40代や50代のミドル世代は、仕事や家庭などで担う役割が多岐にわたるため、ストレスが蓄積しやすい傾向があります。そんな中で「何もかも投げ出したい」「何もかも嫌だ」と言う気持ちになり、突然涙が止まらなくなるなどの心理状態に陥ることもあります。
そこで今回は、生活の中で「何もかも嫌になった時」に考えられる心理状態や原因、具体的な対処法、そして注意したい病気や相談先について紹介していきます。
藤原美保さん
公認心理師、介護福祉士、保育士、健康運動指導士の資格保有、療育支援に携わること20年以上。
放課後等デイサービスを運営する中で発達障害児童、そのご家族の悩みも含め相談やカウンセリング対応を10年以上行う。自己肯定感が低い、親から虐待を受けた過去に悩む方からの相談なども多数対応。
これまでに、『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』(エッセンシャル出版社)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること 』(PHP研究所)と2冊の本を執筆。現在も出版に向け本の執筆をつづけている中、子育てのポータルサイトにて発達障害の子の子育てコラムを連載中。
「何もかも嫌」と感じるときの心理状態
「何もかも嫌」と感じているとき、私たちの心身にはどのような状態が起きているのでしょうか。ここでは代表的な心理状態をいくつか挙げてみます。
①ストレス過多による心身の疲労
仕事重責や家庭、人間関係などで慢性的なストレスが続くと、心身の疲れが限界に達しやすくなり、やる気や意欲が失われ「もう何もかも嫌だ」「全部投げ出したい」といった思考が強まることがあります。
②抑うつ感(気分の落ち込み)
抑うつ気分が強いと、物事をネガティブに捉えがちになり、ふとした瞬間に涙が止まらなくなるなど、気持ちが不安定になることがあります。以前は楽しめていたことにも関心向かず「何もしたくない」と思いやすくなる場合があります。抑うつ状態は十分な休養や対処が必要ですが、進行するとうつ病などにつながるリスクもあります。
③自己否定感・無価値感
「自分はできない」「自分には価値がない」といった自己否定感が強まると、物事へのモチベーションや人との関わりを持つ意欲が低下します。その結果「何をやってもうまくいかないから、すべて嫌になった」と感じやすくなることがあります。
④逃避・切り離しの心理
あまりにつらいことや大きな責任に押しつぶされそうになったとき、人は“もう全部を投げ出したい”という心理(逃避・切り離しの心理)に陥ることがあります。こうした心理が強くなると、何もかも嫌になり、すべてを放り出したいという気持ちが顕著になります。
40代・50代に多い「何もかも嫌」となる背景
「何もかも嫌」になりやすいのは、何も若者だけとは限りません。ミドル世代は、以下のような要因により、より一層不安定な状態に陥りやすいといえます。
①役割の多さと責任の重さ
家庭では子どもの進学や自立、親の介護、配偶者との関係性など、さまざまな課題がのしかかります。仕事でも経験豊富と見なされることが多いため、部下の育成や重い案件を任されるなど、“中間管理職的”ポジションにつくケースが多いでしょう。プライベートでも仕事でも責任が重くなりやすく、結果として心身の負担が大きくなる傾向があります。
②キャリアや将来への迷い
40代50代は、将来のキャリアや定年後の生活について考え始める時期でもあります。「今の仕事を続けてくべきか?」「このまま定年を迎える年齢になったら?」「老後は大丈夫だろうか?」など、将来設計に対する漠然とした不安が募りやすい年代です。これらの不安が蓄積すると何かのきっかけで一気に爆発してしまうことがあります。
③身体的な変化
更年期などによるホルモンバランスの変化、体力の衰えや慢性的な痛み・不調など、身体面でも若い頃とは違った悩みが出てきます。思うように身体をコントロールできないストレスと精神的なストレスが相互に影響し合い、つらく感じる要因となり得ます。
④人間関係の変化
40代・50代ではライフステージの変化により、人間関係や環境が変わるなど様々なライフイベントが影響します。具体的にはパートナーの転勤や子どもの進学や巣立ち、または親の介護などで家庭環境が一変することも珍しくありません。こうした人間関係や環境の変化は心身に大きなストレスを与えます。とくに仕事との両立が難しくなってくると、疲労感から「何もかも嫌」と投げ出したくなってしまうこともあるでしょう。
何もかも嫌になってしまう原因
ここでは、具体的な原因をもう少し掘り下げてみましょう。「何もかも嫌」になる背景を理解することで、自分の置かれた状況や心の状態を客観的に見つめるきっかけになるかもしれません。
①すべてを抱え込みすぎて余裕がなくなる
能力が高く、真面目で責任感が強い人ほど、人を頼ることが出来ず、すべてを抱え込んでしまいがちです。
仕事の量や家庭の雑事、家族の世話などやることが山のようにあり日々追われて精神的にも体力的にも余裕がなくなりやすい世代です。
②過剰な期待やプレッシャー
「家族を支えなくてはいけない」「成果を出さなくてはいけない」といった周囲からの期待や役割が大きいと、プレッシャーで押しつぶされそうになることがあります。これが日常的に続くと、逃げ場がなくなり何もかもなげだしてしまいたくなる状態に陥りがちです。特に職場や家庭などでトラブルがあると、精神的にも疲弊し、気が休まるときがなくなりと感じてしまうこともあるでしょう。
③自分の範疇外でのトラブル
この世代は自分と関係のないところでのトラブルの対応に巻き込まれる世代です。
家庭でも子どもが大きくなり、成長過程において親の手の届かない所で問題が発生し、その対応を迫られたり、親の介護上でのトラブルや、パートナーとの関係性を見直さなくていけないなど、経済的にも精神的にも自分の努力とは関係ないところでの問題の対応を迫られる世代でもあります。そのため、なぜこうなったのか原因が解らず「すべてに疲れた」と何もかも投げ出したくなりがちです。
④長期間の蓄積疲労(バーンアウト)
長い間頑張り続け、自分では気づかず限界を超えてしまうことで起こる“燃え尽き症候群(バーンアウト)”は、最もこの年代に多い症状です。バーンアウトは、仕事熱心で責任感の強い人ほど注意が必要ですが、家庭や介護などでも同様に起こり得ます。
何もかも嫌な状態を抜け出す対処法や考え方
「何もかも嫌になった時」や「全てが嫌になる」ほどつらいとき、いったいどうすればいいのでしょうか。ここでは具体的な対処法や考え方をいくつか紹介します。
①まずは休息をとる
心身ともに疲れきっているときは、何をするにも気力がわきません。まずはしっかりと休みましょう。可能であれば休暇を取り、睡眠不足が続いている場合は少し長めに寝るなど、身体をいたわることを優先してください。ポイントは、 「いまは休む時期だ」と考え、「休むこと」を自分に許可する、ということです。
②運動をする
軽いジョギングなどを5分、10分程度など、自分のペースで大丈夫です。公園やジョギングコースを1周するでも効果があります。ウォーキングから初め、慣れてきたら自分のペースでジョギングを入れてみましょう。
③自分をいたわるセルフケア
ストレッチやヨガなどで体をゆっくり動かすし、呼吸に合わせ筋肉を伸ばすことで、身体の緊張をほぐし、心身のリフレッシュを促します。
④環境を変える
以前、転職し引っ越しをして環境を変えた事で状態が良くなった方もいましたが、それが難しいケースもあります。その場合はキャンプや旅行などで気持ちの切り替えをすることも一つです。ずっと同じ環境にいるとなかなか気持ちを切り替えることが難しいものです。
人やネットからも離れ自然の時間に生活を合わせることで、自分の思い通りにいかない現実を受け入れることができる場合があります。
⑤周囲に気持ちを話す・相談する
自分の状態が限界であることを、家族や友人、信頼できる上司・同僚などに話してみましょう。言葉にすることで感情が整理され、自分が本当に求めているものや問題の本質が見えてくる場合があります。それによって周りの対応も変化する場合があります。
⑥感情を書き出す
「何もかも嫌だ」「この状況から逃げ出したい」というように気持ちが込み上げているときは、その感情をノートなどに書き出してみましょう。頭の中で考えているだけでは、問題の整理が出来ず、堂々巡りになってしまっている事もあります。書き出す事で課題を整理でき建設的に行動することができる場合があります。
⑦専門家への相談
「何もかも嫌」な状態が長く続き、自力ではどうにもならないと感じたら、心療内科や精神科、カウンセリングルームなどの専門家に相談してみましょう。プロに話を聞いてもらうことで、問題が整理でき、適切なアドバイスや治療方針を得られる場合があります。
何もかも嫌になった時に注意したい病気はある?
「何もかも嫌だもう疲れた」「何もする気がおきない」といった状態が長期化すると、心身ともに深刻な影響が出る可能性があります。ここでは、特に注意しておきたい病気やサイン、病院受診の目安を解説します。
うつ病
気分の落ち込みが2週間以上続き、意欲の低下や食欲不振、眠れないなどの睡眠障害は日常生活に支障をきたします。これらの症状がある場合は、うつ病の可能性が高まります。ネガティブな気分から抜け出せないだけではなく、体の不調(だるさ・頭痛・肩こりなど)を強く感じることも少なくありません。
適応障害
環境の変化やストレス源が明確に存在し、それにうまく対処できないために、抑うつ状態や不安症状が現れるのが適応障害です。ストレス源から離れると症状が軽くなることが特徴ですが、放置すると症状が悪化し、うつ病に移行する場合もあります。
自律神経失調症
ストレスや生活リズムの乱れなどにより、自律神経のバランスが崩れることで起こる症状です。めまいや頭痛、動悸、冷や汗、疲労感などが続くと、突然涙が止まらなくなったり、呼吸が苦しくなるなど、不調を感じる場合もあります。
不安障害・パニック障害
強い不安や恐怖心がコントロールできず、予期不安やパニック発作が繰り返し起こる状態です。発作が起こった場面や場所を避けるようになると生活範囲が狭まり、希死念慮が出てくる場合もあります。
受診のタイミングと大切なサイン
・十分な休息やセルフケアをしても状態が改善しない
・日常生活や仕事、家事などに支障が出ている
・食欲不振や睡眠障害など身体症状が顕著にあらわれている
・「死にたい」など希死念慮が強くなってきている。
上記のようなサインが続く場合は、一人で抱え込まず、早めに心療内科や精神科を受診しましょう。
全てが嫌になり疲れたときに頼れる相談先
「何もかも嫌になった」時に、一人で悩みを抱え込んでいては、なかなか改善が難しい場合もあります。ここでは、いざというとき頼れる相談先を紹介します。
心療内科・精神科
うつ病や適応障害などの診断・治療を受けられる医療機関です。薬物療法やカウンセリングなどを通して、症状の改善を目指します。受診の際は症状や期間、生活状況などを正直に伝えましょう。
カウンセリングルーム・心理相談センター
公認心理師・臨床心理士などの専門家が、対話を通じてこころの問題やストレスのケアを行ってくれます。医療機関とは別でカウンセリングだけを行う施設もあります。
精神保健福祉センター
地方自治体には、精神保健福祉センターや保健所など、メンタルヘルス相談を受け付けている窓口があります。専門家による助言や医療機関の紹介、福祉サービスの案内などを受けられる場合があります。
労働者向け相談窓口
会社勤めの方は、産業医や社員相談室、EAP(従業員支援プログラム)を利用できる場合もあります。企業や組織によって対応が異なりますが、まずは人事や総務部門に相談してみるのも選択肢のひとつです。
電話・オンライン相談
電話やオンラインで匿名のまま相談できる窓口も増えています。外出が難しい、誰にも知られたくないなどの状況下で利用しやすい方法です。
▼当サイト「悩ミカタ」では、ミドル世代(40代50代)の悩みや不安・ストレスについて各分野の専門家/カウンセラーに相談できるオンラインカウンセリングサービス「悩ミカタ相談室」を展開しています。つらくて不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
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まとめ
何もかも嫌になって全てを投げ出したくなってしまう状況に陥るのは、決して珍しいことではありません。仕事、家庭、人間関係などのさまざまな問題が積み重なることで、心身が限界に達し全てが嫌になり、逃げだしたくなる状態に陥ってしまうこともある、ということをまずは知っておきましょう。
特に40代・50代のミドル世代は社会的な役割が高いため、責任や役割が重く、より強いストレスを抱えやすい世代と言えます。
まずは休息をとり、自分自身の疲れをしっかりと癒やすことが第一歩です。うつ病や適応障害、自律神経失調症などに繋がるケースも少なくないため、症状が長引いたり重くなったりしたら、迷わず医療機関を受診しましょう。身体をしっかり動かし、気分転換を上手く使いながら、モチベーションを少しずつ高めていきましょう。
また周囲に相談したり感情を書き出したりして、頭の中だけで抱え込まず、アウトプットすることも大切です。身近な相談先や行政の窓口、電話・オンライン相談など、頼れるものを把握しておき、必要に応じて活用することもおすすめします。