生涯で15人に1人がうつ病になる現代社会。うつ病は珍しい病気ではありませんし、適切な服薬や治療で必ず回復できます。「うつ病になったけど今は回復して働いている」という方もいらっしゃるでしょう。
ただし、うつ病は「再発」するリスクが高い病気でもあります。今回は、うつ病が再発する原因や再発を知らせる心身のサイン、再発を予防する対策などをわかりやすくご紹介します。
臨床心理士・公認心理師
佐藤セイさん
公認心理師・臨床心理士。現在、スクールカウンセラー(中学・高校)・非常勤講師(大学)として勤務しつつ、webライターやブックライターとしても活動中。カウンセラー・講師・ライターのどの立場であっても、受け取る人にとって、消化しやすい言葉や表現を選ぶことを心掛けています。
うつ病は再発する?
再発とは病気から回復した後に、再びうつ病になることを指します。実はうつ病は再発率が高く、回復後も注意しなければならない病気です。
ここでは、うつ病の再発率や再発までの期間についてご紹介します。
再発率は60%
うつ病は再発率が非常に高く、60%の人は再発するといわれています。うつ病が治ってから1年後に再発する割合は約40%であり、再発する人の多くが比較的短期間で再発してしまうことがわかります。
また、過去に2回うつ病になった人の再発率は70%、過去に3回うつ病になった人の再発率は90%と、再発を繰り返すごとに再発率は上がってしまいます。
つまり、うつ病の治療では、症状を治すだけではなく、再発を予防する方法を身につけることも重要となるのです。
再発までの期間は年単位
うつ病の回復プロセスには、「急性期」「回復期」「維持期」の3つがあります。
■急性期(6~12週)
うつ病の症状がもっとも強く出ている時期です。休息と服薬を中心とした治療を行い、心と身体の元気を取り戻します。
■継続期(4~9ヶ月)
うつ病の症状が落ちつく時期です。気分や体調に波はあるものの、うつ病の症状がほぼ治まる「寛解」状態になります。寛解状態が2ヶ月維持できれば「回復」とみなされます。
■維持期(1年~)
症状が回復して「治った」という感覚が持てる時期です。
継続期にいったん寛解したものの、回復に至る前に症状がぶり返すものを「再燃」といいます。うつ病の火種を完全に消火できていないのに、刺激してしまい、再び燃え上がってしまったイメージです。うつ病は再燃を繰り返しながら、少しずつ火種が小さくなって回復に近づいていきます。
一方、再発は「回復」のあと、再びうつ病になることをいいます。前回のうつ病の火種はたしかに消えていたのに、新たな火種が飛び込んできたようなイメージです。
回復してから1年以内に再発するケースもあれば、3〜4年後に再発するケース、10年以上安定していたのに再発したケースなど、人によって再発までの期間には幅があります。
うつ病が再発する原因
なぜ、うつ病は再発しやすいのでしょうか?ここからは、うつ病が再発する3つの原因、「治療の中断」「生活環境の変化」「身体的な病気」について解説します。
治療の中断
うつ病は症状が消えれば「治った」といえる病気ではありません。症状が強く出ている「急性期」はもちろん、症状がある程度落ちつく「継続期」に入っても、症状が出ない状態が安定するまで、休息や服薬などによる治療を続ける必要があります。
しかし、うつ病になる人は、真面目で責任感が強い人が多く、休むことに罪悪感を抱く傾向があります。休んでいると「自分だけ怠けている」「休んだ分だけ、みんなに迷惑がかかる」などの考えに襲われ、落ちつかない人もいます。
そのため、寛解すると、すぐにでも復帰しようと試みます。しかし、寛解はうつ病の火種が小さくなっているものの消えていない状態です。ちょっとしたきっかけで火は再び大きくなり、再燃が生じます。
うつ病からいったん回復した「維持期」に入っても、油断はできません。先ほどもご紹介した通り、うつ病になると約60%は再発してしまうのです。そのため、維持期に入ると治療ではなく再発予防のための通院・服薬が求められます。
ところが「もう治ったから大丈夫」「いつまでも薬に頼ってはダメだ」と考え、自己判断で通院や服薬を中断した結果、再発してしまうことがあります。
生活環境の変化
うつ病の再発につながる、生活環境の変化として代表的なのが「重大な喪失」です。
- 大切な人や存在を失う
- 金銭トラブルにより多額のお金を失う
- 重い病気やケガにより健康を失う
など、これまでの人生の支えとなってきた、人・お金・健康などを失い、取り戻せない事態に陥ると、強いストレスがかかって、うつ病を再発しやすくなります。
また、重大な喪失ほどではなくても、生活における小さな変化が積み重なれば、うつ病の再発リスクは高まります。
たとえば、
- 居住環境の変化(例:引っ越し・自分や家族の単身赴任)
- 労働環境の変化(例:異動・昇進・転勤・離職・転職)
- 家族関係の変化(例:結婚・離婚・子どもの独立・親の介護)
などです。
身体的な病気
うつ病は「心の病気」としてのイメージが強いですが、身体的な病気の影響で発症するケースも見られます。
たとえば、
- 心疾患(心筋梗塞など)
- 脳血管疾患(脳梗塞など)
- がん
- アルツハイマー型認知症
- 糖尿病
などの身体疾患になると、うつ病になるリスクが健康な人の約1.5〜3倍にまで高まります。
また、ホルモンバランスが乱れやすい女性は、
- 月経前に生じる「PMS(月経前症候群)」
- 妊娠に伴う「周産期うつ」
- 出産に伴う「産後うつ」
- 更年期に生じる「更年期うつ」
など、身体的な変化がうつ病再発のきっかけになる可能性があります。
うつ病再発のサインとは
もし、うつ病が再発しても早めに気づけば、悪化する前に寛解・回復の状態へと戻せます。ここでは、うつ病再発に気づく4つのサインをご紹介します。自分に当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
気力がなくなる
うつ病の再発サインの1つ目は、「気力がなくなる」こと。次のような症状が見られます。
- 身体がだるく起き上がれない
- 集中力が低下している
- やる気が出ない
- 好きな活動が楽しくない
- 以前のように考えたり行動したりできない
感情の起伏が激しくなる
「感情の起伏が激しくなる」のも、うつ病再発のサインである可能性があります。
- 悲しみやゆううつ感が1日中ある
- ささいなことでイライラする
- 気持ちが落ちつかない
- 「自分は無価値だ」と思う
- 「死んでしまいたい」という気持ちがある
食欲がなくなる
うつ病が再発すると、「食欲がなくなる」という変化も見られます。
- 食欲がない
- 食事が美味しいと感じられない
- 体重が減ってきた
- 胃がむかむかする
- お腹が痛い
眠れなくなる
うつ病の再発サインとして、最後に紹介するのが「眠れなくなる」ことです。
- 布団に入っても1時間以上眠れない
- まだ夜中なのに目が覚めてしまう
- 起きたい時間より早く目が覚める
- ちゃんと寝ているはずだが疲れが取れない
- 嫌な夢を見る
うつ病の再発を防ぐには
うつ病は再発までの期間が短いほど、そして再発した回数が多いほど再発率が高まる病気です。逆にいえば、再発までの期間を長引かせ、再発を繰り返さないように行動すれば、再発率を低く抑えられるということ。
ここからは、うつ病の再発を防ぐ3つの方法を解説します。
通院・服薬を続ける
うつ病の再発を防ぐもっともっとも効果的な方法は、症状が出なくなっても、通院・服薬を続けることです。
うつ病の症状が治まった寛解後も、4〜9ヶ月もしくはそれ以上の期間、服薬を続けると、再燃や再発を予防できる可能性が高くなります。また、再発した場合でも1〜3年間、服薬し続けると、次の再発を抑える効果が期待できます。
抗うつ薬は人によって効き方に差があるため、服薬を続けるべき期間についても個人差が大きくなります。
目安となるのは「残遺症状」です。残遺症状とは、うつ病の回復後も残る「不眠」「意欲低下」「倦怠感」などの症状のこと。残遺症状がある人よりも、残遺症状がなくなるまで服薬を続けた人の方が再発率が低くなります。たとえば、1年後に再発する割合は、残遺症状がある人は約70%、残遺症状がない人は約20%でした。残遺症状があると、ない人より3倍以上、再発しやすくなるのです。
根気強く通院・服薬を続けましょう。
ストレスを発散する
ストレスを発散できずにため込んでしまうと、どこかで必ず爆発します。その爆発こそ、うつ病の再燃・再発です。ストレスはため込まず、適度に発散してみましょう。
■家事(掃除・料理など)
掃除や料理などの家事は、成果がはっきりわかるため、達成感・充実感があります。さらに、部屋や食べ物など自分の「外部」の情報に集中するため、自分の「内部」の不安やゆううつから注意を切り替えることもできます。
■軽い運動(ストレッチ・ヨガ・散歩など)
軽い運動は、脳内で「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質を分泌させます。セロトニンは精神を安定させる役割があり、モヤモヤした気持ちを解消してくれます。
■マインドフルネス
マインドフルネスは「今、ここ」で起きていることに集中している状態を指します。ストレスをため込むと、私たちは「今、ここ」で起きていることに集中できませんが、マインドフルネスに取り組むことで、ネガティブな過去や未来のことよりも今得られるはずの楽しみに目を向けることができます。
マインドフルネスを実践する2つのワークをご紹介します。
<呼吸のマインドフルネス>
椅子や床でゆったりと座り、自然に腹式呼吸を行います。息が入りお腹が膨らんでいく様子や、お腹からゆっくり息が流れ出ていく様子を観察します。5〜10分程度続けると効果的です。
<レーズン・エクササイズ>
1粒のレーズン(ほかの食べ物でも代用可)を用意して、以下のように「今、ここ」での体験を五感で楽しみます。
- レーズンの色やツヤ、シワなどを観察する
- 香りを嗅いでみる
- 触り心地を楽しむ
- 口に入れたときの唾液の分泌を感じる
- レーズンを舌で転がしてみる
- レーズンを少しだけ嚙んで、味を感じる
- レーズンをさらに噛んで、味の変化を確かめる
- レーズンを飲み込み、喉から体内へと流れ込む感覚を味わう
レーズンでなくても良いため、普段の食事やおやつの一口分をマインドフルネスに味わってみると良いでしょう。
カウンセラーに相談する
カウンセリングの中でも「認知行動療法」はうつ病の再発予防効果が認められています。認知行動療法とは、「認知(思考)」や「行動」にアプローチする方法です。
うつ病の方は、出来事に対して反射的にネガティブな認知が浮かぶ傾向があります。
たとえば、「同僚から『すごいね!』と賞賛された」という一見ポジティブな出来事に対しも、反射的に「どうせお世辞でしょ」「小さい子を褒めているみたい」とネガティブな認知が瞬時に浮かびます。もちろん、ネガティブな出来事にはネガティブな認知が浮かびます。
つまり、うつ病の方は、何が起きても嫌な認知・感情が生じやすく、ストレスを感じやすいのです。その結果、再発しやすくなってしまいます。
認知行動療法では、1つの出来事に対し、柔軟な捉え方を身につけるワークを行い、うつ病の再発を予防します。「症状は改善したけれど、ネガティブな考え方は残っている」という方は、ぜひカウンセラーに相談してみてください。
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まとめ
うつ病の再発率は約60%といわれており、いったん回復しても、治療の中断や生活環境の変化、身体的な病気などをきっかけに再発する可能性があります。
再発を防ぐためには、以下の4つの方法があります。
- 通院や服薬を根気強く続ける
- ストレスを発散する方法を身につける
- 医師に調子をチェックしてもらう
- カウンセラーとネガティブな考え方を和らげる
上記の方法を継続すれば、うつ病の再発率を下げたり、再発までの期間を延ばしたりすることが可能です。自分だけで背負わず、専門家や家族と一緒に取り組んでみてください。
<参考文献>
・神庭重信(2023)「うつ病」の再発を防ぐ本 家族と本人が知っておくべき予防法 大和出版
・あらたまこころのクリニック「うつ病の再発のサインとは?回復経過の特徴やぶり返しリスクについて」
・日本うつ病学会治療ガイドライン「Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016」
・e-ヘルスネット「循環器疾患とこころ」
・e-ヘルスネット「糖尿病とこころ」
・伊藤絵美(2020)セルフケアの道具箱 ストレスと上手に付き合う100のワーク 晶文社