家族にイライラするのは病気なの?原因や4つの対処法を専門家が解説

あなたは、「他人には大丈夫なのに、家族にだけイライラしてしまう」「ついカッとなってしまって、後悔することが多い」「このイライラ、もしかして病気なんじゃないかと不安になる」「家族にイライラされてつらい」などと感じることはありませんか?家族という身近な存在だからこそ、感情が高ぶりやすくなることがあるものです。

そこでこの記事では、家族にだけイライラしたり、キレてしまう原因について解説し、考えられる病気や、効果的な対処法についてわかりやすくお伝えします。

自分の感情をコントロールしたいと考えている方や、家族との関係性に悩んでいる方はぜひ参考にしてください。

執筆者

臨床心理士・公認心理師

あらいひさきさん

大学院修了後、「心穏やかに過ごせるように」という信念のもと企業にて研究員としてメンタルヘルスサービスの開発に携わる。認知行動療法を専門とし、精神科での心理相談にも従事する。うつや不安、職場でのメンタルヘルスや発達障害、不登校など幅広いケースのカウンセリングを担当。

目次

家族にだけイライラする・キレてしまう原因とは?

家族というのは、最も身近で、日常を共に過ごす存在です。そのため、他人と接するのとは違って、期待をはじめとした強い感情が無意識的に表出しやすくなります。

ここでは家族にだけイライラしてしまう4つの原因について、ひとつずつ解説します。

①無意識に期待をしているから

私たちは家族に対して「阿吽の呼吸」「言わなくてもわかってくれる」「こうあるべきだ」と感じやすいものです。こうした「家族だからこそわかってほしい」という思い、つまり期待が強くなると、相手が思い通りに動いてくれなかったときに、イライラしやすくなります。

また、家族に対して「もっとこうしてくれたらいいのに」と感じることが重なっていくと、不満が蓄積し、ついカッとなってしまうこともあります。

期待すること自体は悪いことではありません。しかし、その期待が現実とずれたときに、感情がどのように反応するかに気をつけることが大切です。

②ストレスがたまっているから

仕事や家事、人間関係など、日常生活を送っているとさまざまなストレスが蓄積されていきます。忙しい毎日でストレスがたまっていると、普段なら気にならないような些細なことがイライラの原因になることも。

大事な会社の取引先にストレスをぶつけてしまう人は少ないですが、家族に対しては無意識に感情をぶつけてしまいがちです。なぜなら、家族は「自分を理解してくれる、安全な存在」と感じられるからです。

③家の外で自分を抑えて頑張っているから

家族にだけイライラしてしまう人の中には、職場や学校など外での対人関係において「良い自分」でいようと、無意識に頑張っている人が少なくありません。相手を不快にさせないように、自分の役目を果たせるように、あるいは円滑にコミュニケーションを取れるようにと努力し、自分の感情や不満を抑え込むこともあるでしょう。そういった抑圧された感情が、家族に対するイライラや怒りとして出てくることがあります。

特に、「真面目すぎる」「自分を抑え込んでしまう」「完璧主義」といったタイプの人は、家に帰るとその反動で、感情のコントロールが難しくなりやすいです。普段は気を遣い、感情をコントロールしている分、家族の前ではそのコントロールが緩み、気持ちが爆発しやすくなるのです。

④睡眠不足や風邪で体調が悪いから

精神的なストレスだけではなく、身体的なストレスも、感情をコントロールしにくくする要因となります。特に、睡眠不足や体調の悪いときは、通常よりも感情が不安定になり、些細なことにもイライラしやすくなります。

たとえば、仕事で疲れて帰ってきたときや、風邪を引いたとき、長期間にわたって休養が取れていないときなどは、いつもなら耐えられるようなことでも、家族に対して怒りや苛立ちをぶつけてしまうことがあるでしょう。

家族にイライラすることに関連する病気はある?

感情のコントロールが難しくなる病気や障害があると、特に身近な家族に対して、感情的な反応が強くなりがちです。ここでは、家族に対してイライラすることに関連する5つの病気・疾患を解説します。

①パーソナリティ障害

その人の行動や考え方のパターンが、一般的なものとは大きく異なり、本人や周囲が苦しんでいるような場合に、パーソナリティ障害と診断されます。自己像や感情、対人関係のバランスが崩れ、日常生活でさまざまな困難を引き起こしますが、特に身近な人に対して感情が揺れやすく、イライラや怒りが表に出やすいのが特徴です。

パーソナリティ障害の行動や考え方の例

・周囲からの評価や反応に極端に敏感になり、些細なことでも強く反応してしまう
・小さな誤解や無視に対しても、「自分は見捨てられるのではないか」と不安を抱く
・感情の波が激しく、つい先ほどまで笑っていたのに、急に怒りや悲しみに襲われることがある

パーソナリティ障害にもいくつかタイプがあり、その中でも境界性パーソナリティ障害は特に感情の不安定さが顕著です。境界性パーソナリティ障害の人は「見捨てられ不安」や強い依存心を抱え、愛情と怒りの間で激しい感情の揺れが生じやすくなります。

【境界性パーソナリティ障害の行動や考え方の例】

・愛されたい気持ちが強く、家族やパートナーに対して過度に依存し、離れることを極端に恐れる
・小さなすれ違いでも「自分はもう必要とされていない」と感じ、強い不安や怒りを抱く
・急に攻撃的な言動をとったかと思うと、その直後に「そんなつもりじゃなかった」と後悔し、謝罪や依存的な行動を繰り返す

こうした感情の揺れや行動が、家族との関係を不安定にし、頻繁なイライラや急な怒りの爆発につながることが多いです。

②発達障害

発達障害の中でも、ADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)の人は、以下のような理由から家庭内でイライラしたりキレたりしやすくなることがあります。

ADHD(注意欠如・多動症)

ADHDの人は、衝動的な行動や不注意がみられることが特徴です。そのためストレスや不満を感じると、怒鳴ったり相手の話を聞かずに話し出してしまったりと感情的に反応することがあります。

ASD(自閉スペクトラム症)

ASDの人は、コミュニケーションの難しさやこだわりの強さがみられることが特徴です。そのため暗黙の了解を理解したり、コミュニケーションで微妙なニュアンスを察したりすることができず、すれ違いや衝突が生じやすくなります。また、こだわりも強いため自分のペースを乱されて強い苛立ちを感じることもあります。

③うつ病

うつ病の主な症状は憂鬱な気分や無気力感ですが、攻撃的な感情が強く現れることもあります。その結果、家族に対して怒りっぽくなったり、些細なことでもイライラしてしまうことがよく見られます。

④適応障害

適応障害は、ストレスフルな出来事や環境の変化によって心身のバランスが崩れ、うつ病のような症状を呈する疾患です。落ち込みや意欲の低下に加えて、イライラや怒りっぽさが出てくることがあります。

⑤双極性障害

双極性障害は、エネルギッシュでハイテンションな躁状態と、鬱々とした気分が続くうつ状態が交互に現れるのが特徴です。

躁状態のときには感情が高ぶりやすく、ちょっとしたことで怒りが爆発することがあります。うつ状態のときも、うつ病と同様に感情が不安定になり、家族に対してイライラをぶつけてしまうことがあります。

家族にイライラしてしまうときの対処法

ここでは、イライラを軽減するための4つの対処法を紹介します。

①アンガーマネジメントをする

怒りの感情に振り回されず、冷静に対処するためには自分の感情を理解し、調整するスキルが必要です。これをアンガーマネジメントと呼びます。具体的には以下のことを試してみましょう。

【ステップ1】アンガーログをつける

まず、自分がどのような状況でイライラしたのかを記録する「アンガーログ」をつけてみましょう。自分の感情のパターンを客観的に見ることで、どのような時にイライラしやすいのかを把握することができます。また、その際にイライラの程度を10段階で数値化すると、怒りの強さを把握しやすくなるため効果的です。

【ステップ2】自分の思考を観察する

次は、アンガーログをもとにイライラの原因を振り返ってみましょう。「なぜこの状況でイライラしたのか?」「何に腹が立ったんだろう?」「そう思ったのはどうして?」と自分に問いかけ、感情の背景にある思考を観察しましょう。

このように思考を言語化し整理していくことで、感情と心理的な距離をとることができ、コントロールできるようになっていきます。

【ステップ3】距離を取る

イライラしているときに、それを抑えるのは簡単ではありません。そのようなときは物理的な距離を取ることも有効です。少しその場を離れて深呼吸をし、頭を冷やす時間を作ることで、感情の嵐が過ぎ去り、冷静に状況を見つめ直すことができるようになるでしょう。

②期待するのをやめる

家族に対して無意識に何か期待をしていると、その期待が裏切られた時に怒りが湧き上がります。

これを解消するのには、まず「自分が相手に対して何を期待しているのか」に気づくことが大切です。その次に、意識的に「期待しない」という選択をしてみましょう。

あるいは、期待している行動を言葉で伝えることも効果的です。「こうしてもらえると助かる」といったように具体的な行動を相手にお願いすることで、コミュニケーションがスムーズになり、誤解や期待のズレが解消されます。

③ストレスをためない

ストレスを溜め込むと、どうしてもイライラしやすくなってしまいます。以下の方法を取り入れて、こまめにストレスを発散しましょう。

休息を取る

忙しい毎日でも、定期的に休息を取ることが大切です。散歩をしたり、趣味に没頭したりすることで精神的にもリフレッシュできます。

体を動かす

運動はストレス発散に効果的です。軽いジョギングやストレッチなど、体を動かすことで心身がスッキリし、ストレスを和らげることができます。特に屋外での活動は、気分をリフレッシュさせる効果が高いです。

リラクゼーション法

深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を日常に取り入れることで、心が落ち着き、ストレスへの耐性が高まります。特に深呼吸は、イライラを感じた瞬間にすぐできる対処法として効果的です。

④アイメッセージを使う

感情を抑え込んだり、逆に攻撃的にぶつけたりするのではなく、相手のことも自分のことも尊重して適切に自己主張を行うコミュニケーションの方法を「アサーション」と呼びます。コミュニケーションが原因でイライラが生じる場合、アサーションは特に効果的です。

アサーションを実践するために有効なのが「アイメッセージ」です。アイメッセージは自分を主語にして感情を率直に伝える方法で、相手を責めることなく、自分の気持ちを表現します。これに対して、感情が高ぶったときに使われがちな「ユーメッセージ」は、相手を主語にするため、命令や非難のニュアンスが含まれ、相手に防衛反応を引き起こしやすくなります。

たとえば、相手が遅れてくる場合、「あなたはいつも遅刻ばかり」というのはユーメッセージです。しかし、アイメッセージを使うと「遅刻されると何かあったのかと心配になるし、大事にされていないのかなと感じる」となります。このようにアイメッセージを用いることで、相手に攻撃的にならず、自分の感情をより効果的に伝えることができます。

すぐイライラする悩みの相談先とは?

イライラが続く方や、自分では対処が難しいと感じる方は、一人で抱え込まずに以下のような相談先を利用することも大切です。

①医療機関を受診する

イライラには、発達障害やうつ病が関連していることがありますので、心配な場合は心療内科や精神科を受診しましょう。医師に相談することで、症状の原因を正しく理解し、適切な治療を受けることができます。

②カウンセリングを受ける

カウンセラーに相談するのも効果的です。自分の感情にじっくり向き合い、感情の扱い方や対処法を身につけ、家族との関係を改善することができます。誰にも話せない気持ちを言葉にするだけで、心が軽くなることもあります。

「対面で悩みを相談するのはハードルが高い」と感じる方には、オンライン相談サービスもおすすめです。

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まとめ

この記事では、家族にだけイライラしたり、キレてしまう原因や対処法について解説しました。記事の内容を以下にまとめてみます。

【家族にイライラしてしまう原因】

①無意識に期待している
②ストレスがたまっている
③家の外で自分を抑えて頑張っている
④睡眠不足や体調不良がある

【家族に対するイライラに関連する病気】

①パーソナリティ障害
②発達障害
③うつ病
④適応障害
⑤双極性障害

【家族に対してイライラしてしまうことへの対処法】

①アンガーマネジメント
②期待するのをやめる
③ストレスをためない
④アイメッセージを使う

【イライラが続く場合の相談先】

①医療機関を受診する
②カウンセリングを受ける

家族にイライラすることは誰にでも起こり得ることですが、適切に対処することで、感情をコントロールし、家族との関係を改善することが可能です。また、必要に応じて周りのサポートを得ることも検討してみてください。

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参考文献
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DiGiuseppe, R., & Tafrate, R. C. (2003). Anger treatment for adults: A meta-analytic review. Clinical Psychology: Science and Practice, 10(1), 70.
Richard, Y., Tazi, N., Frydecka, D. et al. (2023). A systematic review of neural, cognitive, and clinical studies of anger and aggression. Curr Psychol 42, 17174–17186.

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