産後クライシスとは?症状やなりやすい人の特徴をチェックし夫婦の危機を回避しよう

「気付いたら夫婦仲が悪くなってしまった…」
「産後夫へのイライラが止まらない、妻の考えていることがわからない」

子どもが生まれてから夫婦仲が良くないのは、産後クライシスが原因かもしれません。また、産後クライシスになると元のように良好な夫婦関係に戻れないのではないかと思う方もいるでしょう。

この記事では、助産師の石田亜紀さんが13年の経験のなかで見てきた夫婦の問題から、産後クライシスの症状や原因、対処法などを紹介します。

執筆者

助産師

石田 亜紀さん

「その方、その家族の持っている力を最大限に引き出し、寄り添い切ること」をモットーに、助産師として13年間母子やその家族の支援に従事。女性特有のホルモンバランスの変化など自分でコントロールするのが難しいことに対して、原因や対処方法を正しく知った上で、自分だったら・私たち夫婦だったらどのように乗り越えられるかをサポートしています。

目次

産後クライシスとは

産後クライシスとは、出産後から2〜3年の間に起こる夫婦関係の危機的状況のことです。出産直後から、家庭では答えのない育児が始まります。しかし、産前に期待していたような夫婦で協力し合う育児ができない現実が突きつけられることで、少しずつ夫婦の間に溝が生じます。

具体的には、出産後に夫婦での喧嘩が絶えず、「いつの間にか口を聞かなくなってしまった」、「家庭で上下関係ができてしまった」、「お互いに本音を話さなくなった」といったことも起こります。

出産後に夫婦仲が悪化する現象は、古くから言われていましたが、2012年にNHKのテレビ番組での夫婦仲の特集をきっかけに「産後クライシス」が広まり、夫婦関係の悪化が注目されるようになったといわれます。

多くの夫婦が経験する一時的な危機ですが、適切に対処しないと取り返しのつかない結果になりうるのが産後クライシスです。産後クライシスを防ぐためには、妊娠中からの赤ちゃんに対する夫婦での関わりや出産直後のお互いの関わりが重要です。

産後クライシスの症状と産後うつの違い

産後クライシスと産後うつはどちらも出産後に起こる問題です。産後クライシスは夫婦間で起こる現象であり、病名ではありません。産後うつは精神的に不安定になることで起き、治療が必要です。

以下の表で特徴を見比べてみましょう。

産後クライシス産後うつ
・夫がやること全てにイライラする
・感情がコントロールできず攻撃的になる
・夫婦の会話や時間が苦痛になる
・夫への愛情が冷めたように感じる
・妻がいつもイライラしているように見える
・妻の機嫌が気になり家でくつろげなくなった
・妻と子どもの輪に入れず、家で孤独に感じる
・些細なことでイライラする
・涙が急にでてくる
・食欲がない、食事がとれない
・憂うつであり気分が落ち込んでいる状態が長く続きひどい場合
・意欲が低下する
・不眠または睡眠をとりすぎてしまう
・強い倦怠感
・集中力が低下する
・気力がわかない
・自分を必要以上に責める
・自分を傷つけたくなる

産後クライシスと産後うつの症状は似ていることがわかります。どちらも共通して精神的な不安定さが根底にあるためです。
マタニティブルーや産後うつが発生すると、産後クライシスの要因を抱えた状態になるとも言えます。

産後クライシスの3つの原因

夫婦関係の悪化は突然起こることも珍しくなく、悪化する理由は大きく分けて3つです。妊娠・出産による影響だけではなく、子どもに対する価値観の違いや夫婦の関係も鍵となります。

産後クライシスに陥る3つの原因を解説します。

1.産後のホルモンの変化 

臨月の女性ホルモンの量は妊娠前の約100倍に増えます。精神的に不安定になるのは、100倍にも増えた女性ホルモンが、出産し胎盤が剥がれるのを機に急降下するためです。

PMSと言って生理前にイライラするなど、精神的に不安定になった経験のある方はイメージしやすいかもしれません。産前産後はPMS以上にホルモンの変化が大きいため、感情のコントロールが難しくなります。

出産による急激なホルモンの変化に、産後の睡眠不足や漠然とした不安が加わることで精神的に不安定な状態になります。

2.出産・育児によるライフスタイルの変化

期待と不安を抱えながら育児を行う生活は、これまでの夫婦だけの日常から一変します。なぜなら、赤ちゃんは何かあるたびに泣き、親を求めるからです。

一般的に赤ちゃんの授乳間隔は3時間と言われていますが、実際は3時間も授乳間隔があけばよい方です。特に生後3ヶ月までは母乳でもミルクでも赤ちゃんの飲むリズムがつきづらいため、母親が一人で育児をしながら休息できる保障はありません。

夫婦ともにライフスタイルの変化に直面し、対応が求められます。しかし、夫婦に温度差があると夫婦関係の悪化の原因になってしまうのです。

3.夫のサポート不足

夫から育児に協力する姿勢が感じられないと、母親は自分だけが大変な思いをしながら育児していると感じ、不満を抱いてしまうこともあります。育児をする上で、夫に対して子どもの成長を感じたり、不安を共有し一緒に悩んだりしてほしいと思うのは自然な気持ちです。

夫の育児参加の時間が短かったり、妻の想定するような育児や家事ができていないと「夫は育児をする気がない、一緒に考えてくれない」と相談することすらやめてしまうケースもあります。そのうち、ストレスを溜め込んでしまうでしょう。

夫の協力的な姿勢がなければ、夫婦の関係が危機に陥ってしまうこともあります。

産後クライシスになりやすい人の特徴は?

夫婦仲が良いからと言って、安心とは言えません。産後クライシスに元々の夫婦の仲の良さは関係ないとも言われています。

産後クライシスになりやすい人には、性格や考え方、それまでの生活スタイルに傾向があります。夫と妻の特徴を以下に記載していきます。

夫の特徴
  • これまで家事をしてこなかったが妻に指摘されたことはない
  • 一人暮らしの経験がなく、家事と言ってもよくわからない
  • 仕事から帰ってきたらまずゴロゴロしたい
  • 妻の手料理が好き、妻の作るお弁当が好き
妻の特徴
  • 力の抜き方がわからない
  • できることは全部自分でやればいいと思っている
  • 夫にはなるべく休んでもらいたいと思っている
  • 完璧主義な傾向にある

あくまで、上記は産後クライシスの夫婦によく見られる傾向です。産後クライシスになりやすい特徴が自分に当てはまったとしても、夫婦の協力や思いやりの姿勢があれば産後クライシスを未然に回避したり乗り越えたりすることができますよ。

夫婦で実践!産後クライシスを未然に防ぐ回避方法

産後クライシスは、夫婦での育児に対する思いや価値観の差を埋めることで未然に回避できます。そうした意味で産後クライシスは、実は出産前から始まっていることが多いといえるのです。

妊娠を通して女性は「母親」という意識を早い段階で持てますが、男性の多くが「父親」の意識が芽生えるまで時間を要します。出産までの間に子どもに対する思いの差が縮まれば、産後クライシスを未然に回避することができるでしょう。

出産前に実践してほしい、夫婦で一緒にできる対策について解説します。

妊婦健診は夫婦で一緒に行く

出産直前だけではなく、妊娠初期から夫婦2人で妊婦健診を受けることをおすすめします。妊婦健診では、お腹の赤ちゃんの健康状態はもちろん、これから起こりうるリスクや書類などの手続きについても説明されます。

夫が率先して説明に対して聞く姿勢を見せれば、妻も安心できます。実際に産後クライシスに陥っている夫婦を見ると、夫は育児が始まらないと何もできないと思っていたり、赤ちゃんの成長を一緒に喜んでいる様子が感じられなかったりすることがあります。

妊娠から育児までの不安や楽しみを夫婦で共有することで、妻は孤独を感じることなく安心して産後を過ごすことができるでしょう。

両親学級へ参加する

自治体や病院などでは、妊娠中の方とパートナーの方を対象に両親学級が数多く開催されています。両親学級では、夫婦でどのように協力して育児をすればよいかについても説明されるので、夫婦で参加することによって「育児を一緒に頑張ろう」と前向きになることができるでしょう。

例えば、両親学級で多いのが「沐浴体験」です。沐浴体験では、赤ちゃん人形を用いて沐浴のやり方や手順を実際に体験します。そもそも赤ちゃんを抱っこしたことがない夫婦の場合、赤ちゃん人形を抱っこするだけで笑顔になることもあります。沐浴実習をすると、実際の手順を体験しながらどこで協力すればよいかがわかります。

両親学級に参加することで育児の模擬体験ができ、これから始まる育児でどのように協力していけばよいかを夫婦で知ることができるのです。

夫が積極的に育児に参加する

「夫は子どものことをちゃんと考えてくれていない」と妻が感じる理由の多くは、夫の育児参加が少ないことです。夫が日頃から育児に積極的であれば、子どもに関する不安などが生じた時にすぐに相談できます。

夫が仕事をしていれば、多くの場合妻の方が子どもと向き合う時間は長くなります。夫がいない場面で困ったことが生じた時、妻はなんとかして問題を解決するよう情報を検索したり、ときには自分から周囲に相談したりするでしょう。

しかし父親の場合、まず母親に「これってどうしたらいい?」と聞くケースは多いでしょう。こうした姿勢に対し母親が不満を抱き、困ったことがあっても夫には相談しなくなるというケースも少なくありません。

夫が積極的に育児参加をすることで、「育児を手伝う人」から「一緒に育児をする人」に変わり、育児について相談し合える夫婦関係になります。

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【妻向け】産後クライシスかもと感じたときの対処法

産前産後を通して夫への不満がつのり、些細なことでイライラしてしまうことがあるかもしれません。しかし、一人で悩んでいる時間はもったいないです

自分自身が夫に対して何を不満に思っているかを知ったり、夫婦でどのように育児に取り組めばよいか理解したりすることで、悪化した夫婦関係も改善に向かいます。

なぜ夫にイライラしているか分析する

夫に対してイライラするなと思ったら、なぜイライラしているのか分析してみましょう。夫に不満を伝えるときに、冷静に客観的に伝えることができます。

「夫がお皿を洗ったのに汚れている」というのはよくあるエピソードです。もちろん、お皿が汚れていることに対して不満があります。しかし、他にももしかしたら友達の夫のイクメンぶりを聞いて、自分の夫と比べてしまっている、ということも要因かもしれません。

「出産前だったらイライラしていたか」を自分に問いかけて考えるのがおすすめです。もしも理由が思いつかなければ、「ホルモンバランスが原因」と自分に言い聞かせるのと同時に夫へも伝えるとよいです。

不安や不満を伝える

気持ちを落ち着かせてから、不安や不満に思っていることを夫に伝えましょう。多くの場合、夫は妻がイライラしているとは感じるものの、なぜイライラしているかの原因まではわかりません。その結果、同じことを繰り返し、ますます妻の機嫌が悪くなる悪循環に陥ってしまいます。

ホルモンバランスの影響で不安になりやすい前提があることを説明し、理解を求めた上で不安や不満に思っていることを伝えてみましょう。

こうしてほしいという理想を、もしかしたら夫へ押し付けているかもしれません。「できればこうしてほしい」など相手を認める伝え方がおすすめです。言葉を選びながら不安や不満を伝えると、夫も理解しやすいです。

一人の時間を作る

赤ちゃんが寝ている時であれば、母親の心が休まるわけではありません。育児には正解がないため、布団の中でSNSから情報収集するなど、不安で寝つくのに時間を要する母親もいます。

夫に子どもをみてもらい、自分の時間を作ってみましょう。いきなり長時間任せると、夫の心が折れてしまうことがあるのでまずは短時間から始めます。

例えば、最初は授乳を終えてから次の授乳になるまでの時間を夫にお願いする、短時間をなんとか過ごすことができれば、夫の成功体験となり次はもっと長い時間を一人で過ごすことができます。

心配かもしれませんが思い切って子どもを預けて一人の時間を過ごし、気分転換をしましょう。気持ちをリフレッシュできるのに加えて夫への感謝が生まれ、良い夫婦関係の構築に繋がります。

サポート体制を見直す

夫婦2人だけで頑張らず、いろいろなサポートを受けましょう。出産の後は休まる暇もなく育児が始まり、妻は24時間の育児、夫は仕事と育児をこなす生活へと変わる家庭も多いものです。

出産後すぐは、夫婦で頑張ろうと思えるかもしれませんが、疲労は蓄積します。子どもの成長はもちろん嬉しいですが、不安も増えていきます。夫婦2人の負担を軽くするためには、地域でのサポートやサービスについて調べてみるのがおすすめです。

「地域で子育て」を掲げるところも多く、預け先や困った時の相談先を確保し、夫婦で育児を頑張る方も多いです。

【夫向け】産後クライシスかもと感じたときの対処法

産後クライシスは夫婦で乗り越えることが必要です。まずは妻の状況を受け入れ、理解することから始めましょう。中には出産前後での妻の変化についていくことに苦労する方もいます。前述の通り、産後は自分で感情をコントロールすることさえ困難であることが多いものです。

夫の協力や思いやる姿勢が妻に伝わることで、夫婦関係の改善につながります。少しずつではありますが、効果を感じることができますよ。夫側の対処法を3つ紹介します。

妻とのコミュニケーションの時間を作る

産後クライシスの解決方法として、夫婦間の会話が有効です。産後いつの間にか妻が変わってしまった、夫がそんなふうに感じて夫婦のコミュニケーションの時間が減っている夫婦は珍しくありません。

夫婦の時間を作ることで、今妻は何に困っているのか不安に感じているのかを理解することにつながります。

産後は漠然とした不安や、すぐに答えがでない悩みを抱える母親が多いので、無理に解決しようとせず聞き入れる姿勢を示すことが大切です。育児や家事で疲れている妻に話しかけるのは躊躇するかもしれませんが、コミュニケーションをとってみましょう。

自分にできることを実践する

家事や育児を実践してみましょう。特に第一子であれば、初めての育児であることは妻も同じです。

実践してもすぐにうまくいくとは限りません。ですが、やってみないと成功体験を得ることもできません。育児は、母乳を直接与えること以外であれば、夫にもできます。
泣いている子どもを抱っこしている妻に「自分が抱っこするから少し横になって」と声をかけてみましょう。

産後クライシスに陥っている状況では「自分でやる」と頑なな妻も多いですが、一緒に育児をしようという思いが行動となり、関係の改善につながるので、妻の様子を見ながら実践してきましょう。

仕事の調整をする

今の働き方で、育児に積極的に参加できているか振り返ってみることも大切です。仮に朝から晩まで働きづめでは、育児に参加することは難しいでしょう。

近年は、男性の育児休業が推進される流れができ始めてます。また、長期の育児休暇の取得が難しいとしても、会社によっては特別休暇などの制度を設けていることがあります。有休休暇を消化しづらい場合は、出産を機に思い切って上司に相談してみましょう。

育児が始まると家族の生活スタイルも変わります。変化に適応できるように働き方を見直すことも大切です。

産後クライシスが離婚につながりやすいケースって?

産後クライシスをきっかけに関係が悪化して、離婚してしまう夫婦もいます。正しい対処をせずにいつか状況が良くなるだろうと思っていて、気づけば夫婦関係が破綻していたということにもなりかねません。

産後クライシスの弊害として、風俗の利用や不倫があります。産後クライシスで夫婦間の不満が募り、不倫してしまうケースは少なくありません。また、育児を放棄したりDVやモラハラが発生することもあります。

産後クライシスの原因を理解し対処することで、夫婦関係の修復を目指すことができます。そして対処ができれば、お互いが理想とする「夫婦で行う育児」につながります。産後の夫婦の関係性に不安を感じたら上記で述べた対処法を実践してみてください。

産後クライシスは夫婦間の思いやる気持ちとコミュニケーションが鍵

夫婦間で感謝を伝え合いましょう。感謝の気持ちは、「いつもありがとう」など声に出さないとうまく伝わりません。妻は、孤独感を抱えて一人で泣きながら育児をしているケースもあります。そんな時、一番そばにいる夫に助けてほしいと思うでしょう。

一方で、夫は育児をする意欲があっても、何をどうしたらよいか戸惑い行動できないことも少なくありません。

大切なのはお互いが今どのような状況かを理解し合い、不安を打ち明けた上で一緒に頑張りたいと伝え合うことではないでしょうか。

産後クライシスはこれまで仲がよかった夫婦にさえ起こりうる現象です。産後クライシスへの理解を深めて、早めに正しい対処をすることが大切です。夫婦の思いやる気持ちとコミュニケーションで夫婦の危機を乗り越えられれば、より一層家族の絆を強くすることができますよ。

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