人にはいいところもあれば、悪いところもあります。それは、あなたも例外なく同じです。そういうありのままの自分を認め、肯定することは、生きていく上で大きな支えになります。あなたにはそんな自己肯定感が備わっていますか?
もし、あなたがありのままを肯定できず、否定的な目で見てしまっているのであれば、つらいことですよね。そこで今回は、自己肯定感の低い人の特徴や原因、そしてどうすれば自己肯定感を高めることができるのか、解説していきます。
臨床心理士・公認心理師
aiirococcoさん
公認心理師、臨床心理士として総合病院に勤めています。小児科外来をはじめ、緩和ケアチームやリエゾンなど幅広い年齢層の方の心理支援を行っています。また、webライターとして主に心理系の記事を執筆中。誰かに相談するほどではないけど困ったな、というときに役立つ情報を発信できるよう頑張ります。
自己肯定感とは?
自己肯定感とは、どういうものなのか、自分を肯定するとはどういうことなのか、分かりやすく解説していきます。
①自己肯定感という言葉について
1994年に高垣忠一郎という日本の臨床心理学者が提唱した概念です。「自分が自分であって大丈夫」という安心感を自己肯定感と言います。国民性や社会的背景によって、日本人は、この自己肯定感が、他国に比べて低いことが問題視されてきました。
②自己効力感との違い
よく似た言葉に、自己効力感という言葉があります。自己肯定感も自己効力感も、自分という存在に対して、ポジティブな目で見ているということは共通しています。自己効力感は、目の前の課題を「自分ならやり遂げることができる」という感覚のことです。それに対して、自己肯定感は「自分はありのままでも価値がある存在である」という感覚のことです。
③自己肯定感が高い人の具体例
例えば、みんなよりも背が低いという特性を持っているとしましょう。自己肯定感が高い人は、そういう特性に対して「自分は背が低いけど、それが個性だし、その分可愛らしさがある」と思うことができます。一方、自己肯定感が低い人は、何かうまくいかないことがあるたびに「背が低いせいだ」と思ってしまうのです。
自己肯定感が高い人の特徴
では自己肯定感が高い人には、どういった特徴が備わっているのでしょうか?特徴を知ることで、もう少し具体的にイメージしやすくなるかもしれません。
①思考や発言が前向き
自己肯定感が高い人は、思考や発言が前向きです。うまくいかないことがあっても「そういうこともあるし、次はうまくいくかもしれない」と常に前を向く力にあふれています。自分自身だけでなく、周りの人も前向きな雰囲気になるような声かけをすることが得意でしょう。
②主体的で能動的
自己肯定感が高い人は、他人任せにせず、自分で考えて行動しようとするところがあります。他人の評価ではなく、自分がどうしたいのかというところに重きを置いて考えることができますし、行動することができます。言われたからやるのではなく、自分でそう考えるからやる、それが自己肯定感の高い人です。
③他人を否定しない
自己肯定感が高い人は、他人のことを否定したりしません。考え方が違っても「そういう考えの人もいる」と尊重することができるのです。自分と違うからと否定したり、自分の意見に不安を感じたりすることがないのが特徴です。自分を肯定するだけでなく、他人のことも肯定的な目で見ることができます。
④精神的に安定している
自己肯定感が高い人は、精神的に安定しています。他人の評価などに振り回されることがないため、気持ちの上がり下がりが大きくなく、比較的穏やかです。またストレスに対処する能力も高いため、ストレスが溜まったと感じると自分で上手に解消していたりするでしょう。
⑤チャレンジ精神が旺盛
自己肯定感が高い人は、チャレンジ精神が旺盛です。失敗するかもしれないと思っても、やってみたい気持ちが優っていれば、思い切って挑戦しようとするでしょう。たとえチャレンジした結果うまくいかなかったとしても、そこから得られるものを得て、次に活かそうとするはずです。
⑥対等な関係を築く
自己肯定感が高い人は、相手が誰であっても対等な関係を築こうとします。相手の顔色を伺ったり、ゴマを擦って相手に迎合しようとしたりはしないでしょう。相手のことも自分のことも尊重し、きちんと話し合うことができる関係を築こうとします。
⑦ネガティブな感情も受け入れ、うまくコントロールできる
自己肯定感が高い人は、自分の中に湧いてくるネガティブな感情も受け入れることができます。「この人のことあまり好きではないな」とか「イライラしているな」などのネガティブな感情を持っている自分を、素直に認めて客観視できるため、感情が爆発してしまったり必要以上に感情を抑えてしまうということがありません。
自己肯定感が低い人の特徴
では逆に自己肯定感が低い人には、どういう特徴があるのでしょうか?
①思考や発言が後ろ向き
自己肯定感が低い人は、思考や発言が後ろ向きになりがちです。「どうせやったって無駄でしょう」とか「わたしなんかが」というような発言をよくしがちではないでしょうか。自己評価の低さだけでなく、何事もうまくいかない可能性から考えてしまう傾向がありそうです。
②受動的で指示待ち
自己肯定感が低い人は、受動的で指示待ちになりやすいです。自分から何か考えて動くというよりは、誰かに指示をしてもらって、その通りに動こうとするところがあるでしょう。指示がないと動くことができないですし、誰かに言われないと自分から行動を起こすことが難しいかもしれません。
③他人に厳しい
自己肯定感が低い人は、自分への評価も厳しいため、他人への評価も自然と厳しくなってしまいます。「わたしですらできるのに、あなたはできないの?」というような言い方をしてしまいがちです。また自分と違う考えを受け入れにくく、話し合う前から相容れないと遠ざけてしまおうとするところがあるでしょう。
④精神的に不安定
自己肯定感が低い人は、自分に自信が持てず、自分に存在価値があるのかどうか不安を抱えながら生きています。そのため他人からの評価を必要以上に気にしてしまい、ことあるごとに気分をかき乱されてしまうのです。ちょっとした言葉に傷ついて落ち込んだりするため、どうしても不安定な感じになってしまいます。
⑤諦めが早い
自己肯定感が低い人は、自分が何かに挑戦する前に「できない」と諦めてしまうことが多いです。失敗してしまうことを恐れており、チャレンジ自体から逃げてしまうのでしょう。失敗することが、自分の価値を余計に下げるように感じるというのもあるでしょうし、立ち直れなくなるようにも感じられるのかもしれません。
⑥相手の顔色を伺う
自己肯定感が低い人は、相手の顔色をよく伺います。機嫌を損ねていないか、嫌われていないか、常に気になってしまうのです。そのため、無理をして愛想よく振る舞おうとしたり、相手の言うことを全て「その通りですね」と受け入れたりすることがあります。対等で、きちんと言いたいことが言える関係を築きにくいでしょう。
⑦ネガティブな感情に蓋をする
自己肯定感が低い人は、ネガティブな感情に蓋をしてしまいやすいところがあります。「あの人のことが嫌いだ」とか「イライラする」といったネガティブな感情を感じた自分に居心地の悪さを感じて、見なかったことにしてしまうのです。そういうネガティブな感情を感じる自分はよくない存在だと思ってしまうのでしょう。
自己肯定感が低い原因とは?
自己肯定感が高い人と低い人の特徴を見て、自分は自己肯定感が低いのではないかと感じた人もいるでしょう。では、どうして自己肯定感が低くなってしまったのでしょうか?自己肯定感が低くなってしまうのには、複合的な原因があることが多いです。
①幼少期の育ち方
とても厳しい家庭で、叱られてばかりいた人は、自己肯定感が低くなりがちです。できることが当たり前で、できないあなたはダメだと言われて育つうちに、自分で自分を受け入れることができなくなっていってしまいます。自分で自分を認めることが難しくなってしまうのです。
②いじめ
過去に周りの人からいじめを受け、心身ともに傷つくような経験をした人は、自己肯定感が低くなりがちです。心ない言葉を投げかけられ、あたかもあなたが下に位置する人間であるかのように扱われることで、あなた自身の中でも「自分は価値が低い」と感じるようになってしまうのです。
③元々の性格
親や教師がどれだけ誉めてくれていても、自分自身が完璧主義で、それを素直に受け入れられなかった場合、どうしても自己肯定感は低くなってしまうかもしれません。完璧を目指しているのに、うまくできない自分はダメだという極端な見方をすることで、自分の価値がどんどん下がっていってしまうのです。
自己肯定感が低いことによる影響
では自己肯定感が低いと、生活にどんな影響を及ぼすのでしょうか?自己肯定感が低いことで、おそらく日常的に困ることがあるはずです。
①萎縮して自分の可能性を潰してしまう
自己肯定感が低いことで、難しそうなことに挑戦したり、能動的に何かに取り組んでみたりということができなくなります。指示されたことだけをこなし、失敗しそうなことは避けているうちに、自分の可能性を潰していってしまうのではないでしょうか。たくさんのチャンスを逃してしまうかもしれません。
②気持ちの上がり下がりが激しい
自己肯定感が低いことで、どうしても些細なことに傷ついたりし、気持ちが不安定になってしまいます。気持ちの上がり下がりが激しいと、周りも気を遣ってしまいますが、何より自分自身がしんどい思いをすることになります。他人の何気ない言葉に、自分の存在価値を揺るがされるのは、思っている以上につらいことです。
③承認欲求が強くなる
自己肯定感が低いと、承認欲求が強くなってしまいます。自分を見て欲しい、良い評価をしてほしい、認めて欲しいという気持ちが強まり、周りに対して一生懸命アピールしようとしてしまうでしょう。承認されないと不安が募り、落ち着かなくなってしまいます。SNSに依存してしまう人も結構いるでしょう。
④他人と自分を比べてしまう
自己肯定感が低いと、常に周りにいる人と自分を比べてしまいます。そして強い嫉妬心を感じてしまったり、自分はダメだと落ち込んでしまったりするのです。また他人と比べて、妙な焦りを感じてしまうこともあるでしょう。親になると、今度は自分の子どもと他人の子どもを比べて、つらくなったりしてしまうことが増えてきます。
⑤自分の意見が言えない
自己肯定感が低いと、自分の意見が言えなくなります。自分の意見があまり重要とは思えず、口をつぐんでしまうことが増えてしまうのです。会社などで意見を求められても、言葉が出てこなかったり、意見した後で「こう言えばよかった」と、ひとり反省会ばかりやってしまうのではないでしょうか。
自己肯定感はどう育まれるのか
自己肯定感は、生まれてから育っていく中で育まれていくものです。だからこそ、大人になってからでも高めていくことはできるのではないでしょうか。どのように自己肯定感が育まれるのかを知ることが、自己肯定感を高めるヒントになります。
①良い行動を褒める
何か良い行動をした時に、誉めてもらえると、きっとまたその行動をしたくなるでしょう。大きな声で挨拶したら親から褒めてもらえた子は、どんどん積極的に挨拶をするようになります。そして挨拶ができる自分を、好きだと感じるでしょう。それが自己肯定感を育むことに繋がります。
②他人と比べず、成長を認める
人によって成長具合は様々です。ぐんぐん成長する人もいれば、時間をかけてゆっくりと成長していく人もいます。比べることには意味がないのです。その人の中で成長した部分があった時に、誰かが「成長している」と認めてフィードバックすることで、自分を肯定的な目で見られるようになります。
③失敗しても前向きな声をかける
何か失敗をしてしまった時に、叱責されてばかりいると、失敗を怖がる人になります。でも「頑張っていたよ」「次はこういう工夫をすると良いかもしれない」など前向きな声をかけてもらえると、自然と前を向いて頑張ってみようという気持ちが湧いてくるでしょう。失敗するときもあると失敗した自分を認めることができるようになります。
④自分で考える
何でもかんでも周りの人が先回りして考えて指示をしていると、本人はどんどん受け身的になっていってしまいます。自分で考えることに自信が持てなくなり、周りの人に依存するようになっていってしまうでしょう。自分で考えるということは、自己肯定感を育むために必要な過程です。それが間違えた考えであっても、否定せず受け入れられる経験が重要なのです。
自己肯定感を高める方法とは?
子ども時代にうまく育むことができなかった自己肯定感を、今になって高めることはできるのでしょうか?結論から言えば、それはできます。周りの人との関係にもよりますが、自分自身の考え方を意識的に変えることでも、ある程度効果はあるのではないでしょうか。
①自分の気持ちに素直に耳を傾ける
自己肯定感が低い人は、自分の気持ちに素直に耳を傾けることが苦手です。そんなことを感じてはいけないというタブーがたくさんあるからです。まずは、そういうタブーは全て取っ払って、もっと素直に耳を傾けてみましょう。聖人君主のような人だって、悪いことを考えることがあります。否定せず、そういう感情を持った自分も認めてあげることが、自分への優しさなのではないでしょうか。
②小さな成功体験を積み重ねる
大きな成功体験を狙う必要はありません。小さな成功体験を積み、そのたびに自分を褒めてあげましょう。「このくらいのことできて当たり前」という目で見ず、挑戦したことを褒め、うまくいったことを喜びましょう。自分は頑張っていると認めることは、大切なことです。
③他人からの褒め言葉を素直に受け取る
自己肯定感が低い人は、他人から褒められることに慣れていません。そのため、褒められると居心地が悪くなり、自分の悪い部分を上げてみたり否定してしまったりしがちです。褒められた時には、「ありがとう」「褒められて嬉しい」など前向きな言葉を返すと良いでしょう。自分で自分を悪く言うのは、カッコ良くありません。
④自己肯定感の高い人と友達になる
自己肯定感の高い人と会話をすることは、あなた自身の自己肯定感を高めるのにも役立ちます。考え方や発言内容も勉強になるでしょうし、あなたの良いところもたくさん見つけてくれます。失敗したことや自分のダメなところを話しても、自己肯定感の高い人は「わたしもそういうところある」とサラッと受け止めてくれるでしょう。見たくはなかった自分を受け入れてもらえることで、自分でも受け入れやすくなるのではないでしょうか。
⑤スリーグッドシングス
1日の終わりに、その日良かったことを3〜5こ、箇条書きで書く習慣をつけることが自己肯定感を高めるのに有効だと言われています。「家の前にいた猫が可愛かった」とか「昨日買った紅茶がすごく美味しかった」など、些細なことで良いです。毎日積み重ねていくことで、少しずつありのままの自分を好きになることができるでしょう。
⑥意識的に前を向く
何か壁にぶつかった時に「あの時こうしておけば良かった」と後悔するのではなく、意識的に「どうやって壁を越えようか」と考えてみると良いでしょう。最初は慣れず、ぎこちない感じになるかもしれませんが、やっているうちに自然とそういう考えができるようになります。
⑦趣味を作って充実感を得る
自己肯定感が低くなってしまう人は、仕事でつまずいて悩んだり、人間関係で落ち込んだりと気持ちが滅入ることが多いです。仕事だけに力を注ぐのではなく、もっと自分の好きなことに力を注ぐことも大切ではないでしょうか。これをやっている時間が好きだと感じられるような趣味を持つことが、日々の充実感を高め、自分を好きになる、自分を肯定することにつながっていきます。
まとめ
自分で自分を認めることができず、他人に存在価値を認めてもらえないと不安になってしまうのは、生きづらさを感じる原因になります。今更、ありのままの自分を良いと思うことなんかできないと思うかもしれません。でも、変わりたいという気持ちがあれば、人は幾つになっても変わることができます。自己肯定感も、時間はかかるかもしれませんが、着実に高めることができるのです。
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