カサンドラ症候群をセルフチェック|症状や対処法を専門家が解説

「パートナーや家族間のコミュニケーションにストレスを感じてつらい…。」それはカサンドラ症候群かもしれません。症状をセルフチェックし、抜け出すヒントを考えるために発達心理サポートセンターの車重徳さんが解説します。

記事を執筆したのは…

車重徳さん

発達心理サポートセンター代表、心理士、カウンセラー、教員、保育士、介護福祉士。長年、発達障害や学習障害、精神疾患の子どもや大人のサポートや指導に従事。「WISC-Ⅳ検査」については、臨床心理士に対しての研修や指導も行っている。

目次

カサンドラ症候群とは

カサンドラ症候群とは、パートナーや配偶者など、身近な関係にある人がアスペルガー症候群(AS)もしくは自閉症スペクトラム(ASD)のために、円滑なコミュニケーションを行うことが困難な状況になったり、気持ちなどの共感的な理解ができない状況に追い込まれたりすることによって発症します。

恋人・夫婦間の場合

具体的には、パートナーや配偶者の無理解や無関心、不愛想、物忘れ、約束の不履行などが原因で、抑うつ状態や心身の不調が起こります。

例えば、こちらは具合いが悪くて寝込んでいるのに、気遣いもなく「夕飯はまだ?」と聞いてきたり、バタバタと忙しくしているのにパートナーは我関せずといった様子でゲームばかりしていたり…。

しかも、そのことについて話し合おうと思ってもまともな会話が成り立たないことが繰り返されるといった感じです。

親子間(子どもが発達障害)の場合

また、親子間の場合は、子どもの極度なワガママに降り回されてしまった結果、心身ともに疲れ切ってしまうことも多いでしょう。

例えば、何度も「宿題をやりなさい」と言っても全く宿題をやらなかったわが子が、翌朝になって「宿題をやっていないから学校に行きたくない」と言った挙句、「宿題ができなかったのは、ママがやれって言わなかったせいだ」という感じです。

職場での人間関係の場合

カサンドラ症候群は、家庭内だけではなく職場でも起こり得ます。

例えば、理不尽な上司から無理難題を吹っ掛けられたり、朝の指示が午後には「そんなことは言っていない」と別の指示を出されたりした結果、精神的に不安定になってしまうこともあるでしょう。

ほかにも、日常的に関わる友人が発達障害だったり、自分が受け持つ生徒が発達障害だったりする場合でも発症する可能性があります。対人関係全般においてカサンドラ症候群は起こる可能性があるのです。

相手が診断を受けているとは限らない

カサンドラ症候群では、「自閉スペクトラム症(ASD)※との関係において」と、障害があることを前提にされることも多いですが、誰もが発達障害の診断を受けているわけではありません。

*注:アスペルガー症候群(AS)は、現在自閉スペクトラム症(ASD)に名称統合されています。
(参考)厚生労働省 e-ヘルスネット「ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について

特に大人の自閉スペクトラム症(ASD)は、仕事上や学校の成績などにおいて優秀な成績を残す人も多く、診断されないまま日常的な社会生活を送っているケースが少なくありません。社会的に結果を出している分、本人に自覚がなく、家族、パートナーなどカサンドラ症候群に陥るような関係の人だけが、徒労感に苛まれるという状況になりがちです。

周囲からも苦しみを理解されにくいため、責任感の強い人だと、「自分がもっと頑張ればもっとうまくやれるかもしれない」「私がもっと支えてあげないと…」などと考え、さらなる心身の不調を増大させてしまうことがあります。

また、もし「絶対、自閉スペクトラム症(ASD)に違いない!」「診断を受ければ相手は変わってくれるのではないか」と思っても、診断を強要することはおすすめできません。

「あなたは障害がある!」と指摘されて、素直に納得して受け入れられる人は多くありません。言葉や事実の衝撃から、あなたが激しく攻撃される可能性もあります。

【セルフチェック】カサンドラ症候群の症状とは

カサンドラ症候群は心身にさまざまな影響を及ぼします。その影響とはどういったものなのか、身体に現れる症状と精神に現れる症状に分けてみます。

身体に表れるカサンドラ症候群の症状
  • 頭痛や片頭痛
  • 胃痛
  • 手足のしびれ
  • 極度の肩こり
  • めまい、動悸
  • 体重の増加や減少
  • 易疲労感
  • 倦怠感、だるい
  • 疲れがとれない
  • 生理不順
  • 肌荒れ
精神に表れるカサンドラ症候群の症状
  • 不眠
  • 抑うつ
  • 無気力、意欲の低下
  • 感情の喪失
  • 自律神経失調症
  • パニック障害
  • 不安障害
  • 気分障害
  • 自己評価の低下
  • 自己喪失感
  • 情緒不安定
  • 涙が止まらない

いかがでしたか? 

1つでも当てはまれば、カサンドラ症候群が確定したというわけではないですが、上記のような不調がある場合は、カサンドラ症候群の可能性があるということです。相手ではなく、自分自身をケアする気持ちをもってくださいね。

カサンドラ症候群の体験談

下記は、実際に夫婦関係においてカサンドラ症候群に苦しむ関東地方在住の女性Aさんの体験談です。

Aさんの体験談

結婚した当時は、「ちょっと変わった性格の人かな」程度で夫のことはあまり気になりませんでした。共働きとはいいながらも、家事は私がすべてやっていましたが、大きな負担は感じていませんでした。

しかし、私が妊娠したことで状況が変わりました。私は悪阻が本当にひどく、会社を休むどころか家事なども一切できない日々が続きました。

夫はそんな私の状況を思いやる言動を取るどころか、「なぜ、掃除をしない」「なぜ、料理を作らない」など、私の精神を破壊しにかかってきたのです。

私は丁寧に「とても家事などできる状況ではない」ことを伝えましたが、「子どもを欲しがったのはそっちだろ」「僕が栄養失調になって、働けなくなったらどうするんだ」と自分のことしか考えていない言動を繰り返すばかり。

そこから私は眠れなくなり、やっとの思いで作った食事ものどを通りません。今まで頑張ってきたことがバカバカしくなり、涙が溢れて止まりませんでした。

それでも「生まれてくるこの子のためにも頑張らないと」と、自分自身を鼓舞しながらギリギリで出産を迎えたものの、子どもが生まれた後、さらなる悪夢がやってきました。

子どもが泣こうがわめこうが、夫は身動き一つせず、ずっとゲームをやり続けていたのです。あやすこともミルクをあげることも、おむつも変えません。ずっとゲームに集中しています。

今は毎日がつらくて、この先、夫婦を続ける自信はありません。

Aさんの夫のような男性は、多いのではないでしょうか。女性が仕事をしていても「家事は女性の仕事」「家事は得意な人がすべき」などと自分にとって都合の良い考えをしてしまうのです。

そして、パートナーが頑張りすぎた結果、体調を崩したとしても、「優先すべき事項は自分」なのです。

Aさんの夫のような人の考え方や思考回路を変えることはまずできません。夫婦や家族など、本来なら支え合う関係だったとしても、自分の気持ちを理解してもらったり、ケア・フォローをしてもらったりするのは難しいでしょう。

カサンドラ症候群になりやすい人とは

一般的にカサンドラ症候群は、男性よりも女性の方が多いといわれています。それは、自閉スペクトラム症(ASD)は男性に多いからです。女性に比べて男性の方が4~6倍いるとされています。

では、どのような女性がカサンドラ症候群になりやすいのでしょうか。一般的に下記のような人がなりやすい傾向があるといわれています。

カサンドラ症候群になりやすい人
  • 真面目な人
  • 几帳面な人
  • 我慢強い人
  • 面倒見が良い人
  • 献身的な人

皮肉なことにカサンドラ症候群は、真面目でがんばり屋さんのほうが発症しやすいのです。そう考えるとカサンドラ症候群を発症しないためには、”がんばらない”方が良いのかもしれません。

カサンドラ症候群を悪化させない6つの対策

カサンドラ症候群は、特定の相手との関係性に起因するので、その相手と離れることができればいいわけですが、簡単に離婚や転職できる人は少ないでしょう。

だからといってひたすら我慢し続けるのも限界があります。

では、自身の心身が悪化しないように、自閉スペクトラム症(ASD)の人とどのように付き合っていけばいいのでしょうか。

そこで、以下の対策を試してみてください。

【対策①】用があるときだけ関わるようにする

カサンドラ症候群の原因になる人(自閉スペクトラム症の人)と関わる頻度が上がると、どうしても気になることが増えてしまいます。そのため出来る限り、その人を関わらないということが、まずは一番にあげられるでしょう。

【対策②】「具体的な行動」だけをまずは伝える

「なるべく関わらない」ということが難しい場合もあることでしょう。そのときは、カサンドラ症候群の原因となる人と話すときは、”具体的な行動のみ”を伝えるようにしてみてください。

例えば、ゴミ出しをお願いするとします。玄関にゴミを置いてありますが、ゴミ袋の口は閉じていない場合、「ゴミの口を閉じないと生ゴミが臭いから、袋の口をしばって欲しい」とお願いすると、「俺は臭くないよ」と回答されてしまう可能性があります。

このように良かれと思って「行動の理由」を伝えても、その理由を覆してくること、余計な情報を与えることが、攻撃してくるきっかけになることがあります。”何をして欲しいのか”を明確にし、具体的な行動のみを促してください。

【対策③】不機嫌なときは放っておく

具体的な行動を促したとき、不機嫌だったり、面倒くさそうな顔をしたりすることもあるでしょう。その場合は、催促したり、行動を強要したりせずに放っておきましょう。そして、状況が変わるのを待ち、伝え方を変える工夫をしてみてください。

また、あなたの意見やお願いがいかに正当なものであっても、相手が無理だということは強要しないようにしましょう。相手が理解できないことは無理だと割り切ることも必要です。

どうしても動いてもらわなければならないことがある場合は、時間をおいて、言い方を変えて小出しにして伝えていってください。

例えば、「部屋を片付けて」とお願いしても「めんどくさい」と言って掃除をしてくれない場合、「この本を棚にしまって」といった感じでやってほしいことを小出しに伝えたり、「毛布と羽毛布団のどっちからしまう?」という感じで、やることが確定している前提で何か選択肢を与えていくという感じで伝えると、動いてもらいやすくなります。

【対策④】迷ったときは関わらない

「相手はどうしてほしいのだろう」「伝えたら面倒なことを言い出すだろうな」と、原因となる人との関わり方に悩むこともよくあることでしょう。

ですが、あなた自身が覚悟と納得ができないときは、「今はその時ではない」と考えてなるべく関わらないようにしましょう。あなたの予感や迷い、不安は、これまでの経験に基づくもので、きっとその通りになってしまうはずです。

【対策⑤】相手の特性や適切な対応法を学ぶ

発達障害についてはさまざまな書籍が出ていたり、オンライン研修などもたくさん開催されていたりします。少しでも学んでおけば、仮に発達障害という診断が出ていない人が相手でも理解するヒントになります。

また、発達障害について学ぶことで、「そういう人だからしょうがない」という気持ちになり、受け入れた上で自分はどのように行動しようか、と考えられるようになるかもしれません。

例えば、何度注意しても遅刻が治らない人がいたとしても、その人がものすごく遠方に住んでいたり、時間にルーズな文化圏の人であったりするならば、「遅刻してしまうのも仕方ない」と思い、遅刻することを前提としたスケジュールを立てるようになるのです。

また、自閉スペクトラム症(ASD)の人は、融通がきかないことが多いです。「臨機応変に動いてほしい」「状況を分かって欲しい」と伝えることで相手が変わるのであればいくらでも伝えればいいのですが、伝えても変わらないことが多く、そればかりか伝えることで相手との関係性が悪化することがあります。

それならば、例えば「洗濯ものは週に一度、クリーニングに出す」「週に1度は外食にする」など、あらかじめルールとして決めておくことで、一緒に暮らしながらも負担を少なくしていくことができるでしょう。

【対策⑥】医療機関に相談する

カサンドラ症候群自体は病気ではありません。しかし、カサンドラ症候群からうつ病や双極性障害、不安障害などの精神疾患に進むケースは多々あります。精神疾患は、治療が必要です。

カサンドラ症候群に陥る原因は、関係性や心の距離が関係しています。本来なら支え合ったり、頼ったりできる相手にその役割を望めないことは非常につらいことだと思います。相手に「分かってほしい」「代わってほしい」と望むほど苦しさは募っていくはずです。

受け入れることは難しいかもしれませんが、関わり方や考え方(付き合い方)を変えて、自分の身を守っていってくださいね。

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