「認知が歪むってどういうこと?」「私が生きづらいのは認知の歪みのせい?対処法はある?」「認知の歪みがひどい人が身近にいて困っている」このような悩みはありませんか?
この記事では、認知の歪みについて10個のパターンを挙げながら解説します。認知の歪みが生じる原因や治し方についても解説していますので、ぜひ参考にしてください。
臨床心理士・公認心理師
あらいひさきさん
大学院修了後、「心穏やかに過ごせるように」という信念のもと企業にて研究員としてメンタルヘルスサービスの開発に携わる。認知行動療法を専門とし、精神科での心理相談にも従事する。うつや不安、職場でのメンタルヘルスや発達障害、不登校など幅広いケースのカウンセリングを担当。
認知の歪みとは
認知の歪みとは、出来事や状況を認識する際に、現実とは異なる偏った見方をしてしまう思考の癖を指します。なお認知の歪みには以下の2つの特徴があり、結果として生きづらさや対人関係でのトラブルにつながっていきます。
①無意識のうちに生じる
認知の歪みは、無意識的かつ自動的に発生します。そのため自分では偏った見方をしてしまっていることに気づくことも難しいでしょう。
例えば、仕事で少し注意をされた時に「もう自分は何をやってもダメだ」と感じてしまうことはありませんか?実際は1回注意を受けた段階では「今後もなにをやってもダメ」とは限らないのですが、認知の歪みがあるとこのようなネガティブに偏った見方をしてしまうようになります。
②ネガティブな感情や行動につながる
認知の歪みは無意識に生じ、ネガティブな感情や行動につながってしまいます。
先ほどの例でいえば、仕事で注意を受け、「もう何をやってもダメだ」と偏った見方をした結果、不安が強くなって仕事が手につかなくなったり、注意をされた上司とコミュニケーションをとるのが怖くなって避けてしまうことが挙げられます。
認知の歪みの10のパターンと具体例
ここではよく見られる認知の歪みについて、具体例を挙げながら解説します。自分がどのタイプの認知の歪みを持っているかを認識することが対処への第一歩となりますので、ぜひ自分の生活を振り返りながらご覧ください。
①全か無か思考(完璧主義、白黒思考)
物事について、グレーな部分を認めずに「すべて良い」か「すべて悪い」と極端に捉える思考の癖を全か無か思考と呼びます。完璧主義や白黒志向、ゼロヒャク思考とも呼ばれ、常に失敗を許さず完璧を目指すため高い成果を上げることもあります。
一方で、常に理想を追い求めて自分に厳しい目標を課しているため、ストレスや疲労が溜まりやすいのが特徴です。また、「完璧でなければ意味がない」と無意識に感じてしまうため、タスクにとりかかるハードルが高くなり、先延ばしにしてしまうということもよく見られます。
【具体例】社内でプレゼンをする機会があり、全体的な評判は良かったが一人の上司から辛口の評価を受け、「プレゼンがうまくできなかった」と落ち込む。
②過度の一般化
一部分の事実から、他のことも同じだと決めつけて考えることを過度の一般化と呼びますが、過度の一般化が生じていると、一度の失敗で「もうなにをやってもダメだ」と感じてしまいます。
【具体例】資格試験に落ちてしまい、「自分は試験と名がつくものはいつもうまくいかない」とショックを受け次の試験にチャレンジするのが怖くなる。
③マイナス化思考
自分にとってプラスになるような出来事も、否定してマイナスな出来事として捉える思考をマイナス化思考と呼びます。
マイナス化思考が生じている人は、日常的に「自分はダメだ」「なにをしてもうまくいかない」といった悲観的な考えを根底に持っていることも多く、仕事で成果を挙げて評価されても「偶然だ」「お世辞だろう」と考えて、プラスな出来事をそのまま受け入れることができなくなります。
【具体例】上司に褒められたときに「本当はお世辞だろう」と考え、喜ぶことができない。
④結論の飛躍
根拠のないネガティブな結論を出すことを結論の飛躍と呼びます。
この結論の飛躍があると、他人の声音や表情から気持ちや考えをネガティブに推測したり、まだ未確定な未来のことについて悪い結果になると決めつけたりすることがあります。
【具体例】上司に業務の進捗を報告したが、そっけない態度で対応され「私を嫌っているに違いない」と考える。
⑤感情的理由付け
自分の感情に基づいて現実を判断することを感情的理由付けと呼びます。
人は、ネガティブな感情が生じているときはネガティブな思考が浮かびやすくなります。その時々に抱いている感情や気分によって物事の捉え方が変化するのです。
そのネガティブな感情がどんどん強くなると、「この仕事は不安だからできそうにない。できないに違いないのだから、不安になることも仕方ない」というようにネガティブな推測の根拠として感情を用いることで、その感情を感じている自分を受け入れようとします。ネガティブがさらにネガティブを増幅させる悪循環です。
【具体例】慣れない仕事を任され、不安を感じているときに「不安だから、失敗するに違いない」と感じる。
⑥べき思考
「~すべき」「~しなければならない」という強い基準で自分や他人を縛る思考をべき思考と呼びます。全か無か思考と同時に生じていることも多い思考のパターンです。
「~すべき」という高い基準を満たすことができないと過度に自責的になってしまいます。また、他者に対しても同様に基準を課すため、攻撃的になったり、人間不信のような状態になることもあるでしょう。
【具体例】行動する意欲がわかなかったため休日にのんびりと過ごしたが、夕方になると「家事や趣味などもっと有意義なことをすべきだった。何もしないなんて怠け者だ」と自責的になる。
⑦レッテル貼り
自分や他人に極端なレッテルを貼ることも認知の歪みの一つです。何か失敗をした時に「ばかだ」「怠け者だ」「どんくさい」などネガティブなレッテルを貼ります。
このようにネガティブなレッテル貼りをすると、他のポジティブな面が覆い隠されてしまいます。
【具体例】包丁で指を少し切ってしまい「自分はどんくさい」とレッテルを貼る。
⑧自己関連付け(個人化)
何か悪いことが起きたとき自分に責任がないことでも過剰に自分のせいだと思うことを自己関連付けと呼びます。責任感が強いタイプの人に生じやすい思考の癖です。
【具体例】家族が体調を崩したときに、「自分が負担をかけていたせいだ」と考える。
⑨拡大解釈と過小評価
悪い部分は拡大解釈し、良い部分は過小評価してしまいます。
【具体例】自分が得意なことは「これくらい誰でもできる」と考え、苦手なことについては「みんなこれくらいできるのに、自分は何もできない」と捉える。
⑩心のフィルター
ネガティブな側面だけに焦点を当て、それ以外のポジティブな情報を無視してしまうことを心のフィルターと呼びます。心にネガティブな出来事しか通さないフィルターがかかっているような状態です。
【具体例】自分のことを実際は10人中9人が褒めてくれたにもかかわらず、批判してきた1人の言葉だけが意識に残っており、「失敗した」と悩む。
認知の歪みが起こる原因とは?
①人間の脳の仕組み
人間の脳は日常的に大量の情報を処理しています。その際に、すべての情報を詳細に検討するのは大変ですので、エネルギーを節約するために情報を「簡略化」しています。
その結果、情報の処理結果が現実と少しずれてしまうことがあります。これは「認知バイアス」と呼ばれ、目の錯覚と同じように誰にでも生じるものです。
認知の歪みもこうした「簡略化」という脳の正常な機能の中で生じていますが、これによってネガティブな感情に支配されてしまったり、望ましくない行動につながってしまうことが問題です。
②過去の経験
過去の辛い経験やトラウマがあると、物事を極端に否定的に捉える癖がつくことが少なくありません。
このような思考の癖は同じ悲しみや傷つきを味わうことを避けて身を守るために生じているのですが、場合によっては逆に生きづらさを強めることになってしまいます。
③自己肯定感が低い
自己肯定感が低いと、自分のミスや欠点にばかり目が行き、物事を悲観的に捉えるような認知の歪みが生じやすくなります。
④ストレスや疲労
ストレスを感じたり疲労が溜まっていると、脳はエネルギーを節約しようとするため、情報の簡略化が進み、認知の歪みが生じやすくなります。
認知の歪みの治し方は?自分でできる対処法と治療方法
認知の歪みからくる生きづらさを解消させる方法として、認知行動療法があります。ここでは、認知行動療法で用いられる手法から、自分でできる対処法や治療方法を解説します。
①記録をつけて、認識する
まずは、自分がどのような認知の歪みを持っているのかを認識することが大切です。
上述の10個のパターンのうちどれに当てはまるかという視点で考えるだけでなく、「どんな状況で」、「どういうネガティブな感情が生じていて」、「どういう思考が浮かんでいるのか」を詳しく振り返ってみましょう。
ネガティブな思考が生じた時に、紙やスマホにメモをしてみるのがおすすめです。もし複数回の記録ができれば、共通したパターンが見えてくるはずです。
【具体例】
状況:朝の出社時に、上司に挨拶すると、上司は挨拶を返してくれたが声が低かった
気分:不安
思考:何か怒らせてしまったかもしれない。嫌われたかもしれない。
→相手の言動から「相手は自分に怒っている」「自分は嫌われた」と考えやすい思考の癖がある
②数値化する
ぜひ試していただきたいことが、感情や気分の強さを数値化することです。
例えば、強い不安を感じている時に、「70%の不安」、「100%の不安」といったように感情の強さを数値で表してみてください。
自分の心の中を客観的に観察することの練習になるのに加えて、このネガティブな感情の数値を下げようと考えることで目標が明確になるため、対処法の効果が得られやすくなります。
③客観的な証拠を探してみる
自分がどのような認知の歪みを持っているのかがわかってきたら、認知の歪みによって生じている思考を検証してみましょう。浮かんでいる思考に対して、「どうしてそう考えたのか?根拠は?証拠は?」と掘り下げます。
【具体例】
状況:朝の出社時に、上司に挨拶すると、上司は挨拶を返してくれたが声が低かった。
気分:不安
思考:何か怒らせてしまったかもしれない。嫌われたかもしれない。
証拠・根拠:上司の声が低かった。昨日自分がミスをして注意された。
④反証をする
考えられる証拠・根拠を挙げたら、次はそれに反証してみましょう。自分のことではなく、他人に起こった出来事だとイメージして考えてみるのもおすすめです。
【具体例】
状況:朝の出社時に、上司に挨拶すると、上司は挨拶を返してくれたが声が低かった。
気分:不安
思考:何か怒らせてしまったかもしれない。嫌われたかもしれない。
証拠・根拠:上司の声が低かった。昨日自分がミスをして注意された。
反証:
・声が低いからといって怒っているとは限らない。寝不足や体調不良かもしれない。
・仮に怒っていたのだとしても、自分ではなく他の人に怒っていたのかもしれない。
・昨日は注意をされたが、昨日の帰り際では怒っていなかったため、今日もそのことで怒っているとは限らない。
・自分に対して怒っていたのだとしても、嫌われるほどのことはしていない。
⑤別の視点を取り入れる
反証の他にも、認知の歪みを解消する方法として、別の視点を取り入れるという方法があります。例えば、以下のような視点で振り返ることで、別の考え方を見つけることができます。
・この状況をポジティブに解釈するとしたら?
・あの人(自分と違うタイプの人や、好きな芸能人)ならどう思うだろう?
・友達にこのようなことを相談されたら自分はどう話すだろう?
⑥専門家に相談する
認知の歪みは無意識に生じているため、一人で対処するのが難しいこともあるかもしれません。そのような場合は専門家に相談するのが効果的です。
公認心理師や臨床心理士などの専門家のカウンセリングを受けることで、認知の歪みに気づき、それによる生きづらさを解消することができるでしょう。
もしも対面でのカウンセリングに不安がある場合には、オンラインカウンセリングもおすすめです。
当サイト「悩ミカタ」では、ミドル世代(40代50代)の悩みや不安・ストレスについて各分野の専門家/カウンセラーに相談できるオンラインカウンセリングサービス「悩ミカタ相談室」を展開し、公認心理師など国家資格を保有する専門家が多く登録しています。つらくて不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
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認知の歪みについて詳しく知りたい人におすすめの書籍
①こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳 大野 裕 (著)
認知行動療法を使って一般の人々が自信の認知の歪みをはじめとした悩み事を解消し、生きやすくなるような工夫がつまったセルフワークブックです。
図表やイラストも多く、自分の認知へ働きかける方法がわかりやすく解説されています。ワークへの記入例も多く掲載されているので、ぜひ自分で書き込んでみてください。
ISBN-10 : 442211283X
ISBN-13 : 978-4422112831
②心がスッと軽くなる 認知行動療法ノート ―自分でできる27のプチレッスン 福井 至 (監修)、貝谷 久宣 (監修)
認知の歪みからくる生きづらさを解消するには、自分にどのような認知の歪みがあるのか認識し、それに伴う行動を少しずつ変えていく必要があります。
出来事の捉え方を見つめなおしたり、心を落ち着かせるためにリラックス方法など15分程度でできるワークが多数紹介されているので、できそうなものから自分のペースで進めてみましょう。
ISBN-10 : 4816357947
ISBN-13 : 978-4816357947
③うつと不安の認知療法練習帳[増補改訂版] D・グリーンバーガー (著)、C・A・パデスキー (著)、大野 裕 (監修・翻訳)、岩坂 彰 (翻訳)
カリフォルニア州ニューポート・ビーチの「不安・うつセンター」の設立者が、不安を解消するための心の持ち方を身につける方法をまとめ、世界的ベストセラーとなった書籍です。
上で紹介した2冊と比べるとボリュームが大きいですが、より詳しく学びたい方におすすめです。また、60枚ほどのマークシートも含まれており、たくさんのワークを知りたい方におすすめです。
ISBN-10 : 4422116657
ISBN-13 : 978-4422116655
まとめ
この記事では、認知の歪みについて解説しました。認知の歪みとは、物事や状況を認識する際に、現実とは異なる偏った見方をしてしまう思考の癖を指します。
なお認知の歪みには、以下の10個のパターンがあります。
①全か無か思考
②過度の一般化
③マイナス化思考
④結論の飛躍
⑤感情的理由付け
⑥べき思考
⑦レッテル貼り
⑧自己関連付け
⑨拡大解釈と過小評価
⑩心のフィルター
また認知の歪みが起こる原因としては、以下の4つが挙げられます。
①人間の脳の仕組み
②過去の経験
③自己肯定感が低い
④ストレスや疲労
認知の歪みへの対処法としては、以下の6つを試してみましょう。
①記録をつけて、認識する
②数値化する
③客観的な証拠を探す
④反証をする
⑤別の視点を取り入れる
⑥専門家に相談する
そして最後に、認知の歪みに関するおすすめの書籍を3冊紹介しました。
①こころが晴れるノート:うつと不安の認知療法自習帳
②心がスッと軽くなる 認知行動療法ノート ―自分でできる27のプチレッスン
③うつと不安の認知療法練習帳[増補改訂版]
ぜひ参考にしてみてください。