何か決断しなければならないことを前にして、自分が本当はどうしたいのか、その気持ちがわからず困ってしまうことは誰にでもあることです。モヤモヤしてしまい、考えても考えてもはっきりとした気持ちを掴めない。そんなときは、どうしたらいいかわからず途方に暮れてしまいますよね。
とはいえ自分の気持ちがわからないのには、何かしらの原因があります。その時の心理状態や対処方法などを知ることで、モヤモヤした状態から抜け出せるかもしれません。ということで今回は、自分の気持ちがわからないことでお悩みの方に向けて解説していきます。
臨床心理士・公認心理師
aiirococcoさん
公認心理師、臨床心理士として総合病院に勤めています。小児科外来をはじめ、緩和ケアチームやリエゾンなど幅広い年齢層の方の心理支援を行っています。また、webライターとして主に心理系の記事を執筆中。誰かに相談するほどではないけど困ったな、というときに役立つ情報を発信できるよう頑張ります。
自分の気持ちがわからない原因や心理状態とは?
おそらく、自分の気持ちがわからないと感じる時、何かしらの原因となることがあるはずです。どういうときに、自分の気持ちがわからなくなってしまうのでしょうか。
①自分の気持ちと周りの期待感の間で葛藤している
この場合、もしかしたら本当は自分の気持ちがわかってはいるのかもしれません。ただ、周りの期待する答えと、あなたの気持ちの間に大きな乖離があって、答えを出せずにいるのではないでしょうか。そういうときに、人は自分の気持ちがわからないと感じてしまうのです。
②気持ちが疲れてしまっている
周りの人に気を遣ったり、一生懸命気配りをしたり、そういうことで気持ちが疲れているときに自分の気持ちがわからなくなってしまうことがあります。気持ちが疲れると、考えることが億劫になったり、全てがどうでもいい気持ちになってしまうことがあるでしょう。少し投げやりになり、自分の気持ちがわからないと感じてしまうのです。
③初めての場面に直面している
これまで経験がないような場面に直面することで、自分の気持ちがわからなくなってしまうことがあります。初めての経験で、混乱してしまっており、落ち着いて考える体制ができていないのではないでしょうか。そのため、頭の中がこんがらがり、自分の気持ちを掴めなくなっているのでしょう。
④自分より他人の気持ちを重んじている
自分の気持ちよりも他人の気持ちを重んじてばかりいることで、自分の気持ちがわからなくなることがあります。「あの人はどういう気持ちなのか」ということばかりに目を向けているうちに、自分に目を向ける習慣がなくなってしまい、いざという時に自分の気持ちがわからなくなってしまうのです。
⑤常識に囚われてしまっている
あなたの中の常識に囚われてしまうことで、自分の気持ちよりも「こうあるべき」という考えに引っ張られてしまうことがあります。そうなると、自分の中で答えは出ているのに、なんだかモヤモヤしてしまいスッキリしない気持ちになるでしょう。わかっているはずなのに、自分の気持ちに自信がなく、動けない状態になるのです。
⑥自分の気持ちを認めたくない
自分の気持ちが、あなたにとって認めたくないものの時に、気持ちがわからなくなってしまうことがあります。自分の気持ちを向き合う準備ができていないため、見ないふりをしたくなってしまうのでしょう。本当はわかっているけれども、わからないふりをせざるを得ない状況なのかもしれません。
自分の気持ちがわからないことで起こりうる困りごととは?
自分の気持ちがわからなくても、なんとなくやり過ごせると感じる人もいるでしょう。けれども、実際自分の気持ちがわからないことで困る場面も結構多いのではないでしょうか。
①無理をしてしまう
自分の気持ちがわからないことで、とりあえず周りの期待に応えようとするでしょう。そうすると、嫌なことや苦手なことでも頑張らなければならない状況が出来上がってしまいます。自分の気持ちがわからないと、周りに流されざるを得ず、無理をしてしまう結果になる場合があります。
②決断ができない
自分の気持ちがわからないと、決断ができません。進路や就職、転職、結婚など人生の大きな転機で、自分の気持ちに従って良い方向を選び取ることができなくなってしまうのです。後で自分の気持ちに気づいて後悔するようなことにもなりかねません。
③機を逃してしまう
自分の気持ちがわからないと、せっかくの好機を逃すこともあります。どうしたいのかわからないからとあたふたしているうちに、別の人がその好機をかっさらっていってしまうこともあるでしょう。タイミングを逃してしまうことにもなります。
④人と対等な関係が築けない
自分の気持ちがわからないと、人と対等な関係が築きづらくなってしまいます。自分の気持ちがわからないからと、相手になんでも委ねてしまうような依存的な関係になりがちです。人によっては、そんなあなたを支配しようとするでしょう。重く感じて遠ざけようとする人もいるかもしれません。
自分の気持ちがわからないときの対処方法
自分の気持ちなんだから、すぐ簡単にわかるはずと思っても、なかなかわからない。そんなとき、どのように対処すればよいのでしょうか
①一旦別のことに目を向けてみる
もし他のことなら自分の気持ちがわかるけれども、そのことになるとわからなくなるという場合は、一旦別のことに目を向けてみるといいかもしれません。頭の中が混乱し、考えれば考えるほど、糸がこんがらがったようになってしまっているのではないでしょうか。煮詰まった状態なのかもしれません。
一旦別のことに目を向けることで、気持ちが緩み、煮詰まった状態から脱することができるはずです。そうすると、頭の中の混乱がおさまり、自然と答えが見えてくる可能性が高まるでしょう。
②紙に書き出してみる
自分がどういう気持ちなのか、ぐちゃぐちゃになっていてわからないと感じるときは、紙に書き出してみるのもおすすめです。書き出すときは、周りがあなたにどういう答えを期待しているのか、常識的にはどうなのか、など分けて書いていくといいでしょう。
そうすることで、少しずつ自分の頭の中のぐちゃぐちゃした部分が整理されていきます。自分がどうして自分の気持ちがわからなくなっているのか、何に縛られているのかが見えやすくなるでしょう。
③くじ引きで決める
もし、二つのことの間で揺れていて、自分の気持ちがわからなくなっているときは、くじ引きも使えます。くじ引きの結論は絶対ではありません。ただ、とりあえず二つのくじを作って、引いてみたときに、自分がそのくじを見てどう感じるかに目を向けるといいでしょう。
なんとなくがっかりしたり、モヤモヤすると感じたのであれば、おそらくあなたはもう一つのくじの答えが、本心なのでしょう。その時の感情は、自分の気持ちを知るためのヒントになるはずです。
④専門家に相談する
自分の気持ちがわからないということが、結構頻繁に起こる人は、専門家に相談することもお勧めです。他人の気持ちを大事にしてしまう優しい人なのでしょう。そのせいで、自分の気持ちを抑えることが当たり前になってしまい、自分の気持ちがわからないと感じるようになっているのかもしれません。
心療内科やメンタルクリニックを訪れるのはハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。その場合は、オンラインでの相談もいいでしょう。専門家と話すことで、心の中が整理され、気づきを得ることができます。
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⑤心身を休める
自分の気持ちがわからないときというのは、知らず知らずのうちに心が疲弊してしまっているときかもしれません。疲れているから、考えることが面倒くさく感じられてしまい、投げやりな気持ちで「わからない」と思ってしまう場合があります。
自分は無理なんかしていないし、疲れてもいないと思うかもしれません。でもそういうときは、しっかりと心身を休め、心に余裕が戻ってきたところで、もう一度自分の気持ちに目を向けてみると、案外あっさりとわかったりするものです。
自分の気持ちがわからないのは病気の可能性もある?
自分の気持ちがわからないということは、誰にでも起こることです。ただ、中には病気のせいで自分の気持ちがわからなくなってしまっている場合もあります。自分の気持ちがわからない以外にも、何かしらの症状を抱えてつらくなっているのであれば、参考にしてください。
①失感情症
失感情症とは、病気ではなく症状です。言葉通りに受け止めると、感情を失った状態と思われがちですが、そうではなく、感情が認知できない状態を表しています。感情はあるのですが、そのことに自分で気づくことができなくなってしまっています。
そのせいで、体に不調をきたしたり、摂食障害やうつ病を引き起こすことがあります。周りからストレスを感じているのではないかと指摘された時に、普通であれば「そうかもしれない」と多少思い当たることがあるのですが、失感情症の人はピンと来ないはずです。
自分の気持ちがわからない以外に、眠ることができない、食欲が出ない、何をやっても楽しめないなどの症状があるのであれば早めに専門家に相談しましょう。
②境界性パーソナリティー障害
感情や人との関係が安定しにくく、周りの人としょっちゅうトラブルを起こしては心に傷を作ってしまうパーソナリティ障害です。境界性パーソナリティー障害も、自分の気持ちがわからないという状態に陥りやすいと言われています。
箱に頭を入れ、目の部分だけ穴を開けて空けて外を見ます。そういうものの見方をすると、少し位置がズレるだけで、世界が大きく変わって見えることがわかるでしょうか。境界性パーソナリティー障害の人は、そんな感じでガラッと変化を起こす世界に生きていると言われています。
そのため、自分がどういう人なのか、周りからどう見られているのかという評価が安定せず、常に不安にまとわりつかれています。そのせいで自分の気持ちがわからなくなってしまうのです。専門家に相談することで、今よりも少し生きやすくなるかもしれません。
③カサンドラ症候群
もし家族やパートナーなどとても身近な人がASD(自閉症スペクトラム)の場合、カサンドラ症候群になっている可能性もあります。人の気持ちに寄り添ったり共感したりすることができない人と接し続けることで、自分の気持ちがよくわからなくなっていってしまうのです。
人は気持ちを理解してもらったり共感してもらうことで、自分の気持ちを確認しています。それが欠けてしまうことで、だんだんと自分の気持ちに自信が持てなくなり、次第に「わからない」と感じるようになるのです。
気づかないうちに、心身に不調をきたし始め、日常生活に支障を及ぼす場合もあります。専門家に相談するようなことではないと思う人もいるかもしれませんが、思い当たる部分があるのであれば早めに相談することをお勧めします。
④統合失調症
統合失調症も自分の気持ちがわからなくなる症状があります。感情の動きが乏しくなってしまい、自分がどう感じているのか、どういう気持ちでいるのかをとても掴み取りづらくなってしまうのです。
考えようとしても考えがまとまらず、不安や焦燥感だけが高まっていってしまったりもします。表情も乏しくなるため、周りから見ても、どういう気持ちでいるのかが分かりづらくなってしまうでしょう。
周りから責め立てられるような言葉が聞こえたり、神経が過敏になってイライラが止まらなくなったりするするような症状も出ることがあります。眠れなかったり食欲が湧かなかったり、お風呂に入ることも億劫に感じられるのであれば専門家にご相談ください。早めの治療が大切です。
恋愛で自分の気持ちがわからないときの原因と対処法
恋愛をしていると、相手の気持ちがわからないだけではなく、自分の気持ちがわからなくなってしまうことは結構普通にあることでしょう。恋愛において自分の気持ちがわからないと感じる時は、おそらく二人の関係に何かしらの違和感を感じているのではないでしょうか。
例えば、一緒にいても楽しいと感じることが少なくなってしまったとか、相手のことを考えると苦しくなってきてしまうとか、そういうことがあると自分の気持ちがわからないと感じるはずです。
もし恋愛で自分の気持ちがわからないと悩んでしまうのであれば、思い切って少し距離を空けてみるといいのではないでしょうか。どうしても恋愛をしていると、何よりも恋愛が優先されてしまい、他のことがおざなりになる人もいます。一旦、恋愛のことは脇に置いておいて、仕事や趣味などに気持ちを向けてみるといいでしょう。
そうすることで自分と相手のことを客観視できるようになるので、自然と自分の気持ちが見えてくるはずです。そのままの状態で無理に考えようとしても、余計に気持ちがぐちゃぐちゃになるだけではないでしょうか。
まとめ
自分のことなんだから、なんでも手に取るようにわかって当然なんてことはありません。むしろ一番身近である自分のことだからこそ、わからなくなってしまうのです。
ただ、自分の気持ちがわからないと感じるということは、自分の気持ちと向き合おうとしているということでしょう。それは大切なことです。思い詰めず、少し視野を広げて見てみれば、案外簡単に自分の気持ちに気づけるかもしれません。