休憩中だけではなく、食事中や勉強中など、日常のあらゆるシーンで突然襲ってくる強い眠気。「なぜ急に眠くなるのだろう?」と思ったことはありませんか?
実は、この現象には自律神経が深く関わっています。また、自律神経とは別に、病気の可能性も否定できません。
本記事では、日中の突然の眠気の原因や対処法について、自律神経との関係を中心に詳しく解説します。自分では制御できないほどの強烈な眠気にお困りの方は、ぜひご覧ください。
梅田ミズキさん
認定心理士、サービス介助士。大学で臨床心理学・産業組織心理学・発達心理学などを学び、卒業後は公的施設にて精神疾患の方のケアや介助業務、ご家族の相談対応などに従事しながら、ホームページ掲載用のコラムやミニ新聞を執筆。現在はフリーライターとして独立し、くらしにまつわるエッセイの執筆、臨床心理・発達支援・療育関連のコンテンツ制作および書籍編集に携わりながら、心理カウンセラーも務めている。趣味は読書、映画鑑賞、気まぐれで向かうプチ旅行。
日中、急に眠くなるのはどうして?
日中に突然眠くなる現象は、実は多くの人が経験しています。その原因はさまざまですが、主に考えられるのは、自律神経の乱れやナルコレプシーという病気です。これらの要因について詳しくみていきましょう。
自律神経の乱れ
自律神経系は、私たちの体のさまざまな機能を無意識のうちにコントロールしています。この自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、バランスよく働くことで体調を整えています。
交感神経は、いわば活動的な状態を作り出す「アクセル」です。これに対し副交感神経は、リラックスした状態をもたらす「ブレーキ」の役割を果たします。
通常、日中は交感神経が優位になり、夜になると副交感神経が優位になります。しかし、この2つの神経のバランスが崩れると、急な眠気に襲われるのです。
自律神経の乱れによる急な眠気には、次のような特徴があります。
- 時間帯に関係なく突然襲ってくる
- ストレスを感じた後や食事の直後に起こりやすい
- 休憩をとると改善する場合が多い
- 他の自律神経の乱れによる症状(めまい、頭痛、胃腸の不調など)を伴うことがある
自律神経の乱れによる眠気は、生活習慣の改善や適度な運動、ストレス管理などで対処しやすくなります。
ナルコレプシー
ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、日中に突然強い眠気に襲われる病気です。脳内の神経伝達物質「オレキシン」の不足が原因とされています。
ナルコレプシーによる眠気は、自力でのコントロールが難しいのが特徴です。眠気が襲ってきたことに気づく前に眠り込んでしまうため「授業をサボっていると思われてしまう…」「会社の評価に響いてしまう…」と気にする患者も少なくありません。
ナルコレプシーは専門医による診断と治療が必要です。
自律神経が乱れる原因と対処法
自律神経の乱れは、現代社会を生きる多くの人々が抱える問題です。その原因や症状、そして対処法について詳しくみていきましょう。
自律神経の乱れにはいろいろな症状がある
自律神経の乱れは、単に急な眠気だけでなく、以下のようなさまざまな症状として現れるのが特徴です。
- 慢性的な疲労感や倦怠感
- めまいや立ちくらみ
- 偏頭痛
- 胃腸の不調(腹痛、下痢、便秘など)
- 動悸や息切れ
- 耳鳴り
- 手足のしびれ
- 頻尿または残尿感
- 不安感や焦燥感
- イライラ
- 集中力の低下
- 不眠
これらの症状は単独で現れることも、複数が組み合わされて現れることもあります。症状の程度や組み合わせは個人差が大きいため、自分の体調の変化に注意を払うことが大切です。
自律神経が乱れる原因
自律神経の乱れには、さまざまな要因が関係しています。主に挙げられるのは、次のような原因です。
原因1. 過度なストレス
仕事や人間関係のストレス、金銭的な悩みなど、慢性的なストレスは自律神経のバランスを崩す大きな要因です。また、引っ越しや転職、季節の変わり目など、環境の変化で感じるストレスも自律神経に影響を与えやすい傾向があります。
原因2. 不規則な生活リズムや食生活の乱れ
夜型の生活や不規則な睡眠パターンは、体内時計を狂わせ、自律神経のリズムを乱します。また、偏った栄養摂取や不規則な食事時間も、自律神経の働きに悪影響を与えかねません。
さらに、スマホやパソコンの長時間使用は、目の疲労だけでなく、自律神経にも負担をかけます。
原因3. ホルモンバランスの乱れ
月経前症候群(PMS)や更年期障害など、ホルモンの変化も自律神経の乱れを引き起こす要因です。特に女性は、一生を通じてホルモンのリズムが変わり続けるため、男性と比較して自律神経失調症になりやすいといわれています。
原因4. 過度の飲酒や喫煙
アルコールを過度に摂取すると、交感神経が刺激されて副交感神経の作用を抑えるため、自律神経を乱す原因になります。
また、喫煙は心臓や脳の血管を収縮させ、心臓や脳への血流が低下してしまいます。そのため、ふらつきやめまい、胸の痛みなどを発現させやすいのが注意点です。
自律神経を整えるには
自律神経の乱れを改善するためには、生活習慣の見直しと適切なケアが重要です。次に、自律神経を整えるための具体的な方法をいくつか紹介します。
規則正しい生活リズムとバランスのとれた食事を心がける
できるだけ一定の時間に起床や就寝をするよう心がけましょう。体内時計を整えることで、自律神経のリズムも安定します。
また、栄養バランスのよい食事を、規則正しい時間に摂取するのも大切です。コーヒーや紅茶、アルコール、スパイシーな食べ物など、自律神経を刺激するものは控えめにした方が良いでしょう。
ビタミンB群やマグネシウムは、自律神経の機能を支える栄養素です。魚介類やレバー、未精製の穀物、肉、野菜、きのこ類などをバランスよく積極的に摂取しましょう。
他にも、ぬるめのお湯にゆっくりつかることで副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られます。
十分な睡眠時間を確保する
質のよい睡眠は、自律神経の回復に欠かせません。7〜8時間の睡眠時間を確保し、快適な睡眠環境を整えましょう。
就寝2時間前にはテレビやスマホから離れ、間接照明などに切り替えて室内を暗めにすることで、心地よい入眠を目指せます。
ヨガや瞑想、アロマテラピーなどリラックス法を習得
瞑想や深呼吸法などでリラックスするのもおすすめです。ゆっくりと深呼吸をすれば副交感神経が活性化し、リラックス効果が得られます。
また、体の緊張をほぐす効果が期待できるマッサージもよいでしょう。ラベンダーやベルガモットなど、リラックス作用があるとされているアロマオイルは、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
自然に触れる時間を作る
緑豊かな環境で過ごすのも、ストレスホルモンの減少や副交感神経の活性化に有用です。森林浴や緑地での散歩は、血圧低下や心拍数の安定に繋がりやすく、心身のリラックスを促進します。
また、自然光を浴びることで体内時計が調整され、睡眠の質の向上も目指せます。
ナルコレプシーの原因と対処法
ナルコレプシーとは、日中に突然強い眠気に襲われる睡眠障害です。その症状や原因、診断方法、治療法などについて詳しくみていきましょう。
ナルコレプシーの主な症状
ナルコレプシーには、次のような主要な症状があります。
抑えきれないほど過度な眠気
最も特徴的な症状で、日中に突然強い眠気に襲われます。この眠気の多くは、短時間の睡眠(15分程度)で一時的に改善するのが特徴です。
授業中や会議中、休憩中、食事中など、日常のどの状況でも耐え難いほどの眠気を感じます。これは「睡眠発作」と呼ばれ、現れると5〜15分ほど眠り続け、目覚めても1〜2時間後に再び眠気が出現するという状態です。
自動行動
眠っている状態で普段通りの行動を続けているものの、後で覚えていない症状です。まるで起きているかのように、普段から慣れた行動を数分間続けます。
情動脱力発作(カタプレキシー)
笑う、怒るなどの強い感情の高ぶりとともに、突然筋力が低下する症状です。数秒から数分間続き、意識は保たれたまま体の一部または全身の筋力が失われます。
睡眠麻痺
主に入眠時に、体が動かせない状態になる症状です。一般的にはよく「金縛り」と呼ばれています。
入眠時幻覚
入眠時や目覚めのときに、現実にはない音や映像、人の気配などを感じる症状です。
これらの症状は個人差が大きく、すべての症状が現れるわけではありません。また、症状の程度も人によって異なります。
ナルコレプシーになる原因
ナルコレプシーの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、主に「オレキシン」の不足ではないかと考えられています。
オレキシンは、脳の視床下部から分泌される神経伝達物質です。脳の受容体がオレキシンを受け取ると、脳は目覚めた状態になります。
一方でオレキシンの分泌が減ると、受容体が受け取れる量は当然少なくなり、脳が睡眠状態へと切り替わります。ナルコレプシーの患者は、このオレキシンの脳脊髄液中の濃度がきわめて低いといわれているのが特徴です。
これらの要因が複合的に作用して、ナルコレプシーが発症すると考えられています。
ナルコレプシーの診断方法
ナルコレプシーの検査は「夜間から開始して眠りの状態を見る」場合がほとんどです。そのため最低1泊の入院が必要となります。
一般的に、人が眠りにつくまでの時間の平均は8分以上といわれています。しかし、ナルコレプシーの患者は、眠るまで数分以下であることが特徴です。
また、睡眠中に眠りの浅い「レム睡眠」が多くみられます。そのため、中途覚醒が起こりやすく、健常者に比べて質のよい睡眠がとれません。
ナルコレプシーの主な診断方法は、次の2つです。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
夜間の睡眠中のさまざまな生体情報を、同時に記録できる精密検査です。一晩かけて脳波、心電図、眼球運動、筋電図などを測定し、睡眠の質や量を評価します。
反復睡眠潜時検査(MSLT)
日中に短い間隔で複数回の仮眠をとってもらい、入眠にかかる時間やレム睡眠の出現を調べる精密検査です。PSGを行った翌日に4~5回実施します。
これらの検査結果を総合的に判断し、他の睡眠障害や精神疾患と鑑別しながら、ナルコレプシーの診断が出されます。
病院に行くべきタイミング
日中に抑えきれないほどの強い眠気が頻繁に起こるなど、ナルコレプシーの症状がみられる場合、専門的な検査ができる睡眠外来へ受診しましょう。
とはいえ、眠気の原因が必ずしもナルコレプシーとは限りません。「ナルコレプシーだと思ったら他の睡眠障害だった」という可能性もあるため、まずはメンタルクリニックや心療内科へ相談するのもよいでしょう。
ナルコレプシーの治療法とは
現時点で、ナルコレプシーの完治を目指せる治療はありません。しかし、強い眠気などの症状を軽減しつつ、生活の質を改善するための治療法はあります。
薬物療法
ナルコレプシーの睡眠発作には、主に中枢神経刺激薬の「モダフィニル」を用います。また、睡眠発作に加えて情動脱力発作がみられる場合に用いるのが、少量の三環系抗うつ薬「クロミプラミン」です。
どちらも投与初期に副作用が生じやすくなりますが、服用を継続するうちに次第に軽くなるケースが多いといわれています。
生活習慣を整える
ナルコレプシーの治療には、薬物療法の他に生活習慣の見直しが欠かせません。まずは、夜間にたっぷりと睡眠をとるように心がけましょう。
また、時間の確保ができるときに、短時間のお昼寝を挟むのも有効です。「15分程度のお昼寝を数時間に1回ずつ」が理想といわれていますが、できる範囲で構いません。
自律神経を整えて眠気対策と快適な毎日を
コントロールできないほどの急激な眠気は、ときに自己肯定感をも低下させてしまいます。しかし、適切な治療と生活管理で症状を軽減を目指せば、充実した日々を送ることも可能です。
「夜以外に眠ってしまうせいで睡眠の質がよくない」
「気づいたら眠ってしまってつらい」
そんな方は、まずは生活習慣の見直しを検討し、ゆったりとリラックスしながら眠れる方法を探してみてください。日中の過度の眠気や情動脱力発作がみられる場合は、迷わず専門医に相談しましょう。
【参考】
昼間の眠気 -睡眠時無呼吸症候群・ナルコレプシーなどの過眠症は治療が必要|e‐ヘルスネット 厚生労働省
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)について|国立精神・神経医療研究センター