暴力を受けて育った大人に見られる特徴とは?周囲にできるサポートについても解説

親から暴力を受けて育つと、強い不安感や他人との信頼関係を築きにくくなり、大人になっても社会生活を送るうえで非常に深刻な問題を抱える可能性があります。

暴力とは、身体的な暴力だけでなく、暴言やネグレクトなども含まれます。成長する過程で一番信頼する親からこのような暴力を受けて育った大人は、感情のコントロールが難しく、サポートが必要になる傾向があるのです。

暴力は、親の一時的な感情だけで起こるケースばかりでなく、根深い原因が隠されていることも少なくありません。そのため、親と暴力を受けている子どもの両方へのサポートが必要になる可能性もあるでしょう。

この記事では、暴力を受けて育った人の特徴や周囲ができること、社会的な支援体制などについて詳しく解説します。身体的な暴力や暴言、ネグレクトなど、成長過程の感情面に大きな影響を与える暴力がどのような原因で起こり、どのようなサポートや支援があるのかをお伝えします。

執筆者

心理カウンセラー

久木田(くきた)みすづさん

心理カウンセラー、精神保健福祉士、社会福祉士。現在は、フリーランスライター。
大学卒業後、カウンセリングセンターにて、メンタルヘルスに関する講座やセミナーの講師、個人カウンセリングに携わる。その後、精神科病院でソーシャルワーカー兼カウンセラーとして患者様やご家族のカウンセリング、助言や相談などの仕事に従事。

目次

虐待はなぜ起こる?

虐待が起こる要因は1つだけでなく、いくつもの要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。

たとえば、子育てがうまくいかずにストレスを抱えていたり、病気や障害を持っていても近くに相談したり頼れる身内がいないことが原因で、社会から孤立している場合もあります。

また、親自身も親から虐待されて育っていたり、DVなど夫婦間の不安定さがあったりすることが要因になることがあるでしょう。特に、母親は経済的に夫に依存していることも多く、夫婦の関係が不安定だと、その不安のはけ口が子どもに向かってしまうケースが少なくありません。

このように、虐待は暴力をする加害者個人だけの問題ではなく、貧困や孤立、世代間連鎖などの要因も含まれているのです。

暴力を受けて育った大人に見られる特徴

暴力を受けて育った大人は、感情面に大きな影響を受けていることが多いと言われています。たとえば、対人関係の困難さや自己肯定感の低さ、感情のコントロールの難しさやフラッシュバックなどが見られるケースが多いのです。

しかし、これらの特徴はすべての人に当てはまるわけでなく、個人差が大きいとされています。

対人関係の困難さ

幼少期に、一番信頼でき安心した状態でそばにいられるはずの親から暴力を受けて育った大人は、自分以外の人に対する不信感や警戒心が異常に強くなります。いつ暴力を振るわれるか分からない環境で育つと、他人からいつ裏切られるかという不安感の方が強くなり、仲良くなった人がいたとしても、完全に心を開くことは難しいでしょう。

また虐待が起こっている親子の場合、お互いに依存的になる場合もあります。不健全な関係であるにもかかわらず、離れられない状態になるのです。このようなケースでは、大人になっても、他人に対して依存的な関係を築こうとしてしまうことが少なくありません。

自己肯定感の低さ

アイデンティティが確立される幼い頃に、親から否定されて育つと、自分自身を信じる力である自己肯定感が低くなってしまいます。自分の存在自体が悪いという認識になり、ときには自分を傷つける行動(自傷行為)に走るケースもあるでしょう。

これは、自分の中で沸き起こった怒りなどの感情をどのように処理したら良いか分からずに、「傷つける」という行為となって現れるものです。

また、親からダメ出しや叱られながら育つと、常に「完璧ではないと愛されない」という歪んだ認識を持つようになってしまいます。その結果、異常なまでに完璧ではないと気が済まない状態になるケースも少なくありません。

感情のコントロールの難しさ

私たちの感情は、育つ過程で親から十分な愛情を受けることで、喜怒哀楽を適切にコントロールして表面に出せるようになっていきます。しかし、暴力を受けて育った大人は、自分の感情をそのまま出すと、さらに暴力を受けるという恐怖の中で育っているので、どのタイミングでどの感情を出せば良いのかが分かりにくい場合も多いでしょう。

特に「怒り」や「不安」、「抑うつ」などネガティブな感情のコントロールは、暴力を受けてない人に比べると難しい傾向にあります。

フラッシュバックや悪夢

幼少期に受けたダメージは外側からは見えませんが、心の深い部分に根付くものです。そのため、現在は暴力を受ける心配のない環境に身を置いていたとしても、幼少期に親から暴力を受けていた光景が頭の中にフラッシュバックし、パニックになったり、突然感情が高ぶったりしてしまう場合があるでしょう。

また、自分自身を否定されたり、実際に暴力を受けているような悪夢を見たりすることも少なくありません。大人になっても、暴力を受けて育った当時の嫌な思いがふとしたときに蘇ってくるという特徴があります。

身体的な影響

虐待は、子どもの頃だけで終わりではなく、当時受けた心身の傷は大人になっても慢性的な痛みとして残る場合があると言われています。特に、暴力を受けた身体の箇所によっては、日常生活に支障が出るほど強い痛みが残るケースもあるでしょう。

親から受けた虐待がふとした瞬間に蘇り、恐怖心や不安感などから睡眠障害に陥る場合もあります。こうしたケースでは、暗くなると眠れなかったり、悪夢やフラッシュバックで途中で目覚めたりなど、十分な睡眠がとれずに治療が必要になることも少なくありません。

さらにPTSDと呼ばれる心的外傷後ストレス障害によって、摂食障害が生じる可能性もあるとされています。

暴力を受けて育った過去と向き合うには

暴力を受けて育った人の身体的、精神的な傷は、ただ何もせずに時間が解決してくれるものではありません。そのため、適切な向き合い方をすれば、苦痛を和らげることができるようになるでしょう。

自分自身を受け入れる

親からの虐待は、子どもの自己肯定感を低くし、自分自身を受け入れられない状態にしてしまいます。しかし、過去の虐待経験は自分が完璧にできなかったり、「いい子」ではなかったから起こった出来事ではないと、心の底から理解することが大切です。

また、自分はそのままで十分すばらしいのだと責めることなく受け入れ、向き合う意識が第一歩になります。たとえ失敗しても、その物事がうまくいかなかっただけで、自分自身の価値は関係ありません。同様に、幼少期の親からの虐待も自分自身のせいでなく、環境や状況の影響によるものです。

日常生活のあらゆるシチュエーションにおいて、自分を「責めない」「受け入れる」ということを軸にして過ごすと、少しずつ自分を受け入れられるようになります。

信頼できる人に相談する

人は、1人では生きていけないものです。どんなに精神的に強いと思われる人でも、自分の気持ちを信頼できる人に打ち明けられる環境は必要だと言えます。

幼少期に両親から多くの愛を与えられずに育った人でも、大人になってから家族や友人、パートナーなどと健全な人間関係を築くことができれば、問題が生じた場合でも乗り越えられるでしょう。

健全な人間関係の中で信頼関係を築いたり、子どもの頃に得られなかった安心感を感じられたりするようになると、精神的にも身体的にも安定します。

大きな心配事でなくても、日常の中のちょっとした不安感などを信頼できる人に打ち明ける行為は、自分自身を大切にし、受け入れることにも繋がります。

専門家のサポートを受ける

親から暴力を受けて育った人に対して、専門機関ではカウンセリングやセラピーによる支援を行っています。カウンセリングでは、対面または電話などによって、暴力を受けて育った人に対して、過去に受けた心の傷を丁寧に癒し、前向きに進んでいけるように寄り添います。

カウンセリングを行うのは、専門的な資格を持つ臨床心理士や医師などで、過去のトラウマに向き合う機会を提供してくれます。また、現在どのような問題に苦しんでいるのかを聞いたうえで、その人に必要な支援に結びつけるサポートもします。

今まで、誰にも打ち明けられなかった過去のトラウマを、外部に漏れない安心できる空間で専門家に打ち明けることで、心の傷を癒し、社会の中で生きやすくなっていくのです。

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周囲ができるサポート

過去のトラウマを抱えて生きている人は、周囲の関わり方によって、より生きづらさを感じてしまうケースもあります。そのため、周囲の人は暴力を受けて育った人のトラウマを理解したうえで、適切なサポートをすることが大切です。

話を聴く姿勢を大切にする

暴力を受けて育った人は、本来一番安心できるはずの親から、身体的、精神的な暴力を受けて育っています。それにより、他人を信じられなかったり、自分自身を認めることができなかったりして苦しんでいます。

そのため、暴力を受けて育った人が少し心を開いて悩みを打ち明けたときに、軽い気持ちで否定したり批判したりはしないようにしましょう。そうすることで、逆に心を閉ざす可能性が高くなってしまうからです。

暴力を受けて育った人の話を聴くときは、相手の言葉に心ごと耳を傾けることに集中し、「聴く」姿勢を意識する点が重要です。たとえ自分と意見が違う場面があったとしても、暴力を受けて育った人が素直な気持ちを打ち明けやすい環境を作ることが大切になります。

無理強いをしない

過去に虐待を受けたなどのトラウマがない人の中には、過去の嫌な出来事はさっさと話して忘れた方が良いと感じる人もいるかもしれません。しかし、親からの虐待はそう簡単に忘れられる出来事でなく、他人に打ち明けるとなると大変な勇気がいるものです。

そのため、相手が話したがっていないのに、過去の経験を無理に話させようとしたり、これまでの自分の経験だけを踏まえて価値観を押し付けるようなことは避けましょう。

「否定」や「押し付け」は、暴力を受けて育った人にとって恐怖にも近い感情を思い出させてしまいがちなので、相手のペースに合わせることが大切です。

適切な距離感を保つ

暴力を受けて育った人のなかには、他人と密接に関わるのを避けようとする人もいます。力になりたいと思うあまり、すぐに仲良くなろうと距離を詰めすぎたり、気乗りしていない相手を何度も食事に誘ったりしてしまうと、精神的な負担を感じて閉ざしてしまうことが少なくありません。

暴力を受けて育った人が助けを求めてきたり、サポートが必要だと感じたりするような場合を除いては、相手の状況や気持ちを尊重して、適切な距離感を保ちながら見守ることが大切です。

いつでも力になってくれるという安心感を持ってもらえるよう意識することで、少しずつ打ち解けてもらえるケースも多いので、焦らずにサポートする姿勢を心がけましょう。

専門機関への相談を促す

暴力を受けて育った人は、自分自身が傷ついていることや、健全な人間関係が築けない原因が過去のトラウマのせいだと気づかずに過ごしている場合もめずらしくありません。そのため、1人で問題を抱え込み、苦しんでいるケースも存在します。

このような場合は、自分で専門機関へ相談するという発想が浮かばないことがあるため、周囲の人が相談を促すのが大切です。

専門機関ではカウンセリングのほか、親から虐待を受けて育った人が集まって同じ心の傷を共有する自助会など心の傷を癒せる場所も用意されています。

暴力を受けて育った人を支える支援活動

児童相談所は、子どもが心身ともに健やかに育ち、その持てる力を最大限に発揮できるように家族などを援助し、共に考え、問題を解決していく支援機関です。すべての都道府県に設置されており、児童福祉司や保健師などの専門スタッフによってサポートが行われます。原則18歳未満の子どもに関する相談を受け付けており、誰でも電話などで相談できます。

また、DV相談窓口は、全国共通の電話番号(#8008)に電話をすると、発信地から最寄りの相談機関に自動で転送してもらえるシステムになっています。匿名でも相談することができるので安心です。

さらに、民間支援団体は、政府機関ではなく民間で運営されている非営利組織のことです。社会的に困難な状況に陥っている人を支援する活動を行っています。電話やメールでも相談を受け付けているので、対面で相談するのが苦手な人にもおすすめです。

まとめ

暴力を受けて育った人は、幼少期に十分な愛情を受けて育っていないため、健全な人間関係を築くのが難しいと言われています。さらに、大人になってからもフラッシュバックや身体的な影響を感じながら生活している場合もあり、なかなか心身の傷が癒えない状態になっている人も少なくありません。

しかし、大人になってからでも周囲のサポートによって、健全な心身の状態に近づけることは可能です。専門機関による支援もあるので、1人で抱え込まずに必要なサポートを受けると、心身の負担が軽減されるでしょう。

暴力を受けて育った大人は、自己肯定感が低い、他人と良好な人間関係を築けないなど、社会生活を送るうえでの問題を抱えています。これらを1人で克服するのは非常に難しいため、周囲の人の力や専門機関のサポートを受けることが大切です。

<参考URL>
虐待サバイバーとは?抱える問題や行われている支援を専門メディアが解説│gooddoマガジン|寄付・社会課題・SDGsに特化した情報メディア
音に敏感、頑張りすぎる。虐待サバイバーの働きづらさとは?|日本財団ジャーナル(nippon-foundation.or.jp)
CPTSD|精神科|医療法人社団奏愛会|信愛クリニック(shinai-clinic.com)
「死にたいと思った」9割、虐待気づかれず育った大人の痛み:朝日新聞デジタル(asahi.com)
4.虐待を受けて育った若者の言葉「誰も気づいてくれなかった」季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる 市民セクター政策機構(cpri.jp)
心理学ワールド80号 罰 体罰や言葉での虐待が脳の発達に与える影響|日本心理学会(psych.or.jp)

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