ブランケット症候群とは一般的に、寝るときなどに毛布やぬいぐるみ、タオルといったお気に入りのものが手放せない行動を言います。ただブランケット症候群という名前ではありますが、病気ではありません。
「大人なのに、夜はぬいぐるみがないと寝られない」「毛布を洗濯しようとすると怒る我が子は何か問題があるのかもしれない」とお悩みの人もいることでしょう。この記事では我が子に対する悩みはもちろん、大人のブランケット症候群についても取り上げています。その特徴や原因、対処法などについて解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
佐々木ゆりさん
公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。
ブランケット症候群の特徴や症状とは?
ブランケット症候群は病名ではありません。一般的に以下の行動が見られることをブランケット症候群と呼びます。
お気に入りの毛布やぬいぐるみ、タオルを手放すと不安になる
毛布やぬいぐるみ、タオルといった本人にとって安心できるグッズがないと不安になることです。本人にとって、というのがポイントで、他の人が見ると、ぼろぼろのタオルや古いぬいぐるみだったりします。持っていると安心、というよりは、それがないと不安な時があり、そわそわしてしまう、ストレスを感じるという状態がブランケット症候群です。
お気に入りの毛布やぬいぐるみ、タオルがないと寝られない
寝る前にお気に入りのグッズを触りながら寝るため、ブランケット症候群の人はお気に入りのグッズがないと眠れないということがあります。大人になると寝る姿は家族以外あまり見かけないですよね。自分以外にブランケット症候群の人がいるかどうか心配になるのも当然の心理です。
触感やにおいで安心したいから洗濯されるのがイヤ
安心するポイントは手触りや匂いのことが多いブランケット症候群。手触りや匂いが変わる可能性のある洗濯をいやがる場合があります。「いつも使っているのに洗濯しないなんて」と、家族からちょっと冷ややかな目で見られるため「自分は病気なのかもしれない」と思っているかもしれません。けれど大人のブランケット症候群は決して珍しい行動ではないことは研究結果*1でわかっています。次に説明していきますね。
症状が出やすい年代は幼児期だけど、大人でもあること
ブランケット症候群は母親から離れる時期(離乳時期)から見られる行動です。幼児期に多いのですが、大人になっても、子どものときから使っているタオルが手放せない・ぬいぐるみがないと寝られない人もいます。ブランケット症候群の行動特徴はあまり人に見られない行動ですから、本人が言わない限り誰も知られることはありません。それゆえブランケット症候群は意外と周りに知られていないだけで、大人にも見られる行動なのです。
子どものブランケット症候群の原因とは?
ブランケット症候群は成長過程で見られる行動(移行対象)と関係していますが、成長過程ではなくて、本人の特性である可能性も考えられます。原因を3つあげてみました。
病気ではなく、成長過程の一部
母親から生まれた赤ちゃんが、少しずつ母親から離れていくという成長の中で見られる行動がブランケット症候群です。「症候群」という言い方に、悪いイメージがあるかもしれませんが、病名ではありません。研究によると、文化の違いからブランケット症候群を持っている人の数に差があることがわかっています。アメリカやヨーロッパ圏では、赤ちゃんの時から一人で寝る人が多いことから、ブランケット症候群を持っている人がアジア圏より多いのです。*2ブランケット症候群は親から自立するために、自分で安心できるための工夫と考えましょう。
母親の愛情不足ではない
ブランケット症候群は、しばしば母親の愛情不足と関連付けられることがありますが、実際にはこれは誤解です。
ブランケット症候群は母親から離れる準備、もしくは離れるために、お気に入りのグッズを使って離れている状態です。つまり、母親の愛情が少ないから手放せないのではなく、むしろ自立しよう、自立している状態といえます。
「母親のスキンシップが足りないからぬいぐるみに依存している」と思われるかもしれませんが、むしろ母親から離れて頑張っている姿なので、ブランケット症候群は愛情不足からくる行動とは言えないのです。
発達障害が隠れている可能性も
ブランケット症候群は成長過程の一部ですが、もしかすると「こだわり」の行動である場合もあります。「寝る前の行動が違うと怒る」「やったことがないことにとても抵抗する」といった他の場面でもこだわる様子が見られる場合には、不安障害や自閉スペクトラム症といった発達障害が隠れているかもしれません。
子どもや自分の行動がこだわりかもしれないと気になる人は一度専門家に相談してみるのもよいでしょう。「悩ミカタ相談室」なら、自分の気になっている行動から相談相手を選べます。地域の専門家につながる前に、一度誰かに話しておくことは心の整理になりますよ。
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大人のブランケット症候群の原因とは?
ブランケット症候群が病気ではなく、成長過程に見られる姿であることがわかりました。では大人になってもお気に入りのものが手放せない場合も病気ではないのでしょうか。もちろん大人になっても毛布などが手放せない人もいますが、手放せないこと自体は病気ではありません。しかし他に困っていることがあれば、障害や病気が隠れている可能性はありますので詳しく説明していきます。
大人のブランケット症候群は日常で起こる失敗や辛い時に備えて、一時的な心の避難を求める心理からきている
大人のブランケット症候群を持つ人は、日常の中で失敗や挫折から立ち直るために、休憩地として「いつでも戻ってきていいからね」と励ましてほしいという心理的背景を持っているといわれています*3。日々のストレスが強いゆえに、ブランケット症候群になる、という因果関係は今のところ認められていないようです。むしろ、安心できる場所や存在がいることで励まされ、また日常生活に戻れるブランケット症候群は、自己ケアの1つと言えるかもしれませんね。
ブラケット症候群を持つ人は対人関係の問題を抱えている人とは言い切れない
大人のブランケット症候群と対人関係の問題は今のところ因果関係として認められていないようです。ただし、幼い時に感じた母親への不安がブランケット症候群のきっかけだったという考え方もありますので、小さい時の経験から、今の対人関係に悩んでいる人もいるかもしれません。その場合はブランケット症候群だから対人関係に影響しているのではなく、別の障害や病気について考えてもよいでしょう。
ただし、そのこだわりが「発達障害」や「不安障害」からきている可能性はある
子どものころからのものが手放せない、寝る時のグッズが必要なことは病気ではありません。その一方で、生活をしていく中で他のこだわりがあり、自分が困っていること、難しいと思っていることはありませんか? それは発達障害や不安障害といった障害や病気が隠れているかもしれません。
大切なのは自分が困っているかどうかです。困っているかどうかの判断は人に話すとわかる場合もありますよ。「悩ミカタ」には聞き上手の専門家が在籍しています。匿名やメッセージ相談もできますので、まずは聞いてもらいたい専門家を探してみてくださいね。
ブランケット症候群のセルフチェック
一般的に以下の行動が見られる場合に「ブランケット症候群」と呼ばれています。
- お気に入りの毛布やぬいぐるみが手放せない
- 寝る時にお気に入りがないと寝られない
- 小さい時から同じ物を使っている
- 買い替えることはもちろん、洗濯をすることにも抵抗がある
たくさんチェックがついたからといって、ブランケット症候群は病気ではなく行動特徴なので、深刻に悩む必要はありません。次に対処方法もお伝えしていきますね。
ブランケット症候群への対処法
母親から自立して活動するために、もしくは自立して頑張っている姿がブランケット症候群です。ですが、多くの人がそういった行動について人に話さないため、ずっと気になる人もいらっしゃることでしょう。ここでは人に聞けない対処法について3つ取り上げます。
手放せないことに焦らない。生活に支障がなければ様子を見守る
お気に入りのものがあることで生活できるのはとてもよいことです。アジア圏よりも欧米に住んでいる人の多くがブランケット症候群を持っていた・持っているという研究から、住んでいる文化によっては珍しくないことなのです。ご自身に強い困り感がない場合には、特に対処する必要はないと思われます。
またブランケット症候群を早く改善させたいという気持ちから、子どもから無理に離そうとするのはやめましょう。無理に離そうとすると、さらに不安が増してしまうことがあります。
ブランケット症候群は成長するにつれて自然と改善されますし、子どもにとって必要な過程でもあります。どうか見守ってあげてください。
気になる時は専門家に相談する
ブランケット症候群と思われる行動が気になる場合は専門家に相談してみましょう。発達外来や心療内科といった病院はもちろん、オンライン相談機関も忙しい大人にはありがたい存在です。寝る前以外の様々なこだわりや変化に対する敏感さが気になる場合には、ぜひ一度人に聞いてもらう機会をつくっていきましょう。
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手放せる時はどんな時? 少しずつ時間や物を変えられる場合も
ブランケット症候群を持っている人の中には、手放せる状況がどんなときか自分の行動を観察することで、解決するパターンもあります。
- 誰かと一緒に寝ている時は必要なかった
- ぼろぼろなってしまい手触りが変わったことで、少しずつ手放す時間が増えた
- 気がついたら寝られるようになった
など人それぞれです。自分の行動を振り返りながら、焦らずゆっくりと変化させていってくださいね。もちろん手放せなくても大丈夫ですよ。
まとめ
- ブランケット症候群は病気ではない
- 子どもが多いが、大人でもブランケット症候群の人はいる
- 病気ではないが、不安障害や発達障害が隠れている場合もある
- 生活に困らなければ、焦らなくて大丈夫
- ブランケット症候群が気になる場合は専門家に相談する
ブランケット症候群は、病気ではなく、特定の行動パターンとして理解されるべきものです。幼児期に始まることが多いですが、大人になっても続く場合があります。また生活で困っていない限り、ブランケット症候群は見守っていてよい行動です。ですが、こだわり行動が強い、不安で仕方ない時が他にもある、といった悩みは専門家に相談し、適切なサポートを得るのもおすすめです。みなさんの不安が少しでも和らぎ、よりよい生活につながることを願っています。
【引用・参考文献】
*1 岩﨑 美奈子, 井原 成男 青年期女性の語りにみる移行対象の心理的役割の変遷
手放されない移行対象に焦点をあてて 質的心理学研究第20号 P.136 2021年
*2 王 怡今 青年期以降の移行対象―アニミズム的思考と対人様式との関連から―
臨床心理学研究 東京国際大学大学院臨床心理学研究科 第14号 p.2 2016年
*3 福島 真由、岡本 依子 移行対象の発現とその背景―移行対象の意味― 立正社会福祉研究 第23巻 p.129 2021年
*4 王 怡今 青年期以降の移行対象(その 2)―女性ぬいぐるみ愛好者と女子大学生の比較を通して― 臨床心理学研究 第15巻 p.105 2017年