「涙が止まらない」経験から、自分の精神状態がいつも以上に気になっていませんか? 涙には様々な意味があり、私たちのこころと体の状態を反映しています。特に40、50代はプライベートや仕事で大切なポジションについており、様々なストレスや変化に直面することもあります。それゆえ、「急に涙が出る」「訳もなく涙が出る」ような精神状態になりやすいものです。
この記事では涙が止まらない精神状態にスポットをあて、考えられる原因や病気、そして対処法について詳しく解説、また、専門家のサポートを受けるタイミングについても具体的に説明しています。この記事からあなたの心にあった対応をどうか見つけてくださいね。
佐々木ゆりさん
公認心理師、臨床発達心理士。保育士歴は20年。現在は療育スタッフとして発達障害を持つお子さんやその家族と関わっています。発達と保育を軸に、直接支援はもちろん、webライター、保育士になりたい人の支援、保育士さん支援など幅広いキャリアを展開中です。
人が涙を流す意味とは?
みなさんは涙の意味について考えたことはありますか? 人が涙を流す意味は大きく3つに分けられます。それぞれ解説していきますね。
感情を表したり、消化したりするため
人間には「悲しい」「嬉しい」といった感情があり、その感情にともって涙が流れることがあります。涙を流すことで、気持ちがより強くなったり、逆に気持ちが落ち着く経験をされたことがある人が多いのではないでしょうか。このような感情にそって涙を流す行動は、人間だけがもっているとされています。この感情にともなって流れる涙「情動の涙」については、女性は男性の2倍から7倍も涙を流すという研究結果もあり、まだまだ研究が進んでいる最中であります。
目の潤いを保つため
目の潤いを保つために、常に涙が出ているのをご存知ですか。少量でもちろん無意識に出ているのですが、目の病気やキズなどで潤いを保つ涙が減ってしまうといわゆる「ドライアイ」という症状になってしまいます。目の潤いを保つための涙は「基礎分泌の涙」とよび、目をもった生き物すべてが、行っている行動とされています。涙ではありますが、上の感情を表したりする涙とはまったく違う意味をもっているのですね。
目を異物から守るため
みなさんもよくご存知かもしれませんが、玉ネギを切った時などに流れる涙は、目が異物を洗い流すためです。他にも、煙やまつ毛が目に入ってしまった時も涙が流れるのは、目がこれ以上傷つかないように体が反応することで、涙が出てくる仕組みになっています。もちろん、目に異物がなくなれば、涙も止まるシステムです。目を異物から守る「反応性の涙」、そして「情動の涙」「基礎分泌の涙」のあわせて3種類の涙を人間は持っていることになります。
精神状態により涙が止まらない原因とは?
涙は目を守るためや、感情を表すこと、そして目そのものを保持するために流れることがわかりました。では、自分では意識していないのに急に涙がでてしまう時、どんなことが原因なのでしょうか。この涙は「情動の涙」になりますから、さまざまな感情が原因と考えられます。いくつか考えられる精神状態についてピックアップしてみました。
ストレスが原因
交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、涙を流してストレスを緩和する自然な反応が人間にはあるとされています。ストレスの原因は、仕事がうまくいかない、家族とうまくコミュニケーションがとれないなど、自分でなんとなく理由がわかっている時もあれば、自分では気づかないストレスが少しづつ積もっている場合もあります。まずは自分の気持ちを整理するために、誰かに話してみるのもよい方法といえましょう。オンライン相談室「悩ミカタ」は匿名で相談できますし、対面以外にメッセージでのやりとりも可能です。
生活リズムの崩れが原因
仕事のシフト変更や、子どもの進学といった、やむをえぬ理由で生活リズムが変わったときも、涙が止まらないことがあります。人間には経験から学んで、次第に慣れていく習性があるのですが、今までの「慣れ」が使えないとき、実は心身ともに大きな負担がかかっているのです。また、新しい生活リズムにあわせようと思っていても、スムーズに眠れず調節ができない結果、急に涙が止まらないことが起こってしまうものと考えられます。
大きなイベントが原因
大切な人を失った、恋人と別れた、仕事で降格があったといったマイナスなイベントが原因の場合もありますが、結婚、昇給といった自分にとって嬉しいイベントであっても、涙が止まらないことがあるとされています。嬉しい出来事であっても、これまでと大きく変わることにはかわりありません。それゆえ、気持ちの整理ができにくく、涙を流すことでSOSを知らせているのかもしれませんね。
病気や障害が隠れていることが原因
「うつ病」「不安障害」「適応障害」といった病気や障害が隠れている可能性も考えられます。ストレスが原因の場合には「適応障害」、不安が原因の場合には「不安障害」など、それぞれの病気には判断基準があります。涙が止まらないだけでなく「最近よく眠れない(寝過ぎてしまう)」「いろいろ考え込んでしまって不安になって行動できなくなっている」「仕事に行こうとすると足がすくんでしまう」など、他に気になることがある場合は特に病気や障害の可能性が高いといえましょう。
涙が止まらないときの対処法
急に涙が出るとき、あまり周りに気づかれずスムーズな方法でなんとかしたい、と思いますよね。ここではすぐにできる対応方法も含めてご紹介していきます。涙はでていなくても「今、ちょっとつらいな」と感じたときにも、ぜひお試しください。
その場から離れて、なるべく一人になれる場所で涙を流す
トイレや更衣室、普段人があまり出入りしない部屋などに移動しましょう。その際、なるべく一人になれる場所を選ぶと、人に事情を説明するといったやりとりがなくなります。見える景色や場面が変わると、気持ちが少しフラットになる人は多いです。ハンカチなどがあればとっさに隠すこともでき涙をふくこともできますが、難しければ、ファイルやかばんといった自分の持ち物で顔を隠してもいいでしょう。予備の制服といった布類もおすすめです。まずは涙を隠しながら、一人になれる場所に移動しましょう。
深呼吸とリラックス法を試す
涙が止まらないとき、落ち着くことが大切だと知っていてもどうしたらいいのかわからなくなってしまうものです。みなさんも知っている深呼吸は、交感神経の働きを抑えながら、副交感神経を刺激しますので、心を落ち着かせるのに効果的です。以下の簡単なリラックス法を試してみましょう。
- ①椅子に座るなど、なるべく楽な姿勢になります。
- ②ゆっくりと鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐き出します。
- ③吸うときは胸ではなく、お腹が膨らむように意識します。
- ④これをしばらく続けます。
できれば呼吸に注目できればよいですが、難しければ呼吸を何度か繰り返すだけで違ってくるはずです。この方法は、どこでも簡単に実践できるので、職場でのストレス対策にも役立ちます。
相手にやんわりと伝える
「すみません」という言葉はすぐに出る人も多いかもしれません。そこに
- 「少し失礼します」
- 「先にすすめていてください」
- 「席をはずします」
と付け加えると、相手も「あ、これ以上詮索してはいけないな」と感じ取ってくれる場合があります。「目が痛くて」と嘘をつくのはアリかどうか、気になる人もいるかもしれませんね。ご自身の性格や行動にあっていれば
- 「コンタクトが外れたので」
- 「まつ毛が入ったので」
といった理由を添えてもよいかもしれませんが、とっさの場面ではなかなか難しいかもしれません。無言で立ち去るのは、相手がより気になってしまう可能性もありますから一言「すみません」と言えるといいですね。
ストレスや原因と思われる事柄と距離を作る
会議中、苦手な上司から睨まれている気がする、ずっと泣き続けている子どもがいる、といった場面では、その場から離れられないかもしれませんね。ですが、トイレに行く、なるべく離れた席や場所に移動することは可能ではないでしょうか。事前に、涙を流してしまうかもと不安な場合には、誰かに代役をお願いすることはとても有効です。人に頼るのはなるべく避けたい、といった頼るのが苦手な人は多いかもしれません。ですが、頼ることは自分の周りも大切にする、とても大切な行動です。一度勇気を出して、頼れる人に声をかけてみてもよいでしょう。
訳もなく涙が出る、涙が止まらないときに考えられる精神的な疾患とは?
訳もなく涙が出る状態になったときに、まず最初に思いつくのが「病気」ではないでしょうか。考えられる病気をいくつかピックアップしていますが、どの病気も専門家による判断が必要です。自分できめてしまうのではなく、必ず医療機関や保健所などに専門家に相談するようにしてください。
うつ病
涙が止まらないときやその前後、とても気分が落ち込んでいる場合には、うつ病の可能性があります。うつ病は100人に約6人がかかる病気という調査結果があり、女性の方が男性よりも1.6倍多いことで知られています。うつ病の原因は今のところわかっていませんが、脳に何らかの不調が生まれるためと考えられています。実は嬉しいイベントの後にも発症することや、他の病気が原因でうつ病になってしまうこともあるので、わたしたちにとって身近な病気と言えるでしょう。
適応反応症(適応障害)
何らかのストレスが原因となって、ゆううつな気分や不安があり、生活に支障がでている場合には適応反応症(適応障害)が考えられます。うつ病との違いは、ストレスの原因がはっきりしている場合や、その他、別の症状がいくつかみられる中で、それらが基準を満たす場合には、うつ病と診断されることが多いです。適応障害の場合には、薬ではなく、カウンセリングなどの精神療法が有効とされています。
双極性障害(躁うつ病)
とても気分が落ち込んでいるときもあれば、調子がよく元気いっぱいになるときがある場合には双極性障害(躁うつ病)かもしれません。気分が落ち込んでいる状態は自分でも気づきやすいのですが、調子がいいときとの差があるかどうか、実は自分ではわからない場合もあります。躁うつ病は、落ち込んでいる期間と、そうでない期間の周期が、人によって、またそのときの状態によって変わる病気です。当然、その期間や症状に合わせて治療を行いますので、自己判断せず、常に専門家に相談することが大切です。
更年期障害
ホルモンバランスの変化によって怒りっぽくなったり、気分が落ち込んでしまうのが更年期障害です。更年期とは閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間をいいます。イライラや涙が出てしまうといった症状だけがあることを「更年期症状」といい、さらに悪化して生活するうえで困り感が強くなっていると「更年期障害」といいます。ホルモンが大きな原因ではありますが、個人差も強くまた症状も様々です。受診するなら、婦人科がおすすめですが、かかりつけの内科でもよいですし、涙がとまらないといった精神的な問題が気になる場合には精神科でもよいでしょう。
PTSD(心的外傷後ストレス症)
PTSDは大災害や事件といった大きな体験をしたことを、後になってはっきり思い出し、不安や緊張から涙がでてしまうことがあります。非常にからだとこころに負担がかかっている状態ですので、気になる人はなるべく早めに精神科を受診するとよいでしょう。体験が犯罪であれば、警察や行政に相談窓口がありますので、利用を検討してみてください。
- 性犯罪被害相談電話窓口 #8103 もしくは0120-72-8103(通話料は無料です)
都道府県警察の性犯罪被害相談電話につながります。
- 全国被害者支援ネットワーク 0570-783-554 (通話料がかかります)
その他(自律神経失調症など)
ストレスによる自律神経のバランスが崩れて、涙が出やすい状態になってしまうのが自律神経失調症と言われていますが、自律神経失調症は正式な病名ではありません。また全般不安症といった不安障害で涙が止まらない状態になっている人もいます。いずれにせよ、専門家の判断が必要です。自分がどの医療機関に相談したらよいかは、保健所の窓口などでも相談にのってもらえますし、ネットでも探すことができます。自分が検索しやすい方法を選んでくださいね。
専門家に相談したほうがよい判断基準とは?
涙が止まらないときには、ストレスや環境の変化といった原因がある場合や病気や障害が隠れている可能性があることがわかりました。一体どのタイミングで専門家に相談したらよいか、目安を知っておくことはきっとあなたの背中をおしてくれることでしょう。
身体症状が伴う
涙が止まらない状態が続く中で、不眠、食欲不振、頭痛、めまいなどの身体症状が現れる場合は、かかりつけ医師や症状に合わせた専門家への相談がよいでしょう。こころと体は密接に関連しているため、ストレスが身体にいろいろな形で現れます。特に40代、50代は生活習慣病のリスクも高まる年代なので、これらの症状を軽く思わず、総合的な健康チェックを受けることが大切です。
生活に支障が出ている・自分に困り感がある
涙が止まらないかもと不安になって仕事に行くことができていない、涙が出て家事や育児に前向きになれないといったすでに困り感がある人は、専門家への相談がおすすめです。「このぐらいで病院にいくのはおかしい」「他の人はもっと頑張っているのに」と思っている時点で、あなたはいろいろなものを抱えている可能性が高いです。だれかと比較したり、決めつけてしまうのではなく、「もっと元気になりたいな」「調子の良い自分でありたいな」というこころのサインを見逃さないようにしましょう。
周りの人が休養や受診などを勧めてくれる
精神的に追い詰められていると、自分自身のことが見えにくくなってしまうのはよくあることですよね。周りが「ちょっとリフレッシュしたら?」「最近、食べれていないみたいだけど大丈夫?」と声をかけてきたのなら、それは要注意です。特に家族や友人、一緒に仕事をしている人からの声かけは、あなたのことを大切に思っての行動でしょう。その場合、専門機関に受診する時間づくりに協力してくれるのではないでしょうか。「そうだね。ちょっと相談してみる」と素直に返事をすることも、これからの関係性ではとても大切になってくるのではないでしょうか。
2週間、涙が止まらない症状が見られている
涙が止まらない状態が2週間以上続いている場合、それは一時的な感情のゆらぎではなく、より深刻な問題のサインかもしれません。特に40代50代は、身体的・精神的な変化が重なる時期だけに、より注意が必要です。適応障害の判断基準は症状が1〜2週間続いていることですし、うつ病の判断基準もうつ症状が2週間以上が続いていることとあります。毎日ではなくても、2週間気になっていることがあれば、専門家に聞きたいこともきっとあるはずです。忙しい人や周りの人に相談を知られたくない人は「悩ミカタ」がおすすめです。匿名での相談やメッセージ上でのやりとりはもちろん、相談相手や日時を自分で選べることのは「悩ミカタ」ならでは。まずはどんな専門家がいるのか検索してみてくださいね。
▼つらくて不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」
まとめ
涙が止まらない状態は、ストレスがたまっている・病気が隠れているといったさまざまな原因が絡み合った結果ということがわかりました。一時的な対処法として「その場を離れる」「深呼吸をする」ことがあげられます。また専門家に相談した方がよい基準としては、生活に困っているかどうか、2週間以上症状が続いているかどうかでしたね
。40代、50代の方々は、人生の転換期にあたり、多くのストレスや変化に直面しています。自分の感情に向き合い、必要に応じて専門家のサポートを受けることは、決してはずかしいことではありません。本記事で紹介した対処法を試してみて、改善が見られない場合や、日常生活に支障をきたす場合は、ためらわずに専門家に相談することをお勧めします。
オンラインカウンセリングサービスなら、自宅にいながら気軽に相談できるので、忙しい方にもおすすめです。あなたの涙には意味があります。それは心と体からのメッセージかもしれません。自分自身と向き合い、必要なケアを行うことで、より充実した人生を送ることができるはずです。一人で抱え込まず、周りの人や専門家のサポートを受けながら、前向きに取り組んでいきましょう。
▼つらくて不安な気持ち、1人で抱え込まずにまずはお気軽に相談してみませんか?
40代50代のお悩み” は専門家に相談しよう「悩ミカタ相談室」
※参考文献:松崎朝樹著 精神診療 プラチナマニュアル 第3版 2024年
ISDN978-4-8157-3097-0
※参考サイト:NCNP 精神保健研究所 こころの情報サイト
※厚生労働省 e-ヘルスネット