空の巣症候群とは?症状や事例、子育てを終えた喪失感の乗り越え方

「空の巣症候群」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?特に40代後半から60代にかけて、多くの人が子どもの自立や親の介護の終了、配偶者との死別、大切にしていたペットの死など、さまざまな喪失を経験しますが、そんな人生の大きな転換期において、長年続けてきた役割や生活環境の変化によって生じる心理的なストレス反応のことをさします。本記事では、空の巣症候群のきっかけや原因、その症状になりやすい人の特徴、予防方法、乗り越え方、そして克服した事例について詳しくご紹介します。

執筆者

藤原美保さん

公認心理師、介護福祉士、保育士、健康運動指導士の資格保有、療育支援に携わること20年以上。

放課後等デイサービスを運営する中で発達障害児童、そのご家族の悩みも含め相談やカウンセリング対応を10年以上行う。自己肯定感が低い、親から虐待を受けた過去に悩む方からの相談なども多数対応。

これまでに2冊の本を執筆、現在も出版に向け本の執筆をつづけている中、子育てのポータルサイトにて発達障害の子の子育てコラムを連載中。

目次

空の巣症候群って何?そのきっかけや原因とは?

よくあるきっかけ

空の巣症候群は特に40代から60代にかけて、子どもの自立や親の介護の終了など、人生の転換期に直面することが多い年代に起こりやすい心理的なストレス反応です。
この年代の多くの人は、子どもが成長し、大学進学や就職、結婚を機に自立することが多い時期に直面します。また、この年代では、親の介護が終わるケースも増え、これまで家族の世話に追われていた日常が急に変わることがきっかけとなります。他にも配偶者との死別や大切に飼っていたペットの死などに直面するケースも少なくありません。この年代は、仕事や家庭での役割が変化しやすく、人生の転換期であると言えます。

原因

空の巣症候群の原因は、長年にわたって担ってきた重要な役割の喪失や、生活環境の大きな変化による心理的な要因が主です。以下に具体的な原因を挙げます。

1.役割の喪失感

子どもの養育や親の介護といった、生活の中心となっていた役割が突然なくなることで、自分の存在意義や目的を見失うことがあります。

2.適応困難

長期間続けてきた日常のルーティンが変わると、新しい生活に適応するのが難しくなることがあります。

3. 孤独感の増加

家族構成が変化し、一緒に過ごす人が減ることで、孤独を強く感じるようになります。特に一人の時間が増えると、孤立感が深まることがあります。

4. アイデンティティの揺らぎ

「親」や「介護者」としてのアイデンティティが強い事があります。特に女性は子どもがいると「●●ちゃんのお母さん」などというアイデンティティが主体のなる場合があり、子どもの自立によって役割が終わると自分が何者なのか分からなくなることがあります。

5. 社会的なつながりの欠如

子どもや親の世話に集中するあまり、友人関係や社会活動が疎遠になっていることがあります。その結果、自分自身が社会との繋がりがない事に気がつき孤独感に気づきます。

6. 将来への不安

子どもの自立や親の死去をきっかけに、自分自身の老後や健康に対する不安が高まることがあります。

7. パートナーとの関係の変化

子どもが巣立った後、夫婦二人だけの生活に戻ることで、関係性に変化が生じることがあります。これが新たなストレス源となる場合もあります。

8. 更年期

特にこの年代は自分自身の体調の変化や加齢などにより、ホルモンバランスの変化が感情の不安定さを増幅させることがあります。これらの原因が複雑に組み合わさり、空の巣症候群としての症状が現れることがあります。

空の巣症候群になりやすい人の特徴

では、空の巣症候群になりやすい人の特徴とは何でしょうか。ここで詳しく紹介します。

1. 子どもや家族に強く依存している人

家族、特に子どもや介護している親に強い依存をしている人は、空の巣症候群にかかりやすい傾向があります。子どもや親を中心に生活を組み立ててきた場合、その人が離れた時に自分の存在意義を見失いやすくなります。特に専業主婦や長期間介護に従事していた人に多く見られる傾向で、子どもや家族が自立したり介護が終わった後、自己の役割がなくなったと感じ、孤独感や無力感に襲われやすくなります。

このタイプの人は、自分の幸福感や充足感を家族の世話や役割に強く依存しているため、その役割が消失すると生活に目的を見出しにくくなります。結果として、空の巣症候群の症状が深刻化することが多いです。

2. 自分自身の興味や趣味を持たない人

家族や家事、介護に全力を注いでいた人は、自分のための趣味や活動を持っていない場合も少なくなく、空の巣症候群になりやすくなります。特に、日常生活の大部分が子どもや介護対象のための時間に費やされていた場合、その役割がなくなった時に何をすればよいのか分からず、喪失感を強く感じやすくなります。

このタイプの人は、自分の趣味や友人との交流、社会的な活動に時間を割くことが少なかったため、家族がいなくなった後、どのように生活すればいいのかが分からなくなることが多いです。このような状況は、空の巣症候群による孤独感や抑うつ状態を引き起こしやすくします。

3. 変化に適応するのが苦手な人

人生の変化に対して柔軟に適応するのが難しい人も、空の巣症候群に陥りやすいです。特に、安定した生活リズムや役割に強く依存している人は、大きな生活の変化に対処することが困難です。例えば、定年退職し、仕事に行かなくてもよくなった後、やりがいを生活の中に見出せないなど、生活に順応できないと、精神的に不安定になりやすくなります。

このタイプの人は、変化を恐れたり、過去の状態に執着する傾向があり、未来に対する不安が強くなりがちです。新しい生活スタイルや役割を自分で見つけることが難しく、時間が経つにつれて孤立感や不安感が深まり、空の巣症候群が悪化する可能性が高まります。

空の巣症候群の予防方法とは?

「空の巣症候群にはなりたくない…」という方のために、予防方法についてもお伝えします。

自分の身体を大切にする

空の巣症候群に陥りやすい人は何でも自分の事を後回しにしがちです。子育てや介護の間、自分自身の健康や精神的なケアを十分にできていないケースも多いのです。空の巣を迎える前に、自分の年代が陥りやすい病気や体調の傾向を知り、体調管理を考え自分の身体の健康や心のケアに目を向け、規則正しい生活やリラックスできる時間を持つことが、ストレスを軽減し、予防につながります。

自分の趣味や興味を見つける

家族のために尽くす時間が減ることを見越して、早い段階から自分自身のための趣味や興味を持つことが予防につながります。新しい趣味や活動を見つけることで、子どもや家族がいなくなった後も、自分の時間を充実させることができます。例えば、読書、スポーツ、アート、ボランティア活動など、興味がある分野を試し、少しずつ自分の楽しみを見つけることが大切です。

夫婦やパートナーとの関係を深める

子どもが巣立つ前に、夫婦やパートナーとの関係を見直し、互いにコミュニケーションをとることも重要です。多くの夫婦は子どもが成長する間、育児に集中するあまり、二人の時間が少なくなることがあります。子どもがいなくなった後も二人で充実した時間を過ごせるよう、共通の趣味を見つけたり、定期的に話し合いを重ねたりすることが大切です。

空の巣症候群の乗り越え方や治療方法

空の巣症候群を乗り越えるための具体的な方法や治療には、心理的なサポートや生活の再構築が重要です。

心理療法(カウンセリング)を活用する

空の巣症候群が重症化し、深刻な孤独感やうつ症状が現れる場合、専門的なカウンセリングや心理療法を受けることが効果的です。認知行動療法(CBT)は、特に空の巣症候群に対して有効です。この療法では、ネガティブな思考パターンを見直し、ポジティブな考え方を取り入れることで、感情の改善を目指します。セラピストと一緒に、役割の喪失感や未来に対する不安に対処し、新しい視点を獲得することができます。

サポートグループに参加する

同じような経験をしている人たちと交流することで、自分の感情を共有し、支え合うことができます。空の巣症候群に悩む親や介護者のためのサポートグループは、多くの地域やオンラインで提供されています。共通の経験を持つ人々と対話することで、自分が孤独ではないことを理解し、他の人の対処法や乗り越え方から学ぶことができ、精神的な支えになります。

健康的な生活リズムの再構築

空の巣症候群は、生活リズムが急に変わることで引き起こされることが多いため、新たな生活スケジュールを作り直すことが重要です。毎日の生活に新しいルーチンや活動を組み込み、規則正しい生活を送ることが、感情の安定や精神的な健康を促進します。朝の散歩や日課を設定し、新しい目標に向けて小さなステップを踏むことで、前向きな気持ちを取り戻すことができます。

新しいスキルや学び

空の巣症候群に陥る原因の一つは、人生における役割の消失感です。そのため、新たなスキルや知識を学ぶことが、自己成長の感覚を取り戻す一助となります。新しい趣味を見つけるだけでなく、大学や地域の学習プログラムに参加したり、オンラインコースを受けたりすることで、自己発展に繋がる活動を取り入れることができます。これにより、自信を取り戻し、未来に対する意欲を再燃させることが可能です。

ボランティア活動を通じた社会貢献

役割の喪失感を感じる人は、ボランティア活動に参加することで、新たな目的や社会的な役割を見つけることができます。地域のボランティア活動や非営利団体への参加を通じて、他者のために時間を捧げることが、自尊心の回復や社会的なつながりの構築に繋がります。このような活動は、感謝や充足感を得る機会となり、空の巣症候群のネガティブな感情からの回復を助けます。

空の巣症候群を克服した事例

以下は、私が対応してきた空の巣症候群を克服したご夫婦の事例です。

60代のご夫婦は、20年近く愛犬と共に生活を送っていました。その犬は家族同然の存在で、ご夫婦は愛犬と一緒に旅行やイベントに出かけることを生きがいとしていました。週末には愛犬を連れてイベントに訪れたり、犬が高齢になった際には筋力が衰えないようにプールで運動させたり、酸素カプセルに連れて行ったりと、その日常は愛犬を中心に回っていました。

しかし、愛犬は高齢のためついに亡くなってしまいました。その少し前には、奥様の親御さんを看取ったばかりで、立て続けに大切な存在を失ったことで、心理的に大きなストレスを抱える事になりました。特に奥様の不安は大きく、この先ご主人まで亡くなってしまうのではないか?独りぼっちになってしまうのではないかと考える事が多くなってしまいました。
外出先で他の犬を見ると突然涙が溢れてしまい、外出することすら困難になり、愛犬との思い出に心の整理がつかない日々が長期的に続きました。

新たに犬を迎えることも考えたようですが、自分たちの年齢を考えると長期的な健康面にも自信が持てず、もし自分たちに万が一のことがあった場合、犬につらい思いをさせるのではないかという不安もあり、新しい犬を飼うことは諦めることにしました。

ご夫婦はこの喪失感を乗り越えようと、様々な方法を試みましたが、なかなか心の穴を埋めることができず、奥様は不眠症に悩まされ、睡眠薬を使用するようになりました。

そんな中、犬の一時預かりを行うボランティア団体のチラシを見て調べたところ、保護犬の一時預かりという形なら自分たちの経験が活かせるのではないかと考え、ご主人が思い切ってボランティアに参加することにしました。
その活動の中で保護犬の一時預かりをするためのトレーニングやサポートの活動に参加し、犬のしつけ方法やケアの方法、問題行動に対する対応策などを学び始めたところ、奥様のほうも参加するようになりました。
保護犬を預かるのは、様々な準備と手間がかかります。しかし、毎朝規則正しく起きて散歩に出かけることで生活リズムが整い、犬の世話を通じて再び日常生活に楽しみも感じるようになりました。特に奥様は犬との触れ合いを通じて、心の安定を感じる事ができるようになり、夜も睡眠薬に頼らずに過ごせる日々が戻ってきました。

ご夫婦は、一時預かりを通じ、まだまだ自分たちのペースでも犬達の役に立てる事を実感し、預かりを続ける事に決めました。保護犬たちとの時間が空の巣症候群を克服するきっかけとなったケースです。

この事例は、大切な存在を失った後でも、新たな役割や目的を見つけることで心の空白を埋め、生活を取り戻すことができることを示しています。ご夫婦のように、自分の経験や愛情を活かせる場を見つけることで、喪失感や孤独感から抜け出せるかもしれません。

まとめ

空の巣症候群は人生の中の大きな変化に伴い生じるもので誰にでも起こり得る心理的な反応です。しかし、自分自身の健康を大切にし、新しい趣味や興味を見つけて学ぶことは、社会的なつながりを深める手助けとなり、空の巣症候群の予防や克服に役立ちます。今回ご紹介したご夫婦の事例のように、新たな役割や活動、目的を見つけることは、心の健康を取り戻すきっかけになり、生活を充実させることができます。もし同じように、自分の大切な人を失ったり、環境の変化に戸惑いを感じている場合には、自分の経験や愛情を活かせる場を見つけ、参加してみてはいかがでしょうか。

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