これって老眼!? 30~40代の親必見! 今すぐできる老眼対策と予防法

「最近、何となく物が見えづらい」、子どもが「見てみて~」と渡してくれた物が「近すぎて見えない!」。そんなことはありませんか? 30代後半から感じる、「これってもしや、老眼!?」という不安。果たして老眼なのでしょうか。老眼を解消する方法はあるのでしょうか。眼科専門医の林田康隆先生に、老眼について教えてもらいました。

監修者

眼科専門医
林田康隆先生

Y’sサイエンスクリニック 広尾院長・医学博士。日本眼科学会認定眼科専門医。兵庫医科大学医学部卒業。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。眼表面の幹細胞研究に携わる、日本でも数少ない再生医療のスペシャリスト。メディアへの出演も多数、診療・手術に携わりながら最先端医療にも取り組んでいる。著書に『1日1分見るだけで目がよくなる28のすごい写真』『眼科専門医と考えた「測るだけ眼トレ」ブック』(ともにアスコム)など。
写真:Naomi Kawakami

目次

そもそも「老眼」とは? 何歳から始まるの?

老眼とは…

レンズの役割を果たす水晶体の硬化とピント調節を行う毛様体筋の弱化による症状。調節力が低下することで、ピントが合わなくなる状況のことをいいます。医学用語では「老視」。

だいたい、40歳~50歳くらいで「老眼かも?」と感じる人が多く、そのピークは45歳だといわれています。

もともと、人間の目の初期設定は遠くにピントを合わせた状態。人類が狩猟生活を送っていた大昔は、獲物を見つけるために遠くにピントが合うような目の仕組みです。当時の人間にとって、目が悪いことは“死”を意味します。今日を生きるために、獲物を見つけるために遠くを見る力がとても大事だったのです。

そもそもが遠くにピントを合わせる仕組みなため、近くにピントを合わせるためには「毛様体筋」という筋肉を収縮させてレンズの役目である「水晶体」の厚みを調節する必要があります。つまり、近くを見るたびに目の中の筋肉に力が入っているわけです。

読者の皆さんも、スマートフォンやパソコン、タブレットなど至近距離で物を見ることが多いのではないでしょうか。毛様体筋の調節力は年齢とともに衰えていくので、近くを見続ける生活が主体となることで老眼に悩む人の若年化とその数が増えています。若い頃は遠くにピントを合わせているものを難なくグッと寄せることができますが、それが衰えてくると手元まで寄せることができずに“遠ざけないと”見えにくくなるのです。

“視力が良い”人の方が老眼になりやすいって本当?

目に屈折異常がない人を「正視」といい、一般的には近視・遠視・乱視のない“目がいい”といわれる人のことを指します。

目がいい人は、目がリラックスした状態で遠くにピントが合っています。近くを見る時は、ピントをグッと手前に寄せる必要があります。現代人の生活は、手元を見ることが主流。そのため毛様体筋を頻繁に緊張させて目の調節力を使う必要があり、眼精疲労が蓄積してしまいます。調節力は加齢とともに衰えていくので目の疲れは増す一方ですし、老眼も感じやすくなるのです。

“目が悪い”といわれる近視の人は、遠くが見えませんよね。常にピントが手前に合っているので老眼の症状を感じにくいだけで、眼鏡やコンタクトレンズを使用すれば遠くにピントが合う状態になるため、そこから手元に寄せてくるピント調節力が必要になり老眼を感じることになります。

老眼は、全ての人に起こるもの。気付きやすいか気付きにくいかというだけです。

年齢だけが問題じゃない! 人類の目に良くない変化をもたらす3つの行動

現代人の目の使い方で一番の問題は、手元ばかりを見るという偏った目の使い方。偏った目の使い方とは、近くばかりを見る・目を動かさない・まばたきをしないといった行動です。これによって毛様体筋を含めた目に関わる筋肉がこわばります。老眼だけではなく、ドライアイや眼精疲労などの他の目の不調の原因にもなっています。

①遠くにピントを合わせる機会が極めて少ない

日本では、1960年代以降の高度成長期から近視が増えてきました。実際の論文になっているものとして、東アジア諸国で1960年には18歳までの近視率が22.3%前後であったのに、その50年後の2010年には各国で軒並み90%を越えているというデータが出ています。“手元を見る作業が増えると近視化が進む”という論文があるので、いかに人類にとってこの近年の短期間のうちに近くを見る作業が日常的に主体になってきたかが分かります。

目の使い方が変わったのは、長く見てもここ数百年のこと。非常に長い人類の進化の過程で考えれば、数百年というのはものすごく短い期間です。IT革命が起こったのは2000年ですから、極端に手元を見る時代に入ったのはつい最近ともいえます。

人類のこういった目の使い方をする時代が数千年、数万年それ以上と続くのであれば、我々は進化というかたちを取って目はその環境に合ったように仕組みが変わるでしょう。しかしながら、我々はその過渡期を生きています。近視化はあくまでその急激な変化に対応するために、体が後天的に変化をしているだけであり、その代償として失明し得る網膜剥離や緑内障などの目の疾患を合併しやすくなります。飽食の時代を迎えて、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の患者が増えたのと同じ現象です。

②眼球の運動不足

目を動かす範囲が、極端に狭いことも挙げられます。パソコンやスマホ、タブレットでは目を動かす範囲はほんの少しですよね。眼球を動かさないことで、我々は日常生活において有効な視野が狭くなっているといえます。

③まばたきの回数の減少

現代人は、凝視することの多い生活を送っています。何かを集中して見ようとすると、無意識のうちに目を見開きまばたきが減ります。人は1分間に平均20回、3秒に1回のまばたきをしているといわれています。しかし、車の運転・読書・パソコン作業などでは10秒以上まばたきをしないことも…。まばたきが少ないことで目が乾燥してドライアイや表面の炎症が起こるだけでなく、目の緊張状態が継続され、疲労も助長してしまうのです。

「スマホ老眼」は目の調節力の酷使による“労眼”!

近年、若い人に増えつつある「スマホ老眼」。至近距離でスマートフォンなどを見続けることにより、ピント調節ができなくなってしまう状態のことをいいます。

これは完全に造語ですが、個人的にはスマホ老眼の“ロウ”は“老”ではなく“労”であると感じます。若い人でもピントを近くにずっと合わせた状態であれば、筋肉が凝り固まって遠くを見た時にボヤけて見えることはあるのです。

また、スマートフォンやタブレット、パソコンといったデバイスから発するブルーライトに代表される短波長の光は散乱しやすく“チラツキ”などの原因となり目の緊張を促し、目にかなりの負担をかけていることになります。

普通の老眼と違うのは、その原因が加齢に伴う水晶体の硬化ではなくスマホの使い過ぎによる毛様体筋のこわばりが原因であるということ。毛様体筋が凝り固まり疲労している状況で、症状としては目が痛い・疲れやすい・熱いといったものが挙げられます。

私たち現代人の生活は便利である一方、目にかなりの負担をかけているということが分かります。だからこそ、まずは自分の目の健康状態を知ることが大切。次章で、老眼の症状をチェックしてみましょう。

老眼セルフチェック。自分の目の状態を知ろう

もともと“目がいい”といわれる人や遠視の人は、遠くにピントが合った状態であるため老眼に気付きやすいといわれています。「最近、近くのものが見えにくい」というのがよく知られている老眼の症状ですが、他にも症状はあるのです。

次の項目に一つでも当てはまるものがあれば、老眼の疑いがあるといえるでしょう。ただし、これはあくまでセルフチェック。当てはまる症状がある場合は、早めに眼科医の診察を受けてくださいね。

  • 目の前にかざした人差し指の指紋がくっきり見える位置が、30㎝以上ある。
  • 本や雑誌を読む時、無意識に離している。
  • 夕方になると、物が見えにくくなる。
  • 商品表示などの小さい文字が読みにくい。
  • 針に糸を通すなどの、細かい作業が苦手になってきた。
  • 目を使った後、肩こりや頭痛が起こることがある。
  • 近くを見たときに、ピントがすぐに合わない。

老眼は治せる? 30代から始める老眼対策の眼トレ

先述したように、“見る”という行動は人類が生きるために必要だったこと。天気・色合い・光・森の中で敵を見分けたり食べられるものを探したり…。私たち現代人は“見る”という行動の質をもっと意識することが必要です。生活の中で目の使い方を意識することで、その異常に早く気が付くこともできるのです。

僕の著書の読者から、「60歳で老眼が治りました」という手紙をもらったことがあります。この方の場合は極端な例ですので、目の調節力は年齢とともに低下していくものであり老眼にならないようにすることはほぼ不可能といえます。けれど、老眼は目の柔軟性の問題。体の柔軟性と同様にストレッチで老眼の症状を進みにくくさせる、緩和させることは可能と考えます。

本章では仕事の合間時間やスマホを見た後など、簡単に短時間でできる眼トレを紹介しましょう。

目のコリをほぐす「遠近スライドストレッチ」

目の筋肉と水晶体をほぐし、ピント調節力を高める運動です。1日5回セット行いましょう。

  • 親指を立てて手を握り、顔から10㎝話して親指の爪を1秒間凝視します。
  • そのまま腕を真っすぐ伸ばし、親指の爪を1秒間凝視します。
  • 2の親指から視線を外し、2m以上先の対象物を1秒間凝視します。

ドライアイの対策にも。「ギュッとしてパッ! まばたき」

目の周囲の筋肉をほぐす、アイケアのできる運動です。目が疲れているときや就寝前などに行うのもおすすめ。涙がジワッとにじみ出てくるので、ドライアイにも効果があります。

  • 目に力を込めてギュッとつぶり、2秒数えます。
  • 次に目をぱっと大きく開き、そのまま2秒間キープ。これを5回繰り返しましょう。

疲れをリセットする「眼球ぐるぐる運動」

目を閉じ、眼球を右に左に疲れない程度にぐるぐる回して目を開けます。目の屈伸運動になるので、眼球周りの筋肉がほぐれて血行が促されます。

目をいたわる4つの生活習慣で老眼を予防しよう!

先述したように、現代人の生活は目に良くない生活習慣が身に着いてしまっています。日々の行動や癖を大きく変えることはなかなか難しいものですが、老眼を予防するためにも時には「目に負担をかけているな」ということを意識したいところです。

ここでは、目に良い習慣を紹介しましょう。

①自分の“見る力”を意識する

人間の目は、中心部分は良く見えますが周辺視野は曖昧で実はあまり見えていません。

この理由は、見たいものを選択的に見ることが生きていくために大切であるから。どういうことかというと網膜の全て、つまりは視野全体が感度が高いとその情報量はとても多くなり完全に静止しているものがほとんどない外界で生活するにおいては、脳への情報が非常に過多となり処理できません。生きていくために外界の変化が全て見えてしまい、怖くて外に出られなくなります。

そのため周辺網膜(周辺視野)は鈍感、その部分はとても曖昧で見えるには程遠い感度になっています。その視野は脳が補正(補完)をかけることで見えているように錯覚している状態にすることで、必要なところで視線を向けて対象物を認識して危険物を察知して生き抜いていきます。

その周辺視野を脳が補正していることが逆にあだとなり、現代では「歩きスマホ」をする人が多いわけです。見えているように錯覚しているだけで実際には見えていませんからホームから転落したり階段から足を踏み外したり、人とぶつかったりといった事故が発生するのです。

また、目の不調や視覚異常などに気が付くのが遅れる原因ともなり、目の病気の早期発見の妨げになっています。

通勤や移動中の電車・バスの中で、スマホをずっと見続けている人は多いでしょう。時々はスマホから目を離し、外の景色に目を向けましょう。自宅では窓からの景色や観葉植物、風景写真を見るのも良いですね。自然の風景には脳をリラックスさせる効果、目のピント調節機能を改善させる効果があります。

②パソコンやスマホの使い方を見直す

一日の中で、どのくらいの時間をパソコンやスマホに費やしていますか。目の筋肉を緊張させるこれらのデバイスを長時間見続けるのは、目にとってかなりの負担です。

30分~1時間に一度は休憩を取り、3~4m離れた場所に目を向けるようにします。休憩が取れないときは、画面からこまめに視線をずらすようにしましょう。また、画面に集中しているとまばたきが減り、目の周りの筋肉が凝り固まってしまいます。意識的にまばたきを行い、目の血行を促すのがおすすめです。

寝る直前までスマホをいじっているという人も少なくないと思います。中には、照明を消した暗い部屋で見ている人もいるでしょう。けれど、就寝2時間前にはスマホを見るのは控えたいところ。一日の中で目をいたわる時間を作り、緊張状態から解放してあげましょう。

③適度に体を動かす

毎日、適度な運動を行って体全体の血流を良くすることで目にフレッシュな血液が送り込まれて目の健康に役立ちます。

朝起きたら、大きく深呼吸して背伸びをします。首を回したり腕を伸ばしたり、家事や仕事の合間に簡単なストレッチを行いましょう。スポーツや体を動かす機会や時間がない人でも、このくらいであれば気軽にできますよね。

④目に良い栄養素を取り入れる

基本的には朝昼晩、バランスの良い食事を取ることが目の健康につながります。こだわり過ぎる必要はありませんが、目に良い栄養素をいくつか紹介しましょう。

  • アントシアニン
    ブルーベリー・カシス・なすなどに含まれる栄養素。眼精疲労に効果があります。
  • アスタキサンチン
    強い抗酸化作用を持ち、紅サケ・エビ・カニなど赤い色素に豊富に含まれます。老化を進める体の“酸化”を抑えることは、目の健康にも良いのです。
  • ビタミンA
    うなぎやレバーなどに含まれ、色を見る力や薄暗い所での視力維持に関わる栄養素です。
  • ビタミンC
    キウイ・イチゴ・グレープフルーツなどのフルーツに含まれ、水晶体の老化を抑える効果があります。
  • ビタミンE
    アーモンドやピーナツといったナッツ類に含まれる栄養素。ビタミンC同様、目の水晶体の老化を予防する効果があります。

老眼は、誰にでも起こる目の症状。けれど、目をいたわる生活習慣を意識的に取り入れることで、発生や症状の進行を遅らせることは可能です。また、“見えにくさ”を放置していると体全体の不調につながることもあります。「老眼かな?」など気になる症状があれば、早めに眼科医の診察を受けるようにしてくださいね。

老眼・目の健康についてもっと知りたい人は…

林田先生監修の『「測るだけ眼トレ」ブック』。老眼だけでなく、近視・疲れ目・ドライアイ・仮性近視など目の不調や視力悪化の悩みを「測る+鍛える」でスッキリさせる一冊。記事の中で紹介しきれなかった眼トレやアイケアについても、詳しく解説されています。

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