仕事で何度注意されても治らないのは発達障害が原因?部下への対応のコツと具体例

「何度も注意しても治らない部下がいる」あなたは今、そんな悩みを抱えているかもしれません。部下のちょっとしたミスが積み重なり、仕事に支障が出ている。注意すればするほど、状況が悪化するような気がして、途方に暮れているのではないでしょうか。ですが、そんな部下の行動には、生まれ持った特性や背景があるかもしれません。

そこでこの記事では、部下が何度注意されても治らないという困りごとについて、深く掘り下げていきます。仕事で何度注意されても治らない原因とは何か、ADHDといったいわゆる発達障害の可能性がある部下とどのように接すれば良いのか、具体的な事例を交えながら解説していきます。この情報が、あなたの悩みを解決し、より良い職場環境を作るきっかけとなれば幸いです。

執筆者

佐々木ゆりさん

公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。

目次

仕事で何度注意されても治らない部下…考えられる原因とは?

何度指示を出しても伝わらない原因は本人にあるのでしょうか? それとも指示を出す側にあるのでしょうか? 原因は複数な場合が多く、またすぐに解決できない場合もあります。その一方で、いくつかの原因を押さえておくと、モヤモヤが晴れてあなたの心が少し落ち着くかもしれません。ここでは何度注意しても治らない人の原因についていくつか取り上げていきます。

指示がわからない・指示の意図がくみとれない

「それはさすがに」と思うかもしれませんが、指示がわかっているのとわかっていないのでは大きな違いがあります。指示がわかっていれば、注意の意味もある程度わかるのですが、指示がわかっていないと「なぜこの注意を聞かなければならないのか」と指示以外のところにポイントがうつってしまうのです。それでは、部下にしてほしかった指示は、まったく記憶に残らないので指示自体がなかったことになってしまう可能性すらあります。

やるべき仕事を忘れてしまう

指示は理解しているのに、忘れてしまうパターンです。ここで問題なのは忘れることを部下が想定していないからではないでしょうか。ビジネス場面では、期日が決まっていたり、忘れてはいけない大切な内容があると、自らスマホなどのリマインダー機能や手帳にメモするといった忘れない工夫をする人が多いことでしょう。それはたとえ忘れてしまっても思い出せるようにしているからです。ところが仕事を忘れてしまう部下は、忘れることを想定していないかもしれません。

上司や同僚などに確認しない

相手に確認する機会が少ない人は、自分がやっていること以外に気づきにくいため、何度も同じように伝える必要がでてくるかもしれません。そしてそもそもコミュニケーションが苦手な部下は、指示がすれ違っていても確認ができないので、同じ失敗が多いかもしれません。またリモートワークが増えて、雑談も減っていることもあり、上司にいつ確認したら良いかタイミングがわからず、結局同じようなやり方でやるしかなくて失敗する、というパターンも考えられるでしょう。いずれにせよコミュニケーションの苦手さが影響している可能性があります。

メンタルや身体の状態が悪い

当たり前のことかもしれませんが、仕事ができる状況でないのに出勤していると、何度もうまくいかない場合があります。今までスムーズに仕事を一緒にしてきたのに、最近部下の様子が変だなと思った場合の原因として考えられます。この場合、どこまで相手のことを踏み込んで考えるか悩ましいかもしれません。しかし、メンタルや身体の状態が悪い人と関わる場合、関わる側もとてもエネルギーを使います。よっていつもより慎重に、相手との距離を考える必要があることをぜひ知っておいてくださいね。

発達障害(自閉スペクトラム症やADHD)を抱えている

いわゆる発達障害は、幼少期(ADHDは12歳以前)から症状があることが診断の条件になっています。ですが、大人になって診断がおりた人の中には、こどもの時には先生などの話がわからなくてもなんとなくやり過ごせていた、忘れていても家族がリマインドしてくれたといった、自分が苦手とする部分について、フォローがあったため、大きく困ることがなかった人が多いのです。大人になり個人や集団の中で決められた仕事をしていく中で、自分にあったフォローが受けられず、退職してしまったり休職になってしまった時に診断がおりることもあります。それは上にあげられた原因が、発達障害の特徴とにているからなのです。

大人の発達障害(ADHD)の特徴や困りごと

大人になってからADHDがわかった人の特徴はいくつかあります。ここでは代表的なものを取り上げていきますね。

どうやって進めるべきか考えるが難しい

大人のADHDを持っている人は、やるべきことのリストアップに難しさがあります。実行機能とよばれる、物事を順番にしていくことの苦手さからきており、スタートからゴールまでの手順をおもいつくことも難しかったります。学生時代は勉強のやり方や部活などで一定のルーティンで行われたり、家事などは家族が行ってくれていたので、この難しさをもっている自覚があまりないのですが、大人になると物事を最初から順序立てて行う場面が増えていくため、苦手さに気が付くという背景があります。

片付けが苦手

例えば「床を掃除するのにだいたい15分かかるな」といった時間のイメージが持ちにくいケースもありますし、注意が特定の部分だけになってしまうことから掃除をしても一箇所だけがきれいになってしまって、あとは片付けられないケースもあります。他にも不注意や気が変わりやすいといった特性から「捨てるのが苦手」「持ち物が多い」「元の場所に戻すことが苦手」などがあります。片付けにはいろいろな能力が必要なので、複数の部分でつまづいている場合には大人のADHDが考えられます。

気持ちに波がある

ADHDでも衝動性の強いタイプの場合、思いつきによって行動した結果、うまくいかなかった際に強いストレスを感じることがあります。また、注意が移り変わりやすいので、気がついた時にすべての作業が中途半端であるため、とても憂うつになったりします。ADHDと聞くとハイテンションというイメージがあるかもしれませんが、どんよりと沈み込んでしまう時もあります。また集中しすぎてしまうために、疲れもでやすかったり、不調に気づきにくかったり、休息するタイミングをうまくつかめないことから体調管理が苦手な人もいます。

過集中がある

1度集中してしまうと周りが見えなくなってしまう人も大人のADHDを持っている可能性が考えられます。仕事をこなす上で、非常に有効なスキルである一方、プライベートで「夜中に調べものをしていたら、朝になっていた」「趣味に没頭しすぎて、お風呂などを忘れてしまった」といった場面もあるのが過集中を持つ人の辛いところです。また自分が過集中である、という自覚が難しいといったことから、気がついたら疲労のピークを通り越して体調不良になっていたということも、過集中の難しさかもしれませんね。

発達障害の傾向がある部下と仕事をするときのポイント

発達障害の傾向がある部下とこれからどうやって仕事をしてよいか気が重くなる方もいらっしゃるかもしれませんね。ポイントは相手も自分も無理をせずにできることではないでしょうか。ここではポイントを5つ取り上げてみました。

育てないといけない、と思うとうまくいかない可能性が

おそらく部下への対応について調べているあなたですから、そもそも正義感などがあり丁寧に職務をこなしていきたい気持ちがあるのではないでしょうか。人には得意と不得意があり、指示を受けることで成長していくタイプの人もいれば、自分にできることを淡々とこなすことが得意な人もいます。「自分が受けてきたこれまでの指示や教えを伝えていかなくてはいけない」と考えすぎると、部下は自分ではないので思うようにいかないことでお互い辛くなってしまうかもしれません。部下がどういった人なのか観察したり、自分以外の人の評価なども聞いてみてはいかがでしょうか。

部下にあった工夫を見つける

忘れやすい部下には、複数の人に声をかけておく、リマインドの仕方を教えることが有効かもしれません。また仕事の段取りが難しい部下にはあらかじめ手順を伝えておくのも、部下にとってはありがたい情報になるかもしれません。部下に工夫を伝える際には「君はできないと思うから、こうしておいたよ」と伝えるのではなく「君はこういった工夫があれば、スムーズに仕事ができると思うから」と部下を大切にしていきたい気持ちを添えてみてはいかがでしょうか。

部下や自分が仕事がしやすい環境を整える

部下のことばかり手をつけていて、自分の仕事がまわらないのでは、自分がしんどくなってしまいますよね。部下がスムーズに仕事ができるようにする理由は、プロジェクトや成績をあげるという会社から求められている結果があるからではないでしょうか。もし部下のことばかり考えてしまうようでしたら、他の管理職に相談することも必要です。時には個室で作業をする日を設けたり、部下と離れる時間帯があってもいいかもしれません。

産業医や他の機関とつながる

部下本人に悩んでいる様子がみられるようなら、産業医や医療機関につなぐのも大切な上司としての仕事です。医療機関であれば、本人にあった心理療法や薬物治療が可能です。それは部下だけでなく、部下に関わる人たちにとっても無理をしすぎないきっかけになるかもしれません。産業医であれば、本人の直接の了承が得られなくても、匿名で相談にのってもらえます。「産業医に相談して、上司や本人にバレたら嫌だな」と思わずに、ぜひ一度産業医が来る日や予約方法をチェックしてみてはいかがでしょうか。

自分のメンタルを大切にする

部下への対応で悩んでいるあなたにもケアが必要です。部下は部下、自分は自分と、割り切ること(境界線)を意識することは、自分自身を守ることになります。ですが、上司という立場、なかなか自分の思いや悩みを伝えることにとまどうことがおありかもしれませんね。

なお当サイトのオンラインカウンセリング「悩ミカタ相談室」では聞くことのプロが揃っています。部下のことはもちろん、最近自分のことを話せていないな、リモートワークばかりで聞いてもらう機会がないなと感じている人は、一度専門家を検索してみましょう。どんな専門家が自分にあっているかわからない人は「悩ミカタ」のコンシェルジュに相談してみてくださいね。

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発達障害の傾向がある部下への指導方法や接し方の具体例

発達障害の特徴が見られているからといって、部下への指導やコミュニケーションをやめることはできませんよね。ここでは今日からできる部下への接し方について述べていきます。

部下が指示を聞ける状況をつくり、短く具体的に伝える

いつも部下はどのような状況で指示を受けていますか? もしかすると、部下にとって指示を意識しにく環境で受け取っているかもしれません。

  • 「これからやるべきことを伝えたいのだけど、10時から時間をとってもらっていいかな?」
  • 「明日の朝、新しい指示を出すので、かならずミーティングにでてほしい」

など、具体的に事前に伝えておくと相手も聞くモードになりやすいことでしょう。またリモートワークがメインだが、メールやメッセージでは忘れてしまう部下には、直接口頭で伝える必要があるかもしれません。

ただご時世的に「パワハラになってしまうのではないか」と不安になるかもしれませんので、「期日がきまっているものは、直接伝えるようにするようにした」ということを事前に部下に伝えておくとスムーズかもしれません。「事前に」「短く」「具体的に」をぜひ意識してみてください。

確認をする機会を設ける

忘れやすい部下などの場合、確認できるようにしておくと良いでしょう。

  • 「月曜日には、特に何もなくても必ず報告メールを送ること」
  • 「会議の後には、かならず自分に報告すること」

と、ルーティンを作っておくとよいかもしれません。また「ここまで進んだら報告するように」と手順に合わせて確認するのもよい方法です。慣れないうちは、確認する場面でお互い緊張してしまうかもしれませんが、慣れてくると部下が報告するために仕事を進められるようになるのではないでしょうか。

マニュアルを示したり、手順の作り方を一緒に行う

物事を進めることの難しさがあるのが、大人のADHDの特徴といわれています。それゆえ、順序立てて行う苦手さをカバーする工夫が必要かもしれません。仕事の流れをある程度作っておく、フローチャート式に提示しておくといったことは、部下本人はもちろん、自分にとっても頭の整理になるかもしれません。なにより今後、自分以外がその仕事をする際にはとても役立つことでしょう。マニュアル化は、多くの人が助かる行動です。ぜひ自分だけで抱え込もうとせず「この作業について、マニュアル化しようと思っているのだけど」と口に出してみてはいかがでしょうか。

指示が守れた・できた際には具体的に褒める

今までできなかった「指示」ができた際には、ぜひよかったことを伝えるようにしましょう。大袈裟に褒める必要はありません。「この指示を期日まで忘れなかったのがよかった」「報告を毎回してくれたのが、成功につながった」など、どの行動がよかったのか伝えると、次回以降の指示でも意識しやすいのではないでしょうか。その時は、相手が聞ける状況であるか確認してから伝えるのがベストです。もちろん、様々な工夫などを行った自分にもご褒美があるといいですね。自分へのご褒美は、ラーメンのトッピングを増やす、スーパーではなくコンビニのスイーツを買う、といった物理的なものから、休みをとってしっかり休息するなど、自分を労わるものがよいかもしれません。

まとめ

何度注意されても治らない部下というテーマで、部下の行動の背景にある可能性について考えてきました。上司であるあなたは、部下の行動について、できるできないといった判断を下すのではなく、部下が何度も注意されても治らない背景にある原因を探る必要があることがわかりました。その原因の1つには、発達障害という可能性も考えられます。

発達障害の可能性がある部下と上手く付き合っていくためには、まずはADHDといった発達障害について正しく理解することが重要です。部下の特性に合わせて、短く具体的に伝えることや、指示を聞ける環境で伝えるといったコミュニケーションの方法や、自分自身の仕事を効率よく進める工夫が大切かもしれません。この記事で紹介した情報を参考にすることで、部下とのやりとりがこれ以上あなたの負担にならないことを心から願っています。

40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」

参考:政府広報オンライン 「大人になって気づく発達障害 ひとりで悩まず専門相談窓口に相談を!」

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