ストレス社会ともいわれる現代において、人の心は簡単に病んでしまいます。心が病んだ状態は非常につらいものですが、原因や対処法について正しく理解しないと、状態はどんどん悪化してしまいます。
そこで今回は、病んでいる時に出てくる症状と病む原因、病んでしまった時の対処法について解説していきます。ぜひこの記事を参考にして、一刻も早く病みから抜け出し、健康的な生活をとりもどしてください。
jyun_kanoさん
大学・大学院にて心理学を専攻し、臨床心理士と公認心理師の資格を保有しています。2児の父であり、子育てに関することから職場でのストレスの対応方法など、日常生活に応用できる心理学をわかりやすく解説していきます。
病んでいる時の症状とは
自分自身の精神状況は意外と把握しにくく、気付いた時には重症化しているケースが多くあります。ここでは病んでいる時に起こりやすい精神症状についてまとめていきますので、どの程度自分に当てはまっているのか確認してください。
イライラしやすい
病んでいる時には自律神経が乱れ、幸せホルモンである「セロトニン」の分泌量が減るため、精神的に不安定になり、心のゆとりが無くなります。すると易怒性(いどせい。ちょっとしたことで怒ってしまう状態)が高まり、イライラして人間関係が悪化したり、自尊感情(じそんかんじょう。「自分はすごい」「自分ならできる」という思い)が低くなったりしてしまいます。
イライラしているため、物事がスムーズに進まず、さらにイライラし、事態が深刻化していくというジレンマに陥ってしまうとなかなか抜け出せませんし、一度壊れてしまった信頼関係を元に戻すには長い時間がかかってしまいます。
感情の起伏が激しい
病んでいる時にはイライラしやすいだけでなく、漠然とした不安感に襲われ涙を流す、急に落ち込んでしまうなどの感情の起伏が激しくなります。
まるでジェットコースターのように感情の高ぶりや落ち込みが続くと精神的負担が多くなり、やがては「死にたい」「すべてを終わりにしたい」という「希死念慮(きしねんりょ)」が強くなってしまうことも少なくありません。
また感情の起伏を自分でコントロールできないため、衝動的な行動を起こしやすく、自殺やリストカットなどの自傷行為につながる可能性もあります。このため、誰かにそばにいてもらう、話を聞いてもらうといった対策が必要です。
思考がネガティブになる
病んでいる時には、将来について何の希望も見いだせず、何の根拠もないにもかかわらず「どうせうまくいかない」「自分には価値がない」と感じることがあります。たとえ良いこと、うまくいったことがあっても「たまたまだ」「次は絶対に失敗する」とマイナスに考えてしまうのです。
心理学ではこれを「認知の歪み」の1つである「マイナス化思考」と呼んでいます。
認知の歪みとは「考え方のクセ」のようなもので事実を捻じ曲げて解釈してしまうことであり、「マイナス化思考」とは物事のポジティブな部分をネガティブに置き換えてしまう考え方を指します。
病んでいる時は認知の歪みが特に大きく出やすくなります。認知の歪みを解消するには、認知行動療法などの心理療法を受ける必要があります。
気力がわかない
病むことで無気力になってしまうケースもあります。なにもやる気が起きず、勉強や仕事に手がつかなくなってしまうのです。
本人としても「やらなければ」「動かなければ」といった危機感はあるものの、どうしても体が動いてくれず、それを見ている家族や先生、職場の人から「怠けている」「甘えだ」と批判され、ますます精神的に追い詰められてしまいます。
また、病むきっかけになったことが「努力が実らなかった」「頑張ったのに評価が得られなかった」などの場合、無気力になりやすい傾向があります。このような場合の無気力は「バーンアウト(無気力症候群)」と呼ばれ、十分な休息と医学的なケアが必要となります。
眠れない/寝過ぎる
睡眠は人間の活動には必要不可欠ですが、病んでしまうと睡眠に大きな影響が出てしまいます。たとえば、以下のような症状が続いて睡眠不足になることが少なくありません。
- 入眠困難…眠ろうとしても不安感やネガティブな思考に支配されてしまい寝付くことができない
- 中途覚醒…悪夢や寝苦しさから夜中に目覚めてしまい、その後眠ることができない
- 早朝覚醒…早朝に起きてしまい、そのままずっと起きている
さらに、睡眠に対しての影響は睡眠不足だけではなく、睡眠過多としても現れます。どれだけ寝ても睡魔に襲われ、起きている間はだるさや頭がぼーっとした感覚に襲われることがあります。
睡眠にはメンタルを安定させる効果もありますので、睡眠のトラブルが続く限りは病んだ状態から抜け出すのは難しくなってしまいます。
病んでしまう原因とは
次に病んでしまう原因について解説していきます。病む原因はたくさんありますが、今回は代表的なものを5つ紹介していきます。
病みは1つの原因によって引き起こされるのではなく、複数の原因が重なり合うことで発生するため、自分の環境や生活リズムを見直し、少しずつ改善していってください。
ストレス
病む原因として一番多いのはストレスです。そもそもストレスとは「外部から刺激を受けた際に生じる緊張状態」のことを指し、ストレスを生み出す源を「ストレッサー」と呼びます。
現代社会にはこのストレッサーがいくつも存在します。苦手な勉強・課題をしないといけないストレスから、嫌な人と一緒に作業をしなければならないストレス、SNSが発達した結果いつでもどこでも人に気を遣わなければいけないストレスなど、挙げていけばキリがありません。
さらにストレスのなかには自分で調節できないストレスも存在します。気候や満員電車など、自分ではどうしようもないストレッサーが多いほどストレスは加速していきます。
睡眠不足
先ほども触れた通り、睡眠には精神安定の働きもありますが、勉強や仕事に追われ、十分な睡眠時間が確保できなければ、疲労やストレスが溜まる一方です。勉強や仕事に充実感を持っていても、ある日突然動けなくなる、気力がなくなるといった病みの状態に陥ってしまうことは珍しいことではありません。
若いうちは短い時間でも睡眠の質が高く、体力もあるため何とかなりますが、歳を重ねていくにつれて睡眠の質と体力は低下していきます。「睡眠時間が足りているのか」「日中に強い眠気などを感じていないか」などセルフモニタリングすることで、定期的に自分の睡眠状況について見直していきましょう。。
食生活の乱れ
「冷凍食品やインスタント食品ばかり食べる」「朝食を食べない」などの食生活や栄養バランスが崩れることも病む原因とされています。
近畿大学が行った調査(注1)によると、加工食品の摂取量が多いと食生活が乱れ、生活習慣が不規則となり、睡眠不足につながることが明らかになっています。さらに加工食品は身体的症状(だるい、やる気が出ないなど)にも影響し、間接的に精神的不安定に影響を与えているともされています。
また、カルビー株式会社と関東学院大学による共同研究(注2)によると、これまで朝食を抜いていた人に、朝食を8週間食べ続けてもらった結果、睡眠の質が改善し、抑うつ気分や無気力感が低下したという報告がされています。
つまり、朝食をとらないということは睡眠の質を下げ、ネガティブな気持ちを増幅させてしまうということになります。
ホルモンバランス
病んでしまう原因で女性に多いのが「ホルモンバランスの乱れ」です。女性ホルモンは男性ホルモンに比べ分泌の変動が激しいため、心身ともに大きな影響を与えます。
女性ホルモンのなかでもエストロゲンの分泌量が減ると精神的に不安定になり、病む原因となります。エストロゲンは生理中から徐々に増加し始め、排卵前にピークを迎えます。排卵すると急激に減少し、次の月経に向けて少しずつ分泌量が減少するというサイクルを繰り返していきます。
つまり約1か月の周期でエストロゲン量は上下し、精神的に不安定な機関が訪れるため、病みやすくなってしまうのです。
精神疾患
最後に紹介するのが精神疾患です。病んでいる時の症状の背景には精神疾患が隠れている可能性があります。それが「うつ病」と「適応障がい」です。
うつ病はストレスをはじめとした様々な要因が複雑に絡み合い発症します。症状については病んでいる時に出るものと同じですが、期間が2週間以上と長く、環境や生活習慣を変えない限り自然治癒は難しいとされています。
適応障がいも病んでいる時と同様の症状が出ますが、うつ病との大きな違いは「ストレッサーの排除による症状の緩和の有無」にあります。
例えば最も大きいストレッサーに「上司から毎日叱責される」というものがあったとします。適応障がいの場合は、休職や離職などで上司に会うことがなくなると徐々に症状が落ち着き、6か月以内に寛解(症状がなくなり、日常生活を問題なく送ることのできる状態)になるとされています。
一方でうつ病の場合は例え上司から離れたとしても症状が治まることはなく、うつ状態や希死念慮が続き、最悪の場合、自らの命を絶つという道を選びかねません。
どちらも心の病であり、決して「甘え」「心が弱い」から発症するのではありません。専門的な治療を受けながら療養していく必要があります。
病んだ時の対処法
もし自分が「病んでいるかも」と感じたら、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは具体的な対処法について紹介していきます。
しっかり休息する
病んでしまった時は、なにより休息をとることが重要です。
一般に、真面目でしっかりした人ほど抑うつ気分になりやすいといわれています。これは真面目さから「ちゃんとやらなきゃ」「しっかりしなくては」という思いが自分自身の首を絞め、余裕がなくなりやすいからだとされています。
休むことへ罪悪感を感じたり、「こんなことで休むなんて自分はなんてダメな奴なんだ」と感じたりするとしても、しっかり休むことこそ元の生活へ戻る一番の近道です。
「今は休むことに集中しよう」「休むことは間違いじゃない」という気持ちをもって、症状が落ち着くまでは心と体を休めることに専念してください。
適度に運動する
症状が落ち着いてきたところで、少しずつ体を動かしていきましょう。ただし、復帰を急いでハードな運動をするのではなく、まずは散歩や簡単な家事から始め、徐々に体を動かす回数、時間を増やしていくことが重要です。
具体的な運動の強度と時間については、ランニングなどの有酸素運動や筋力トレーニングといった中強度の運動だけでなく、ストレッチや呼吸法といった低強度の運動を30分程度行うことでも十分に効果的とされています(注3)。
運動に関しても「体を動かさないといけない」と義務的に考えるのではなく、気晴らしや軽いストレッチ感覚で取り組み、無理のない範囲で継続していけるといいですね。
生活習慣を見直す
生活習慣について見直していくことも必要です。
たとえ病みから脱することができたとしても、同じ環境、同じ習慣で暮らしていては同じようなストレッサーでまた病んでしまう可能性があります。
病みを予防するためにも、しっかりと朝食やバランスのよい食事をとる、8時間程度睡眠時間を確保し、睡眠環境を整えるなど、できるところから少しずつ変えていきましょう。
環境や生活習慣は意識しなければ変えることはできません。最初こそ大変ですが、「将来の健康への投資」と考え、実行してください。
家族や友人と話をする
病んでしまった時にひとりで抱え込むことは危険な行為です。どんどんとマイナス思考になり、視野が狭まることで間違った判断を下してしまう場合が多くあります。
日本人には恥の文化があり、他の人と異なっていたり、自分の弱さをさらけ出すことに抵抗感をもつ方も多いでしょう。しかし、病むことや悩むことは恥ずかしいことではありません。誰にでも起こりうることです。誰にも話さずつらい思いをしているほうがよっぽど周囲の人を悲しませてしまいます。
カウンセリングの世界でも、「話す」ことは「離す」ことだとされています。自分の思っていること、感じていることを言葉にすることで、自分のなかから取り出すことができ、気持ちが楽になります。
ひとりで悩むのではなく、ぜひ色々な人に支えてもらってください。
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専門医の診察を受ける
4つの対処法を説明しましたが、自分自身で「病んでいるな」「少しおかしいな」と感じた段階で医療機関を受診することをお勧めしています。
「そんな大げさなことじゃない」と感じるかもしれませんが、抑うつ状態をそのままにしておくと、精神疾患に発展する可能性もあります。精神疾患の場合はきちんとした薬物療法や心理療法での治療を受ける必要があり、治療が遅れれば遅れるほどつらい時期が長くなります。また先ほど紹介したうつ病や適応障がい以外の疾患が隠れている可能性もあります。
「たいしたことない」「少し疲れているだけ」と楽観的に考えるのではなく、まずは医療機関を受診してください。
病んだ時のNG行動
最後に病んでしまった時にやってはいけない、NG行動について紹介していきます。
病んでいる時は通常時の精神状態と異なりますので、様々な危険性があります。大きな事故などにつながる危険性があるため、十分注意してください。
乗り物の運転には要注意
病んでいる状態はイライラしていたり、落ち込んでいたりと精神状態の不安定さに加え、睡眠不足や睡眠過多から頭がぼーっとしていることから判断力が低下しており、事故を起こす可能性が高くなります。
実際に警察庁は「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」(注4)として躁うつ病を挙げています。躁うつ病とは躁状態(病的なまでに気分が高揚して怒りっぽくなったり開放的になったりする状態)とうつ状態を繰り返すタイプのうつ病を指します。
もちろん「うつ状態だと運転ができない」というわけではありません。症状が軽度だったり認知判断能力に問題なければ運転できます。しかし抑うつ状態での運転には高いリスクがあるため、できる限り運転は避け、電車やバスなどの公共交通機関を利用したほうが安全でしょう。
まとめ
今回は病んだ時の症状と病んでしまう原因、そして対処法と病んでいる時のNG行動について解説してきました。
病んでいる時の症状は個人差があるため、すべての症状が出るわけではありませんし、症状の強さも異なります。病んでしまう原因についても同様で、今回紹介できなかった要因がもととなり病んでしまうこともあります。
そのため普段から自分の心の状態を意識し、少しでも変わったこと、おかしいと思ったことがあれば、医療機関を受診し、休息したり、環境を整えたりすることで、病みから脱してください。そして同じ状況に陥ったとしても病まないもしくは病んでしまったとしてもすぐに元の生活に戻れるように対策を立てておくことで、苦しい期間を限りなく短くすることができます。
この記事の内容を、心の健康の参考にしてみてください。
注1 近畿大学農学部(2008) 大学生の精神的健康度に影響する食事因子の検討
注2 カルビー株式会社(2019) 朝食欠食者が習慣的に朝食を摂取したときの主観的評価と体組成変化
注3 永松俊哉(2013) 抑うつ改善に及ぼす運動の効果
注4 警察庁「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」について