大人の学習障害(LD/SLD)とは?特徴や仕事をスムーズにするための工夫

知的能力や身体能力には問題がないのに、字を読んだり書いたりするような特定の学習に対して困難感を持っている場合、学習障害(LD/SLD)の疑いがあるかもしれません。仕事などで困ることがあり、「もしかしたら自分はそうなのではないか…」と不安を感じている人もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、大人の学習障害(LD/SLD)とはどういう特徴があるのか、またもしそういう特徴を持っているとしたら、どういう工夫をすればいいのか、といったことなどについて解説していきます。

執筆者

臨床心理士・公認心理師

aiirococcoさん

公認心理師、臨床心理士として総合病院に勤めています。小児科外来をはじめ、緩和ケアチームやリエゾンなど幅広い年齢層の方の心理支援を行っています。また、webライターとして主に心理系の記事を執筆中。誰かに相談するほどではないけど困ったな、というときに役立つ情報を発信できるよう頑張ります。

目次

学習障害(LD)/限局性学習症(SLD)とはどういうものか

おそらく、学習障害(LD)という言葉を耳にしたことがある人は結構いるのではないでしょうか。逆に限局性学習症(SLD)という言葉は、まだあまり知らない人が多いかもしれません。それぞれどういうものなのでしょうか。

①学習障害(LD)とは

学習障害(Learning disabilities)とは知的発達、身体発達には遅れがないものの、ある特定の学習に関しての習得が困難な状態であることが特徴です。主に「書くこと」「読むこと」「計算すること」「推論すること」への困難さを、ひとつないし複数持っていることで、学習面の遅れなどを生じさせます。

②限局性学習症(SLD)とは

限局性学習症(Specific leaning disorder)とは、学習障害の医学的な診断名です。つまり、学習障害も限局性学習症も、同じ症状を持つ人を表しています。知的には問題がない(IQ70以上)ものの、文章を読んだり書いたりすることや、数学の計算や概論を認識することに困難さを持っており、支援が必要な状態であることを表します。

学習障害(LD/SLD)の種類とその特徴とは

学習障害(LD/SLD)にはいくつかの種類がありますが、どんなものがあり、それぞれどういった特徴を持っているのでしょうか。

①読字障害(ディスクレシア)

字を読むことに時間を要しやすく、読み間違いなどもとても多いという特徴があります。文字が並んでいると、通常であれば単語の塊を意識して読むと思います。しかし読字障害があると、それを文字一つずつとして捉えてしまうことがあります。たとえば「きつね」と書いてあったら、おそらく動物のキツネのことだろうと判断して読むでしょう。ですが読字障害の人は、これを「き」「つ」「ね」とバラバラに認識してしまい、文章として把握することが困難になってしまいます。

また文章が何段にもわたって書かれている場合、自分がどこを読んでいるのかわからなくなってしまいがちです。読んでいるところの下に定規を当てるなどの工夫をしないと、長い文章は読めないかもしれません。そして読むということに相当な疲れを感じやすい傾向もあります。

②書字障害(ディスグラフィア)

文字を書くということに困難さを抱える特徴があります。書く練習を一生懸命にやっても、漢字などを習得することができず、鏡文字になってしまったり、余分な点や線を入れてしまうなどが繰り返されてしまうのです。

書くこと自体にとても時間がかかりますし、罫線に沿って綺麗に整えて同じ大きさの字を書くとなると、大変な労力を要することになります。そのため書字障害の人は文字を書くということを苦痛に感じやすく、長い文章を書くことに強い抵抗感を感じがちでしょう。見て書くということも苦手ですので、書類を書き写すなどの作業は、大変な苦痛を伴うものとなりますし、やり遂げることができないかもしれません。

③算数障害(ディスカリキュア)

これは数字に関する学習障害です。九九が覚えられない、簡単な計算問題が解けない、数字がどういうものか理解できないなど、算数に関する学習面において、困難さを強く感じる状態になります。

対人コミュニケーションや、別の教科に関しては特に問題がないにもかかわらず、算数になるととても簡単な問題でも理解することができないといった状況になりがちです。計算に時間が非常にかかったり、周りからもっと勉強するよう叱られたりすることから自己肯定感を下げる原因となる場合もあります。

大人になってから学習障害(LD/SLD)だと判明することもある?

通常、学習障害(LD/SLD)は、学習をし始める小学校入学時などから困難さを抱えていることに周囲が気づかれやすく、早い段階で適切な支援をしてもらえることが多いです。

ただ、学習障害(LD/SLD)というものに関する定義ができたのは1999年であり、それ以前に小学校時代を過ごしていた40代50代の人は、困難さに気づかれないまま社会に出ている場合もあるのではないでしょうか。

勉強ができない、数学は苦手、漢字を覚えることが極端に苦手などの評価を周りからされており、自分自身も強い苦手意識を持っている場合があります。原因がわからないことで、努力不足だと言われて育っている場合もあるでしょうし、軽度の知的障害に間違われていた人もいるかもしれません。

仕事をする上での学習障害(LD/SLD)の困りごとの例と対策方法

では、学習障害(LD/SLD)であることがわからないまま大人になり、必要な工夫やサポートを得られず社会に出た場合、どういったことで困ることになるのでしょうか。また、どのように対策をすることで、今より生きやすくすることができるのでしょうか。ここで解説していきます。

①資料やマニュアルなど、文章が羅列されたものを読み込むことが難しい

仕事で「資料を読んでおいて」と言われることは結構あるかもしれません。大抵はそれを読んでもらうことで、教えたり説明したりする手間を省くのですが、学習障害がある人は、それがとても高いハードルとなってしまいます。

たとえば俳優のトムクルーズさんは読字障害ですので、台本を読むということが困難です。そのため、周りの人に読んでもらってセリフを覚えるそうです。それと同じように、口頭で説明してもらうことは一番の対策になります。また、字を読むときに次の行以降を隠して読みやすくしたり、拡大コピーを利用し、文字や行間を大きくして読んだりする工夫もできるでしょう。

②メモを取ることが難しい

仕事でメモを取らなければならない、取る必要があるケースもありますよね。ただ学習障害がある人は、メモをとること自体が困難で、時間を要するものになってしまうことがあります。

メモは綺麗に書く必要はないとはいえ、自分が後から見てわかるようにしておく必要があります。「いつどこで誰と何を」など書く欄を決めて単語で埋めることも対策になるでしょうし、絵や記号を使うことも大切でしょう。また、聞いたことを文字にすることが難しいのであれば、指示を口頭ではなく、メモにして渡してもらうことも効果的です。

③メールやチャットによる指示を理解できない

上司からメールやチャットで指示をもらうこともあるでしょう。そういうときに、正確に読み取ることができず、間違った行動をしてしまい叱責されてしまうことがあります。それほど難しい指示ではないはずだし、上司が口頭で伝えたときにはきちんと仕事をこなせるため、何かあったのかと心配されることもあるでしょう。

メールやチャットによる文章での指示を受けることで間違いを起こしやすい時は、メールを読んでから上司に直接確認しにいくことが大切です。また理解ある上司なのであれば、文章を読むことに困難さがあることを伝え、口頭で指示を出してもらえるようお願いするのもいいでしょう。

④発注書などの書き間違いや、見積書のミスが多い

数字に対しての苦手意識が強いこともあって、数字が関わってくるような仕事には就いていないかもしれません。ただ、異動などによって数字を扱うような職種になってしまうこともあるのではないでしょうか。

発注書や見積書など、ミスをしてはいけない書類でミスを多発してしまい、周りから叱責されることもあるでしょう。計算機やエクセルなどを使うことでミスを減らすことはできますが、できれば数字を扱う仕事からは外してもらった方がいいかもしれません。

⑤手書きの書類を作成するのにたくさんの時間がかかる

最近は手書きの書類を作成しなければならないような場面も減ってきました。ただ、中にはいまだに手書きにしなければならないものもあるでしょう。パソコンなどで打ち込むのであれば問題なくできるのに、手書きになると誤字脱字もたくさんあり、なかなか進まなくなってしまいます。

どうしても手書きでなければならない場合を除き、パソコンで作成することを認めてもらう他、手書きをしなければならない場合は他の人にお願いするなどの対策が必要でしょう。また署名部分だけは手書きにし、あとはパソコンで作成するなど、臨機応変な対処をしてもらえるよう掛け合うことも大切です。

学習障害(LD/SLD)をもつ人が仕事を長く続けるためのポイント

学習障害(LD/SLD)をもつことで、仕事がうまくできない場面が多く、仕事を続けること自体がストレスに感じられてしまう人もいるかもしれません。でも新しい仕事に変わるというのは、それなりにエネルギーが必要ですし、またうまくいかなかったらどうしようと不安になったりもするでしょう。

できるだけ仕事を長く続けていくためには、どういうことを押さえておくといいのでしょうか。ここでは学習障害(LD/SLD)をもつ人が仕事を長く続けるためのポイントを解説します。

①自分の特性を理解する

もしあなたが、学習障害なのではないかと疑っているのであれば、きちんと診断してもらうことが大切です。先ほど書いたように、学習障害と言ってもいろいろな種類があり、それぞれに困難さを抱えている部分が違います。

自分の特性を理解できていないと、周りの人に説明ができません。またきちんと診断を受けることで、周りの人の理解も得やすくなるでしょう。大人の発達障害を専門に診てくれる精神科やメンタルクリニック、もしくは発達支援センターなどに相談してみるといいのではないでしょうか。

②周囲の人に自分の特性を説明する

自分自身の特性がわかったら、どういう特性があり、どういう支援が必要なのかを周囲の人に説明することが大切です。理解を得にくいと思うのであれば、最初は話しやすい人に伝えてみるといいでしょう。直属の上司などであれば、尚のこといいかもしれません。

学習障害という言葉の認知度は上がっており、昔に比べると理解は得やすくなっています。ただ、どういう手助けが必要なのかまではわからない人が多いのも事実です。自分の特性と、具体的にどうして欲しいのかということを伝えられると、周りの人にとっても助かります。

③電子機器などに頼る

学習障害は、パソコンや計算機など電子機器に頼ることで、困難さを払拭することができる場合があります。無理して自分の力だけで頑張ろうとするのではなく、使える資源は上手に使うことが大切でしょう。

今は書類を音声で読み上げてくれる機能などもありますので、そういった便利なツールを活用することで、周りの人に手間をかけさせてしまうことを避けることもできます。積極的に取り入れて試してみることが大切でしょう。

④自分に合う職を選ぶ

学習障害の場合、特定のことに関しての困難さはあるものの、そういったことをうまく避けた仕事を選べば、能力を発揮し楽しく仕事することができる場合もあります。自分の苦手な部分の特性を知ることも大切ですが、逆に得意なことを知ることも大切でしょう。

「これができないからこういう仕事はできない」という消去法ではなく、どういう仕事がしてみたいのか、その場合、どういう職種は自分に合いそうかということを考えて職を選ぶことは長続きするために必要なのではないでしょうか。

大人の学習障害(LD/SLD)の相談先や支援先

ではもし自分がそうかもしれないと思ったとき、どこに相談すればいいのでしょうか。これまで学習障害であるという指摘を受けたことがない、もしくは疑いはあったけれども、きちんと調べたことがない場合、最初に行くべき場所はどこがいいのでしょう。

①会社の相談窓口

もしあなたが今勤めている会社の中に相談窓口があるのであれば、そこに相談するのが一番いいかもしれません。どこのクリニックや病院へ行けばいいかも教えてくれるでしょうし、仕事を続ける上で必要な配慮なども一緒に考えてくれる場合もあるでしょう。

相談窓口がなくても、上司が信頼できる人なのであれば、上司に相談してみるのもひとつかもしれません。ひとりで抱えてつらい気持ちになっているよりは、誰かに話して解決策を一緒に考える方がいいのではないでしょうか。

②精神科やメンタルクリニック

学習障害なのかもしれないけど、そうではないかもしれないという悶々とした気持ちがあるのであれば、一度精神科やメンタルクリニックを訪れてみるといいでしょう。あなたの困り感を聞き取り、診断をつけるかどうか、今後どういうことに気をつけるといいかなど相談に乗ってくれます。

③発達障害者支援センターや保健福祉センター

おそらくお住まいの地域に、こういったセンターが設置されているのではないでしょうか。仕事で困ることが多く、学習障害を疑っていたとしても、病院にいきなりいくのは怖いと感じる人もいるはずです。そういう場合、発達障害者支援センターや保健福祉センターなどに電話をして、相談してみるのもいいでしょう。

まとめ

これまで「勉強ができない」「努力しても意味がない」と思い込み、自信をなくしてきた人もいるかもしれませんし、社会に出て就職したものの、頑張っても周りからミスを指摘されたり叱られたりし、余計に自己肯定感が下がってしまった人もいるかもしれません。

ただもしあなたが学習障害なのであれば、きちんと特性を知り、工夫をすることで状況は大きく改善するはずです。まずは自分のことを知ることが大切です。

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