム睡眠であり、脳を休めることができていません。その結果、「起床したばかりなのにだるい」「朝から疲れた」と感じてしまいます。
つまり、眠りの浅さを解消するには、深睡眠に至れない原因を解消することが大切になります。
眠りが浅い、すぐに目覚めてしまう原因とは?
眠りが浅くなり、すぐに目覚めてしまう背景には、
・精神的要因:主にストレスによるもの
・身体的要因:身体的な症状によるもの
・生理的要因:身体の働きや反応によるもの
という3つの原因があります。
①【精神的要因】ストレス
私たちは外部から刺激を受けると、心や身体が反応します。この反応を「ストレス」といいます。なお、ストレスの原因となる外部からの刺激を「ストレッサー」といいます。
例えば、「上司から激しく叱責された」というストレッサーに出会うと、私たちは「心臓がドキドキ」したり、「悲しい気持ち」になったりします。これらの反応がストレスなのです。
ストレッサーが影響するのは、その時だけではありません。日中、刺激の強いストレッサーに出会うと、
・レム睡眠が増大:浅い眠りが長く続く
・自律神経の乱れ:心身を緊張させる交感神経が働き続けてしまい、ぐっすり眠ることができない
といったストレスが生じ、夜の睡眠の質にまで影響してしまいます。
②【身体的要因】睡眠時無呼吸症候群
眠りが浅くなる身体的要因として代表的なのが「睡眠時無呼吸症候群」です。
これは、睡眠中に呼吸が止まる病気で、
・閉塞性:気道の閉塞が原因
・中枢性:呼吸中枢の異常が原因
の2つがありますが、多くの人が閉塞性です。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群が起きるのは、睡眠中に舌の根元や軟口蓋が喉の奥に落ち込み、気道が塞がってしまうためです。
その結果、血液中の酸素濃度が低下し、脳や身体へ供給される酸素量は少なくなります。心臓は何とか酸素を送りこもうと過剰に働きますが、その影響で私たちの神経は覚醒し、眠りが浅くなってしまうのです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群になりやすいのは「肥満」を抱えている人です。脂肪が気道を狭くしてしまうため、閉塞が起こりやすくなります。
それ以外にも、
・あごが小さい
・あごが後ろに引っ込んでいる人
・高齢者
・鼻が詰まっている人
などは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群になりやすいことがわかっています。
③【身体的要因】周期性四肢運動障害
周期性四肢運動障害とは、睡眠時に足が動くことが繰り返されること。突然ガクッと動いたり、ピクピクしたりします。人によっては手や腕が動く場合もあります。
原因は解明されていませんが、ドーパミンの機能異常が関係していると考えられています。
手や足の動きで目を覚ませば、睡眠が妨げられているのは明らかです。仮に目が覚めなかったとしても、眠りは浅くなり、十分な時間眠ったはずなのに強い眠気や倦怠感を抱くことになります。
④【生理的要因】加齢
実は、加齢も浅い眠りの原因になります。
50代前後になると、私たちを眠りに誘う「メラトニン」と呼ばれる物質の分泌が減り、寝つきが悪くなります。また、眠った後も、深い眠りであるノンレム睡眠の「N3」まで至らずに、浅い眠りであるN1、N2の段階やレム睡眠が増えてしまいます。そのため、眠りは浅くなり、夜間や早朝に目覚めてしまいやすくなるのです。
また、若い頃と同じように眠ろうとこだわることで「眠らなきゃ」という焦りが、ストレスとなり、かえって寝つけなくなったり、眠りを浅くしたりすることもあります。
⑤【生理的要因】覚醒作用のある物質の摂取
お酒に含まれるアルコール、煙草に含まれるニコチン、コーヒーやエナジードリンクに含まれるカフェインには、覚醒作用があります。
そのため、寝る前に摂取すると、睡眠の質が低下し、眠りが浅くなることがあります。
アルコールは寝つきを良くする作用があるため、「よく眠れる効果がある」と誤解されがちですが、実はアルコールが分解されて生成されるアセドアルデヒドには覚醒作用があり、深い眠りに入るのを妨げてしまいます。その結果、睡眠の質は低下してしまうのです。
眠りが浅い、睡眠の質が低いことの影響とは?
眠りが浅かったり、睡眠の質が低かったりすると、様々な形で心身にマイナスの影響を与えます。代表的な影響を見ていきましょう。
①注意力・集中力の低下
眠りの浅さや睡眠の質の低さは、注意力や集中力の低下を招きます。その結果、作業効率が落ちてしまったり、思いがけないミスをしたりしてしまいます。居眠り運転などの重大な事故の原因にもなりえます。
また、睡眠不足はイライラや抑うつなどネガティブな感情も引き起こしやすくなります。これらのネガティブな感情も、注意や集中を妨げます。
②うつ病のリスクを高める
眠りが浅かったり、睡眠の質が低かったりして十分に眠れていないと、うつ病のリスクを高めることが知られています。
2013年に実施された研究※3では、睡眠不足が5日間続くと、不安や抑うつなど、うつ病に関連するネガティブ感情が強まることも明らかになっています。
③認知症のリスクを高める
最近の研究では、睡眠時間が短かったり、寝つきが悪かったりするほど、アルツハイマー型認知症に関わるアミロイドβが蓄積しやすいとされています。
また、閉塞型睡眠時無呼吸症候群の人は、そうでない人より、軽度認知障害や認知症の発症リスクが1.7〜1.8倍に及ぶこともわかっています。※4
④高血圧や糖尿病など身体疾患のリスクが高まる
先ほどもご紹介した通り、睡眠時無呼吸症候群では、呼吸が止まることによる酸素濃度の低下を補うべく、心臓が過剰に働くため、心臓や血管に負荷がかかります。その結果、高血圧をはじめ、心・脳血管疾患などを引き起こすリスクが高まってしまいます。
また、睡眠の質が低下すると、食欲を増大させるホルモンが分泌され、肥満を助長したり、ストレスが血糖値を高めるホルモンを増やしたりします。その上、血糖値を下げる働きを持つインスリンの効きが悪くなるため、糖尿病になるリスクも高まります。
浅い眠りの改善方法
ここで、眠りの浅さや睡眠の質を改善するための4つの方法をご紹介します。
①生活習慣の見直し
眠りを改善するためには、日中の過ごし方を整えることが大事。生活習慣を見直してみましょう。
夕食は寝る3時間前に済ませよう
遅い時間に食事を摂ると、眠る時に胃腸が活発に動き、眠りが浅くなってしまいます。夕食は寝る3時間前には済ませましょう。
ウォーキングなどの運動をしよう
ウォーキングをすると、セロトニンの分泌が促されます。セロトニンは眠気をもたらすメラトニンを生成します。
ウォーキング以外でも、ジョギングやストレッチなどの継続的な運動を行うと、熟眠感が得られやすくなります。
寝る前のスマートフォン等を控える
寝る前にスマートフォンやパソコン、テレビを見ると、ブルーライトがメラトニンの分泌を抑制し、眠気を奪ってしまいます。
また、寝る前にスマートフォンを見ていると、ネガティブな気分になりやすく、心地よく眠れなくなることもわかっています。
歯磨きは就寝1時間前までに
歯ぐきを刺激すると、眠気を誘うメラトニンの分泌が抑制され、深い眠りを妨げてしまいます。そのため、歯磨きは寝る1時間前には済ませるのがおすすめです。
②適切な治療
睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害が原因の場合、適切な治療によって、眠りの質を改善することができます。
睡眠時無呼吸症候群
・口腔内装置:マウスピースをつけることで舌が喉に落ち込みにくくします。
・CPAP治療:鼻にマスクを装着し、専用の機械から空気を気道に送り込んで圧力をかけ、気道がふさがるのを防ぎます。
・生活習慣の見直し:減量により肥満を解消すると気道の閉塞リスクが低減します。また、横向きの姿勢で寝ることで、気道がふさがりにくくすることも可能です。
周期性四肢運動障害
ドーパミンの働きを改善する薬物による治療を行います。
③リラクセーション法
心身をリラックスさせ、良質な睡眠へと導くためにリラクセーション法を活用するのもおすすめです。
呼吸法
呼吸法は、手軽に実践できるリラクセーション法のひとつです。
1.あおむけになって全身の力を抜く
2.お腹に手を置く
3.鼻からゆっくりと息を吸い、お腹がふくらむのを感じる
4.口からゆっくりと息を吐き、お腹がへこむのを感じる
5.1~4を5~10回繰り返す
漸進的筋弛緩法
「漸進的筋弛緩法」は、全身から緊張を抜き、リラックスへと導いて眠りやすくする方法です。
まず椅子に座ります。そして、筋肉に力をぎゅっと入れ、その後、力を抜く動作を繰り返します。
具体的には、以下の手順で実施します。
①両手:両腕を伸ばし、10秒間こぶしを握る。その後、こぶしをゆっくり開いて20秒間脱力する
②上腕:腕を曲げ、脇をしめて、10秒間力を入れる。その後、20秒間脱力する
③背中:腕を曲げて外に広げ、肩甲骨同士を近づけるように寄せて10秒間維持し、20秒間脱力する
④肩:両肩を上げて10秒間維持し、その後一気に力を抜いて20秒間脱力する
⑤首:右側に首を曲げて力を入れて10秒間維持し、その後20秒間脱力する。左側も同様に行う
⑥顔:口をすぼめて顔全体を中心に寄せて10秒間維持し、その後20秒間脱力する
⑦腹部:お腹に手を当て、その手を押し返すように力を入れて10秒間維持する。その後20秒間脱力する
⑧足の下側:爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉に力を入れて10秒間維持する。 ⑨脱力する足の上側:爪先を上に上げて足を伸ばし、足の上側の筋肉に力を入れて10秒間維持する。その後20秒間脱力する
⑩全身:1〜9の筋肉すべてに力を入れて10秒間維持する。その後20秒間脱力する
④睡眠制限療法
睡眠制限療法とは、ベッドにいる時間を制限することで、睡眠の質を高める方法です。
眠りが浅い人は、少しでも多く眠ろうとしてベッドで長く過ごします。しかし、どれだけベッドにいても、脳や身体が求める以上の時間は眠れません。本来必要な時間以上に眠ろうとした結果、全体的に眠りが浅くなったり、途中で目が覚めたりしてしまうのです。
そこで睡眠制限療法では、あえてベッドにいる時間を短く設定して、眠りをより深いものにしていきます。
①2週間分、睡眠時間を記録する
②ベッドにいる時間を平均睡眠時間+15分に設定する
③5日間の睡眠状態をチェックし、
・2で設定した睡眠時間の90%以上眠れたら、就寝時間を15分早める
・2で設定した睡眠時間の85~90%眠れたら、就寝時間はそのまま
・2で設定した睡眠時間の85%以下しか眠れなかったら、ベッドに入る時間を15分減らす
この手順を繰り返すことで、脳や身体が求めている時間だけベッドで過ごせるため、ぐっすりと深い眠りにつけるようになります。
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まとめ
眠りが浅い背景には、身体的な疾患が潜んでいる場合があります。また、放っておくことで別の病気を引き起こす危険性もあります。眠りが浅く、つらい状態が長く続いている場合には、医療機関を受診しましょう。。
特に睡眠を専門とする医師を探すには、日本睡眠学会の認定医が診療している医療機関やクリニックがおすすめです。日本睡眠学会のサイトに掲載されている「日本睡眠学会専門医」や「日本睡眠学会総合専門医」で調べることができます。ぜひ参考にしてみてください。
【引用文献】
※2 平田幸一ほか(2021)不眠 睡眠負債・睡眠時無呼吸症候群 不眠症治療の名医が教える最高の治し方大全 文響社
※3 文部科学省(2013)国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明