逃げ癖のある人の特徴や心理とは?4つの改善方法や病気との関係性

「逃げ癖」とは一般的に仕事や人間関係で困難に直面すると、すぐに逃げ出したくなることと考えられています。国立精神・神経医療研究センターによれば「逃げ癖」からくる「回避行動」、つまり「自分はダメだ、自分が嫌だ」「最近うつっぽい気がする」という状態について、多くの40代、50代が悩んでいることがわかっています。ただ、そんな状態を改善したい、克服したいと考える人も少なからずいるはずです。

そこで今回は、「逃げ癖」は人間がそもそも持っているスキルであると考えて、「逃げ癖」のある人の特徴や向き合う方法などを解説します。では早速、皆さんが自分らしく「逃げ癖」を理解し、より充実した人生を送るためのヒントを見つけてみましょう。

執筆者

佐々木ゆりさん

公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。

目次

逃げ癖とは嫌なことから逃げてしまう、もしくは逃げようと思うことを繰り返すこと

逃げ癖は医学用語ではありません。一般的には「嫌なことや面倒なことなどから逃げてしまう、もしくは逃げようと思ってしまうことを繰り返すこと」と考えられています。

その一方で、逃げ癖は「私なことから逃げよう、もしくは逃げようと思ってしまうこと」と「繰り返すこと」はそれぞれ別の問題と考えることもできるのではないでしょうか。1つずつ取り上げてみますね。

嫌なことから逃げるのは人間の本能

人間には危険やどうしようもない状態になった際に「逃げる」か「闘う」かの準備をする生き物であるのをご存知ですか。これはアメリカの生理学者ウォルター・キャノンによる考え方で「情動の中枢起源説(キャノン=バード説)」とよばれています。

そもそも人間は自分にとって危険だな、どうしようもないぞと思ったら、逃げる(もしくは闘う)になってしまう生き物だとしたら、逃げ癖は人間として当たり前のことだと思えるかもしれませんね。

繰り返すことで定着することも人間のスキル

人間は行動を繰り返すことで、その行動が定着する生き物です。その代表的な理論は「オペラント条件付け」とよばれる、行動と結果の関係によって行動が定着したりしなかったりするという考え方や、反復強化といって繰り返すことで、よりその行動が定着することなどがあります。


同じことを繰り返すことはちっとも悪いことではなく、むしろ人間にとって必要なスキルです。その一方で、自分にとって必要でないことも、繰り返すことで自分に定着してしまうこともありますし、定着に時間がかかる人もいることでしょう。ひとりひとり、繰り返してしまう内容が異なるのも、同じ人間はいない、という証明にもなりますね。

逃げ癖がある人は実は今、とても苦しい可能性が

逃げ癖がある人は「今は自分にとって危険で、どうしようもない状況である」と感じている可能性があります。ここでは逃げ癖のある人の特徴を4つ取り上げてみました。

安心できるパターンが少ない

逃げることは、危険やどうしようもない状態の時に発動する人間が持っているスキル(回避行動)です。「逃げたい」「やりたくない」と思ってしまうのは、その状況はとても自分にとって危険だ、と恐れてキャッチしているからと考えると、そもそも自分が安心できるパターンが少ないため危険だと思いやすい、と考えることができます。

物事を嫌だと感じやすい状態

人の顔色を伺うことが多い、小さな変化も気になってしまうといった、刺激を受けやすい人も「これはいつもと違うから危険かもしれない」と考えやすいのではないでしょうか。

最近はHSP(とても敏感で刺激を受けやすい人)が話題になっています。HSP傾向がある人も物事を嫌だな、と感じやすくなりますよね。よく眠れていない、肉体労働や長時間労働で疲れている、責任のある仕事が多いといった状況も、自分にとって安全な状態を求めている可能性があります。心身のストレスは物事を私だと感じやすい状況、つまり「逃げたい」と思いやすい状況ではないでしょうか。

記憶の保持が困難である

人間は経験したことがないことについては、多少なりとも緊張するものです。何度か経験すると「ああ、またこれだよね」と対処しやすい人は多いのではないでしょうか。ですが、もともと記憶することが苦手な人は、いつも対処方法をその時に考えなくてはいけません。それゆえ、日常生活で疲れを感じることが多くなり、それゆえ危険だと思う機会も多いはずです。自分の記憶について気になる方は精神科などで検査することもできますよ。

物事を整理することが苦手

人間には「実行機能」といって物事を順番にする時、その順番を決めるためのスキルがあります。タスク管理や机上整理といった、いろいろなことを整理して順番にすることが苦手な人は、何かに対応しなければならない時に、スムーズにできない様子がみられます。そういった経験が重なると、だんだん仕事やプライベートで前向きに取り組みにくくなることが考えられます。

逃げ癖の原因には病気や障害、親など周囲からの影響がある

逃げ癖は自分が弱いからあるもの、と思い込んでいませんか? 逃げ癖の原因は自分以外にもあります。ここでは主に3つの原因について取り上げて説明していきますね。

うつ病、もしくはうつ病の傾向がある

うつ病の症状に「考えることや集中力の低下、ものごとを決めかねる」「気力がない」「罪責感」があります。まさに「逃げ癖」と似ていると思いませんか?

 「自分には逃げ癖がついている」と思っていたのに、実はうつ病やうつ病に近い状態だったということもありうるわけです。うつ病は早めに自分にあった治療で良くなる病気です。かかりつけの病院で相談にのってもらうこともできますので、思い当たる人はぜひ医師に聞いてみましょう。

自閉スペクトラム症などの発達障害や不安障害を持っている

「物事を整理する苦手さ」や「周りからの刺激を受けやすい」といった特徴は自閉スペクトラム症の診断基準の1つです。またADHD(注意欠如多動症)や不安障害の特徴も、逃げ癖と重なります。「やろうとするとなぜかやる気がなくなってしまう」「やりたいのに色々心配してしまって前に進めないことが多い」、こういった行動が気になる人は精神科や心療内科などを訪ねてみると良いでしょう。

子ども親や先生などの影響

幼い時に受けた「なんでもやらないとダメ」「逃げるな、戦え」といった親や先生からの言葉が強く残っている場合があります。

大人はもちろん子どものためを思って声をかけていることがほとんどなのですが、中には大人の都合だけでそういった「逃げるな」という言葉を使っていたかもしれません。

こういった体験や環境から「なんでもやろうとしない自分はダメだ」「戦わない自分は逃げている」という自分に対する思い込みが生まれている可能性があります。大人から受けた影響も逃げ癖の原因になるのですね。責任感が強いのはいいことですが、強すぎると「自分の手に負えない」となり逃げてしまう、投げ出してしまう、ということはよくあるものです。

逃げ癖があると、うつ症状の悪化、さらに逃げ癖がつく可能性も

逃げ癖は人間にとって必要なスキルではありますが、原因はいくつか考えられることがわかりました。では逃げ癖はそのままにしておいてよいのでしょうか? ここでは逃げ癖のデメリットについて説明していきます。

自己嫌悪に陥りやすい

「逃げ癖を治したい」と思っていることは前向きでよいことです。その一方で「自分には逃げ癖があって、それを改善できていない。そんな自分はますます逃げ癖がついてしまう」と自分についてネガティブにとらえ、自信がなくなっている可能性もあります。自分のことが嫌いになりやすいと、活動するたびにネガティブになり、いろいろなことが楽しめないのではないでしょうか。

病気や障害といった、自分にとって辛い状態が続く可能性がある

逃げ癖だと思っていたが、実は「うつ症状」や「不安障害」「発達障害」だった場合もあります。「これは逃げ癖だ」と思い込み、今の自分にあわない方法ばかり試していると、自分がどんどん辛くなることでしょう。辛い状態が続くことは、精神的な疲労はもちろん、肉体的なダメージ(頭痛やめまい、腹痛など)にも繋がります。

「うつ病かもしれない」「自分は発達障害かも、と気になっている」人は、ぜひ一度精神科や心療内科を受診してみましょう。一度、「悩ミカタ」相談室で自分の症状を整理してもらうこともよいかもしれませんね。

まわりと関わる機会が減ることで、より逃げたくなることが増える

逃げ癖は自分にとっての安全を守ろうとする行動です。自分を守ろうと、いつも同じ行動を選びがちになりますので、関わる人も限定的になっていくことでしょう。

まわりと関わる機会が減ることは、今までとは違うパターンに出会う可能性が減ります。するとますます、いつもと同じではないことに対して不安になっていくことが考えられますよね。逃げることは人間の本能的なスキルではありますが、それが働きすぎるのも辛い状態といえましょう。人間関係をうまく築けなくなる、ということもあるでしょう。

逃げ癖があっても大丈夫。改善する方法は相談しながら、自分をみつめることと、きっかけを少しだけ変えること

逃げ癖は人間にとって必要なスキルですから、うまく付き合っていきたいものです。ここでは、逃げ癖を改善、克服する方法、コツをご紹介します。

逃げ癖が悪いことだと思い込まない

逃げ癖は人間が生き残るために必要なスキルでもあります。「なんでもきちんとやらないといけないのに、私はいつも逃げてしまう」と、マイナス思考に陥る必要はありません。そもそもあなたが逃げていると判断しているのはどういった理由からなのでしょうか。もしかしたら、あなた以外の人があなたと同じ状況になった時、あなたと同じ「逃げる」人の方が多いかもしれません。「逃げたいほど自分は疲れているのだな」「これは自分にとってどうしようもないと思っていることなのだな」と自分を守ってあげることが大事です。

逃げ癖が始まるきっかけを見つける

「逃げ癖ができている」と感じているなと思ったら、どんなことでそう思うのか状況を書き出してみるのもおすすめです。ここではビジネス場面とプライベート場面の例を取り上げてみました。

【私が逃げたくなること:会議の書類を作る時に逃げたくなる】

ここで大切なのは「逃げたくなる会議の書類」とはどういった書類なのか、もう少し細かく自分を観察してみることです。

  • あまり関わったことがない人が参加する会議の書類?
  • 自分があまり関わっていないプロジェクトの書類?
  • 大量の資料をまとめなくてはいけない書類?
  • そもそもパソコン操作をすることが苦手だからやりたくない?
  • 忙しくて書類をつくる時間が確保できそうにないから?

また、書類を作る時、どんな時は逃げないのかもふりかえってみましょう。

  • 図表をつくるのは好き
  • チーム内の書類は自分から提案することがある
  • A4用紙1枚ぐらいで終わりそうな書類はとりかかれる
  • もうフォーマットが決まっている書類ならスムーズ
  • あまり忙しくない時の書類作成は好き

【私が逃げたくなること:掃除】

ここでも大切なのは「どんな掃除の時に逃げたくなるのか」ということです。少ししんどいかもしれませんが、自分の行動を振り返ってみましょう。

  • 掃除をしようとするといつもスマホをみてしまってできない
  • 掃除機? トイレ? お風呂場? あまり普段掃除しない場所?
  • 土日の掃除は家族が私な顔をするから、気が重たい
  • どうせ汚くなると思うとやる気がでない

また、どんな掃除だったら逃げないのかも振り返ってみましょう。

  • 推しグッズはいつも綺麗に整頓されている
  • 家族がいないときは自分から掃除ができる
  • もともときれいなところは掃除しやすい
  • インスタなどで気になるインテリアを見つけた、新しいお掃除グッズがあると掃除をすることがある

他にも…

  • 人前にでることをなるべく避けてしまう
  • 家事をしなければならないのに、いつもできない

といった「逃げ癖」があるかもしれません。ぜひ、自分の行動の前後をメモにとって、自分を振り返ってみてくださいね。

今までとは違う考え方や行動をしてみる


逃げ癖のきっかけがわかったところで、そのきっかけが繰り返し起こらないように毎日の工夫をするのも1つの手段です。もしかしたら「それこそ逃げ癖ではないか」と思われるかもしれませんね。

ですが、自分にとって「危険だ」「どうしようもない」ことばかりしていては、あなたの時間や気持ちがどんどんすり減ってしまいます。すり減ることが続くことは、うつ病などの原因となり、さらに自分を傷つけてしまうことでしょう。逃げ癖のきっかけを、違う方向にシフトする方法をあげておきますね。

ビジネス場面

  • 会議のまとめは最初にAIで文を作ってもらい、そこから組み立てていくようにする
  • できた書類は直接もっていくのではなく、メールでやりとりするようにする
  • おなじような仕事の流れがあるか他の人に聞いてみる
  • 部署異動や転職を検討してみる

プライベート場面

  • やりたいことをメモに書いて、優先順位を家族に確認してもらう
  • 家事代行など、苦手なことはプロにお願いする
  • 常に完璧を求めないように意識する(もしかしたら自分が自分に対して高いレベルを求めている可能性があって、そこから逃げたいと思うこともあります)
  • 生活の流れを少し変えてみる(お皿洗い→床掃除、だとやる気にならないから、床掃除→お皿洗いにしてみるなど)

相談する

大人になって意外と難しいのが「自分のこと」を誰かに相談することです。人間は社会的な集団を作って生きる生き物で、誰しも相談するスキルを持っています。それなのに、大人になればなるほど、自分のことを話さなくなっていませんか。

自分にとって解決したいことを誰かに聞いてもらうだけでも、ポイントが自分の中で浮かび上がり、解決につながります。「悩ミカタ相談室」はそんな大人に向けた、お悩み相談ポータルサイトです。逃げ癖だけではなく、その他のあまり人に言えないことも匿名で、信頼できる専門家に相談できます。ネットで簡単に予約ができるのも「悩ミカタ相談室」の魅力です。

まとめ

逃げ癖は人間がもつ本能的なスキルから生まれるものです。その一方で、逃げ癖には「うつ病」「発達障害」「不安障害」といった病気や障害が隠れている可能性もあります。

自分がどのような時に逃げ癖が出てしまうのか振り返り、誰かと相談しながらちょっとずつ逃げるきっかけを変えていくことが逃げ癖の改善に繋がります。大切なのは自分を見つめてあげること。この記事が、逃げ癖に悩むみなさんにとって人生を豊かに、より幸せに生きていくきっかけになれば嬉しく思います。

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